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2012年10月27日(土)
山の手事情社『トロイラスとクレシダ』

山の手事情社『トロイラスとクレシダ』@東京芸術劇場 シアターウエスト

三時間超のシェイクスピアを100分で。8月に蜷川版を観て、人物相関と時代背景、話の流れが頭に入っていたのも助けになりました。

人類の滅亡後、廃墟の会議室。獣たちが戯れに『トロイラスとクレシダ』を上演する。ギリシア側がカラス、トロイ側が犬。女=メスひとりの争奪戦から始まった余興のような戦争が、種の保存をかけての戦いになっていく。オスが戦をしている間、メスたちは世間話に興じているが、やがて自分たちの家族が死に直面していくと、メスたちの間にも諍いが生じ始める。構成と台詞の編集術、独自のメソッドによりストーリーのキモを効果的に提示することに定評がある山の手ですが、殊に古典を上演するとその力が際立ちます。

男優はギリシア、トロイ両方で二役を演じるひとが多かったのですが、中でもギリシアの勇者アキリーズ(アキレス)と、トロイのクレシダの叔父・パンラダスの二役を山本芳郎さんが演じていたのが面白かった。キレる身体を駆使する武士っぷりと、狂言回しの台詞術を両方堪能出来ました。山本さん、以前あまりのサムライっぷりに家に日本刀があると言われていたけどどこ迄本当なんだろう(笑)。力で敵をバッタバッタと斬り倒すアキリーズと、梅毒により皆が滅びればいいと世界を呪うパンダラス、と言う図式も興味深かったです。

とは言うものの、登場人物たちはひたすらエネルギッシュで、生への執着は顕著であれど、死に対しては無頓着と言うかま、死んだらそれまでよくらいのものとして感じられることにも好感。

ルパム部分の選曲は毎回ツボなのですが、今回菊地成孔ネタがふたつもありニヤニヤして大変でした…てか舞台作品で菊地さんの音楽使われるの、ご自身が関わっているもの以外では初めて観たかも。「Orbits」がきてうわっ、と思って、そういや戦争もの…大虐殺…マサカーときて「Killing Time」とかかかったらたまらんなあ、なんて思ってたらホントに幕切れ「Killing Time」のイントロが!ぎゃああ!変な声出そうになった……。フルで聴きたいくらいでしたがそれでは演者が倒れてしまいますな。いやーシビれた!「Orbits」と「Killing Time」のピアノパートの双子なところにも気付けていやはや有難うございます。

その他SENOR COCONUTのYMOラウンジーアレンジ「Limbo」とか(カラッとした死生観漂うユキヒロさんの声ってホント唯一無二)客入れのマンボとか、女優たちが唄う「おうまはみんな」とか、山の手の選曲はユーモア含め昔から大好きだぜ。ジュリアナのあの曲(ハイエナジー!)もこうやって改めて聴くと結構格好よくないか…いい調子の80年代リバイバル派と90年代ノットデッド派の狭間世代としては愛憎入り乱れる呻きが漏れますわ(笑)。選曲と音響は斎見浩平さんとのことでした。綾さんの衣裳もかわいかったなー。

山の手を観るのは久し振りだったので、ルパムや四畳半の型を思い出す作業も楽しかったです。そうそう、退場するときは腕を噛むんだった。新人さんも随分増えているようです。再来年には創立三十周年を迎えるとのことで、ひぃとなった。いやでもそれくらいになるか……。安田さんはスーツ姿で「いらっしゃいませ」とあの美声を振りまいておりました。相変わらずダンディであった。早大劇研随一のダンディだとずっと思ってます(笑)。