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2011年09月30日(金)
『ウエアハウス[circle]』初日

演劇集団円『ウエアハウス[circle]』@シアタートラム

円がスズカツさんを迎え、しかも演目は『ウエアハウス』。オールビーの『動物園物語』を下敷きにスズカツさんが構成と実験を重ねZAZOUS THEATERで上演してきた“あの”『ウエアハウス』です。

初日なのでネタバレなるべく回避しつつ、以下おぼえがき。上演時間は1時間40分、休憩なし。パンフレットは8頁のものが配布(ふとっぱらー)、物販はTシャツ。

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・今迄の『ウエアハウス』と何が違うって、音楽が横川理彦さんじゃない!
・でも生演奏はあるよ♪
・“演劇”としての色が濃いーです。って、円と組むならばそりゃそうだ。と言うか、今回円のメンバーがいてこそのものとして成立させているので、そこが全面に出ますよね
・でも、バリバリ『ウエアハウス』です

・今やるからこその要素も巧い具合に。twitterについてのあれこれは、オリベとザイゼン(銀平さん)どちらの意見も頷ける
・と言いつつ、実のところ気持ちはオリベに寄るんだなー
・ますます携帯持たなくていいや病が悪化した(笑・いやこれは作品のせいじゃないです)
・と言うか、使い方によってどっちにもふれるツールだってのはね。それはどんなものでもそうだけど
・でもなー(ここで愚痴)フォローして定形の宣伝文ばっか連続ツイートしてそれに対しての問い合わせは無視で、当日についてのアナウンスは全くせず(こういうときこその機動性を使わんでどうすると言う)そのままフォロー解除って嫌〜な使い方する輩もいる訳でさ…こういうのって扱っている作品や催しそのものを自ら貶めてるような気がしてならないよ…厨房はいい仕事してるのにホールがダメだったときの気持ちを思い出すわー。いろいろ残念……
・とまあtwitterは愉快なことも不愉快なこともありますよねって話でした
・閑話休題。終演後パンフレット開いたら「円もTwitterはじめました」ってチラシが折り込んであるのにちょっとウケた。感想をツイートするとかたっぱしからRTするそうですよ!(微笑)

・あのいぬの声、お、憶えてるー!
・雑踏の音も、記憶に残っている音が端々に
・トラムの音の鳴りって独特なんだよな…席の場所によって返りがかなり違ったりする

・『動物園物語』に照らし合わせれば、オリベ(橋爪さん)がジェリー、エトウ(金田さん)がピーター
・興味深いのは、ふたりの年齢設定が『動物園物語』とは逆転しているところ
・そうなると、オリベ≒ジェリーの“動機”の位置づけがなかなか違うものとして見えてくる
・“普通の”ひとの人生をひととおりやってみたよ、それでこういう行動に出ましたよ、と言う年輪がある
・ディスコミュニケーションの果てと言う見方は変わらないけど、より現在に近い感じはしました
・吉本隆明の話とか思い出した…歳をとったひとの人生の終わらせ方について。決して自殺を推奨している訳ではないけど(ここは強調する)、やり尽くしたと自分で判断したのなら自分で終わらせるのもありではないか、と言う話

・で、ラストシーンを見ると、“circle”の意味合いに思いを巡らせることになります
・「暗唱の会」のサークル、オリベとエトウが巡るサークル
・あ、盆もまわってましたね。この回転音もノイズとして楽しめた
・最後のシーン、実のところエトウの左手の薬指に指輪が残っていたことに正直安堵したんですよね…
・これを安堵と言っていいものか。エトウはオリベに挑発された部分から逸脱しなかったのか、それとも?と言う気持ちもうっすら残る

・橋爪さんのオリベ像には、『レインマン』のレイモンドがうっすら存在しているかのようで、その辺りを観る作業も楽しかったです
・あれ、情報を憶える、と言うより情報を撮影するって感覚に近い
・渡された免許証を目で見て、ガシャッとシャッターを切る。それがそのまま情報として頭に入る
・話逸れるが大竹しのぶさんの台詞の入れ方ってのもこの類なんじゃないかなーと。憶えるってのとはちょっと違う感覚
・そこ以外にもちょこちょこレイモンドの面影を感じたり。あのちょっと予測出来ない動きとかね

・金田さん色気ある役者さんだねー!(今更言うな)
・序盤と最後の台詞のグルーヴが全然違うところがすごく面白かった
・ねこの話を聴いて、いぬの話を語り始める。オールビーのあの書籍がオリベから彼に渡った、舞台上では見せなかった部分を想像するのに、金田さんのあの変化がとても重要なものに感じられます

・女性陣(女優さんが、ではなくあの役柄)のスキンシップの濃さが妙〜にひっかかります。何故あの設定なのか考える。ここはスルー出来ないわ

・かもめのジョナサン
・『動物園物語』は鳴海四郎訳のもの
・ベンチがジャケット
・TVがPC
・やっぱかめだよねー!てかかめ大好き!かわいい!
・ねこの話と初演の『ウェアハウス』
・出版社が多い=神保町?(妄想)

・オリベとエトウ以外の登場人物の苗字の、最初の文字を並べると「ザズウシアタ」になるよ(微笑)
(追記:その後スズカツさんからたねあかしツイートがありました。「オ」リベは「オ」ールビー、「エ」トウは「エ」ドワードだってー。成程ー!「エ」は「円」のエかなー、「オ」がわからん!と思ってた。有難うございますー)

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などなど。

ええーと『ウエアハウス』は過去8作ってことになってますが、これは舞台作品、美術展、CD全部ひっくるめてですよね?夜中なので押し入れが開けられません!(笑)私の記憶が確かならば〜と言うか今回いろいろ思い出すために自分用にメモる。あとでちゃんと押し入れ漁ってリスト化する←バカ



2011年09月28日(水)
ロスト・クインテット+1

菊地成孔 3DAYS ロスト・クインテット+1@Shinjuku PIT INN

毎年恒例、菊地さんのピットイン3DAYS最終日はマイルス・デイヴィスの命日。ウチの姉の誕生日ってこともありよく憶えてますよ…と言う訳でロスト・クインテット+1名義です。ロスト・クインテットを知らんやつは勉強してこい!くらいのアジりようでしたのでそれなりに予習をしていきました(笑)。と言うか、自分のマイルス知識は窪田晴男と菊地成孔に因るところが大きいので、それを最大限にめん棒で伸ばしまくった、はあはあ。いやーそれにしてもマイルスの音源は死ぬ迄にどれだけ聴けるだろうか、気が遠くなるわね。

入場時に渡されたフライヤー類の中にはマイルスの訃報記事のコピー。こ、これ、私持ってる……当時みうらじゅんばりにやたらスクラップしてたんだよなあ(…)。ハードコアなマイルスファンらしきお客さんも多く、菊地さんが「あれなんだっけ?」等と呟くと即座に答えが返ってきていました。

アナウンスされていたメンバーは、菊地成孔(Sax)、坪口昌恭(Key)、大儀見元(Perc)、類家心平(Tp)、田中教順(Drs)、アリガス(B)。DCPRGミニ(渋さチビズっぽく)だねーなんて言ってたら、結局丈青(Key)、千住宗臣(Drs)も来てDCPRG−3になり、「これじゃ研太と高井と大村くんをハブッたみたいじゃねえか」だって(笑)。しーかーもー五十嵐一生(!)(Tp)が来た!おおおラッキー!!!

そんな訳でコンセプトは60年代末〜70年代のロスト・クインテット+エレクトリック期からの、ガッツリエレクトリックマイルスなセット。マイルストリビュート一辺倒かと思いきや、DCPRGの曲もやってくれました。並行して聴くと菊地さんがDCPRGでやってることのヴィジョンみたいなものがちょっとだけ見えてくる。ポリリズムからのアフロアメリカンサウンドだけでなく、マイルスがアンビエントに寄った時期とかの音を連想させるものもあり。この辺り、2ndセットで五十嵐さんが入ってからすんごい情緒的なものになってせつなくなる程の音でした。美しかったなあ。類家くんと五十嵐さんのかけあいを聴けたのも嬉しかった…いいもの観た。

いやあ五十嵐さん、これからも元気でいてくださいよ……。「珠也ー!」に大ウケ。

DCPRGに菊地さんのSaxが加わると言うのもわーいって感じだった。「ジャングル・クルーズ〜」とかすごく面白い展開だったよー。丈青と千住くんの参加は菊地さんの日記で数日前にアナウンスされていた(さっき読んだ)ようなのでリハはそれなりにやったのでしょうが、それでも探り合いみたいなところがあってスリリングでした。

あと「イケメンがビックリしてオロオロする顔を見ると興奮する」菊地さんの性癖がまた出てました。ターゲットにされた千住くん、「えっ!?」って声に出して狼狽していた、あれは確かに嗜好品。いい顔だわー(笑)。

MCも腹がよじれるものばかりだったのですが、web上には書けない感じです。でもあれだな、twitterやらなんやらでなんでもかんでも情報ダダもれな現在、クローズドな空間で行われているエキサイティングなことは沢山ある。現場でしか起こってないこと、現場でしか感じられないことってのはある。web見てるだけで全てを知った気になってはいけないな。そしてどうやっても現場にいられないときってのはあるもので、そんなときにどれだけ「知らない」ってことに対して素直になれるか、常に意識しておかないとなあ。自戒も込めて。



2011年09月25日(日)
『暗やみの色 Colors of the Dark』

『暗やみの色 Colors of the Dark』@日本科学未来館 ドームシアターガイア

再上映、行ってきました。

・レイ・ハラカミさんを偲ぶ「暗やみの色」特別上映

・「暗やみの色」特設サイト MEGASTAR- cosmos

10月2日迄の予定が、好評につき11月23日迄延長されたそうです。行く前に結構「入れなかった!」ってツイートを見たからなあ。ちなみに最初に上映されたときも(2005〜2007年)一度目は入れなくて二度目にやっと入れたんだ。ドームシアターガイアは112席。入館券一枚につき予約券一枚、土日祝日はひとりにつき一上映のみ予約と言う制限があります。友人と相談して9:30に現地集合。

到着してみれば既に100mはありそうな行列(2列)が…ひいー。入場者皆が皆『暗やみの色』目当てではないし、ドームシアターは『暗やみの色』以外のプログラムもある(今は麻生久美子さん朗読の『夜はやさしい〜Tender is the Night』もやってるよ)。なんとか…なんとか入れるかなあ……とドキドキし乍ら開場の10時を待つ。後ろの4人組も『暗やみの色』目当てのようでハラカミくんの話をしつつ「入れるかなあ」「入れなかったらお台場で『モテキ』観ようぜ」とか言っている。そうだ、最後の映像って『モテキ』なんだよね。

そうこうするうち開場、まず入館チケットを買って、ロビー奥のドームシアター予約受付ブースへ。既に長蛇の列、思わず小走りですよ…予約券のみをくれる(整理番号がつかない)ので何番目かは判りませんが、なんとか確保出来ました。10時着じゃとれなかったかも、9:30集合にしといてよかった……。

上映開始時間の10分前に集合してください、1分でも遅れたら入場出来ませんと言うプレッシャーを与えられる。再入場不可、上映開始は14時、4時間あります(笑)。しかし館内は観るもの沢山あるので退屈しなーい。レストランはビュッフェ方式になってたー。前はロケットの形をしたコロッケ=コロケットとか、面白いメニューがあったんだよう。今ではカフェがその辺りを引き継いでいるようです。

・世界を救う?「ミドリムシ」オリジナル商品について(「'おいしく、食べる'の科学展」関連商品)

「健康にいい!」とは書いてあったが「おいしい!」とは書いてなかった。食べてみる勇気が出ませんでした。なんだろ青汁みたいな味かしら…(ミドリと言う名前に騙されている)。

未来館に行くと必ず見るのは、ジオ・コスモス(この度二代目になったそう)をぐるりと見られるオーバルブリッジ。ここには歴代宇宙飛行士パネルが展示されているのです。年毎に、宇宙へ行った飛行士たちの顔写真が張ってある。来場したらしい飛行士のサインも。

で、ひとだけでなくどうぶつたちの名前もちゃんと書かれています。前日上田現絡みのライヴに行っていたこともあり、ライカの顔をしみじみ見る。ライカは地球軌道を周回した最初の動物です。ソ連の宇宙犬のなかで写真が展示されているのってライカだけなんですよね。他のいぬの写真はないのかな…ベルカとか、すごい気になるよー。ベルカっつったら『ベルカ、吠えないのか?』を思い出すよー。

(気になって検索したらあった。ベルカとストレルカ『Четвероногие космонавты Белка и Стрелка』

さて『暗やみの色』。内容は当時と同じもので、映像も相変わらず素晴らしいものでした。しかし開始前にハラカミくんが亡くなったことと、それを偲んでの上映だと言うアナウンスがありました。「見えないものを、見てみたい」。こんな形ではあれど、また観られてよかった、また聴けてよかったな…気持ちよ過ぎて寝そうになった(笑)。

それにしても、やっぱり実感がわかない。早過ぎるだろう、急過ぎるだろう。



2011年09月24日(土)
『GEN Chang Night Vol.3 Lä-ppisch+』

『GEN Chang Night Vol.3 Lä-ppisch+』@CLUB CITTA'

まず嬉しいニュース。レピッシュ、来年新譜を出すそうです。

「同窓会的なイヴェントになっているけど」とマグミは言ったけど、バンドは前進している。「プレゼント」をやらなかったこともそれに相当すると思う、なんとなく。聴けなかったのは寂しいけれど、その分他の曲を沢山聴けた。キャリアは長い、唯一無二の名曲をたくさん、たくさん持っている。毎年このイヴェントをやるならば、演奏する楽曲はどんどん入れ替わっていっていいのだ。それを聴き続けられることは嬉しいことだ。

マグミはレピッシュのことがだいすき。レピッシュの話をあんなに嬉しそうに話すマグミの顔を見るとこちらも嬉しくなる。膠着状態が解けたと感じたのは、その大好きなレピッシュに、拘りに拘っていたマグミが自身のバンドを始めたときだった。そしてこの日は「皆それぞれCD出してんだぞ!」「(誕生日)プレゼントはいらんからCD買え」と言っていた。今回のライヴはそれが大きかった。

マグミ先生のなにもかもすべる話は健在だったけど、グッとくることもさらっと挿み込んできたりする。「現ちゃんの中間の部分はどんどん忘れていって、素晴らしかったところと、最低だったところばかり思い出す、でもあのひとって中間なかったんじゃないかな」「音楽はやめるもんじゃなくて死ぬ迄楽しむもんたい」。そうだよーそりゃ勿論今でもあのパートにオルガンの音がしない、とか、サックスの音が聴こえない、とか、ライヴで楽曲を聴く度に愕然とするよ。「Atlas」を聴き乍ら「死ぬの早過ぎだろう、なんでだ、なんでだ」と思っていた。しかし同時に、これをマグミが唄ってくれていることが嬉しかった。奥村くんの唄う「ラルゴ」も素晴らしかったな……。勿論松本大英もいて、現ちゃんの声で「Only You」も聴けた。来てる来てる、現ちゃんが来てるよ。

泣いたり笑ったり、頭の中が忙しい。残ったメンバーが、現ちゃんの曲を演奏し続けてくれるなんて、嬉しいに決まってるじゃないか。そうだ、上田現の曲を私は死ぬ迄聴くんだ、死ぬ迄楽しむんだ。

今回は、個人的に「ラルゴ」と恭一の「楽園」の歌詞に感じ入った。こんなソングライターがふたりいたバンド。3年前の記事(web上に残っていてうれしい)を思い出す、「現ちゃんが一番愛していたのは家族。信頼していたのは共同制作者の松本大英、そしてライバルはオレだった」。そしてその歌の世界を、様々な側面から照らし映し出すヴォーカリストがいるバンドなんて他にいない。いないんだ、私にとっては。マグミと恭一のハモりはホント最高。これも他のバンドにはないんだよ。レピッシュだけなんだよ。

それにしても冒頭から何に驚いたって、マグミの衣裳ですよ。あれだよ、「Toys」のヴィデオクリップで着てたツートーンの!サングラス込み!あれってまさか…まさか…と思ったけど当時のものだって……(しろめ)「デビュー前に作ったやつたい!何が気になるって、肩パット入っとる」。場内がどよめいたどよめいた。ものもちのよさは健在なり。いやものもちのよさもだけどさ、何がすごいって体型が全く変わってないってことですよ!ちなみにマグミ、ライヴ当日が御歳48の誕生日。その御歳48、もはや恒例「LOVE SONGS」でチッタのステージ〜音響卓をクラウドサーフで往復。イエーイチッタでタッチですYo〜!み、みならいたい……。そんなマグミ、「28才」を唄ったあと「これ、28才のときに唄うのイヤだった…」だって。上田現も厳しい曲を作る(笑)。

痛恨は翌朝早かったためそそくさと会場を出てしまい、その後メンバーが現れ演奏した「KU・MA・MO・TO」を聴けなかったことです、ガーン。



2011年09月23日(金)
『無防備映画都市 ―ルール地方三部作・第二部』

『無防備映画都市 ―ルール地方三部作・第二部』@豊洲公園西側横 野外特設会場

フェスティバル/トーキョー(F/T11)野外公演二本目。水曜日からだったのですが、台風の影響で二日遅れの本日初日となりました。美術の再設営や機材復旧、リハ等があるため一日だけの中止では済まなかったようです、大変…そして中止になった分の振替公演は金曜日と土曜日にぶっこんでやることに。もともとの公演は18時開演ですからその後、21:30からと言う強行スケジュール。た、大変……。

フェスティヴァルのプログラムですし、来日公演でもあるので、本来の千秋楽である25日以降に振替公演を入れることは出来なかったのでしょうね。とてもエネルギッシュな作品だったので、出演者もスタッフも本当に大変だと思います。無事全ての公演が終わりますように。そしてめっちゃ寒いです!行かれる方は是非防寒の用意を。

演技エリアは広大で、パトカーもトレイラーも走ります。遠景には書き割りの街並。その背後には豊洲のベイエリア。東京タワー迄見通せるこの借景は壮観でした。入場した時間帯は夕陽が沈む直前、厚い雲の間から差す陽光は正にヤコブの梯子。作・演出のルネ・ポルシュ、美術のベルト・ノイマンが提示する移動式劇場が、ここ東京ではこんな風景になる。あっと言う間に非日常へ引き込まれます。サーカス小屋のようなテントの下にある客席エリアにはケータリングカーも出ており、ビールやお菓子の販売が。上演中も飲食自由と言うおおらかな雰囲気です。DJブースのようになっている音響卓からはゴキゲンな音楽。

出演者が場内をうろついており、その様子はそのまま作品世界へと繋がっています。擬似チネチッタへ集まってくる撮影クルー。煙草を吸い乍らくつろぎ、笑顔でお互いを迎え、挨拶し、ハグして本番への意気を高める。出演者としてのそれなのか、役柄としてのそれなのか?やがてひとりが弾かれたように車に乗り込みエンジンをかける。お、始まった!

引用された映画はロッセリーニの『無防備都市』『ドイツ零年』、フェリーニ『8 1/2』。『8 1/2』しか観ていないので個人的にはかなり取りこぼしあったなー。『ドイツ零年』は同じ日の昼にF/Tゼミの上映会があったんだけど、定員いっぱいで入れなかった。ドイツ語上演、字幕を読む作業ととても広い演技エリアを目で追う作業を同時に行うため、かなりの集中力と体力が要りました。それでも相当面白かったので、知識があるひとはもっと楽しめると思います。

映画を撮るために集まってきた五人の出演者+スタッフ(カメラ、プロンプター、集音マイク等)は、予想外のチネチッタの風景とお互いのディスコミュニケーションに足を取られ右往左往。何の映画を撮るのか?この役は彼がやるべきではないのか?スターがトレイラーの電気を使い過ぎて停電になる!食事は?“東側”の芸術とは?膨大な引用とユーモア溢れるドタバタコメディ。しかしそこには過去の戦争に苦しんだ者たちの歴史も顔を出す。思えばドイツも敗戦国だ。奇妙なシンパシーを感じる。あのプロンプターは本当にその職務を果たすものなのか、それとも彼女も“役者”なのか。スクリーンに映っているのはカメラを構えている彼の撮った映像なのか?同様に役者たちが話す言葉を拾っているのは本当にあの集音マイクなのか?現在、過去、虚構、事実。目まぐるしく上演される作品は変わり、チネチッタは大混乱に陥る。

彼らの怒り、悦びは過去から現在へと連なっている。虚構を演じる役者は真実を見出す。カーテンコールでの彼らの弾けるような笑顔はとてもチャーミングで、かつ生命力に溢れるものでした。

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よだん:

・当日配布のリーフレットに、『ルネ・ポレシュの稽古場』と題された原サチコさんのテキストが。そうだー原さんって今ドイツ在住なんだよね。ルネとは三作品仕事をしたそうです

・客席の椅子、多分先週の『わたくしという現象』で使われていた椅子だった。あのとき津波のような大きな力に流されていった椅子に今自分が座っている。ちょっと不思議な気分になった

・明日クラブチッタに行くので、チネチッタがらみの作品を観てニヤニヤする等

・で、クラブチッタに観に行くのはレピッシュで、レピッシュと言えば見世物小屋とフリークスの名作ヴィデオクリップ「ハーメルン」。あの美しくも物悲しい雰囲気が今日の客席の風景と繋がりせつなくなる等



2011年09月20日(火)
『PEARL JAM TWENTY』

『PEARL JAM TWENTY』@TOHOシネマズ六本木 スクリーン5

うー、何から書けばいいのか判らない。やっぱり重い。いろいろあった、本当にいろいろあった。今はもういないひとたちの姿が何人も映ってた。バンドの歴史、シアトルのシーン、決して器用ではない彼らが歩んだ20年。そしてここで終わりではない、通過点の20年。

アンドリュー・ウッドについてかなり時間を割いていたところに、キャメロン・クロウ監督の思いが詰まっていたように思う。彼はMother Love Boneからずっと彼らのことを見てきた。クリス・コーネルが「(アンディが亡くなったときに)純潔が失われた、シーンが終わった。カートが死んだときじゃない」と言っていたのが印象的だった。実際、アンディはその純潔を現すような天使のような顔をしている。夢を語る少年のままの顔。

純潔を失ったところから出発し、残された誇りと尊厳を必死で守り乍らバンドは歩んできた。当然それはさまざまな困難にぶつかる。プロモーションをしない、ひたすらライヴでリスナーを拡げる。この辺りの(特にエディの)潔癖さは日本にも伝わってきていた。『Vs』前後から彼のメディア不信は顕著になり、マスクを被って素顔を隠した写真ばかりが雑誌に載っていたのをよく憶えている。その割に当時のバックステージの映像が沢山残っているのは、独自に映像を記録していたバンドからの提供もあるだろうし、MLBの頃から彼らの傍にいたクロウ監督との信頼関係もあるのだろうなと思った。MLBからTemple of the Dog、そしてPearl Jam。アンドリューから「新入り」エディが「俺たちのシンガー」になる道程、そして「Crown of Thorns」。この流れを余さず捉えているところからも、クロウ監督の手により彼らの20年が映画になって本当によかったと思いました。

カート・コバーンに批判されたことを気に病み、その後カートが亡くなってしまったことでエディが一時期酷い状態だったことも思い出される。酒浸りでどんな場所に行っても上着のポケットにワインの大瓶がつっこまれていた。『Vitalogy』はエディ主導で作られ、これはバンドの作品ではないとストーンは思う。『NO CODE』の頃にエディはストーンのことを「大いなる壁」と言っていたような憶えがある。そんなバンドの辛い時期も率直に撮られている。エディと他のメンバーとの溝はしばらく続いたようで、見かねたマイクがエディに「どうするんだ」と訊ねたと言うエピソードも語られていました。それに対する明確なエディの返事は本編では語られませんでしたが、こうしてバンドが続いていることが答えなのでしょう。

バンドがニール・ヤングと出会い、エディ以外のメンバーとニールとで『Mirror Ball』を作りあげたときのエピソードも心に残りました。マイクの「ニールに『おまえたちはいいバンドなんだ、エディに追いつけ』って言われたようだった」って言葉が沁みた。これがなかったらバンドは続いていなかったかも。

ストーンにはバンドのスポークスマンとしての顔もあり、その客観的視点と物事を動かす(=ここだと言うとき迄問題を動かさない)機会を逃さない冷静さがある。チケットマスターとの裁判でのやりとりを映像で観たのは初めてだったけど、彼の存在の大きさがよく判りました。SoundgardenとPJの絆を象徴するようなマットのことや、天才肌のマイクのギタープレイがいかにバンドにインスピレーションを与えているか、ジェフのアーティスティックな面がクローズアップされているところもよかったな。そういえばジェフの誕生日をお祝いするシークエンスがあったけど、2003年の来日時、名古屋公演で彼をお祝いしたことを思い出した。……そんなふうについ彼らの20年に自分の20年を重ねあわせてしまう。この映画はそんなファンたちの姿も捉えている。Pearl Jamの音楽が、いつでも人生の傍にある彼らの姿を。私もそのひとりなのだ。

そんなファンの欲目からして、カートが彼らについて好意的なコメントをしていたり、酔っ払ったエディとカートがバックステージで抱き合って踊る場面があったことは溜飲が下がる思いだった。マイクだったかジェフだったか(10月リピート時に確認する10/21追記:ストーンでした)が「彼が批判してくれたことで自分たちを見失わずに済んだ」と当時を振り返っていたことも。Nirvanaファンからすれば「ケッ」って感じかも知れない。そして実際のところ、彼らがお互いのスタンスをどう思っていたか、今となっては知る由もない。けれど、このシーンがあったことはPJファンとしてはとても嬉しいことだった。

・NME『Pearl Jam's Eddie Vedder: 'I slow danced with Kurt Cobain at an Eric Clapton gig'』

しかしこの映像よくあったな…エディの被っているヘルメットやカートのシャツの柄は当時よく目にしたものだ。リアルタイムで見ていたひとには実感があると思うけど、あの時代は本当にイカレていた。あの場に自然体でいること、巻き込まれないように自分を守ることがどれだけ困難だったかはいちリスナーであった自分ですら判る。都合のいい解釈だけど、そんなときに彼らがハッピーだった一瞬があったのだと知ることが出来たのが嬉しかったのだ。

他にもいろいろ…書き出すとキリがないけど。日本での初来日の様子もちょこっと出ててわあっとなったなー。“SENDAI”とか。変装用にエディが持ち歩いていたあのカツラも映ってたね。当時ちまなこになって探したブートビデオで観た映像も、今回初めて観た映像もあった。ひとつひとつのシーンの情報量が多く、字幕も多く、それを訳した字幕も多い(笑)全貌を拾いきれた筈がありません。10月の期間限定上映も、勿論行きます。

これを書いている22日にR.E.M.の解散が発表されました。スタイプの言うとおり“all things must end, and we wanted to do it right, to do it our way.”だけど、そのときが来る迄PJの歩く道のりを見ていきたいし、その時が来ても残された曲はずっと聴いていく。PJの音楽に出会えたことに感謝します。



2011年09月19日(月)
『neutralnation 2011』

『neutralnation 2011』@お台場シーサイドコート特設会場

いやーん面白かった!場所が場所なので音作りに苦戦している感じはしましたが、それでもよかったよー。手作り感溢れるちいさなかわいいフェスって感じで、日差しの厳しさ以外とても快適。最寄り駅から5分後にはもう会場内って利便さもいい。何よりこのラインナップがこの規模のステージで観られるってのがいい。

14時過ぎに入場。あ、暑い……。アウトサイドステージの観客エリアはアスファルトでギラッギラな炎天下、ライヴ中のバンドのファン以外は数少ない日陰にビッシリ固まり避難しています。外周の物販エリアをうろっとしてまずはごはん。バジルチキンいためごはんの容器が紙袋で、これが結構いい感じ。かさばらなくて持ちやすい。おいしかったー。

さて覚悟を決めて(と言いつつ大柄のひとの後ろに立って日陰を確保するヘタレです)ZAZEN BOYS。途中するっとスピーカーよりのちょっとした陰に入れて、かなり前で観られた。「Honnoji」からスタート。以下webで拾ったセットリスト。

1. Honouji 2. Himitsu Girl's Top Secret 3. Riff Man 4. Weekend 5. Daruma 6. COLD BEAT 7. Asobi

前述通り音がかなり不安定だったんです、海風が強くて流れる流れる。屋内でZAZENを聴くときのような密室感はありませんでしたが、もともと演奏の腕力があるひとたちなので押し切りましたねー。なんかもー相撲を観てる感覚、もってった!ふんばれ!みたいな。吉田一郎がもはや顔芸、いぬのように向井くんを見つめておった。格好いい演奏だったー。

満杯のインサイドステージに移動、DE DE MOUSE。殆ど見えなかったけどラップトップ+keyのひとりセットだったかと。初見がバンドセットだったので、ひとりだとこうなるんだーと思いつつ、いやあ気持ちいい、踊る!だがステージふたつの宿命、mouse on the keysとモロ被りだったので20分ちょいで泣く泣く退場。またガッツリ観たいよー。

急いでアウトサイドステージへ。ふたつのステージが近いので行き来がしやすい、音も両ステージが同時に音出してるときは不思議と混ざって聴こえない。スピーカーの向きとか、よく考えてある配置なんだろうな。しかし海風は強力なのであった…motkもやはりかなりやりづらそう。セッティング時に軽いリハもやってて、その時点でもう聴く方はともかくやる方は大変だろうなーと思った。新留さん終始険しい表情してたなー。ホーンの音もビュンビュン飛んでっちゃう。

しかしZAZEN同様、この日観たアクトは皆演奏の筋力がある。やりきりましたわー。冒頭のインプロがかなり長かった。清田さんがエレピ以外の、シンセの音色を多用してて全体の印象が随分変わる。そっから「spectres de mouse」になだれ込んだときは鳥肌たちましたよ、炎天下なのに。川崎さん側が風下だったので、ドラムの音が他のプレイヤーに届きづらそう。まあ風上なら風上で自分の音をモニターしづらいことになってたかな…いつにも増して皆が川崎さんをガン見してるように感じました。川崎さんの第一声はデス声(笑)、中盤に出た言葉は「風、強いっすねえ」。

気迫もすごい伝わった。しかしパッセージの精度は高い。こういう熱い演奏するときって、ピアノのひとたちは気持ちはアガッていても指先はクールでいる訳で、頭と身体の接続ってどうなってるんだろうなどと思う。いや、ピアノに限らないな…川崎さんはハードヒッターだけど手数も多いテクニカルなドラムを叩くし。頭の隅は冴え冴えとしているのだろうか。ちなみに新留さんの口が終始動いていた。何?何を呟いているの?カウント?ひとりごと?

定番「forgotten children」「a sad little town」もガッチリ、40分の持ち時間で内容は濃い。「最後の晩餐」を中盤に持って来て早くもクライマックス。川崎さんが震災の話、チャリティで作った灰汁とのコラボ作品のことを話し、MCのセノオGeeさんを呼び込んで「wilted flowers」。うーむMCが加わることで様相がガラリと変わります。ネモジュンもサックス装着のピンマイクに向かってシャウト。〆は「toccatina」でした。こちらにも途中セノオさんが参加。

「川崎さんてシーザーみたいー」と言ったら「…『動物のお医者さん』の?あっはっは」と言う返事が即返って来る。ああ、説明がいらない共通言語がある友人って素晴らしい。しかし今回は新留さんもそりひくいぬみたいであった。清田さんは髪型からしてビーグル、ネモジュンはボルゾイか…佐々木さんは……って、いぬに例えんでよろしい。しかしそりひくいぬってイメージがすっかりついた…いや、ヴィジュアルじゃなくて、曲を走らせる速度と牽引の力強さね。5歳児はすくすく成長中です、今後どっちに転がるかわからないけど当分目が離せません。はやくも次が聴きたい!

だんだん暗くなってきたところブンブンスタート。かなりよかった!終盤一気にタテノリになったけどそれ迄の並びや仕込みもかなり変わってました、ダンスフロアー!「Kick It Out」に横のグルーヴが生まれてた!チャックDのトラックもまたいい感じに多用。「DIG〜」の上モノも、新曲もよかったなー。そんで音響もかなりよくなってて…ここらへんはスタッフの腕もあるかな。的確に狙ったところに音を落とせている感じもした。流石に場数踏んでるなあと感心したり。

川島さんの浮世離れした声が伸びる。ステージの後ろにはゆりかもめが走っているし、観覧車の灯が綺麗だし、なんだか辺りの空間がジオラマみたいに非現実的でかわいく見えた。ロケーションとブンブンの音がすごく合ってた。しらゆきが重ね着してたTシャツの襟ぐりが深くて途中左肩まるだしになってて、なんとなくクリスタル(アンニュイ)でした。にゃかにょはどんどん韓流スター化しています(ヴィジュアルが)。

そしてトリのPrefuse 73バンドセット。すごくよかった!生ドラム+ギターありのトリオ編成。ギターはスコット・ヘレンが兼任。最初センターにATRのアレック皇子みたいな黒タンクトップ姿のひとが陣取ったので「ええっ、イメチェン!?」と困惑したがスコット・ヘレンは左側にいたのだった。

ガジェット感満載、ガッチャリキラキラ、シューゲなぼわっとした音もあって気持ちいい。Piano Overlordの方をよく聴いてきたけどあの音色はPrefuse本家でも使われているんですね。Prefuseもちゃんと聴いてみよう…。

ちなみにヘレンはもっさり厚着で、隣のタンクトップさんとのギャップがすごかった(笑)。日が落ちてからは昼間の暑さが嘘のように涼しい…どころか寒い程で、雨もぽつぽつ落ちてきて、なんとか無事終わってくれーと言う変な緊張感もありました。で、なんとかもったんですねー。天気も味方、いいイヴェントでした。



2011年09月18日(日)
『動かない蟻』

シティボーイズミックス PRESENTS『動かない蟻』@世田谷パブリックシアター

いやーもう攻め続けますおじーちゃんたち、素晴らしい!素敵よ!ネタバレあります。

ここ数年は若手芸人さんを1〜2組絡める構成に落ち着いており、そのゲストが毎年変わることでコントの色も変わるし、おじーちゃんたちの体力配分的にもやりやすいのではないかと思っておりました。んが、ここに来て作・演出を初顔合わせの天久さんに依頼したのには驚きましたし、まことは文字通り身体を張っていたのにも驚いた…この歳で……アンケートに「太ってはいないけど面白い(身体)」って書かれたって憤っていた……素敵、素敵よ!(何度も言う)

カーテンコールのおしゃべりからすると、作・演出家を変えようって提案したのはきたろうさんのようでした。ちょ、自分で自分の首締めてる(笑)最高じゃないの…てかきたろうさんはこういうとこ担当ですよね。格好いいわ!素敵だわ!

で、絶対時事ネタは絡めてくると思っていましたが、いや〜こう来ましたか。下ネタ増えたのは天久さんカラーだと思います。これWOWOWでオンエア出来んのかな…と思ったんですが、数年前の原発ネタをしっかりオンエアしていたのでこれは問題ないとして、下ネタ的にモザイクかかるだろうな〜っという…そっちかよ!(笑)ちょっとここ迄意匠が具体的なのはシティボーイズでは珍しいんじゃないかと。

そんな訳で原発ネタがガッツリ下ネタと絡めてある一本があったんですが、これはちょっとあまりにもシモで惜しいな、と。シティボーイズならもっとスマートにやれたんじゃないか、こういうのをシティボーイズがやっても、と思うので。ここらへんは初顔合わせならではのぶつかりあいもあったのではないかなと思いました(憶測ですが)。実際台詞が全部入り、音ネタとして良々の歌もレコーディングしたのに全部ボツにしたってネタもあったそうです。勿体ないと言うことで、その良々の歌は客出し時に流されました。

しかし下ネタ以外の、全編に横たわる黒〜いモンドな世界はかなりよかった!耳削ぎゴッホとかね。削いだ耳をオルゴールに入れようとかね。自分の中身を冷蔵庫に保存しようとかね。このあたりは天久さんの頭にヴィジュアルから浮かんでいるんだろうなと言う感じ。そしてそのヴィジュアルには中村さんの身体が大いに貢献していました。脚が一本のこたつを傘代わりに、おそらくは放射線物質が多量に含まれているであろう風と雨の中を進む男。そう、モンド同様全編に影を落としているのは放射能に汚染されていく世界です。各コントに散見していたモチーフが最後に収束した瞬間の、視界が暗くなるような絶望が笑いに繋がる構成もよかったな…笑いにもいろいろあって、どうにもならんから笑うこともあるのですよ。笑いが全てを吹っ飛ばすことはない。でも笑うのだ。こういうときにこの問題をコントでバカバカしく表現せずにどうする。それを見せてくれたおじいちゃんたちは最高に格好いいぜ。

ゲストの良々とえみりちゃんよかったー。ふたりとも声がいいし、笑いの感覚が鋭い!良々は自慢の美脚も見せてくれたし、もう言うことないわ…網戸最高だったわ……。転換映像は例年にはないシンプルさでしたが、音楽(坂口修さん)がよかったので楽しめたなー。

まことの最後のひとことは「来年もまたお会い出来ればと思います」でした。お会いしたい!また来年、絶対ね!



2011年09月17日(土)
― 宮澤賢治/夢の島から ―『わたくしという現象』『じ め ん』

― 宮澤賢治/夢の島から ―『わたくしという現象』『じ め ん』@都立夢の島公園内 多目的コロシアム

フェスティバル/トーキョー(F/T11)開幕作品、ロメオ・カステルッチと飴屋法水作品の二本立て。

新木場から夢の島公園へと歩く。普段新木場に来たとき向かうスタジオコーストとは反対方向、初めて通る道だ。ひとが徐々に増えていく。1000人を越える観客たちがこの作品のために集まっている。今回のオープニングは規模が大きい。その1000人を越える観客が共に体験する作品世界も、スケールがデカい。

事前にアナウンスされたことは、雨天決行荒天延期または中止。演出の都合上、観客が場内を移動し乍ら観劇する。演出の都合上、出来るだけ両手が自由になる荷物で来場してほしい。客席はなく地面に座って観るのでそれに留意した格好で。敷物は入場時に配布する。

入場時配られたその“敷物”は、ビニールで出来た大きな白い旗だった。係員の案内に従ってコロシアムへ入る。中央には椅子が並べられている。なんだ、客席があるじゃないか。しかしそこへは誘導されず、コロシアムの外周を歩かされる。デモのイメージが重なる。何に対するデモかは、今現在の日本の状況から考えると大概ひとつの答えに辿り着く。葬列のイメージもある。これはロメオの演出?飴屋さんの演出?既に観客は作品に参加している。途中隣を歩いていた男のひとから「このままずっと歩くだけで(上演)終わっちゃったりしませんかね…」と声を掛けられる。「有り得ますね」と言ってお互い笑う。一周程したところで、この辺りに座ってくださいと言われる。旗を敷物代わりにして座る。この敷物は、地面の水分や泥を遮るだけのものではなく、目に見えないものに触れないようにとのコンセプトもあるだろう。

いつの間にかコロシアム中央の椅子にはひとりの男の子が座っている。小山田米呂くんだろう。飴屋さんが近付いてきて、彼をビニールのようなもので包み込み、離れていく。入場時からずっとコロシアムを取り囲んだスピーカーからノイズが流れていて、神経に障る。落ち着かない。

そうこうするうちノイズが大きくなり、男の子が座っている以外の椅子が動き出した。最初はひとつふたつ椅子が倒れ、何?と思う間もなくずるずる、ずるずる、と次々椅子が流されていく。実際にはどこかから引っ張って椅子の並びを崩していっているのだろうが、流されていくように見えるのだ。深読みしてもしょうがない、これは素直に見るしかない。津波のイメージだ。数百脚はあっただろう密集した椅子の集落が少しずつ、しかし確実に壊滅していく。観客のエリアは海側になる。流されていく椅子を見送る。ひたすら、ただただ見送る。男の子だけが中央に残る。グレゴリオ聖歌だろうか?荘厳なチャントが場を満たす。

椅子が流されていった森の奥から煙が上がっている。否応なく津波後の火災を連想する。そこから大人たちが現れる。男の子は、大人たちの方へと歩み寄って行く。大人たちは男の子を迎え、彼を包んでいたビニールをとき、身体を緑に染め、最終的には青い姿に変える。風が吹き、空の雲がどんどん流されていき、自然光がみるみる姿を変える。男の子は大人たちとともに森へと消える。ひとすじのレーザー光が夜空へと伸びていく。

20分の転換休憩。

演出家ふたりがお互いの作品に出演すると発表されていたので、この前半がカステルッチの作品だろうと思う。しかし、それにしても飴屋さんの作るものと非常に似通っているところが感じられ、しばらく判断がつかなかった。飴屋さんならこの選曲はないだろう、飴屋さんだとレーザーは使わないだろう。しかし手法が違えどとても通じるところがある。音響にしてもそうなのだ。スピーカーの配置の仕方、あのノイズ、音の鳴り。

後半、前半にも出てきた男の子がシャベルを持ち現れる。穴を掘る。自分の墓穴を掘ると言う。墓標となる枝を挿し、猿のマスクを被せる。あ、猿の惑星だ。マイロ、コーネリアス。名前の由来、生まれた年。彼は先生として現れた女性と対峙し、自分のことを話す。女性は英語で応える。最近の飴屋作品には欠かせない村田麗薫さんの鈴を転がすような声が、それを日本語に訳し、観客に伝える。戦争について話す男性の声が流れる。限界だった、戦争を終わらせなければならなかった、と言ったようなこと。これは誰へのインタヴューなのだろう?

反対側のエリアでは飴屋さんが穴を掘っている。彼らの間を縫うように、こどもたちがガムランの楽器を演奏し乍ら行進する。飴屋さんはやがて、自分の父親の話を始める。彼の職業、彼の記憶。飴屋さんの苗字の本名を作品上で初めて聴いた。

猿たちがモノリスらしき巨大な板を運び込む。飴屋さんとカステルッチは日本とイタリアの葬儀について会話する。土葬、火葬、ミイラ。骨が奏でる音について。日本の墓は地中にあるが、イタリアは地上にある、等々。原子爆弾のモチーフが姿を見せる。モノリスに映し出される天気図に、大陸はあるが日本列島がない。米呂くんが淡々と話す。夢の島の由来。2011年、僕は10歳。2021年、僕は20歳。……50歳になったとき、日本はもうないと。椹木野衣氏から飴屋さんへ宛てられたメッセージが朗読され、それが何故ガムラン音楽なのか、に繋がる。熱帯の生命力。飴屋さんがモノリスに呑み込まれる。こどもたちは行進する。ちいさな足がじめんに立ち、じめんを踏み進んでいく。

宮澤賢治の作品から、カステルッチと飴屋さんが現在へと映し出した世界は、死のイメージで充満していた。それは自然の必然なのだ。ひとも、土地も、全ての命はいつか終わる。しかし自分が死んでも、こどもたちはこれから成長して歳をとっていくのだ。それは続いていく。未来へ繋げていかなければならないものがある。生き残った者は死者を弔い、未来へ生きるひとびとへ祈る。無事で、無事で。

終演後公演クレジットが記載されたリーフレットをもらう。両作品のサウンドデザインはzAkさんだった。カステルッチと飴屋さん、そしてzAkさんの、現在を聴く耳と言うものの繋がりがこう鳴るんだと恐ろしくもあった。

自然と共演すると、それがどんなものであれすごいものになる。酷い目に遭わされることもあると言うことだ。安定感は皆無。抗うことなく波に乗れば、今夜のような体験が出来る。この波に乗ることが出来る演出家はそう多くない。結果的には、まるでこの作品のために用意されたかのような不安定で絶妙な天気になった。穏やかではない、風が適度に強い、雲が多い空。しかし雨は降らない。夜空に浮かぶ星も見え、灰色の雲が流れるスピードが速く、バッタが飛びまわり、鳥の声が聴こえてくる。初日の金曜日は、公演後の夜中に土砂降りになった。

カステルッチと飴屋さんなら、例え雨天になったとしてもすごいものを見せてくれただろうと、今なら思える。しかし雨天になると出演者スタッフともに負担が恐ろしく増すので、この二日間の天気がもって本当によかった。制作も勇気がいったと思います。F/Tはいつもチャレンジングなものを見せてくれる。今回の野外3演目は全て観る予定、まだまだ楽しみは続きます。



2011年09月14日(水)
『irreversible』

■mouse on the keys『irreversible』

普通にショップやAmazonでも買えますが、バンドとも縁が深いFLAKE RECORDSのレヴューが素敵だったのでこちらにリンクを。

最近ソフトものの感想はtwitterにちょこちょこ書いてばっかりでしたが、これはちゃんと感想を書こうと。それくらいよかったし、今これを観て思ったことはちゃんとまとめとこうかなと…と言いつつまとまっていません。まああれだ、関連記事のリンク等も残しておきたいので。結局は自分用ですね……。興味があったら観てみて!関連記事も読んでみて!

まずはトレイラーから。



そして関連記事(今後も見付かったら追加していく予定)。

・[インタビュー]mouse on the keys | 彼らと時代のアーカイブ | CONTRAST

・diskunionのフリーペーパー『FOLLOW-UP』最新号がまだwebにアップされていないけど、いずれPDF版が載りますvol.101、Page40)

・今作のディレクターMINORxUさんのサイト

・MINORxUさんのtwilog | 2011年3月

川崎さん、新留さん、佐々木さん、ネモジュンさんもtwitterやってるんだけどtwilog登録してないからログを辿りきらん……皆さん臨場感溢れる書き込みなさってたんですけどね。

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タイトルはリヴァーシブルの逆で「裏返せない、逆行できない、取り消しできない」、つまり「もう前のようにはいられない、戻れない」と言う意味。7月のライヴのときに川崎さんが「3.11以前にはもう返れないと言う意味を込めた。(中略)それと僕、頭痛が酷くなって、MRI撮ったら脳の上の方の毛細血管が切れてきてるんでもうヘドバンはやめなさいって言われたんです。だから以前の僕には戻れないと言う意味もある(笑)」と言っていた。

2011年3月4日〜12日に行われた欧州ツアードキュメンタリー。上記インタヴューでも語られていますが、震災の日彼らはリヴァプールにいました。そのときのライヴでのMCが印象的。ステージ上で新留さんが話すの初めて見た。それに対する観客たちの反応も心に残ります。ライヴや移動の様子は基本時系列順に収められていますが、オープニングは11日のライヴの映像です。

演奏は鮮烈で流麗、そして破壊的。“ライヴバンド”motkがビリビリ伝わってきます。『Sezession』をリリースした頃のライヴからするとこの変貌は驚異的。motkのライヴを最初に観たのは2008年だけど、その頃は川崎さんがDrsとKeyを兼任するスタイルで、Gが入った編成もあった。当時から洗練された音作りやコンセプチュアルな映像を駆使したライヴは格好よかったけど、そこからこれだけフィジカルなバンドになるとは予想しきれなかった。その後新留さんが定着して今のメンバーに固まったのが2009年かな。“an anxious object”tourのとき川崎さんが改まって「(川崎、清田、新留)この3人でmouse on the keysです」と言っていた。このメンバーが揃った、と言うのがやはり大きかったのだろう。それぞれがソリストとして演奏出来るし、インプロ部分も増えた。コンピュータでガッチリ作り、練習によって身体に憶え込ませていた曲が個々に馴染み、どんどん成長していく。

それはメンバーにも実感としてあったのでしょう。今回のツアーは自分たちでブッキングしたものだそうで、とにかくライヴをやりたい、ライヴが楽しくてしょうがない、と言った意気溢れる空気が見て取れる映像です。観ているこっちもワクワクしっぱなし。少数精鋭、motkの3人とサポートの佐々木さん、ネモジュン、PAの山下さん、MINORxUさん(見た限りではこの7人で行った様子)のチーム。VJは佐々木さんがTpと兼任、MINORxUさんはご自身の信念通りワンカメ。そう、これ何がすごいってワンカメなんですよね。相当な距離を短期間で移動し、夜な夜な各都市のハコに入り、セッティングをし、リハをし、演奏をし、現地のファンやスタッフと交流する。そんな彼らが遭遇した、異国での東日本大震災。言葉にし難い雰囲気を、カメラは独特の目線で捉えています。ワンカメで躍動も静寂も撮る。それはMINORxUさんの目線でもある。これが「魔法が宿る」と言うことか。

移動中や都市ごとの美しい風景、どっからどう撮った?と言うショットも格好いいし、ここぞと言う瞬間は逃さない。実際どのくらい撮っていたんだろう?皆が寝てる間も撮ってる訳で(余談だが初見時リモコンの操作を間違えて、いきなり川崎さんと新留さんが同衾してるところが映ったので狼狽した・笑)、このひといつ休んでたんだろうと思ってしまった。ツアー最終日、ロンドンでのライヴはフロア中央に楽器をセッティングし、バンドを観客が囲む形になっているのだが、カメラはその中央に陣取ってプレイヤーと観客両方のイイ表情を撮っている。これだけ密着して撮れるのも、撮影者と演奏者の信頼関係がしっかりしているからでしょう。motkがいるシーンと言うか、ひとの繋がりの為せる業だなと思いました。一朝一夕でこの関係は作れない。

編集も絶妙で、ライヴシーン以外の声がない。唯一言葉があるのが前述のリヴァプールでのMC。これは是非本編で観てもらいたいので内容は書きませんが、新留さんの英語でのMC、それに応えるリヴァプールの観客たちの姿はこの作品のハイライトでもある。確かにもう3.11以前には戻れないのだ。移動中数回にわたって映る、広大な土地にポツポツ点在している風力発電機の風景を、以前とは同じ気持ちでは見られない。バンドは川崎さん曰く「5歳児的な成長期に入っている」。二度と訪れない“三月の10日間”を、60分で一気に見せきる映像作品です。

それにしてもエンドロール、メンバーの名前とパートが出るんだけど、そこに映ってるメンバーがことごとくそのクレジットとは違う楽器を演奏していたのにウケた。特に川崎さん、ドラムって出てるのにやってることは…(笑)。あ、あと川崎さんすごいピカチュウの絵がうまいー!



2011年09月10日(土)
シュヴァンクマイエル祭

『サヴァイヴィング ライフ ―夢は第二の人生―』@シアターイメージフォーラム シアター2

最新作!いやーんよかったー。あまいー。ほろにがいー。

シュヴァンクマイエルが実際に見た夢から着想を得たものだそうです。そもそもシュヴァンクマイエルの現(うつつ)の着眼点、視点がああですから、むしろ夢と言う約束ごとがあるとすんなり彼の世界に入っていける感じでした。前作長編の『Lunacy』や、その前の『オテサーネク』より苦しくはなかった。まあその苦しさもこの監督の作品の魅力でもありますが。…と書いてるうちに思い出したが、『Lunacy』はエドガー・アラン・ポーやマルキ・ド・サドの作品、『オテサーネク』はチェコの民話といったモチーフとなる原作があるんですよね。『アリス』もルイス・キャロルですし、『ファウスト』はあのファウスト。

(長編に限りますが)原作ものは「シュヴァンクマイエルの目に映ったこの世界」と言う解釈を観る感じだけど、オリジナルはそれを念頭に置く必要がない。あー、彼にはもともとこう見えてるんだ、とこちらもある意味素直に観られます。すると甘くてちょっと泣けるような切なさを湛えた世界が目の前に拡がってくる。

肖像写真のユングとフロイトは殴り合う。全ては無意識から為されること。現実で折り合いをつけられない出来事、現実で満たされない欲望は、夢の中で叶えられる。目覚めているのがつらかったら眠って夢を見ればいい。夢の世界が恐ろしくなったら目覚めればいい。目覚めることと眠ることで、ひとは全ての欲望を満たすことが出来る。そうすれば自殺する必要もない。夢の世界で泳ぎ続けられること、それがサヴァイヴィングライフ。

そうして迄生きていかなければならない、と言う強迫観念めいた感じはしない。置かれた世界でひたすら生き延びる、全てを受け入れたうえで生きていく。生まれちゃったしね、と言う感じ。生きることが使命ではなく運命ならば、少しは心も軽くなる。

物語の世界を視覚化するコラージュアニメーションはもはや職人芸。時間と手間が途方もなくかかる手法ですが、彼以外にこんなヴィジュアルを見せてくれるひとはもはやいない印象すらあるので、まだまだ元気に作品を作り続けてほしいです。また新作が観られて、そしてその作品がとても優しく残酷なものだったことが嬉しかった。

あと音がすごくよかったー。これは劇場の音響のよさも大きい。イメージフォーラムで観る作品の音っていつも印象に残る。

と言えば、これR18である必要はどこに?こどもも観ればええやん!気が楽になるよきっと。

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『アリス』@新宿K's cinema

移動時間30分。タイムテーブルからしてこの日しか観られなかったので間に合ってよかった。『ヤン・シュヴァンクマイエル傑作選』のうちの一本です。

劇場スクリーンで観るのは初めて。いやー大きな画面で観るうさぎのグロいことよ、最高です。あとこれはシュヴァンクマイエルの作品全部に言えることだけど、たべものがいっつもまずそう(笑)。出てくる料理やお菓子自体のヴィジュアルそのものではなくて、それを食べる行為をグロテスクに撮るんですよね。

こどものかわいさ、杜撰さ、残酷さ、不潔さみーんな描いてるとこが好っきー。

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『ヤン&エヴァ シュヴァンクマイエル展 〜映画とその周辺〜』@ラフォーレミュージアム原宿

ここで初めてプレゼントキャンペーンの台紙とシールを渡される。今公開されている映画(新作+傑作選)と展覧会、計三枚の応募券を集めて応募すればプレゼントがもらえると言う……えー前の二会場どちらも応募券くれなかったよ!一日でコンプ出来てるのに!先に言えー!(泣)スケジュール的に渋谷→新宿→原宿じゃないと観たいものが観られなかったんだよー!

むなしい……。

それはともかく展覧会は『サヴァイヴィング ライフ』のメイキング映像や絵コンテ、日本の『怪談』とのコラボレーションによる木版画とコラージュ、過去映画作品で使ったオブジェ、立体作品や絵画も満載でギッチリ充実。エヴァのセクションもちゃんとあった。『怪談』は面白かったなー!チェコの古本等の挿画に日本の妖怪画を張り込んでいくコラージュ作品が、不思議とマッチしているのです。東欧の風景に紛れ込んだ東洋の妖怪たち。ちょっとかわいくちょっと不気味。

最後のセクションは細江英公が撮ったシュヴァンクマイエルの肖像写真。シュヴァンクマイエルに白いチュニックを着せ、そのチュニックと背景の白い壁面にシュヴァンクマイエル夫妻の作品とエヴァの肖像を映し込んで撮影したもの。シュヴァンクマイエルは「エヴァと繋がることが出来た」とコメントを寄せていました。

エヴァが亡くなってもうすぐ六年。彼女がいない初めての長編作品が『サヴァイヴィング ライフ』になったのは、自然な流れだったのかも知れません。シュヴァンクマイエルの「死ぬ迄生きる」日々。彼は今月4日、77歳の誕生日を迎えました。

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結構分刻みで動くスケジュールになり、暑さ+作品の内容から?途中クラクラしてきたので慌てて自販機でのみもの買ったりしました。遠足か。濃かった…いっぺんに見ると頭おかしくなる感じでした。面白かった!



2011年09月04日(日)
『smile』

川平慈英の箱 J's BOX vol.4『smile』@ニッポン放送 イマジンスタジオ

川平慈英さん企画原案演出出演のワンマンライヴショウ、4回目だそうです。歌、ダンス(タップも踏むよ)、トーク、リーディングと川平さんの魅力満載のステージでした。共演は織田佳奈子さんと栗山絵美さん。音楽監督、演奏に岩崎廉さん。

リーディングテキストをスズカツさんが書き下ろし。『ライフ・ウィズ・アーセナル / Life with Arsenal』と言うショートストーリーで、育てておおきくしていきたいとのこと。詳細、経緯はこちら。「オオノ・ジェイムズ・スミス・ジュンイチ」に「ショーン・タロー・オノ・レノン」を思い出したりもしました。サッカー好きにはきっとああ!とニヤニヤするディテールが沢山盛り込まれているのだと思います。「サッカーは苦痛と憎しみの娯楽」ってところが興味深かった。スズカツさんて演出家としてはドSだけどサッカーファンとしてはドMだよねー(笑)。今回は序章、と言った感じで、次回以降に期待を持たせるテキストになっていました。

リーディングと言っても慈英さん殆ど頭にテキストが入っていたようで、そこから派生するオオノ・ジェイムズ・スミス・ジュンイチの育った環境、ふたつの祖国を持つ背景、サッカーと恋に落ちてしまった少年がそのまま大きくなったような人物造形と言った細かいニュアンスがテキストの行間から溢れ出すような勢い。そこには少なからず慈英さん本人の要素も入っているし、オオノ・ジェイムズ・スミス・ジュンイチを生きる慈英さんもいる。

うーんなんだろ、リーディングと言うよりローディング、と言う感じもした。慈英さんが場面場面をブロックでロードして、自分のフィルターを通して、観客に提示してくれた感じ。なのでそのブロック間に一瞬空きが出たりして、こちらも「あ、リーディングだった(通しの芝居じゃなかった)」と我に返るようなところもありました。そういう面がとてもアクティヴで面白かった。

それにしても、ジャンルは違えどスポーツ観戦は好きだったりするので(実のところサッカーにはハマらないでおこうと言う自制がある。理由も判っている。普通に観ること自体は好きですよ)、いや、スポーツ観戦に限らないけど、常勝チームのファンで居続けるひとのモチベーションて何だろうと思ったりもしました。人間て飽きるいきものですね。そして飽きないように意識/無意識に努力するいきもの。まあファンってのはおおむねどMですわね、つらいねー(自分もなー)。

ショウタイムはスタンダードナンバーからオリジナル、有楽町のあの劇場(笑)のレパートリーも毒あり笑いありで聴かせます。ジャグリングも飛び入りゲスト(事情が事情なのでweb上に書くなと言われたよ・笑)を迎えて大盛り上がり。トークにはジョン・カビラ氏が飛び入り!兄弟トークが聞けて面白かった……。底抜けに明るい慈英さんのエンターテイナーっぷりを存分に楽しめた反面、そんな彼の陰みたいな部分が垣間見られたことにもわっ、となりました。あの映像と、アメリカでの出来事は印象に残ったな。これを陰と言うのは変かも知れないけど。

あのスマイルには彼のいろんな経験が含まれている。それが観客にスマイルを届ける力にもなっている。

体調悪くて這うようにして行ったんだが(笑・いやーしかしこれサマソニんときでなくて助かったわ…舞台は座れさえすればなんとか…なんとか観られるからな)そう迄して行ってよかったよーと思える楽しくじわっとくるステージでした。

さてこのイマジンスタジオ、名前からピンと来た方も多いでしょうが、ジョン・レノンの「イマジン」がモチーフ。アプローチ側のガラス壁面にジョンの直筆をプリントしたスピリットボードがありました。カーテンで隠されていたのですが、冒頭アプローチから慈英さんが登場する際そのカーテンが開けられ、一瞬ボードを見ることが出来て嬉しかったな。レノンフリークのスズカツさんもこのスタジオで仕事が出来てさぞや嬉しかったことでしょう(微笑)。



2011年09月02日(金)
『FURO祭 男湯な日』

『FURO祭 男湯な日』@Shibuya O-EAST

吉祥寺の弁天湯で開催されていたシリーズライヴ風呂ロック。今年でそのシリーズが終了となり、3月17日に最後の公演が行われる予定だったところ、震災の影響で中止になってしまいました。それに代わるイヴェントとして3つのライヴが企画され、その第二弾が『男湯な日』。ちなみに第一弾はoutside yoshino(!)出演の『吉祥寺な日』、第三弾はオニちゃんやTADZIO出演の『女湯の日』。

仕事が終わらず20分程遅刻。いちばんの目当てだった大友良英 × U-zhaan × 熊谷和徳がトップバッターだった…(泣)が、多分一曲を20分くらいやってたっぽい。直後に挨拶のMCが始まったので。大友さんとU-zhaanの「元気?」「元気ですよ」って普通の会話が続いた。マイクを持たない熊谷さんはふたりの間でニコニコしてた。熊谷さん、春に観たときよりも確実に痩せていた。この三人には本当にいろいろあった半年だったのだろう。「元気?」と言うごく普通の挨拶にも意味を帯びるように感じる。

まあそんなことを勘繰ってしみじみしているこっちのことは置いとこう。U-zhaanのドSっぷりがまた発揮されていたのが面白かった。大友さんニコニコして応えてる、おじいちゃんみたい(笑)。「髪切りましたよね」ってフリに女子高生のように照れるなYo!かわいいZo!「もうちょっとどうにかなりゃいいんだけど…」「U-zhaanみたいに豊かじゃないからね!」そんな自虐ギャグを言うなー!そんな女子高生マインドの年長さんにU-zhaanは「じゃあ次は大友さん唄いましょうよ」と無茶振り、「ええー?」とうろたえつつ唄いだすおおともっち、それで一曲やった後「ホントになんでもやってくれるんですね、大友さん」…ドSー!

しかしその大友さんの歌から始まった曲がよかった。歌詞は敢えてここには書きませんが、現状への怒り、悲しみ、他者への励ましを唄ったものでした。この三人ですから全編インプロだったのでしょうが、やっぱりそこでこの言葉たちがパッと出るのは、当然乍ら大友さんの関心や悩み、思いの殆どがこちらに向いているのだなあと思い、彼の、自分たちの現在を目の当たりにしたようで、ああこのインプロ聴けてよかったなあと思ったものでした。

U-zhaanもユル〜い会話をダラッダラに続けた直後にビシッとキメてくれるし、熊谷さんはタップボードのチューニングなんて小ネタを見せてくれつつも、演奏が始まると大友さんとU-zhaanのバトルをアンサンブルとして自分のタップに包み込んでいくような懐の深さを感じました。全員リズムを刻む演者であり、同時に皆歌心がある。いやーよかった。

キセルは初見、ほわーんとした声を持つデュオ。賢崇さんの声好きなひとはおおっと思うのでは。後で調べたらおふたりは兄弟なんですねー、「いつまで経っても息が合わない」なんて言ってたけどいやいやいや。のこぎり(ミュージカル・ソウと言う名前があることをバンド紹介のテキストで初めて知る)のほわんとした音と声がとてもマッチしてて気持ちよかった。いぬのうたがよかったなあ。

メインステージに緞帳が降り、サブステージでオオルタイチさん。千住くんが所属していたウリチパン郡の中心メンバーだったので気になっていて、今回初めて観ることが出来ました。ひとりセット、打ち込みバックトラックに即興で歌を載せていく感じかな。この歌と言うのがオリジナル言語なのか何を言っているのか判らない。プロフィールを見ると「非言語」とのこと。ダンサブルなトライバルビート、そしてハウス。格好よかった!途中メインステージの緞帳が開き、ZAZENのセッティングが始まったので客が「ZAZEN始まるの?」と言った感じで落ち着きなくなっちゃったとこはちょっと気の毒でしたが盛り上がったよー。

で、ZAZEN BOYS。うへーいつ観ても隙がありませんね…ホントすごいな。後ろから忍び寄っても斬られるな(何の例え)。毎回熱心にライヴに通っている訳ではないのでどの辺りからそうなったのかは判らないけど、各メンバーのフィーチャー場面が増えたような気がする。吉田一郎が感情を顔に出すようになってきたような気もする。あとコブラっぽさが増してる(笑)。で、それが緊張の中に一瞬生まれるユーモアを醸し出していて面白い。向井くんと柔道二段松下敦がSMの関係に見えてきますね(微笑)。それにしてもこの道場っぷりは他では観られないもの。観る度貴重だわと思う。

そして向井くんがアンドリュー・ウッドコスプレ(金髪にチューリップハット)じゃなくてホッとしました(内輪ウケ)。