初日 最新 目次 MAIL HOME


I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
kai
MAIL
HOME

2011年06月28日(火)
『クラウド』2回目

『クラウド』@青山円形劇場

タイトルにはcloud、crowdな意味も含まれるようなので、以後カタカナ表記にします。本日Gブロック。

さて2回目。集中して観れば観る程、自分の頭のなかの情報在庫に結びつけようとする作業も盛んになります。気が散ってるのとは違うんだよね…目のまえで起こっていることは澄み切ったような状態で映って、頭にすいすい入ってくる。で、そうなればそうなる程自分との共通点を見付けるべく、普段忘れていることが意識の表層に浮かんでくる。

と言う訳で、この日のおぼえがきはちょー個人的な自分用メモなところが多分にあるので、読んでる方は何が何やらかもしれません、すごい他人にとってはどうでもいいことを書いてます、すみません。先におことわり。ネタバレあります。

-----

・パンフレットの「diagnosis」解読に夢中、しかし降参。オガワな気分で「誰かいるー!?」とツイートしヒントをいただく。変換出来たときは鳥肌たった…キー打つ手が震えた……webって素晴らしい!いやはや有難うございました

・ディック的なものを多々感じつつ(いやディック、網羅はしていないですけど)初日観ていたとき、オガワの「誰かいる?」のくだりはジェイムズ・ティプトリー・Jr. の「ヒューストン、ヒューストン、聞こえるか?」(『老いたる霊長類の星への賛歌』収録)を思い出すなあと思った。そしたら台詞に「ヒューストン」て単語出てくるのに今日気が付いたよ…ひぃ

・「ヒューストン、ヒューストン、聞こえるか?」を連想する程オガワはひとりぼっちに見えた。あの誰もいない感じ。スマパンの「1979」も思い出したなー。“Forgotten and absorbed into the earth below / The street heats the urgency of now / As you see there's no one around”

・あービリー・コーガンにはオガワのにおいがするYo!だれかー!だれかビリ公にエンドウみたいなひとをおくってやってー!(それはどうか)

・そういえばビリ公はカート・コバーンと同じ魚座の左利きであった。今回のメンバー、左利きがふたりいますね…うえーん

・オガワはエンドウに「僕のようになっちゃいけない」って言うんだよね……

・実はもう、70歳になったオガワも見たいのだ(ことだまことだま!言えば叶う!)

・ところで浩介さん、まつげバッサバサですやん。それが判るくらいの距離ですよどひー。今回メガネ外しているので美形なのがよくわかります

・それにしても浩介さんはトモロヲさんの言葉をよく聴いていて、細かい言い回しもよく拾う。ナイスナイス

・今日は隣席の方がクラウドちゃん(勝手に命名)にとてもなつかれてて、何度も何度も舞台につつき戻してあげてたのに寄ってこられてた。かわいい。スズカツさんも回収にいらっしゃいました(笑)

・で、そのクラウドちゃん。初日のopとは回収する数が違った。と言うか、あのopはリズムとテンポ、スピードがキモなので、全部回収するために身体がモタッちゃダメなんだ。だから回収しきれなくてもOKで、残ったものはその後のシーンを使ってヨタロウさんがつれてくんだね

・粟根さんの日替わりtwitterネタ、ウチにもRTされてきたやつだった(笑)

・粟根さんの日替わり女心が判らないネタ(初日はミニスカート)、隣席のひとが正にそのデカいリングのピアスだったのでブルブルした。や、殺られる!

・門人くんの日替わりジュースネタ(初日は野菜生活100・紫の野菜)、今日はウコンの力だった

・「いちばんの若手」なんで門人くんのかわいがられっぷりが日々エスカレートしているようです。本人も判ってるから見事に応えますねー、この若者の舞台においての身体能力は見応えある!今日は浩介さんとこ迄行って、浩介さんも参加してた(笑)

・そして門人くんと組むシーンが多いことで鮮やかに浮かび上がる粟根さんの“舞台で見せる身体=動き”の優雅さ。歳をとるって素敵なことねとしみじみ

・自分の人生を改竄することについて。昇華と言ってもいい。ある劇作家のことを思い出した。ブログから奥さんの描写が消えた数ヶ月後に彼が発表した作品は、妻を理不尽に殺された男が、復讐をするべく犯人を探し出すと言うものだった。主人公は劇作家本人が演じていた

・ブログのことがひっかかっていた。今回のストーリーがフィクションであることをひたすら祈った。舞台の出来が素晴らしかっただけに尚更だった。鬼気迫るもので、痛く、腹の据わった作品だった。そして主人公を演じるのは、劇作家本人しかいないとも思えた程の熱演…いや、まるでとりつかれたかのような演技だった。演技とは思えないくらいの

・彼が離婚したと聴いたのはそのあとだ。奥さんが亡くなっていなかったことに正直ホッとしたが、ああ書かずにはいられなかった彼の心境を思い、観劇してから随分経っていたと言うのに涙が出た。劇中の夫婦は仲睦まじく、ときどきケンカをし、日々を穏やかに暮らす幸せにあふれたふたりだったのだ

・忘れることは出来ないことと、どうつきあっていくか。これはこれでありなのかも知れないと思った。再演はないだろう作品になってしまったが、本音を言うとまた観たい。今でも忘れられない作品

-----

と、まあこんなことをつらつら書いてweb上に放り投げている一方で、普段からスズカツさんスズカツさんと言ってまわっている私を可哀相に思ってか、友人が『クラウド』の感想を聴かせてくれたり、昔からザズゥシアターを観ている方がメールをくれたりします。それは私の記憶のなかにだけ残る。

本人の与り知らないところで『クラウド』についての言葉が交わされている。それこそ雲のように、言葉たちはその場でふわふわと消えていく。クラウドにもサーバにも残らない言葉たち、ひとの思い。発表された作品は、観たひとの数だけヴァージョンがある。残したいから必死で音韻をweb上に投げる。「誰かいない?」でもそれも、必ずいつか消えてしまう。それでいいと思う。



2011年06月23日(木)
『THE SPOT』振替公演、『CLOUD』初日

LIVE POTSUNEN 2011『THE SPOT』@天王洲 銀河劇場

3月、震災の影響で延期になったポツネンの振替公演。だったんですが……。

事前にごはんを食べようと、12:30に劇場前で友人と待ち合わせ。開演1時間半前に何故か開場しており、「チケットをお持ちの方はこちらにお並びください」等と言っている。近寄ってみると「『緊急のお知らせ』本日(6月23日)の昼および夜公演は本人左手負傷のため急遽中止とさせていただきます。なお、今後の対応は決定次第、ホームページ等でお知らせいたします。」との張り紙が。えええ?

スタッフさんが丁寧な説明をしてくれ、プログラムを頂きました……。

いやーつくづく縁がない。振替の振替公演って…あ、あるのかな……流石に厳しいんじゃないかな……。残念だけど仕方がないわね…こればっかりは。相当無理してたんじゃないかなあ。

ご本人のコメントはこちら。まずはじっくり治してください、おだいじに。→・『KENTARO KOBAYASHI WORKS 小林賢太郎のしごと|message』

****************

と言う訳で夜迄まるっと暇になったので(…)表参道で遊んだりしてました。休日は混んでるTORAYA CAFÉに余裕で入れてラッキーではあった。

****************

『CLOUD』@青山円形劇場

まず情報から。開演10分くらい前から席に着いておくと楽しいものが観られます。『ウェアハウス circle』の仮チラも配られてました。こちらも今から楽しみ。

と言う訳で『CLOUD』初日です。今回クラウドコンピューティングがモチーフのひとつと言うことで、公演前からブログ(suzukatz-cloud)、twitter(オガワクラウド(@ogawacloud)team-cloud(@suzukatzcloud2))、tumblr(SUZUKATZ CLOUD)を通していろいろなイメージが提示されており、はてどこ迄がフェイクか?どこからトラップか?舞台を観るうえでのヒントはどれだけあるか?と考え乍らチェックするなかなか楽しい日々でした。シノプシス等が掲載されている公式サイトはこちら→CLOUD

それにしても一挙に仕掛けましたわね…どないしたんと思いましたが、プログラムを読む限りでは震災のことが多少なりとも影響したように受け取れました。影響しないわけがない。もともとwebツールを駆使しようとは決めていたのかも知れませんが、いざ始まってみたそれは『CLOUD』と言う公演だけに留まらない内容になっていく。決してひとりだけで自己完結することが出来ない、多くのひとが関わる舞台作品の醍醐味を、幕が開く前から目撃するような不思議な感覚もありました。いや、舞台だけには限らない。ひととひとが関わることには、誤読やズレが必ず起こる。ひとがいる限り、コミュニケーションが起こらない場所はない。

「『LYNX』の構造を使って、50歳になったオガワを描こうとしていた。だが、僕はそれをやめることにした。『LYNX』の構造を使うのではなくて、『LYNX』の感覚を取り戻すことこそが必要だと感じた」。

勿論舞台だけを観てもいい、『LYNX』を知らなくてもいい。全部を掴むこと等出来はしない。どこに目が、耳が、興味が行くか。それは自分が何を観たいか、聴きたいか、知りたいかだ。自分が体験した『CLOUD』はどんなものになる?

果たしてそこにあったものは、自分にとってはとても居心地がいいものでした。95分と言う、弛緩することなく集中出来る上演時間。沈黙ひとつひとつが饒舌、リラックスした状態なのに鋭くなる一方の感覚。冴え冴えとエキサイト出来る、“あの”スズカツさんの舞台。

いやー、opの画ヅラだけでもう満足した(笑)その後からがまたたまらなかったんだけど。遅刻厳禁よ!

以下メモ。Bブロックから観ました。多少ネタバレあります、未見の方はご注意を。

・今回スズカツさんとは初顔合わせの、小原敏博さんの衣裳がすごくいいです。パッと見た印象からして、登場人物と演者のイメージにピタリと合うシンプルな格好いい衣裳なのですが、あの距離感なのでとても凝っているのがよく見える。一緒に観たアパレル業界のサさんが「丁寧に作ってるわねー、しかも洒落てる」て言うてました。神は細部に宿るねー

・もともと皆さんキレる方たちではありますが、あのメンバーのなかに身体がビュンビュン動く若手が入ると全体のフォーメーションがすごく面白くなります。門人くん、皆からかわいがられてるのがよくわかる(微笑)。opの門人くんは、20年前インクスティック芝浦の客席からステージに駆け上がったトモロヲさんの姿を彷彿とさせました。格好よかったYo!

・そんななか相当動きを抑えている浩介さんの存在感、いいですよー。このひとにしては珍しいタイプの役柄かも、それがかなり魅力的な造形になっています

・あれよね『銀龍草』のときの久松さんといい『ウェアハウス』の松重さんといい『LYNX』の哲司さんといい、スズカツさんは男優さんの新しい魅力を引き出すの得意よね!これからスズカツさんのことは演劇界のティム・ガンと呼ぶよ!(笑)

・tumblrに投稿されていた『ANDY WARHOL SILVER CLOUDS』がモチーフと思われる原田愛さんの舞台美術。どう動くか予測不可能な小道具もあるんだけど、それが今回狙ったかのような動きをする。まるで意志を持っているかのよう。これには鳥肌たったわー。どこ迄予測して作っているのかな

・丁度今『憂鬱と官能を教えた学校』を再読していて音韻と音響について考えていて、あー自分が舞台にアホみたいに行くのは音響に魅入られているからかなあなんて思ったりした。この考えからすると、オガワさんの理念は音韻があればいい、ってことだよね。面白い

・しみじみデヴィッド・ボウイとイギー・ポップのことを考えた

トモロヲさんや粟根さんやヨタロウさんについてもいろいろあるんだが、それはリピートした際に!(笑)テキストについても。いやー楽しかった。次回が楽しみ。



2011年06月19日(日)
『幽霊たち』

『幽霊たち』@PARCO劇場

オースターの舞台化と言えば白井さん、と言うイメージがすっかり定着しましたね。白井さんがオースターに入れ込んでいるのは、ご本人もことある毎に発言されているし、よく知られていることだと思います。先日twitterでもケラさんがやってみたい!と発言されていたし、オースターの世界に魅了されている演出家は多いのだと思います。

小説から構成台本を起こしていく作業はたいへんな手間だと思います。しかし『幽霊たち』はオースター自身が書いた『ブラックアウツ』と言う戯曲が下敷きになっているのだそう。回想と現実が地続きになるような不思議な感覚があるオースターの世界は、想像力を駆使出来る舞台とは親和性があるのかも知れません。可能性が無限にある。だからこそ、実際に舞台にあげるのはとても難しい。

それでも果敢に挑戦を続ける白井さんの作品からは、オースターの世界を舞台にあげたい、と言う思いがいつも強く伝わります。そしてその、“白井さんが描くオースターの世界”のスタイルが明確になってきたように思いました。

『偶然の音楽』同様少数精鋭、ブルー、ホワイト/ブラックの2人以外は複数の役を演じる。彼らの動きには、システマティックな“型”がある。これも『偶然の音楽』からの流れ。今回は振付に小野寺修二さんが参加、コミカルでいて流麗、登場人物たちはダンスするように舞台上で身体を翻す。それにしても小野寺さん、今年は上半期だけでも『金閣寺』『あらかじめ』『黒い十人の女』そして今作と、ちょう多忙!あちこちから声が掛かるのも納得のオリジナリティ。

登場人物たちがソフト帽にトレンチコート姿なこと、PARCO劇場だと言うことから、フィリップ・ジャンティ・カンパニーの作品群が思い出されました。


Philippe Genty - La Fin des terres 3/3 投稿者 Zycopolis

フィリップ・ジャンティ・カンパニーは人形や小道具含めてのものだし、スタイルは違いますけどね。でもソフト帽にコートのシルエットはある種神秘的にも見える美しさでした。

芝居を進める演者たち以外の人物は無彩色の衣裳。舞台美術も照明も、基本無彩色。そんななか、名前と同じ色の衣裳を着たブルー、オレンジの姿が鮮やかに浮かび上がる。そしてすっかり白井さんとのタッグが定番になりつつある(うれしい)、三宅純さんの音楽がすごくよかった!opのsaxカルテット、一音目から鳥肌!音響は井上正弘さん。既存曲もあったけどサントラ出してくれないかなあ。

後ろ目の席だったんだけど、演者の動き、装置や映像とのバランスと、全体的に引きで観られてよかったなあと思った。オースターの世界が視界いっぱいに拡がる。幕開けと幕引きの、ブルーの影が背後に大きく伸びていく光景も素晴らしかった。影はふたつに分かれる。それぞれ違う道を行く。ものごとは動き始めたらもう止められない、自分かも知れなかったあのひと、ああなったかも知れない自分。誰かを見張っている自分は、実は誰かに見張られている。見ることと見返すこと。幽霊たちはブルーの死んだ父親かも知れない、世話になった先輩探偵かも知れない。

蔵之介さんにはどこか浮世離れしたところがあり、それは探偵と言うちょっと変わった職業を演じるのにピッタリだった。Team申で前川知大さんと組んだ作品といい、SF=すこし不思議なシチュエーションにピタリとはまる。



2011年06月18日(土)
歌川国芳と面影ラッキーホール

ふたつに関連はなく、単に同じ日に行ったと。

****************

『破天荒の浮世絵師 歌川国芳』@太田記念美術館

没後150年だそうです。前期『豪快なる武者と妖怪』。後期は『遊び心と西洋の風』になります。

自分はねこ絵から国芳を知り、豪快国芳作品をじっくり観る機会を逃していたのでこれは嬉しかったー。約3セクションで、1F武者絵、2F妖怪絵、B1F妖怪、役者絵と言う感じでした。『水滸伝』シリーズも沢山あった!主線がぶっとく劇画にも漫画にも見えるポップさ、デザイン力の高さ。はあー格好ええわ……。

反骨精神溢れる国芳の魅力が堪能出来る『源頼光公館土蜘作妖怪図』もあった!頼光の背後に土蜘蛛と亡霊が現れる。倹約令によって仕事を奪われた職人たち、初物は贅沢だからと禁じられたスイカ迄いる。強烈な風刺画です。照れ屋で自画像を残していない(描いても後ろ姿だったりする)、でも曲がったことは大嫌い。江戸っ子国芳の魅力を再認識。

****************

面影ラッキーホール・レコ発ライブ『渋谷でだけ出して』@Shibuya WWW

対バンはLASTORDERZ、ゲストでギターに森若香織さん。てかもうひとりのギターは安齋さんなので、比重はものすごく高い(笑)たよりになります。毎度の如く年寄りネタを挟み乍ら、休憩も入れ乍ら、張り付けたような笑顔で唾をとばしまくり唄うトモロヲさん、格好いいー、こわいー。いやー歳はとるもんですよ。と言うかこの夏P.I.L.でジョン・ライドンを観る前にトモロヲさんの歌で「フューチャーだらけ!」を聴けたことは嬉しいことであった。サマソニ出ればいいのに!楽屋にライドンが挨拶に来ればいいのに!(歳とると年功序列がだいじになる、安齋さんはライドンより歳上と言う話から)

「SidのMy way」もよかった…ばちかぶりの「オンリー・ユー」くらい好きー!

ところで終演後配られてたフライヤーのなかに『CLOUD』のフライヤーも混ざってて(と言うか束のいちばん上)必要以上にうろたえましたよ…トモロヲさん出てるから今日配っててもおかしくないのだが、ライヴ会場でもらうと嬉しいもんですね。来週初日、たのしみー。

さて面影です。もぎゃーすごくよかった!すごくよかった!(だいじなことなので二回言います)新譜からの曲がライヴ映えすること。既存の曲も細部のアレンジが変わっていたりして、もともと演奏バカうまのひとたちだけどそれがよりソリッドに!シャープに!なんだろWWWの音響も関係あるのか?バッキバキの音でした。ホーンが定着したことも大きいのかなあ…Tbソロすごくよかったー。そんでこのホーンのひとらって数年前?1〜2年前くらいからかな?の参加でサポートメンバーぽい…いやその……えーと面影特有のもさっとしたルックスではない(…)オシャレさんな方々なんですが、そんなひとたちがちゃんと!あの!振付けを!やってるのが!素晴らしい!

で、アッキーの歌も毎回素敵なのだが、今回は新譜の歌世界を表現する歌姫(歌詞が女性の一人称だからね!)っぷりがまたおそろしく素晴らしかった。いやもう「セカンドのラブ」とかね…「ゴムまり」とかね……もう真剣に聴きますよこっちも。となりのお嬢さんなんて涙ぐんでいたよ。と言うか自分もな。こういう痛い物語を唄わせたらもうあれですよ、右にも左にも前にも後ろにも並ぶ者はいませんよアッキーに。怖いわー。なんでこんなに痛いところついてくるの……。どうしてそれに気付いているの、どうしてそれを見ているのー。あの視点の鋭さと、それを見詰める優しさには参ります。誰も救わない、誰も助けられない。でも誰もが幸せを探してる。それをひたすら見て描く。

そしてこの日のアッキーは思うところがいろいろあったのか、いつもよりやさしかったわね☆はっちゃけ過ぎたか歌が揺らぐところがあったのも珍しい。コール&レスポンスのときにそれをすごく感じたけど、毒々しくきたないものをきたないものとしてとりあげる正直さと、どこ迄ひとのこころに土足で踏み込むかの線引きが明確にある感じがしました。すごく繊細。

いやあ、本当にいいライヴだった。終演後、満杯のWWWで興奮気味に「よかった!」と話しているひとも結構いて、それにもなんだか笑顔になった。

あと余談。

・面影とDCPRGのファンにはお馴染み、P-VINEの猛獣使いA&Rである天才マタバ氏が退社したとのこと。えええー
・そのマタバ氏が手掛けた最後の仕事は、大量に作ってしまい倉庫に眠っていた面影のTシャツを被災地に送ったことだそうで、ときどきニュースにそれを着たひとが映ったりしてるそうです。しかしそのTシャツの柄と言うのが(以下自粛)いい仕事したね……



2011年06月09日(木)
『ワ・リ・コ・ミ@GACHI』

浜崎貴司 vs 山田将司『ワ・リ・コ・ミ@GACHI』@duo MUSIC EXCHANGE

浜崎貴司さんがシリーズで行っているうたうたい対決、今回の相手はバックホーンの山田くん。FLYING KIDS(一発変換で出て今すごい感動している…そ、そんなメジャーだったの?)大好きだったので、この手合わせは願ったり叶ったりです。浜ちゃん(もうずっとこう呼んでたので以下こう呼ぶ)が『風船』のプロデューサーだったことは、バックホーンを聴き始めて結構経ってから知ったので、あー縁があったんだなーと嬉しくなったりもしてました。

んが、遅刻したギギギギギ。始まって40分てとこだったかなー、まさすが弾き語りをしておりました。一青窈さんの「ハナミズキ」、続いてAIさんの「Story」。おおお、いい!イイヨイイヨー!なんでも「ハナミズキ」の前は桑田佳祐さんの「月」、SIONさんの「俺の声」を唄ったそうで、ギャーそれ聴きたかった!(泣)随分落ち着いている印象で流石だなあと思っていたのですが、序盤はかなり緊張してて脇腹つったりしてたとか(笑)。なんの気なしに「わー浜ちゃんとまさすが唄うよ!」とチケットとったのですが、ひとりで弾き語りで、ってお仕事は初めてだったんですね…き、貴重なものを……。いやーいいもの聴かせて頂きました。

新曲「さみしさに明け暮れて」も披露。歌詞といい曲調といいATGみたいな陰鬱さで、おお来た黒将司!て感じでニヤニヤしたわ。これバックホーンでもやるかな?今後聴く機会はあるかしら?続けて「この手広げて」。これがよかった…視界がぱーっと明るく開けた感じ。この流れはよかった…光と影の両面を抱える声を持ってるわと思った……。そしてこのひと、素直にすうっと声出すとホント綺麗な声。色気もあるしね。いいうたうたいだな、しみじみ。最後は嘉納昌吉さんの「花」。おおお、これをまさすの声で聴けるとは!

一方浜ちゃんは「まだ作ってる途中」の曲をぼんぼん入れてきて、ホストらしい進行。最後に山田くんと一緒にやったときに初めて会ったときのことを話して「なんだこの獣たちはと思った」なんて言ってたけど自分もそうだったじゃねーか!(笑)当時の挙動不振っぷりは未だに憶えてるぞ!そこがよかったんだけどな!そんな浜ちゃんも今ではこうやって若手を育てたりたしなめたりいじったりすることが出来るようになったのねー。歳はとるもんだぜ。「STAND BY ME」からRCの「トランジスタ・ラジオ」に繋げるニクい構成もよかったなあ…最近第三舞台のことを話したばかりだったので、大隈裏のあの映像がぱーっと浮かんで違う意味でも涙ぐんだ。

そしてふたりで「冬のミルク」(浜ちゃんリクエスト)、FLYING KIDSの新譜に入れようとしてる曲(これをとっかかりにして、現在進行中のレコーディングに将司をゲストに呼びたいとのことでしたよー)、浜ちゃんの「MUSASINO」(まさすリクエスト)、井上陽水さんの「氷の世界」。これ、松田くんが浜ちゃんに「将司の唄う『氷の世界』はいい!」と伝えたことからやろうってことになったそうなんですが、実は正解は「傘がない」だったと言う…松田くんのボケは期待を裏切らないねー(笑)。ちなみにFLYING KIDSは「傘がない」のカヴァーやってます、絶品です。だいすき!

で、「ふざけてると思われるかも知れないけど、真面目な気持ちで日本への応援歌を……」とショッキングブルー「Venus」のあのフレーズを弾きだす浜ちゃん。歌に入ってもしばらく何の曲か判らずサビにきてようやく気付きました、モー娘。の「LOVEマシーン」!!!ギャー!!!こ、こ、これがすっごくよくてさ!しかもしみじみいい曲だと思った!歌詞も今聴くと凄いせつないよ…違う意味合いが出てきてて。こんな活気ある歌を、何のてらいもなく唄えるときがまた来るといいな……。いやーそれにしてもこれ、どっちがやろうって言い出したの?楽曲そのもののよさも再認識出来たし、ふたりの声がこの曲調にピタリとハマっていることにも驚かされたし、しかも萌え要素すらある!(笑)ナイス選曲にも程があります。

そして和田アキ子さんの「あの鐘を鳴らすのはあなた」。相当酔っぱらったまさすがカラオケで熱唱したことから採用となったようです(笑)だいだんえーん。最後の浜ちゃんのソロにもじんわり。

「さみしさに明け暮れて」のときだったかな?ちょっと地震があり、フロアに緊張感が走りましたが山田くんは落ち着いて唄い切りました。まさすの声は場が鎮まりますね…地鎮効果もあるぜ。しかし雨も呼ぶ。今日は珍しく降らなかったな、なんて終了後会場を出たら地面が濡れている。流石にこれには「怖い!」と叫びましたがな。いやマジですごいねこの能力ヨタロウさんと張るよ!ふたりで干ばつ地帯にツアーに行くといいよ!

あーいい夜だった。ひとの声にはいろんな力があるな。



2011年06月06日(月)
『ALTER WAR & POLYPHONIC PEACE』

DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDEN『ALTER WAR & POLYPHONIC PEACE』@LIQUIDROOM ebisu

メンバーが完全に揃ってのフルセット180分。新宿文化でも全員揃っていたけど、スタンディングのダンスフロアでガッツリやるのは初めてです。思えば対バンなしのスタンディングワンマンってのも初めてじゃないか?これは第一期からも含めて。やっぱりダンスフロアでのDCPRGはキます。

いやー面白かった、毎回面白いけど。全員揃って、ソロイスト各々がどう動いていいか徐々に把握出来てきた感じ=自由度が増してきた。役者は揃っているからなあ…だいたい今の編成、菊地さんもMCで言ってたけど「若手や新人の暇そうなひと(笑)で編成してフットワーク軽くして、ライヴも頻繁にやれるよう、すぐ集まれるようにする筈だったのに」、蓋を開けてみれば新規に入ったメンバーもNKDSにソイルにPARAにと忙しいひと揃いでんがな。

とは言うものの鍵はペン大の3人…アリガス、高井くん、田中ちゃんのような気がする。高井くんは将来的に研太さんと丁々発止の域に到る迄見て行けると思うと楽しみだし(しかし今の時点でもいいソロ吹きますよね)、アリガスのクリアでハネるのにぶっといキープ力は、今の中低音パートが不在となったDCPRGのボトムをガッチリ支える役目を担っている。

で、田中ちゃん!田中ちゃんですよ!そろそろ教順さんと言った方がいいのかしらー(菊地さんが「田中くんのことを素敵!と思ったら教順さん、そうでもなかったら(ひどい)田中ちゃんと呼んでください」と推奨していたので・笑)、確変しつつある!今の編成、前述したホーンの中低音がなくなったところをBとDrsのリズムセクションで厚くしてるなと言う印象が強い。で、これ迄は菊地さんがアリガスを走らせてビートの流れを指揮する感じだったところ、この日は千住くんに田中ちゃんをぶつけて展開させようとしていたように見えた。初っ端の「ジャングル・クルーズにうってつけの日」からそれが意識的にあったように感じました。最初に展開を爆発させたのは、菊地さんのキューからドバババッとフィル入れた田中ちゃんでしたもんね。菊地さんのこういうところ、先生ぽい(微笑)。愛があるわー。

「CIRCLE/LINE〜HARDCORE PEACE」のブリッジ部分も、新宿文化では大儀見さんと千住くんで進めてそれに田中ちゃんが絡む展開だったけど、この日は大儀見さんと田中ちゃんで進めてた。まあ今回は「CATCH22」で千住くんがかなり派手に立ち回りましたからね(笑)いやあ、凄いソロだった…なにあれ。しかもどんどん長くなってきてるよね……先週個人的に千住宗臣フェスティヴァルを開催しててDCPRGの野音、ボロフェスタの音源も聴き返してて、毎回展開が違うわビート感が化けに化けるわでひぃこのひと狂ってる!と思ったものですが、やっぱり狂ってました。拍の表と裏をいったりきたりしつつ拍子もどんどん変え、ソロなのに多重ポリリズムに聴こえると言う気味の悪さ。最高です。

しかしここもきくちなるよぴーの先生ぽいところで、きみたちまだ出来るでしょ、もっと出来るでしょ?てな感じで背中押してる印象はありました、勘繰り過ぎか?見せ場を用意するよ!みたいな。遠慮してるってのとはまた違うけど田中ちゃんも千住くんもこのバンドのなかでは若手だし、年長さんにどう食い込んでいこうか模索している様子はあるのかなと…となると今後がますます楽しみですがな。

てな感じで今回かなり田中ちゃんと千住くんをロックオンして観て聴いていたのですが、新宿文化では丁度ふたりの間にいるアリガスを介してやりとりしてた感じがしたところ、今回はふたりが直接見合って動かしてたのがなんか微笑ましかったです。「構造I」は不安定だったけど(これはリズムセクションに限らず全体的に。ところどころあぶねー!瓦解する!とヒヤヒヤするところがあった)これからもどんどん化けていくんじゃないかな、そうなるとそろそろ「HEY JOE」「構造V」辺りが聴きたくなってきます、ニヤニヤ。

そういえば「HEY JOE」、ライヴではあの活動停止した日のアンコールで、皆が楽器をコンバートしてやったグダグダのやつ以来聴いてない…(笑)。

「CATCH22」と次の曲(「FOXTROT」だったかと。ライヴだとどんどん化けるから把握するのに時間がかかる…おおっと違った、セットリスト訂正版参照)の2曲にアート・リンゼイが参加。「DNA, No New York!」と紹介されて出てきて、音が出なくて(笑)しばし和んで、ようやくラインが繋がってジャギッッッ!!!と“あの”ギターを鳴らした瞬間のフロアのアガリッぷりと言ったら!たまんねー!こっからのバンドがまたすごかった、これ迄にもあった緊張感がより一層ビッチーーーーー!!!と漲った感じ。アートが入ったで!負けられへんで!みたいな。こういう意外と大人げないところ大好きです…っていやいやこれはゲストプレイヤーを迎えるにあたって当然の礼儀ですわよね。野蛮な礼儀だなー(笑)。

で、その気合いがPAに伝わったのか(笑)この2曲、ハウるわ高音がキーンてなるわで音霊が飛んでるで!てなオロオロする出音でした。そしてキュー出しで誰がこっからここ!皆コンダクター見て!みたいなサインが飛び交ってジョン・ゾーンのコブラみたいになってた(笑)。アートはニコニコしてて、あんな鋭いノイズを出すのに佇まいは穏やか。他にソロが行ってて自分が弾いていないときは笑ってフロアにちいさく(←ここポイント)手を振ったりしててチャーミングだわー。それを受けてフロアから歓声が飛んだら菊地さんが「何?アートに手を出すなよ!」みたく振り返ってて面白かった。いやはやこのメンツで「CATCH22」が聴けるとは…しかもあんなキレッキレな……澱みの多い立ち上がり方をする曲なので、こんなにエッジィな「CATCH22」はなかなか……ちょ、これ音源出ないの?出してー!出せー!いや出してくださいお願いします!

アートと大村さんが交互にリフを入れたところも盛り上がったなー。アンコールで挨拶に出てきたアートはじわじわ引っ込み気味で、菊地さんに「シャイだからー」なんて言われてた。いやあ、いいもん観た……。

アンコール。MCはこのご時世不謹慎過ぎて書けません。でもなんだか勇気づけられたなあ。おおともっちと菊地さん、言うことが正反対なようでいて、ものごとに向き合う真摯な姿勢は同じだよなあとも思った。あと菊地さんが若くて綺麗な男の子をいじめるのが大好きだと言うことがよーくわかった(笑)類家くんと千住くんはいじりがいがあるでしょうなあ。

有事に聴く「MIRROR BALLS」は、心にじんわり沁みわたるスウィーツでした。

はー踊った踊った。でも、あのフロアのなかでいちばん踊っているのは菊地さんだよね。

-----

・セットリスト(暫定)大村さんのブログ参照
01. ジャングル・クルーズにうってつけの日
02. PLAYMATE AT HANOI
03. CATCH22 with Arto Lindsay
04. FOXTROT(多分)New York Girl(新曲?元ネタありそうだな…って、マイルスのカヴァーでしたー(無知を露呈))with Arto Lindsay
05. 構造I
06. CIRCLE/LINE〜HARDCORE PEACE
encore
07. MIRROR BALLS

-----

■その他メモ
・フジは類家くんが欠席
・7/31のリキッドは丈青が欠席(ソイルがフジだもんね)、代理にE.L.Fの成澤功章さん。リハもちゃんとやるよ!
・東京JAZZは大儀見さんが欠席

そろわないねー(笑)最初にフジ出たときも大儀見さん出られなくて三沢泉さんだったよね?東京JAZZどうなるかなあ。東京JAZZ、NKDSではなくDCPRGで出るってところにもちょっと驚きました。



2011年06月04日(土)
『軽蔑』

『軽蔑』@角川シネマ新宿

役者と監督の熱意が伝わる、ヒリヒリした映画。激しく、痛い。

原作とは後半からの流れが変わっており、人物造形もかなり変わっていました。別ものとは解っているものの、先に原作を読んでしまったので気になる部分はあった。真知子がカズさんの故郷、カズさんをとりまく人々に対してどういう思いを抱いているか、と言うのが反転してしまっているくらいの印象を受けた。

ただそこが映画の面白いところで、原作は真知子が何を考えているかの描写がしっかりとあるが、その心のなかを周囲の人間が察することが出来るかと言うと、出来ないと言っていい。真知子は孤独で、それを受けて彼女は強い。たったひとりで、身体ひとつで稼いで生きていた。カズさんの故郷で暮らす真知子には既知の友人もおらず、彼女のことを理解出来る人間は皆無に等しい。真知子に見えていたものは、第三者にはそうは見えないのだ。

杏ちゃんも高良くんも目ヂカラがものすごい、目が雄弁。真知子とカズさんは目でものを言う。基本退きで長回しの映像がふっと寄り、アップになるときの力強さは半端なかったです。高良くんなんか後ろ姿でもあの視線を感じるくらいの強さ。餃子のシーン、顔映らないのに震え上がったわー。

そうそう原作にない(クリームシチューはありましたね)この餃子のシーン、よかったなー。ピーと一緒にカズさんの帰りを待ってごはんの準備をしてる。程よい図々しさと程よい仲のよさ。なんだかむずむずするような違和感。新婚の旦那の留守中に、嫁と旦那の友人がふたりっきりで餃子包んでるんだもんね。この部分も、真知子が腹のなかでどう思っていたかピーには解らず、勿論第三者にも解らない。

山畑は原作とは違う造形でも、個人的には面白かった!久々にくろーくてわるーいおーもりさんを観た!ちょーこえー!言い訳しようもない悪人ですやん。原作ではカズさんがとにかく金にだらしなく、山畑の言動は常識あるまともな人間だった。借金に関しては確かにカズさんが悪いと思えた。しーかーしーこちらの山畑と言ったらいやあんたそこ迄やらんでも、それやっちゃったら!てな高利貸しでしたがな。いやはやこんな展開になるとは……。

しかしそのおかげで?山畑に得体の知れない魅力が出て、マダム役の緑魔子さんと対峙するシーンの迫力と言ったらもう最高でした。カズさんと山畑の対決シーンも『タクシードライバー』みたいでゾワッとなった。そしてそんな山畑だったからこそ「何故おまえだけが愛されるんだ」と言う台詞が響く。破滅的なカズさん。その資質は山畑とそう違わないように映る。なのにカズさんは世界から愛される。そしてそんなカズさんと真知子が愛し合うことを、世界は許さなかった。世界はふたりに背を向けた。そうなると結末は見えている。カズさんによって地上へ降り立った天女真知子は、また空へ舞い上がっていく。

原作では明記されていなかったカズさんの故郷を、中上健次の故郷新宮として撮ったところにも監督の思い入れを感じました。海と山、深い自然がすぐ傍にある聖域、熊野神邑。

-----

初日舞台挨拶も観覧出来ました。廣木監督、高良くん、杏ちゃんに途中サプライズで(でも監督も高良くんも「知ってたー(ニヤニヤ)」、杏ちゃんがひとりビックリすると言う微笑ましさ)カズさんのとりまき三人組を演じた日向寺雅人さん、蕨野友也さん、小林ユウキチさんが飛び入り。厳しい乍らもいいチームだったようです。

杏ちゃんは終始晴れやかな笑顔。「初日は嬉しいけど、手を離れると思うとちょっと寂しい気持ちもあります」。やりきった!と言った感があったようでした。高良くんはぽつぽつと話す朴訥さでしたが、そのボソッと言うことがいちいちグッとくる。「沢山の映画が公開されるなか、『軽蔑』を選んでくださって有難うございます」「廣木監督は役者の手柄にしてくれる監督」等々。そして思い入れのある『軽蔑』と言う映画、カズさんと言う役とお別れになるのは寂しいですか?と言う質問に「会わなくても、ともだちはともだちですから」と言ったことがとても印象に残りました。

-----

よだん。ホント退きの映像が多かったので、トモロヲさんは「あれ、トモロヲさんだよね…?」としばらく訝り乍ら観た。忍成くんに到っては終わってパンフ見る迄どこに出てたか気付けなかった(笑泣)



2011年06月03日(金)
『6月のビターオレンジ』

『6月のビターオレンジ』@東京グローブ座

G2とはどうにも相性が悪いのだが、それがなんでかってのが具体的に判断出来ました。役者さんたちはよかったですよー、楽しめて、笑顔で帰れる作品です。情報殆ど入れずに行ったので、この日が初日だったと言うのは会場に着いてから知りました。なのでネタバレは極力避けたうえで。と言ってもすごくネタバレ書きたい(笑)。

今回加藤くんと城島くんを女装(ネタバレ故反転)させる、と言うワンアイディアから物語を作っていったのだろうなあ、と言うのを強く感じました。そのこと自体は別に構わないし、実際そのシーンはとてもウケていたし、観客席もとても盛り上がりました。しかしその脚本の構成がとてもひっかかる。ストーリーを正攻法でしっかり見せる、G2の演出自体は手堅くて好きな方です。だから自分はG2の書くホンが苦手なのだと思う。

「こういう演出をしたいからこうホンを書きました」と言うのが透けて見えるのがどうにも辛いのです。今回特に強くそれを感じた。アイディアを活かすための理由付けとして、彼らがその行為に到る原因を作らなければならない。じゃあこういう家族構成にしよう、こういうエピソードを描こう、そしてトラウマを作ってそれをハッピーな方法で解決させよう。それが逆算的に見えてしまう。アイディアのためにストーリーにとても残酷なことを強いているように思える。ひとの思いもひとの命も安易に使われる。あと謎解きの説明を全部台詞で済ませてしまうのも安易に思えてしまいます。

役者さんは皆素直に演じており、とても好感が持てました。久ヶ沢さんがまとも(と言っても変だけど・笑)な人間の役を演じているのを観たのも久々で新鮮だったわー。歳下の人間をたしなめるときの声のトーンもいい。そうだよこのひと実は芝居すごい巧いんだよ、演技すごくしっかりしてるんだよね……ここんとこ観るもの観るものこのひと本当に頭おかしいわーって印象のものばっかりだったので(笑)。いやーよかった。

加藤くんは『SEMINAR』での硬質なひんやりとした印象からガラリと変わり、軽妙なコミカルさを湛えた演技。終演後のロビーでは「『SEMINAR』とは全然違ったね!」「『SEMINAR』ではああだったけど…」と言う声を随分沢山聞きました。これからもいろんなタイプの役柄を観てみたいです。城島くんは客席からの反応を繊細に感じ取り乍ら、臨機応変に押し退きを調整していっているような上手さを感じました。

久保さんは流石の貫禄。内田さんは『アンチクロックワイズ・ワンダーランド』とはかなり印象の違う溌剌とした役で新鮮でした。中川さんは安定しているのに妙なおかしみがあると言う不思議なテイスト。身体の動きも微妙におかしい(笑)。朝海さんは台詞回しが独特だなあと思っていたら、宝塚の方だったんですね。謎めいた女性役にピッタリハマッていました。いい座組です。