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2015年12月18日(金)
『ライン(国境)の向こう』

劇団チョコレートケーキ with バンダ・ラ・コンチャン『ライン(国境)の向こう』@東京芸術劇場 シアターウェスト

やーこれはよかった。太平洋戦争後、日本が南北に分断されていたら? と言う設定。脚本の構成だけでなく、緊張状態のなかにぽろりと生まれる軍人や民間人の本音等、台詞の緩急が見事。また役者がうまくてな……。『追憶のアリラン』もよかったし、チョコレートケーキはこれからも観ていこう。今回は近藤芳正さんのユニット、バンダ・ラ・コンチャン(実は観劇当日迄“パ”ンダラコンチャンだと思ってました…ご、ごめん……)とのコラボです。

山奥に居を構え、自給自足で暮らしている集落。集落といってもそこには実のきょうだいとその配偶者で構成された一族の二世帯しかいないようだ。戦後住んでいた土地が分断されてしまい、ふたつの家族は北と南に分かれてしまった。そうは言っても境界線に壁や有刺鉄線が立ちはだかることもなく、一族は国境をまたぐ田畑を共有し、以前と変わらぬ日々を過ごしている。広大な土地の世話には人手がいる。田植えや収穫はふたつの家族が協力して行う。互いの家に居候し国境警備にあたる南北の兵士も、余暇には田畑の作業を手伝う。ふたりは軽口を交わし煙草をやりとりする仲でもある。しかしある日、南北戦争が勃発。家族にも、ふたりの兵士にも見えない壁が見えてくる。

劇中では日本戦争と呼ばれるこの戦争、流れとしては朝鮮戦争とほぼ同じ。ここ二年で韓国映画を沢山観ていると言うこともあって、『JSA』や『トンマッコルへようこそ』、『高地戦』のことを思い出し、その理不尽にううっとなる。同じ民族で、同じ言葉を話す。暮らしの場も変わらない。しかしいくら人里離れていても政治の影響力は及び、こどもはそれぞれの国の教育を受ける。自分たちの国に都合のいいものを「理想」として掲げる教育は、敵とみなす隣の国の重箱の隅をつつきあう。未知は恐怖を生み、恐怖は「やられる前にやれ」と言う図式を生み出す。両国の背後に構えるアメリカとソ連と言う国について考える。細部迄考え抜かれた設定で見れば見る程違和感がなく、70年前樺太、沖縄から何故侵攻が進まなかったのか、日本が分断されなかったのか不思議なくらいだ。

緊迫した場面が続くが、日々の生活では始終気を張っている訳にもいかない。食べるし寝るし、働けばさぼるひともいる。属性に関わらず喧嘩が起こり、年長者や腹の据わったものが仲裁に入る。冗談を言い合い、笑う時間もある。戸田恵子さん、高田聖子さんによる義理の姉妹が象徴的で、緊張が起こると緩和にまわり、思想だ跡取りだと癇癪を起こす男たちをたしなめ臆病な男たちにハッパをかける。暮らしていくには、生きていくには、目の前にある問題から向き合おう。私たちにはそれしか出来ない、と。

この手の芝居は歴史を知る、学ぶと言った側面もあり、どうしても肩肘張った言葉が続いてしまう。そこに「生活する人々」の息吹を感じさせる台詞を絶妙のタイミングで組み込む、古川健さんの脚本がとても緻密。それらのちょっとした台詞は、登場人物の性格や、心の奥にしまって気配を観客に知らせてくれる。その細やかな言いまわしを乗りこなせる役者が揃ったこともとてもよかった。「こどもたちを守るのは大人の役目だ」と言うような台詞があった。あたりまえすぎるこの言葉が、今ではとても危うい。それをあたりまえのことだと凛と発声した役者たちがとても頼もしく思え、まっすぐに感動することが出来た。

戸田さん、高田さんめちゃ格好よかったー。ふたりとも声の力が強いからね! かわいい声、怖い声、優しい声。親としての声、女性としての声。その説得力たるや。清野菜名さんは舞台では初めて観たけど堂々としたもの。それにしても皆さんもんぺにほっかむりが似合う(笑)…いやこれ笑うとこではないな、それだけ田舎で生活するひとの姿が映し出されていた、と言うことだろう。男優陣も田舎の人々、と言うのが板についており、愚かな人物造形もそれは見事でほんっと腹が立ったわー。特に谷仲恵輔さんな! 彼と寺十吾さんが激昂してけんかになるともう何言ってるかわかんない(笑)、なまってるし早口になるし。そこらへんが逆にリアルだった、怒ると当人でさえ何言ってるかわかんなくなるもんだわね。近藤さんの、気は小さいが心の奥は揺るぎない家長も味わい深くてよかったな。

皆さん実年齢に近い役柄なので、チョコレートケーキの面々は若い兵士、若い青年。それ故ストーリーには描かれない、軍隊に属するが故の苦悩を思い胸が痛む。年寄りのように諦められない、こどものようにわがままを通せない。善悪の区別もつく、だからどうすればいいのか解っている。それなのに社会がそれを許さない。どうすればいいのだろう、と言う思いが強く伝わるもの。南北の兵士を演じた、達観しているようで強い悔みを持つ岡本篤さん、真実を見据える賢さ故に、祖国にも自分にも誇りを持てない西尾友樹さんが印象的。

惜しむらくは段差なしのE列で見えない箇所があったこと、同じく位置が原因なのか音の返りが悪く聴き取れない台詞があったこと。専門的な語句も多かったしね…と言いつつ「ろすけ」はすぐ「露助」に脳内変換される自分もどうかと……。『追憶の〜』でもそうでしたが、「観劇資料集」として関連年表や語句説明掲載のリーフレットが配布されるのは有難いです。

扇田昭彦さんに観てもらいたかったな、と思った。先日行ったスズナリでもそうだったが、今でも姿を無意識に探してしまう。ミュージカルから伝統芸能迄あらゆるジャンルを網羅していた方だが、それだけいろいろなものを観ているにも関わらず小劇場で本当によくお見掛けしていた。チョコレートケーキも以前からご覧になっていたと聞く。どんなレヴューを書かれただろう。