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2012年11月01日(木)
『アルゴ』

『アルゴ』@新宿ピカデリー スクリーン3

ベン・アフレック監督の前作『ザ・タウン』は昨年映画館で観るのを逃して後悔した第一位でした。そもそもはジェレミー・レナー目当てでDVDを観たのですが、よく練られた構成と演出の手際のよさに瞠目。慌ててBlu-rayの通常版+エクステンデッド版を購入、監督コメンタリを聴き、彼の映画製作への献身っぷりにすっかり惚れ込んでしまいました。その後web上で見付けたスクリプト複数稿と原作(『強盗こそ、われらが宿命』)を読み、刈り込みと脚色(アフレック、ピーター・クレイグ、アーロン・ストッカードの共同脚本)の巧さに再び唸らされました。

思えばこのひと『グッド・ウィル・ハンティング』の脚本でオスカーとっていましたね。その後のボンクラっぷり(ひどい)が強く印象に残っていたので忘れがちだった…ごめんよー。ダグの最後の台詞(ここ参照→・The Town Quotes: Solid and Gripping)をベンアフ本人が言っているってとこも感慨深いものがあったよ!

勿論ジェレミーも素晴らしかった!このひとこういう危うい役やらせるとむちゃくちゃ光りますね。最後の台詞と行動が裏腹で、その行動が破滅以外にないと判ってるとことかさ……!(涙)ブサイクイケメンDQN顔(…)が輝いてました。ジェレミー出演作品まだ網羅出来てないけど、今のところ『ザ・タウン』のジェムは『Neo Ned』のネッドと1〜2位を争うくらい好きな役です(…って、どっちの役も相当アレですけどね……)。

はあはあはあ、『ザ・タウン』の感想迄書き始めてしまいそうだ…前置きが長い(いつもじゃ)。と言う訳で観る前からすんごく盛り上がって+期待値がすんごく高くなっていたため、楽しみにしていた分つまんなかったらどうしよう、がっかりさせられちゃったらどうしようなんて身勝手もいいとこな思いをパンパンに膨らませて映画館に出掛けて行きました。が……どうだコノヤロー!どうだバカヤロー!(誰に言ってる)むたむた面白かったがなーーー!!!以下ネタバレあります、アルゴファッキュアセルフ!(合い言葉)

70年代のワーナーのロゴ、最近ではあまり目にすることのない映像のノイズ(フィルムに付着したゴミが写り込むエフェクトを加えていると思われる)に導かれ、あっと言う間に観客は1979年の世界へ。絵コンテから始まるオープニングにもにっこり。さあ、映画が始まるよ。いろんなところからやってきた、知らない同士が同じ場所でハラハラドキドキ。スクリーンに注がれるいくつもの瞳。観客の心をひとつにする映画が始まる。

今回アフレックはタッチしていませんが、脚本(クリス・テリオ)がすごくしっかりしてる。実際に起こった出来事を映画化するために施したであろう脚色も絶妙で、その部分が例え創作であったとしても観客を鼻白ませることがない。「いくらなんでもここはないわー」と言いつつ笑顔にさせられてしまうような愛嬌があります。アメリカとイラン両国の問題も簡潔に紹介しつつ、ニュートラルに徹していたところもいい。

そして説明台詞に頼らず、状況や登場人物の心境を描き出す細やかなカットがとても効果的。コミカルとシリアスを行き来する演出も緩急自在。すごい深刻な話し合いなのに自転車脱出作戦にずっと固執してるひととかさ…(笑)でもトニーの案も自転車と同じくらい何言ってんのって作戦だった訳で。終盤大慌てで作戦中止を撤回する上司も、トニーたちをなんとしても助けねばと言う気持ちは勿論あっただろうけど、この作戦が失敗して公になったらCIAの面目丸潰れ!そんなのイヤーッ!って言う必死さもちょっとあったと思うのね…(笑)。すっごい切羽詰まってるときにクスリとしたりポカーンとしたりする台詞なりシーンなりを絶妙のタイミングで投げ込む。このテンポのよさはもはや職人技。

映画ならではのスリル満点な編集術も素晴らしかった。カナダ大使私邸内での静かな緊迫感を丁寧に描写、トニーが作戦を続行すると宣言してからのギアチェンジが鮮やか。ここからぐんぐんスピード感が増す。嘘ついてでも(この嘘がまたいい・微笑)大統領補佐官に連絡つける上司、間一髪で変更が反映される搭乗手続き。ペルシャ語の会話に字幕を出さない(登場人物で会話の内容を完全に理解出来ているのはペルシャ語が堪能なジョーのみ)、事務所の電話になかなか出ない、シュレッダーにかけられた顔写真の復元が完成する、バスのエンジンがなかなかかからない、離陸してから一瞬映る飛行機内の電話(管制から指示が来て強制着陸させられるかも)。それぞれのシチュエーションを短いカットでたたみかけ、実際には多少ずれているかも知れないそれぞれの時間軸を凝縮し、緊張感をギリギリと高めていく。最後は皆助かるって知ってるのにすごいドキドキしたもんね……。そもそも「映画ならではのスリル」と言うのは観終わった後気付くもので、観ている最中は入り込んでしまってそんなこと思ってる余裕がないものです。

そしてついに「イラン領空を出ましたのでアルコールを提供します」ってアナウンス、涙ダー。こことか、トニーが一枚だけ当局に提出しなかった絵コンテの行方とか、伏線の回収も丁寧なんですよね。カナダ大使邸のお手伝いさんが虚偽の証言をする根拠のひとつとなったであろうシーンもそう。冗長な説明はせず、ちいさな根拠をちょっとずつ。これら「ちょっとずつ」がトニーたちの助けになっていく。いちばんぶつくさ言っていたジョーが大芝居を打つシーンには思わず笑みがこぼれました。

エンドロールでは、当時の画像とともに主要人物のその後が紹介されます。彼ら以外の、人知れず自分の仕事を全うした人物たちはどうなっただろう?「新作は?」「ポシャった」。やっぱもうじいさんで時代の流れを読めないプロデューサーになっちまったな、とレスターは笑われたかも知れない。イラクに渡ったお手伝いさんはイランイラク戦争に巻き込まれていくことになる。絵コンテをもらってちょっとはしゃいでいた革命防衛軍の兵士たちは……登場人物たちへの優しい視線と、ほろ苦い余韻を残して映画は終わります。これを二時間にまとめている手腕も見事だよアフレック…ヘンな例えだが腕のいい植木職人の剪定のようだ。監督作三本目にしてこの熟練っぷり、これからどんな映画を撮っていくのか、とても楽しみ。

“OK, Let's make a movie.” 大の大人が大嘘をつくために全力を尽くす、それって映画作りそのものじゃないか。アフレックの映画への愛が溢れた上質な作品です。“Argo, fuck yourself!”

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その他。

・『アルゴ』アントニオ・メンデス、マット・バグリオ
原作読んでみようー

・映画「アルゴ」特別企画|日本経済新聞 電子版特集
当時の新聞記事が読めます

・思えばリアルタイムでいちばん最初に憶えたアメリカ大統領てカーターだったわー。ホメイニ師も名前がこどもにはなんとなく面白い響き+氏じゃなくて師なんだーってので印象に残ってた…(世代)どういう人物かってのを知るのはずっと後の話

・パンフのデザインにニヤリ、手にとってみる迄気付かなかったー。シュレッダー怖い!

・タイタス・ウェリバー出てた。ベンアフ監督作品皆勤賞〜

・『ボーン・レガシー』の悪者ふたり(銃乱射のおっちゃん→国務省でゴネるひと、韓国のエージェント→カナダ大使夫人)がこっちにも出ていたので、裏切ったりするんじゃないかと違う意味でヒヤヒヤした……

・『ザ・タウン』でもそうだったけど、ベンアフってときどきえっなんでそこでって言う自分のポカーン顔ショットを入れるけど、あれ結構いいアクセントになりますねー。印象に残るわ

・映写機トラブルで上映開始が遅れ、予告はホビットさんの一本だけ。その後NO MORE 映画泥棒が流れてすぐ本編だったので心の準備が!始まる前からハラハラドキドキですよ

・偽映画『アルゴ』も実はちょっと観たい。完成させてほしかった(笑)

・こういう理由でお蔵入りになった映画って、実は他にも沢山あったりするのかなー