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2015年04月05日(日)
『コルバトントリ、』

SNAC パフォーマンス・シリーズ 2015 vol.1『コルバトントリ、』@SNAC

山下澄人の小説『コルバトントリ』を飴屋法水が舞台作品に――とは言ってもストーリーを舞台で再現、なんてものになる訳はなく。飴屋さん、そして出演者たちが『コルバトントリ』を読み、考え表現する。そこに立ち会う原作者も、原作者として舞台に立つ。テキストが生きている人間の身体を通過し、それを舞台に載せる。小説でしか出来ないことだから小説に書いた、それを演劇にするには演劇にしか出来ないことをやるしかない。当たり前のことだが、実際そういう作品に遭遇する確率は決して高くない。

観客は、舞台上の作品を通して山下さんを見る。飴屋さんを見る。読み解きとは違う。光を失った老婆のような少女、山からかつての住処を見ようとする少年、顔に傷を負った女性、路上で暮らす男の絵日記。「好きでこんなんデカくなったんやない」どんな場所も似合わない男性、壁に衝突する女性。壁に絵を描く少女、キャンバスに自画像を描く象。アロエのクリスマスツリー。聴こえてくる音。彼らをひたすら見る、それらをひたすら聴く。そして考える。

出演者は八人。役者として活動しているのは青柳いづみ、安藤真理のふたり。飴屋さんと山下さんは役者として活動してきた経験がある。くるみちゃんもそうであると言える。今回どう動くか全く予想出来なかったのはdetune.の郷拓郎とグルパリ。このふたりは音楽に関わるひとだ。そして今回の公演を企画した佐々木敦が言うところの「特に名を秘す受付の人」。台詞を語り、歌を唄い、マイクバトル(と言っても口調は極めて穏やかだ)があり、どこからどこ迄があらかじめ決められたことなのかが判らなくなる。比較的前の席だったので、郷さんが山下さんに入れたキックやパンチは実際に激しくヒットしていたのが見えた。

『4.48サイコシス』『教室』を観たとき、「生きることは決して素晴らしいことでもなく、美しいことでもない。意味もない、希望でもない。しかし、生きていると言うのはすごいことなのだ。肉体に思考が宿り、そして動きまわる。新しい命さえ生み出す。それは奇跡だ」と感じたことを思い出す。これは飴屋さんの作品に触れるといつも感じることでもある。身体は老化していく。あらゆる能力が衰えていく。今回飴屋さんは山下さんとの腕相撲に負け、山下さんは郷さんに肉体的に打ちのめされる。この場所に「似合わない」、このひとに「似合わない」。生きていることに「似合わない」。それでも生きている間は生きるのだ。そうしていると、時折眼前にパレードが訪れる。パレードは通過し、移動していくものだ。そこに加わってもいいし、見送ってもいい。そのときひとは、一瞬でも自分が祝福されたように感じ、その思い出をだいじに抱えてまた生きていくのだ。

青柳さんが演じた人物は光を見ることが出来ない、しかし彼女には見えていることがある。決して希望とは言えないが、必ず光が差す場所はあると言う知らせ。その光に明るさを感じるか、温もりを感じるか。光があるからこそ闇を感じるか。絵を描く象の映像に、つい笑顔になってしまう不可解さ(象の行為をかわいいと思ってしまうのはこちらが人間だからだろう)こそが、生きるヒントのようにも思えた。

その他、忘れがたいこと。

・音響、美術も飴屋さん。安藤さんが衝突する壁、手に持った薄いペットボトルがひしゃげる音、その反復。その反復を、手を差し出すことで止める山下さん、その表情
・終演後散歩しようと裏道に入ったら青柳さんと郷さんが立ち話してるのに遭遇してクスッと笑ってしまった。SNACは舞台袖がないスペースだもんね。小雨のなか、道の向こうに見えたあのふたりのぽつん、とした姿

・衣装はコロスケさん。青柳さんの赤いニット、綺麗だったな。グルパリくんはまんまあれが私服のように感じたがどうだろう。山下さんのボーダーもいい感じ

・近所にあったベニサンピットもそうだったが、SNACは演技場を外に繋げることが出来る。町の景色が背景として取り込まれ、近所の住人が登場人物になる一瞬がよい。『教室』でもそうだったけど、向かいの和菓子屋さんのご主人、もうすっかり作品の記憶に入り込んでる
・そのSNAC、今後はこういった使い方は出来なくなる様子。残念。『教室』と『コルバトントリ、』をここで観ることが出来たのはギフトだった

・山下さんに「レディー、ファイ!」じゃなくて「ゴー!」やろ! って怒られた受付の人、受付故に入場時少し接したんだけど、あの佇まいのままふら〜と演技場に入ってきたのが面白かった。地続き
・山下さん、色気がありましたねえ。西の言葉を操り、北で作品を生み出す男。あの陰
・そしてこれはやはり西の地で培われるものか、ツッコミの間が絶妙。怒りを笑いに転ずる業も絶妙

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・今までだって離れていたし いまでもちかくにいる
・あの人たちとぼくはずっといたしこれからもずっといる。
別々のことを話しているのに、何故か繋がっている。不思議、ではない

・『コルバトントリ、』|SNAC