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2015年12月19日(土)
『シルヴィ・ギエム ライフ・イン・プログレス』

東京バレエ団全国縦断公演2015『シルヴィ・ギエム ライフ・イン・プログレス』@東京文化会館 大ホール

ギエムの引退ツアー。かなりのハードスケジュール、メンテもたいへんだろう。無事終われますように。コンテ中心で東京はボレロなしのプログラム。運良く神奈川公演のチケットもとれたので、気持ち的にはちょっと余裕があった。東京公演のみ鑑賞で、これがギエムを観る最後だったらちょっと複雑な気分にはなるかなと思う。それでも最後の「バイ」は素晴らしく、さよならには相応しい作品だった。

■一幕
フォーサイス振付「イン・ザ・ミドル・サムホワット・エレヴェイテッド」
キリアン振付「ドリーム・タイム」
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東京バレエ団。「イン・ザ・ミドル〜」は衣装が素敵、「ドリーム・タイム」は音楽が武満徹『オーケストラのための「夢の時」』でかなり好き。また観てみたい。

■二幕
カーン振付「テクネ」
フォーサイス振付「デュオ2015」
マリファント振付「ヒア・アンド・アフター」
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「テクネ」「ヒア・アンド・アフター」は全編、男性ダンサーふたりが踊る「デュオ2015」に一瞬だけギエムが登場。日曜日は二度出てきたらしく、と言うことはこの作品でギエムが踊るパートはインプロなのだろうか。メッセージ性高い「テクネ」ではウィッグを着用し、自然破壊を嘆く少女を演じているようなところもあった。彼女がバレエを引退後、より力を入れていくであろう環境保護運動について思うところあり。

■三幕
「バイ」
振付:マッツ・エック
音楽:ルードヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン『ピアノソナタ第32番 Op.111 第2楽章』
装置・衣裳デザイン:カトリン・ブランストローム
照明デザイン:エリック・バーグランド
映像:エリアス・ベンクソン
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ギエムのソロ。ドアのようなサイズのスクリーンに映像を投影、それと同期するようなパートも。映像=部屋から抜け出て、外の世界で踊り、やがて部屋へ帰っていく。幾人かの友人や家族を思わせる人物たち(そして飼い犬?)がその部屋にはいる。世界的なバレエダンサーがひとりの人間に戻っていくかのような構成。
公演タイトルのとおりギエムの人生は続き、作品タイトルのとおりギエムはバレエにさよならをする。衣装も普段着のような、スカートとシャツ、カーディガン。靴下に革靴も履いており、途中からは裸足になって踊る。部屋へ戻るときには靴を履き直しているのだが、カーテンコールでは再び裸足になっていた。
冒頭、スクリーンにはギエムの顔のアップが映る。今年五十歳を迎えた彼女の顔には皺が刻まれ、老いが感じられる。それを隠さず(おそらくノーメイク)、接写と言える程の距離で見せる。身体の線は、以前よりたくましくなったように見える。筋肉(筋、と言っていいかもしれない)がより強調されるようになってきたからだろう。こうなる迄踊り続けてきたのだ、自分を律し乍ら。その時間の厳しさを思う。
それでもやっぱり舞台上の、研ぎ澄まされたギエムは美しい。反り返る足の甲、ふくらはぎ。無駄のないチーターのような肢体。
二幕の作品は全て今年発表のものだ。引退公演に新作ボコボコぶっこんで、それがいちいちエキサイティングなもので「まだまだ出来るのでは……」と思うところもあった。観たものがそう時間の長くないコンテだったからかもしれないし、瞬発力、滞空力にハッとさせられる場面が多かったからかも知れない。
しかしこの「バイ」を前にしては、本当に最後なんだなあ……と思わずにはいられなかった。演出含め、さよならの気持ちに満ちていた。有難うございました、と拍手を贈る。
バレエをはじめた少女の頃のような屈託ない笑顔で何度も手を振るギエムはかわいらしかった。

あと一公演。さびしいが、たのしみでもある。