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2023年12月29日(金)
梅田哲也展『wait this is my favorite part 待ってここ好きなとこなんだ』1期

梅田哲也展『wait this is my favorite part 待ってここ好きなとこなんだ』1期@ワタリウム美術館+空地


まずは1期。

パフォーマーに案内されて、展示室と、展示室以外の普段は入れない空間に足を踏み入れる。受付の方に見送られ、エレベーターに乗るところからスタート。4階に着きあのトイレ(普段は使えるけど今回は開け放してあった。ので多分使用禁止・笑)など覗いていると、一人目のパフォーマーが現れる。言葉は発せず、静かな仕草で一室に入るよう促す。暗闇の中、二人目のパフォーマーがやってくる。マッチを擦る音、ろうそくに灯される光。気流によって容器が廻る。こちらが北です、こちらが東。南、西……小さな窓の隙間から外を見て、自分が立っている方向を把握する。

その後あちこちからふわりと現れるパフォーマーに案内される形で、ワタリウムの館内と、向かいにある空地(こちらもワタリウムのオーナーである和多利家が所有する土地なのだ)を回遊する。事務所ではパフォーマーとアナウンスされていない人物がPCに向かっている。本当に仕事をしているのか、それともこれもパフォーマンスなのか。壁面に歴代展示のフライヤーが貼られ、ああこれ行った、観た観たと思い返す。本棚に収納されているファイル名にもいちいち反応してしまう。これは楽しい。2階では三人目のパフォーマーがワタリウム施工時の建築確認表示看板を持って立っている。二桁の数字は60年代。しばし考えて、あ、これ昭和か、と気付く。令和ともなると、二桁で表示されている年は西暦か和暦かわからなくなってくる。

パフォーマーは組まれた架設を観客が安全に移動し遊べるようにサポートしてくれる。ジャングルジムのようになっている足場をうろうろしていると、紙コップを載せた盆とポットを持った老人がのっそり現れ、こちらを一瞥して行ってしまう。受付をしていたとき外からやってきて、コートをハンガーにかけ入場して行った人物だ。

一人目のパフォーマーが再び現れ、この日のキャストを紹介してくれる。事前にアナウンスされていた通り、シフト制という。事務所の人物とポットの人物は紹介されない。空地に移動する前に案内されたストレージのような空間には、またもやキャストではない人物が待っている。地図を拡げ、ワタリウムが建っている土地について紹介してくれる。

5〜6人を1チームとし、20分毎に出発する形式。一度だけ他のチームと鉢合わせする。2階の搬入口として使われている箇所の大窓が開き、向かいの空地にいるチームと見る/見られる関係になる。思わず手を振る。振り返してくれるひとがいる。自分があちらに行ったとき、また手を振ろうと思う。そこでふと気付く、その日最初に出発したチームに、空地から手を振るひとたちはいるのだろうか?


暗い場所に入る度、お子さんが「こわい〜」とちいさな声でぐずり出し、父親(だろう)が大丈夫だよと抱っこする。次第に他の大人たちも「怖くないよ」と励ますようになる。空地に置いてあったポットと紙コップ(さっきおじいちゃんが運んでたやつだ!)を見つけたひとりが「…こういうことですよね?」とポットからお茶(だった)を注ぎ、皆に配る。ポットの横にあったもの、おやつですか? と訊いてしまった自分の食い意地に我乍ら呆れる(恥)。地図を見せてくれた人物が話していた、空地で育て、ねずみが食べてしまっているという熟れきった胡瓜だった。まあ、ある意味おやつだな。人間が食べたらちょっと衛生的に危ないけどな。

「いやあ、改めて見るとすごい一等地ですよね……」。ひとりが呟き、ほんとほんとと頷き合う。この空地もワタリウムのものだというのは、過去の展示を通して知ってはいた。しかし、何故こんな、分割された地形を所有しているんだ? と思っていた。土地を分けているのは東京都道418号線、「青山キラー通り」といった方が通りが良いだろうか。前の東京オリンピック(昭和39年=1964年)前に整備された道路だそうだ。つまり、この土地はかつて繋がっているひとつの場所だったのだ。

美術館と空地は糸電話で繋がっている。美術館側にいるパフォーマーが手を振り、通話口を指差す。「あ、何か喋ってる!」順番に耳を近づけるも、何をいっているかは判らなかった。間もなく、同じパフォーマーから終了だよ、というようなジェスチャーを送られる。糸電話の痕跡を確かめ乍ら渡る横断歩道、そのとき見上げた青い空は頭の中だ。参加中のスマホ等の撮影は禁止されていた。

梅田哲也さんの作品でもあるこの「時間の地図を描く」行為は、こうして来場者の記憶に刻まれる。ワタリウムがプライベートミュージアムとして開館したのは1990年。自分が東京に住むようになってからの歴史とほぼ重なる。何度来館しただろうか。展示を観ないときでも、1階と地下1階のON SUNDAYSにはしょっちゅう行っている。あの場に足を踏み入れることで、アートが身近な存在になる体験を何度もさせてもらっている。再びこの美術館を訪れたとき、今日の記憶はまた新しい親しみを湧き上がらせてくれるだろう。2期も楽しみにしている。

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・それにしても事務所に貼ってあったスナップショットが豪華だった。アンディ・ウォーホール、ナム・ジュン・パイク、坂本龍一、浅田彰、篠山紀信……見入ってしまった。故人が多いことにせつなくなる