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2016年04月30日(土)
『헤드윅(HEDWIG and the ANGRY INCH -New Makeup-)』

『헤드윅(HEDWIG and the ANGRY INCH -New Makeup-)』@弘益大大学路アートセンター 大劇場

2005年の初演以来、毎年のように(上演されなかった年は2010年と2015年のみ)キャストを変え上演され続けている韓国版『ヘドウィグ』。本場ブロードウェイの上演システムを継承し、独自のものとして発展させている韓国ミュージカル界の質の高さ、層の厚さが感じられます。ロングランにより、数々のスターも誕生しました。

ブロードウェイでは2014年に上演されたリバイバル版が、その年のトニー賞ミュージカル部門リバイバル賞、主演男優賞(『ゴーン・ガール』の怪演も記憶に新しいニール・パトリック・ハリス)を受賞しました。これを受け、演出ソン・ジウン、音楽監督イ・ジュンのもと、かつての“レジェンド”たちと新たなチャレンジャーを迎えた韓国版“New Makeup”上演が決定。と言う訳で観て来ましたよ。客入れで流れるルー・リードの「Walk On The Wild Side」を聴き乍ら開演を待つ。日本版のヘドウィグ、映画のヘドウィグを思い浮かべる。慌ただしくも豊かな時間。

当日のキャストはこちら。


(クリックすると拡大します)


ヘドウィグ=チョ・ジョンソク、イツァーク(イツハク)=ソムン・タク。06、08、11年にヘドウィグを演じ、「“ポドウィグ(色白という意味の韓国語ポヤッタ+ヘドウィグ)”」の愛称で親しまれたジョンソクくんは五年ぶり、四度目の登板。タクさんは2008年の日本上演版(鈴木勝秀演出)で山本耕史ヘドウィグのパートナーも務めた方です。当時の様子はこちら。
・1回目
・2回目
・ツアーファイナル
・ガラその1
・ガラその2
ガラにはジョン・キャメロン・ミッチェルも出演しました。

こちらにも書いたように、ジョンソクヘド×タクイツァークのペアが登場したのは開幕から二ヶ月近く経ってから。4月27日が初日で、私が観た日はまだ三公演目でした。しかしリハは重ねられていたのでしょう、もう何年も共演していたかのようなコンビネーション。韓国迄ぎでよがっだ…このペアの登場を待っててよがっだ……!!!

“New Makeup”は物語の設定も若干変わっています(後述リンクに詳細)。トミーがタイムズスクエアでコンサートを行うことになり、彼の“ストーキングツアー”をしているヘドウィグもブロードウェイへやってくる。興行が振るわず閉幕した『Junk Yard』の上演劇場から撤収前日一日だけ使用許可がおり、公演のセットが残ったままのステージでヘドウィグは一世一代のライヴを打つ……。設定同様上演劇場も、これ迄の300〜400席から700席のキャパにグレードアップされました。プロセニアムをしっかり備えた劇場らしい劇場で、二階席迄あります。しかしステージと客席が近く感じられる。イツァークのコールを受け、専用カメラマンをひきつれ客席後方から登場したヘドウィグが通路を練り歩く。カメラの映像はステージ後方に映し出される。アイラインとグリッターで彩られたヘドウィグの誇りに満ちた顔、その臨場感と言ったら!

この映像使いの演出は随所に効果を発揮していた。『Junk Yard』の舞台セットは、タイトル通り廃車置場(美術:キム・テヨン)。実物大…というより実物だったのではないだろうか、舞台後方を埋め尽くすように積み上げられた数多の廃車を、ハンディカメラによるライヴ映像、プロジェクションマッピング仕様によるイメージ映像が華やかに彩る。ステージに置きっぱなしになったトレイラーハウスはハンセルと母が暮らした部屋、アメリカへ渡ったあとの孤独な部屋、トミーとヘドウィグが過ごした部屋へと姿を変える。自動販売機のコーラはヘドウィグの喉を潤し、観客へと撒き散らされる。役目を終えたステージが、ヘドウィグたちにより甦る。ピンスポットが描く弧も美しく、ライティングも絵画のよう。

面白かったのが自動販売機。ペプシのロゴ入りなんだけど、何故かコカコーラが出てくる。プログラムに載っていたデザイン画はコカコーラのロゴだったんだけど、何か理由があるのかな? ジョンソクくんも「ペプシなのにコカコーラが出てきたわ〜」と言っていた(笑)。ちなみにこのコーラ缶は観客へプレゼント。ステージにあげて、立ち位置指示していじってハグして客席から悲鳴があがってました(笑)。カーウォッシュに隈取りハンカチ争奪戦等、ヘドウィグの客いじりは毎回あるもんですが、当たらなくてよかったと心底思いましたよ……言葉が通じないからしどろもどろになって芝居の流れを止めてしまうよ! そんなん大顰蹙だよ!

そう、韓国語は簡単な受け応えしか判らないので、過去観たヘドの記憶と予習した設定をたぐり寄せながら観ていた訳ですが、アドリブが出るとお手上げなところもあり。しかし観客の反応もヴィヴィッドで、ドカンドカン受けてたので一緒になって笑ったりしてました(…)。雰囲気は外タレのコンサートと変わらないので、待ってましたのナンバーが始まれば踊るし、拍手をするし、歓声を飛ばす。音響はゴージャスで、ロックバンドのホールコンサートと変わらない。演奏もアレンジが変わっている。特に「Sugar Daddy」が4ビートになっていたのには驚いた。前ヴァージョンの軽快さから、一歩一歩力強く進む。「Wig In a Box」はシンガロングタイム。台詞も歌詞も韓国語、「Midnight Radio」の“Lift up your hands”も韓国語で唄われたけど、自然と手は空へと向かう。

終盤の「Wicked Little Town」辺りから相当やばくて(自分が)、もうずっと泣いてた。まあ隣のお兄さんもぐすぐす鼻すすってたから、そんな観客はあちこちにいたでしょう。ブラから取り出されたトマト、額の十字。衣装を脱ぎ捨てたヘドウィグがトミーへ姿を変え、手渡されたウィッグを愛おしそうに抱きしめたイツァークが客席通路を駆けぬける。黒づくめのビスチェとロマンティックチュチュに身を包み、再びステージへと現れたイツァークとトミーが掌を合わせる。イツァークが、トミーが、そしてヘドウィグが。それぞれの物語がひとつになる。「カタワレを見付けた!」と思う一瞬から間髪を入れず訪れる孤独。トミーはひとりドアの向こう側へと消える。闇が降りる。歓声と拍手が後を追う。誰もがひとりだ。ひとりきりの長い、長い時間。

カタワレは永遠に探し続けるもの、出逢えるのはほんの一瞬。しかし確かに起こったこと。全ての公演をワンナイトオンリーにする、キャストとスタッフに感謝しきり。忘れられない、忘れたくない時間。スタンディングオベーション、続けてアンコール。精一杯の拍手を贈る。

ジョンソクヘドはとってもキュート。そしてホントに色白の肌。照明で輪郭がとびそう、秋田県人会か(川島道行、七尾茂大、トモ平田が所属しています:内輪受け)。舞台に際し体重も落としたそうでスレンダー、華奢なベリーチェーンが映える腰まわり。決して背は高くないのに腕と脚が長く、ヒールブーツも相俟って大きく見える。あと仕草がな…もう下ネタのときも愛らしいよな……ガハハハって笑ったりコーラ飲んでゲップしたり、それもひっくるめてかわいいよ……。歌はテクニカルでありパワフル、エモーショナル。ポドウィグに会いにきた愛ある観客とのやりとりもかわいらしい。そんなかわいらしい子がラストシーンでは孤高の輝きを放ちます。瞬きするのも惜しかった、なのに視界がぼやけたのは、まあ、仕方がないよ…だってあまりにも素晴らしくて、涙がとまらなかったんだもの。うわーん会えて嬉しいーそしていつかまた会いたいー!!!

「イツハクはソムンタクで見なさい!」とヘド好きの間で言われているらしいタクさんとは約八年ぶりの再会。貫禄! ロックシンガー! 強いイツァーク! ヘドとのやりとりもかわいいやら不憫やら夫婦漫才やら拗ねたり包容力あったりで、がっごよがっだ……惚れる…惚れまくる……あー彼女が唄ってるライヴCDもほしかったよ、誰がヘドの盤に入ってるんだろう。山本ヘドのサントラは出ていないからなあ。日本で上演されたヘドのサントラって三上博史版しか出ていないんだよね。それにしても八年聴いていなかったのに、彼女の声のコーラス、シャウト、メロディがしっかり記憶に焼き付いていたことに自分でも驚くやら嬉しいやら。第一声から「あの声だーーー!!!」と感極まりましたもん。自分のなかではイツァークは彼女の声だ。ちなみにヒゲでリーゼントの扮装だとチャ・スンウォンに見えました。てことはオクイさんにも似てるってことだろうか(笑)。

夜の街を歩いて帰りたくなった。山本ヘドの初日も、歌舞伎町のFACE(元LIQUIDROOM)から歩いて帰ったな。この日も道さえ知っていれば歩いて帰ってたんだけどな。宿の最寄り駅に降りたあと、随分遠まわりして帰った。夜空を見上げる。誰もがひとり。でも目にする世界は、ときどき重なる。

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その他関連記事等。

・조정석 (Cho jung-seok), 헤드윅 (HEDWIG NEW MAKEUP) 개별영상

ジョンソクくんver.のトレイラー

・Hedwig: New Makeup|Time Out
・チョ・ジョンソク、「『ヘドウィグ』40歳を過ぎても演じたい作品」|もっと! コリア

・excite翻訳:「私自身をさらに愛することになる作品」、ミュージカル『ヘドウィグ』
新ヴァージョン上演を記念して開催された、映画版上映会とスペシャルGV(Guest Visit)の様子。ジョンソクくんと音楽監督イ・ジュンがゲスト。
ジュン「まずサウンドに対する意地を捨てた。パンクなロックなサウンドが好きで固執してきたけど、ブロードウェイではクリーンとモダンなサウンドを追求していた。帰ってきて既存の方式を完全に変え、舞台の上のアンプとモニターをみななくした。実際演奏するそのままの声を観客に伝えようと」
ジョンソク「大劇場で、1階と2階が調和するよう意志を疎通することができるか非常に悩んだ」「以前はヘドウィグの孤独な、一人で残された悲しみにフォーカスを合わせたとすれば、今は美しく退場して拍手を受けることができるヘドウィグを見せたい」

・[뮤지컬 코멘터리] 쓸모 다한 폐차 같은 인생…무대로 읽는 대극장 ‘헤드윅’
・Google翻訳:無駄極めた廃車のような人生…舞台で読む大劇場『ヘドウィグ』|キム・テヨン舞台デザイナーに聞く主要シーンの裏話
新ヴァージョンの美術コンセプト等。あーやっぱり実際の車を使ってた! 自販機は最初のプランではトイレのドアだったとのこと。コカがペプシになったのは青が使える色だったからってことかな?

・조승우-변요한 ‘헤드윅: 뉴 메이크업’ 무엇이 달라졌나…8일 티켓예매 개시|10asia
・Team.Jさんによる翻訳(有難うございます!):チョ・スンウ-ビョン・ヨハン『ヘドウィグ:ニューメーキャップ』何が変わったのか…8日、チケット前売り開始
新ヴァージョンの設定紹介等

・[김문석의 무대VIEW] ‘헤드윅: 뉴 메이컵’ 원작의 맛을 살린 조정석 vs 자유로운 무대 완성한 조승우 - 스포츠경향 - 生生 스포츠스
・Google翻訳:[キムムンソクの舞台VIEW]「ヘドウィグ:ニューメイク」原作の味を生かしたチョ・ジョンソクvs自由舞台完成したチョ・スンウ
・조드윅 vs. 뽀드윅…아, 어쩌란 말인가요|네이버 뉴스
・Team.Jさんによる翻訳(有難うございます!):チョドウィグvs.ポドウィグ...ああ、どうしろと言うのでしょう
これらの記事を読むとチョ・スンウのヘドも観たくなりますね。スンウさん、『オケピ』のコンダクターとして当初名前があがってたんだよなあ

・excite翻訳:チョン・ムンソン、こういう「ヘドウィグ」もある…悲しい拍手の力説
緊張のあまり段取りを忘れたムンソンさんに、客席にいたジョンソクくんとスンウさんがジェスチャーでヒントをくれたというエピソード。ムンソンさんにとっては悔しい初日だっただろうけど、いい話だったので

・Hedwig and the Angry Inch’ Stars Neil Patrick Harris - The New York Times
・10 Amazing Moments From Neil Patrick Harris’ “Hedwig And The Angry Inch” Tony Awards Performance
2014年、ブロードウェイ版