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2014年08月02日(土)
『ラストフラワーズ』

大人の新感線『ラストフラワーズ』@赤坂ACTシアター

松尾さんはとても怖がりなひとで、彼の書く作品はそのときいちばん自分が恐れているものについて、と言う印象がある。作家としての繊細さだと言えるが、このひとのすごいところは、怖がり乍らもその先に何があるのか見ようとし、書こうとするところだと思う。今回は、おおきなふたつのモチーフがある。ひとつは戦争。もうひとつは家族と言う集団。どちらも松尾作品によく出てくるモチーフだ。しかし今回、いつもとは違う感触があった。ひとつの結末にはやはり、と暗澹たる気分にさせられ、もうひとつには素直に驚かされた。松尾作品の登場人物がああいう選択をしたことに驚かされたのだが、それはその人物を演じたのが古田さんだったからなのではないだろうか。一種の当て書きだ。古田さんが演じるから、松尾さんはああ書いた。大人計画と新感線がタッグを組んだ収穫にも思えた。

松尾作品がいのうえ演出にかかるとこうなるのか、と興味津々で観た。キャノン砲が両袖にあったのでいつ発射するんだビックリしないようにしようと身構えていたらカーテンコールだけで使われた(笑)。1000以上の客席最後列迄芝居を見せる、と言う空間の扱いは流石いのうえさん。演出における音楽の重要さにも気付かされた。スカパラの音楽で立ち回りと言えば蜷川さんの『四谷怪談』があった。アクションものにとても合う。しかしいのうえ演出としては新鮮。メタルじゃないと、あのシーンこのシーンがこう映るんだ! と言う驚きもあった。

実は今回、松尾さんといのうえさん!? と反射でチケットをとりその後の情報を全くチェックしていなかったので、誰が出るかもよく知らないままだった。そうだよな大人の新感線と言うくらいだから、出演者も両劇団員だよな…劇場に着いて配役表を見て「あっそうか古田さんと阿部さんの対峙が観られるんだ!」となったアホです。そしてスカパラは生演奏で出演すると思っていた。フェスシーズンなのにスケジュール大丈夫なのかしらと思っていた。アホだ……(再)。そんな状態だったので、一幕はストーリーの行方とともにえっあっクドカン出てたんだ高田さんもじゅんさんも! なんていちいちオロオロしていた。バカだ。

それにしても古田さんと高田さんのぶっちゅ〜とか、なかなか貴重ではなかろうか。や、新感線の舞台欠かさず観ている訳ではないので知らないだけかもしれないが、そうそうないですよねこれ? 大人計画の劇団員同士ってのだと別に珍しくもないのだが(笑)。反面「ノ〜ベル♪」とか「扇町ミュージアムスクエア」「南河内万歳一座」辺りはいのうえ演出へのプレゼントかなとニヤニヤした。あっあと欲を言えば古田さんと阿部さんの殺陣をもっと沢山観たかったかな。そもそも松尾作品にアクション的な要素はあまりないけれど、実は阿部さんアクションすごくデキるひとだもんね。デキると言えば小池さん、ホント舞台映えする。歌に若干緊張が見られたがこれは日を追う毎に馴染んでくると思う。

星野くんを復帰後舞台で観るのは初めてだった。彼が出てきたとき、一瞬客席の空気が変わったのは気のせいではないと思う。その彼が終盤聴かせる歌は、この作品のおおきな見せ場になっていた。聴かせどころとも言える。邪推かも知れないが、これは松尾さんから星野くんへのはなむけにも思えた。サントラ出してほしいなあ。この曲だけの配信でもいいから。そして紙ちゃんのタンバリンとダンス! いやーこれには持っていかれた…格好よかった……。伊賀さんによる衣裳もすごく素敵だった。

『ヘブンズサイン』に『ふくすけ』に。うーむ、こうやってみると、松尾さん寄りで観ていたって感じだな自分。個人的にはいつか河原演出で松尾作品を観てみたいなと思った。クドカン作品ではもはやお馴染みだけど、『TEXAS』の河原演出には本当にヤラれたので。あの毒ね。