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2024年01月13日(土)
梅田哲也展『wait this is my favorite part 待ってここ好きなとこなんだ』1期2回目

梅田哲也展『wait this is my favorite part 待ってここ好きなとこなんだ』1期2回目@ワタリウム美術館+空地

(最後迄書いたあと、1期は14日迄、2期は16日からだと知る。という訳でこれは1期の感想です、ご了承ください…書き直すのつらい……「1期」と書いているのは「1回目」ってこと! 「2期」は「2回目(リピート)」! はーやっちまった2期はもう行ける日がないよー)


耳をすますと、1期では気づかなかった音がより多く聴こえてくる。1期でピンとこなかった「1分前の私」の声が「1分後」に届く、という意味は理解出来た。自分たちが聞いた4階での話が、2階に移動したとき4階から聴こえてくるのだ。20分ごとに参加者を招き入れているパフォーマーが、次のチームに同じことを話しているからだ。その辺がクリアになったのは、集音と発音の場所が変わったのだろうか? 今となっては確かめようがない。

1期と2期では内容が変わる、とのことで今回2期。基本的には同じ流れだったが、1期を知っていて改めて2期を体験すると、自分の動き方も変わってくる。それを踏まえてか、ガイドが極力減らされていたような印象。

「ほっぽらかし」をいちばん顕著に感じたのが、終盤にある美術館から空地への移動。1期ではパフォーマー以外の出演者(美術館スタッフ?)の話を聞くスペースがあった。地図や写真を見せてもらい乍ら説明を受け、それから空地への移動を促される。2期でのそこは無人だった。「船」の出航時間と空地への道順が書かれた紙の束が置かれてはいたが、その紙を手にとるかどうかもこちら任せ。美術館の備品だったらどうしよう、勝手に持っていっていいのか? と考えることになる。結果的には同じもののコピーが沢山置かれていたことが判断材料になった。その紙をヒントに、それぞれ勝手に「出航時間」迄に空地に行けばいいことになるのだが、行くかどうかももはや自由だ。「船」を見たくなければ、手を振りたくなければここで終了してもいい。手に持って見ていると、他のひとに「その紙、どこにありました?」と訊かれる。なんだか昨今の、リアル脱出ゲームや謎解きツアーのようになってきてないか? それはそれでいいのか?

空地での過ごし方も同様で、各々自分で終了を決める。1期であった、空地で育てていたという野菜の説明も、それをネズミが食べていたらしいという話も聞く機会がなかった。糸電話からの発信もなかった。2期だけの参加者は、ワタリウムの歴史とそれにまつわる物語を知らないまま帰ることになる。これを不親切ととるか、自分で探究しろと突き放されたと思うか……。

1チームは6人が上限。1期は全く知らない同士の全員単独客、2期は6人中2人組が2組。その分、知り合い同士がくっついて話しっぱなしという場面が多く生まれていた(これが「謎解き」現象を助長したともいえる)。それでも空地でお茶を配ってくれるひとというのはどちらのチームでも自然発生し、信用というものの面白さを感じる。魔法瓶のなかに入っているのがお茶とは限らない。空地には無人になる時間がある。第三者が入り込んで何か細工をしないとも限らない。それでも参加者は、船が出てくるのを待っている間お茶を飲み、はーあったかい、おいしいですねなどと言葉を交わす。実際には空地を常に見守っているスタッフがいるのかもしれず、何かあったらすぐ駆けつけるのだろう、とは思う。安全ってなんだろう。この緩さはとても興味深かった。

ちなみにこの回は、信号待ちで停まっていたサイクリンググループが自分たちに手を振っていると勘違いしたのか、手を振り返してくれた。これも信用と安全のコミュニケーション。

ほっぽらかしにされるのならこっちもなるべく好きに動こう、と、2階ではあちこち覗き込んだ。パフォーマーが休憩時間に食べる用か、架設の裏におむすびやバナナが置いてある(1期ではなかった気が…)のを見つけ、ふふっとなる。自分の都合上、1期も2期も休日の早い時間帯の回を選んだが、夜や雨の日はどんな感じだったのだろう。この日は私が離脱した1時間後に雪が降った。雷も鳴り、近くの国立競技場ではラグビーの試合が1時間中断した程だったという。このとき空地はどうなっていたのだろう? 時間帯をズラして参加してみればよかったかなあと思う。

とはいえ、最初のチームを外部から目撃することも出来、これはこれで楽しかった。最初の出発チームには、空地で「出航」を迎えてくれるひとが誰もいない筈だ。手を振り合えないのは寂しいなあ……てかあのパートって最初の回はどうやってるんだ? と、早めに行って美術館周辺をウロウロしていたのだ(怪しい)。なんと空地には演奏チームがいた! トランペットや銅鑼(だったかなー)を手にした人物が、出航合図をライヴで鳴らしている。ええ〜これって初回特典? 初回のひとたちってこのことに気づいてるの? などと思いつつ明子姉ちゃん(『巨人の星』)のように物陰から見守ったのでした。

そうそう、事務所にあった写真のこと。改めて凝視したらキース・へリング、筑紫哲也、ダライ・ラマ(!)、磯崎新もいた。そして1期のときは「故人が多いなあ……でも篠山紀信は健在だね」と思っていたのだ。年明け、1月4日に篠山氏は亡くなった。こういうこともあるのだなあ……とひとの命の儚さを思う。

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そもそもこれに参加してみようと思ったきっかけは、くるみさんがパフォーマーとして参加していると飴屋さんが告知していたからなのだった。パフォーマーはシフト制。誰がどの回に出るかは判らない。1期の参加回にくるみさんはいなかった。今回はどうかな? と思っていたら、MCの役割も果たす二人目のパフォーマーとして、くるみさんが出てきた。それ以外の方は1期と同じだった(長沼航さんとヒカル・ワタリさん。ワタリさんということは、和多利家の方かな?)。凛と立ち、明朗に話すパフォーマーだった。

・梅田哲也展 wait this is my favorite part 待ってここ好きなとこなんだ(1期)┃artscapeレビュー
「時間差の構造により、鑑賞者が目撃した光景が、鑑賞者自身によって“再演”される」という手法
記憶の残響/残像を、本作はパフォーマンスのレベルと美術館建築の物理的なレベルで共振させた。また、梅田のパフォーマンス作品は、常に舞台芸術に対するメタ批評を胚胎させているが、本作では音楽の反復構造への言及を通して、「タイムライン」という舞台作品の基底の可視化がさらに重なり合う
『wait this is my favorite part/待ってここ好きなとこなんだ』というタイトルの由来にもなった、ミヤギフトシの映像作品《The Ocean View Resort》も観てみたい