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2016年07月08日(金)
猫のホテル『苦労人』、高橋徹也×小林建樹『1972』

濃いハシゴでして、両方観ている(知っている)ひとにだけ通じる話をすると、中村まことと鹿島達也の格好よさ、色気には共通するもんがありますなあという……。あと『苦労人』の音響は佐藤こうじ(Sugar Sound)。佐藤さんはsugarと名乗りたくなるのだろうか。

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猫のホテル『苦労人』@すみだパークスタジオ倉

再々々演とのこと、初見です。何度も繰り返し上演されるだけのことはある、猫ホテの魅力がつまっている。千葉雅子と演者たちの心意気を堪能出来る。酸いも甘いも噛み分けすぎて、清濁併せ呑みすぎて、苦虫を噛み潰しすぎて諦め諦めそれでもやっぱり抗ってしまう男たちの、500年の歴史。

能楽堂を模した舞台上で繰り広げられるのは「ごん」を名に持つ男の生きざま。初代(室町)中村まこと、二代目(戦国)村上航から、昭和の村上航、平成の中村まことへ。間を森田ガンツ、小林健一、久ヶ沢徹、市川しんぺーで彩る。全員が複数の役を演じ、「ごん」はときに物語の主役となり、ときに市井のひとびとになる。場面(時代)ごとにモチーフとなる作品があると思われる。例えば江戸のパート、死人を踊らせるくだりはおそらく落語の『らくだ』。昭和のパート、スカートを履かない娼婦たちは『肉体の門』。これらをモチーフに、エチュードから構成されたやりとりが進む。昭和の任侠映画の台詞まわし、言葉のリズム感の完コピが見事。千葉さんの腿も拝めて眼福。村上さんの、さびしがりなのにひとりでいるちんぴらっぷりも素晴らしい。ちんぴらがこれほど似合う役者、貴重だわ……。しんぺーさんの死体はもはや芸の域。人生はコントか? としかいいようのない滑稽さは、演じる側が必死になればなる程、汗や唾を飛び散らせる程、切実さに変わる。笑い乍らも涙、涙。

で、この「コントか?」というのが曲者で。久ヶ沢さんという役者の特質ですが、コントの腑をシリアスの皮にくるむのが巧すぎる。シリアスの着ぐるみ着てる感じなのね……。で、いつその着ぐるみを脱ぐのかと身構えていると最後迄脱がなくて、それがえれえ格好よかったりするの。もう、怖いこのひと!『地獄のオルフェウス』のときですらドキドキしたもんね…コントになったらどうしようと……ならなかったけど。今回は笑ったらどうしようと思ってるうちに二枚目ぶりをビシバシ出してきたので素直に素敵と思うことにしました。はい、久ヶ沢さんでこういうのが観たかったです。佐藤真弓との身長差がツボでツボで。といいつつ、おそらくエチュードから出来たと思われるやりとり(社歌のくだり)では頭おかしいっぷり全開で震撼した。それを受けるしんぺーさんも素晴らしい。苦労が窺えた。それにしてもこの役、以前は誰が演じたんだろうと調べてみれば2007年版は菅原永二だったよ! うわあこっちも観たかった!

しっかしオープニング、客席フロアに降りたまことさんが相当段差のある舞台上に助走なしの両足踏み切りで飛び乗ったのにはシビれた。ギャー惚れる! そしてこんなに褌姿の男たちを観たのは『はぐれさらばが“じゃあね”といった』以来です。どなたか仰ってたけどしんぺーさんの肉体は劇団のたからもの。村上さんの身体はアスリートではなく労働者のそれといった趣で説得力あった。久ヶ沢さんの身体はいつものことだが芸術品でした。そういえば『はぐれさらば〜』でも久ヶ沢さんの褌姿観たわ……有難うございます有難うございます(手を合わせる)。

よだん。 NHKの『ファミリーヒストリー』観てて「遡って調査してるうちに何かやばいことが出てきて、お蔵入りになったものってあるんだろうねえ」と話してたことがあるんだけど、それを思い出したな……。今しかない人生なのに、自分の知らない過去がついてくる。それを背負わされてどうしろっていうんだ、ってね。苦い。猫ホテで描かれるひとたちは、それでも前を向くのだ。

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高橋徹也×小林建樹『1972』@LAST WALTZ

いやもう小林さんをひっぱりだしてくれた高橋さんと縁を作ってくれた鹿島さんに感謝するばかりですよ! イリオモテヤマネコとか呼んでたけど最近はもはやツチノコめいてきて「実在したっけな…?」と思うくらいなのでな小林さん……。1972年生まれのふたりによるツーマンです。

ステージ上にはグランドピアノ、これは嬉しい。高橋さんは事前告知でバンド編成だと言っていたな、小林さんはどうなのかな? と思っていると、ひとりでふらりと出てきました。ニコッ、と笑って演奏開始。

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セットリスト(小林さんのDiaryから)
01. 赤目のJack
02. 満月
03. 明日の風
04. Sound Glider
05. 夏の予感
06. 祈り
07. Bless
08. 禁園
09. SpooN
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01〜04はアコギ、以降はピアノ。ライヴは二年ぶりとのことなので一昨年のレコ発以来かな。喉の調子はどうだろう? と思っていたら第一声からあのスッカーンとした声。うわ、かわらん。長いことひとまえで唄ってなくても、ひとに聴かせる目的がなくても唄い続けているんだろうなあと思わせられる抜けの良さでした。最新作『Emotion』では、声を張らずに優しく唄っているナンバーが多い印象だったのですが、ライヴで唄うと力強い。一気に四曲、拍手出来ん。「明日の風」は新曲かな、紹介しとかなきゃ! と途中で気付いたのか間奏中「あしたのかぜ!」と口走ってました。

その後ピアノに移動、今やった四曲は〜とさわりを弾き語りで紹介。いやさわりどころじゃなかった、一曲につきツーコーラスくらい迄弾き語った。何をはじめる……と見守るばかりだったがギターとピアノでのアレンジの違いが聴けて楽しい。久しぶりのライヴなのですごく練習したんですよ、30回くらい、MCも練習しました、何話そうか考えて…ここでモーツァルト弾くつもりだったんですけどやめました、ちょっと違うなと思って。と言った先から弾き出したのは交響曲40番。「一曲まるまる弾こうと思ってたんですけど」。聴きたいけど持ち時間がなくなってしまうやね……。「夏の予感」と「祈り」のブリッジはなんと「祈り」の大サビ(といえばいいのか? “時の中で 遥か未来で”の箇所から入り前奏に戻る)。練習して構成も考えて、しかし自然に指が動いているようでもある。「フリージャズ」の歌詞、“暴れ出す指先”を思い出す。

「練習したら上手くなるかというとそうじゃないんですね、でもオートマチックに演奏出来るようになる」。ルーティンになるってことかな、アスリート的。「渋谷に来るといつも同じ道を歩く。同じ場所を通って、同じところでごはんを食べるんです」「東急が壊れてて、いつも行ってた喫煙所がなくなってた」。このひとの見るもの聴くものは、こういった言葉と音で表現される。やっぱりこのひとは音楽を通して生きているのだなあと思う。生活をメロディ、ハーモニー、リズムに変換して生きている。

何をとっても独特だが、リズムに関しては少しだけ解釈出来る。今思えばデビュー作に窪田晴男やホッピー神山が絡んだことが運命的だが、ファンクからのアフロキューバンリズム、ブラジリアンリズムへの興味と追求がずっと続いている。以前の発言やDiaryの内容からすると、菊地成孔の著書からの影響もあるようだ。だいたいポリリズムを独奏でやってみようと思うのもすごいが(ひとを集める手間や時間を研究に向けたいのかもしれない)、ひとりでやってみると、このひとにしか表現し得ないものになる。演奏し乍ら試行錯誤する。弾き間違えがあったとすれば、そこを拍の起点にして流れを変える。そうするとミスタッチはミスではなくなる。グルーヴが生まれる。おそらく複合リズムのクリックが頭のなかで鳴っている。

モーツァルトもおそらく楽譜通りじゃない、リズムも和音もアレンジしてる。完コピから始めるのかもしれないが、パターンやバリエーションをいくらでも思いついてしまうのだろう。そして演奏と自分のコンディションを照会し、環境との関わりも検証していく。没頭してると日が暮れる。気付けば数年経っている。

常に頭のなかで本人にしか聴こえない音楽が鳴っていて、それを今ある身体と楽器でどこ迄再現出来るか、外に出せるか。音色とリズムでどこ迄拡げられるか。追求していくときりがないのだろう。このひとのライヴは、数ある頭のなかの音楽から外に出せたものをおすそわけしてもらう気持ちで聴いている。ありがたいことです。「SpooN」を聴けたのが嬉しかった。どれを聴けても嬉しいけどね。このひとがいつでも好きに音楽を奏でられる環境がありますように。

・Tateki Kobayashi | Tracks | SoundCloud
頭のなかのおすそわけ、追加されたときに当たるとラッキー。ときどきなくなるんですよね……妄想大河ドラマ『明智光秀』のサウンドトラック「Theme for Mitsuhide Akechi」って曲も以前あったんだよ〜

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さて後攻。Vo/G:高橋徹也、B:鹿島達也、Key:sugarbeans、Drs:脇山広介。ここんとこ不動のメンツ、デカいエンジン積んでるバンド。

(セットリストは高橋さんのブログにアップされたら反映します)
(20160727追記:セットリストは掲載されませんでしたが、高橋さんがブログに当日のことを書かれています)

「以前小林さんのサポートを鹿島さんがしていて、それがきっかけで」。ふたりの共演は[monologue]以来ですかね。オファーを小林さんにかけ続けていて、その度「今はそういう感じじゃなくて…」「まだ……」と断られ続けていたとのこと。ひいーん根気よく声をかけ続けてくれて有難うございますですよ! 高橋さんも行方不明の時期があったそうなので、共感(と言っていいのかは判らないが)するところがあるのだろうか。ブッキングを手間だと思わず楽しんでいるのなら嬉しいことです。「ギターでやった曲をピアノでふりかえるってのをやってましたね。斬新ですね〜」「斬新だけど見習わないでおこうと思います」。そうですか…そうですね……。「僕も変わってるっていわれますけど、小林さんは僕の比じゃない。僕はまだ社会性がある」。バンドの皆さんニヤニヤしてはりますよ。ここに山田稔明がいたら「どっちもどっちじゃ!」ていうね!

それにしてもバンドの状態がよい。腕利き揃いが場数を踏むと、同じ曲を演奏しても聴きどころが増える一方です。鹿島さんは新しい赤いベースでボトムをガッチリ支え、脇山さんとの呼吸もますます自在。ギターとヴォーカルだけのパートで目を閉じていたり、歌詞をいっしょにつぶやいていたりするところもバンマスな風情です。頼りになる〜。佐藤さんはグランドピアノとキーボードを往復し、高橋さんとのハモりも美しく、音の層の厚さに清涼感すら漂わせます。自分でも何言ってるかわからない。

「昨年の今頃は『Endless Summer』のレコーディングも終盤で、他のひとの録音は全部終わってて、ヴォーカルを入れたりなおしたいところをなおしたり、ひとりの作業をしていました」。同じメンバーでレコーディングしているという新譜も楽しみ、どの曲が入るのかなあ。そういえば「海流の沸点」をまだバンド編成で聴いたことないんだ…ぎぎだい……新譜にも入ってほしい……。9月には20th Anniversaryとしてこのメンバー+ホーン(なんとdCprGの高井汐人が参加してる)で『夜に生きるもの 2016』が開催されます。えっちょっと待て、『夜に生きるもの』って半分近く菊地さん参加してたよね。あれを高井さんの演奏で……高井さんのsxで「チャイナ・カフェ」はじめあれやこれやが聴けちゃうってこと?! うひー! 楽しみだよー!

小林さんも呼び込んでのアンコール。[monologue]での山田さんにあたる役割がいないのでひとみしり同士みたいな会話になっていた。今回のタイトルにもなった、お互い1972年生まれという話題も出ず(告知の時点で言ってたから別にいいやってな感じか、単に忘れてたか)、さほどおしゃべりに花も咲かず(笑)。そのうち小林さんが「じゃ、僕の好きな曲をやります」とピアノに向かい、「もういきますか」と高橋さん。弾きはじめたイントロでは何の曲だか全く判らない、端々にあーこのコードなら、リズムなら、といった欠片がちらちらするが、追っていこうとする途端に遠ざかる。予想は諦めて演奏に聴き入る。高橋さんをはじめバンドの皆さんもニコニコして聴いている。演奏はしばらく続き(もはやイントロの長さではない)、やがて高橋さんがマイクに向かう。真顔になる、目を閉じて唄いだしのタイミングを待っている。ここかな? ここかな? 聴いている方はタイミングが判らない……一瞬の間、ブレス、からの〜

あふれ出す想いを 身体中で感じて
走り出す車を 追いかけて行くのさ

おおお、「微熱」!!! 最新作からきた。2コーラス目は小林さんがヴォーカル。ふたりのハモりも聴けた。ふたりともふたりといない歌い手で、どちらも魅力的なのだけど、アウトロの「ナナナナ〜」や「ウーィウ〜」等、スキャットの地声/裏声の使い分けやリズムのとり方がそれぞれの声で聴けたのは嬉しかったなあ。ああいいものが聴けた、また共演してほしい。三年後といわずまた近いうちにお願いします、来年とか年一回でも! 待ってます!

・高橋徹也×小林建樹「1972」@渋谷Last Waltz 感想まとめ - Togetterまとめ
chinacafeさんまとめ有難うございます〜! いやーいい夜だった〜