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2013年04月19日(金)
『葛城事件』

THE SHAMPOO HAT『葛城事件』@ザ・スズナリ

始まったばかりなのでネタバレを避けつつ…と言いつつネタバレあります。未見の方はご注意を。

『その夜の侍』のあとの『立川ドライブ』、そして映画『その夜の侍』のあとの今作『葛城事件』。こうやってみると、『その夜の侍』と言うのは劇団にとっても、劇作家・演出家=赤堀さんにとってもおおきなエポックだったように思う。一場を具象で徹底的に作り込む手法から、抽象的な美術で場面転換を多用する手法へと、演出面に新しい展開が見られたのもこの作品だった。ある種の“しばり”から一歩踏み出すことは、得意技の手数を増やすことになり、劇団の色がより芳醇なものになった。飛び道具的なワンポイント出演だった役者・赤堀さんが前面に立つようになったのもこの頃からだ。

ここ迄さらけ出してしまってどうするのだろう、このひとはこれから何を書くのだろう、と身震いした『その夜の侍』の次に来たのは、実在の事件から着想された『立川ドライブ』だった。この流れは『砂町の王』に受け継がれ、バイオレンス描写に磨きをかけた。一方で、『沼袋十人斬り』のような軽妙な凶暴を描く。そのどれにもちいさな光を残す。その光をつかみとるか、手を伸ばさないか、登場人物たちはそれぞれの人生でそれぞれの選択をする。赤堀さんの役は、思い描いた夢が砂のように掌からこぼれ落ちていくさまを不様に、滑稽に見せる。個人的には『その夜の侍』の彼の人生が『沼袋十人斬り』の彼の人生へと続いたかのような錯覚が起きた。滝沢さんは一見無神経にも映る明るさを処世術とし、介護士と言う職業で身を立てる人物の強さを見せる。思い返せば今回日比さんが演じた人物は『砂町の王』の彼に通じるところがあり、野中さんの役は『その夜の侍』のときの彼がこう歩んだかも知れない別の道を示す。児玉さんの役は『沼袋十人斬り』の彼のようにちいさな幸せをだいじに抱える心優しき不幸な男で、黒田さんが演じたリンゴちゃんは、そのものズバリ同じ役名、同じ職業で『沼袋十人斬り』に出てくる。そして“ある家族の物語”は『一丁目ぞめき』が記憶に新しい。

今回の作品は、『その夜の侍』以降の集大成のようにも思えた。ありったけの得意技と、ありったけのチャレンジをつめこんだ、THE SHAMPOO HATの劇団公演。当日配布パンフレットのごあいさつに赤堀さんが書いた『劇団公演へようこそ』。映画や客演(この呼び方に対しての赤堀さんの言及にはニヤニヤした)をきっかけに、初めて劇団公演にやってきた観客へ渡す名刺のような作品。稔が作った「泌尿器科の医者の名刺」のような、手の込んだ決死の自己紹介だ。

ちょっとした瞬間に真実が見えたような気になる言葉の迸り。気のせいかもしれない、それでもそれを信じて、しがみついて生きていく。自分に都合のいい、良い思い出だけを抱えて狂気に逃げ込む。露悪的で生真面目、照れてしまうが故に素直に表現出来ない情熱、空回りする愛情。それはお互い解っている、しっかり愛情は届いている、それでもそれが何の役にも立たないことがある。ほんのひとときでも心に触れた気がするのは、多分気のせいではない。それらが丁寧に、会話で綴られていく。ちょっとでも色めき立ったり、ちょっとでも作為を感じさせると台無しになりかねない繊細な台詞。それこそ稔のように敏感な観客からは「説教か?」と言われてしまいそうな細やかなニュアンスを、演者たちは献身的に伝えていく。この辺り、劇団員のひとたちはある種の了解…言ってしまえば家族のような阿吽の呼吸があるのだと思いますが、客演(と敢えて書いちゃう)の三人も見事でした。新井浩文くん演じる稔が終盤に見せた「どうでもいいなげやり」な仮面がはがれ落ちる一瞬、安藤聖さん演じる稔と獄中結婚した女性が稔の父親に最後に吐く言葉、そして鈴木砂羽さん演じる稔の母が、稔の三番目の妻を問いつめた言葉。どれもが胸に刺さる、それでいて感傷を許さない厳しさがある。

『立川ドライブ』は実在の事件から着想されたものだが、今回の『葛城事件』もそれにあたる。この事件で個人的に印象に残っていることがある。彼の死刑が執行されたときの、スズカツさんと鈴木慶一さんのtwitterでのやりとり。それが随分遠い昔のことのように思えてしまうのは、あれからいろんなことが、本当にいろんなことがあったからだろう。世界にも、この国にも、自分にも。
(追記:twiterでの、は記憶違いでした。ブログでのやりとりだった)

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その他。

・確か初めて見る男優さんがふたり。スタッフクレジットにも名前が連ねられていたので、新しい劇団員さんなのかしら?これからの展開が楽しみです。しかし予告にもあったが劇団本公演って次回一年半先なんだってー。はやくも待ち遠しいですよ

・ニナカンでもおなじみ、塚本幸男さんが声の出演

・吉牟田さん、メイクと髪型の効果もあるのかな、砂羽さんとすごく印象が似てた!お母さんの面影がある女性を稔が選んだんだなと思えて説得力あった

・カラオケの選曲が絶妙でした(笑)事件が起こった年代を意識しているのかも知れないけど、あの微妙な取り残され感はいろいろと想像が拡がる。面影ラッキーホールの曲に出てきそうな郊外都市かな、とか地方かな、とか。嵐でもなくももクロでもなく、SMAPにモー娘。そして三年目の浮気

・赤堀さんの腹がたぬきのようで、もはやチャームポイントなのですが、ご本人それをよしとしていると言うか、役者としておいしいと感じているのか、敢えて見せてますよね。ステキです(笑)

・いや、最近演劇ぶっくのBN押し入れから引っ張り出して読んでたら、すっごい痩せてる頃の赤堀さんが出てきて……(笑)

・そう考えると?野中さんのガラ悪い格好よさと対照的である。どちらも素敵である(真顔で)