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2014年07月27日(日)
『教室』

SNAC パフォーマンス・シリーズ 2014 vol.3『教室』@SNAC

昨年29qさんに「来たらいいのに」と言われていたのに行けなかったTACT/FESの『教室』が、「2014年・東京・清澄白河 SNAC」の『教室』、として再演。当日券は毎回出すそうですし、立ち見でも70分の上演時間なのでそんなにきつくはないと思います。気になってる方は諦めずに是非。

見たこと、を書く。そこから、自分がこの作品をどう観たか浮かび上がるだろうか。

深川資料館通り商店街を歩く。やがて人だかりが見えてくる。ああ、あそこがSNACかと思う。2010年、無人島プロダクションが高円寺からここに移転したと言うニュースは聴いていたが、実際行くのは初めてだ。『マームと誰かさん 飴屋法水さんとジプシー』は、チケットがとれなかった。

スペースは開放された状態。ドアや窓はない。普段は壁があるらしい。通り側にある舞台(と言っても段差等なく、小道具が置いてあるちいさなスペース)をコの字型に囲むように客席が設置されている。飴屋さんが通りに水をまいている。コロスケさんはやや緊張した面持ちで立ったり座ったり、友人?が来場すると表情が柔らかくなる。くるみちゃんはフロアにチョークで線を引いている。時折観客をぐるりと見渡す。スタッフにはチームサイコシスや、マームとジプシーのメンバーの顔。最後列中央の席に座ることが出来た。通りを眺める。商店街の通りが借景になっている。通りかかるひとが興味深そうに立ち止まったり、覗き込んだりしている。それは上演が始まってからも続く。お向かいのだんご屋さんのご主人らしき方は、随分長い間観ていらした。連日ご覧になっているのだろう。

通りに面した壁(入口の上)に時計がかかっている。なんとなく眺めて、上演中時間経過が見えるなあ、気になるだろうか、いや、開演すれば気にならなくなるだろうなどと思う。客席が埋まるなか、出演者やスタッフたちは黙々と準備をしている。開演の五分程前(時計を見ていた)、小道具の発泡スチロールで出来たブロックを積み重ね、その上に片足で乗っていた飴屋さんが、バランスを崩し転倒する。衝撃で時計が落ち、大きな音がする。蓋が外れて電池が散らばり、時計は停まってしまった。慌てる様子もなく立川さんがやってきて、時計の様子を見る。元の場所には戻さず、邪魔にならないところに置いていく。飴屋さんが上演中の諸注意についてアナウンス。エアコンは大きな音がしないよう弱めにします、上演時間は70分くらいなので我慢して頂ければ、冷たい飲み物も売っています。ちょっとしたスペースで、ビールとグレープフルーツサワーだったかな、が売られている。後方にある音響スペースに飴屋さんが移動する。舞台に出ていないときは飴屋さん、出ているときは恐らくCさんが音響オペレーター。蝉の声がずっと流れている。小駒さんのオペで照明の明度が一瞬変わるのを合図に開演。

戯曲のとおりに台詞が進む。ヘンな話だが、そのことに若干驚く。「蝉と同級生」のくるみちゃんは一学年進級しているが、そこに手は入れられていなかったように思う。八年地中にいる蝉もいるそうなので、別に問題はない。具体的に変わっていたのは、花瓶に挿された花がマーガレットからひまわりになっていたことくらいか。テキストを読んでいたときと印象が変わったのは、その静けさ。「!」が多用されていたので、もっとラウドなものを想像していた。実際飴屋さんがラウドに振る舞う場面はあるが、コロスケさんもくるみちゃんも、自分の部屋で話しているくらいのボリュームで台詞を口にする。激する飴屋さんと、それを静かに見ているコロスケさんとくるみちゃん。本来パフォーマーではないふたりをリードしカヴァーせねばと奮闘する飴屋さんと、対してしっかりと自分の足で立つコロスケさんとくるみちゃん、と言う光景にも見える。やがて台詞が台詞に聴こえなくなる。舞台にはひとつの家族がいる。

時折発生するくるみちゃんの予想外の反応が、お芝居と現実の境目を崩していく。具体的にひとつあげると、幼少時の自分の写真をスライド投影し「先生もこの頃はかわいかったんです」と言う飴屋さんに、「今もずっとかわいいよ」とくるみちゃんがぼそっと応えた場面。飴屋さんは一瞬言葉に詰まり、相好を崩す。しどろもどろになって「そ、そう、ありがとね」と応える。客席からは笑いが起こる。舞台上では予想外のことだろうが、くるみちゃんとしては素直な反応なのだろう。彼女は普段から、飴屋さんのことをそう思っているのだろう。

コロスケさんは、立ち止まり目が合った通行人に、「こんにちはー」と挨拶する。故郷である下関の光景、朝起きて登校する迄の様子が、彼女のモノローグによって瑞々しく描写される。娘を見守り、パートナーを見詰める表情は優しげだが、そこから真摯な光が消えることはない。終盤の飴屋さんとの対峙はとても厳しい場面だが、そこから生後三ヶ月の赤子の記憶―それはくるみちゃんのことでもあるし、コロスケさん自身のことでもあるように感じた―を語る彼女の声には、静かだが揺るぎない強さがあった。彼女の母親であり、彼のパートナーであり、そして何より、コロスケと言うひとりの人間の強さ。

三人とも素敵な声。と言うか、この人物にはこの声だ、としか言いようのない声。この声で、彼らはお互いの思いをやりとりしているのだ。耳に残る。

くるみちゃんが初めて喋った言葉は「あめ」だった、と言うエピソードがある。この日はそのシーンのあとざあっと通り雨が来た。SNACがあるのは東京都江東区三好。劇中に出てくるように、コロスケさんの名前は三好愛。飴屋さんのお父上の遺骨は『わたしのすがた』『武満徹トリビュート』を通し、きっと少しずつ減ってきている。終盤yanokamiの曲が流れた。FISHMANSの「SLOW DAYS」は戯曲に明記されているが、これにはふいを衝かれた。この日はハラカミくんの命日だった。ハラカミくんもさとしんくんも、今はここにはもういない。「ナイーブな気持ちなんかにゃならない 人生は大げさなもんじゃない」。

観たのはマチネだった。終演後しばらく雨宿りをして、近所の都現代美術館に行き、展示を観る。同じ道を帰ってきたら、SNACから飛び出してくる飴屋さんが遠くに見えた。ソワレが始まっているらしい。飴屋さんは電柱にしがみつき、ミーンミンミンミンと鳴く。ああ、あのシーンだ。静かな商店街に、その声が響き渡る。通りの向かい側、その光景を眺めて通り過ぎる。今度は自分が借景の一部だ。あちらからはどう見えたのだろう。

どこから演出か、どこからハプニングか。観客は判断出来ない。これが、「2014年・東京・清澄白河 SNAC」の『教室』。

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・特集 飴屋法水インタビュー|大阪国際児童青少年アートフェスティバル 2013 TACT/FEST『教室』- 演劇ポータルサイト/シアターガイド
初演時のインタヴュー。「演劇はどこまで行ってもドキュメンタリー性が残るものだと思っているんです、あえてドキュメンタリー演劇なんて言わなくてもね。」

・TACT/FEST 2013:ジャーナル『厳格な平等主義者の壮絶な授業。』
徳永京子さんによる初演レポート