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2012年08月25日(土)
『トロイラスとクレシダ』

『トロイラスとクレシダ』@彩の国さいたま芸術劇場 大ホール

彩の国シェイクスピア・シリーズ第26弾と言うことで、そろそろこのシリーズも佳境に入りつつあります。全作品を上演となると、いくらシェイクスピアと言えどもピンキリで、『トロイラスとクレシダ』はんん〜なんと言うか〜珍作の部類に入ると思われます(バッサリ)。悲劇であり乍ら当事者はふたりとも生き続け、トロイ戦争の途中から途中迄と言う中途半端な時期を描くと言うなんとももや〜とした幕開き、幕切れです。とは言ってもトロイ戦争は歴史的にも有名な戦争、最後どうなるかの知識は観る側にある。何故この物語はこの部分に焦点を合わせて書かれたのか、それを演出家と役者がどう見せるか、が見どころになります。

蜷川さんの交通整理は流石の熟練。シェイクスピア作品って、初見が蜷川さんだと単純に「これはこういう話なんだ」と言うのがハッキリ理解出来ます。古典劇って他の演出だと、結局どういう話だったんだこれ、となることが多いんですね。今回はたかお鷹さん演じる序詞と、小野武彦さん演じるパンダロスが幕開きと幕切れのモノローグを司り、時代背景、人間関係を解りやすく提示してくれました。で、どういう話か解るからこそ、ホンがえらい中途半端だなあと言うことも解る(苦笑)。

気になるところは多々ある。今回公演前に出ていた記事では、オールメールシリーズ初の悲劇、と言うことを前面に押し出したものが多かったんですね。しかし実際観てみると、結構笑えるところが多くて。特に後半。正直登場人物がバカと卑怯者ばっかりなので「ひとって、愚か…」と言う意味でかなり笑えるのですが、それは結果としてそう見えてしまう人間の悲しさ、と言う提示ではなかったように思いました。笑わせる意図が明確にあった感じ。そこがひっかかる。そしてそれが、役者によって違うと言うか……。

例えば口語体ではない台詞で話しても、ある役者が発するそれは言葉のなかから意味を見出せるのだけど、他のある役者だと意味が頭になかなか入ってこない。ある役者が狂乱の演技をするとき、その容姿や様子はかなり滑稽であるにも関わらず語る台詞の内容に震撼し、だからこそその狂乱を恐ろしいものとして受け取れるが、他のある役者の愚行にはそれが感じられない。その差がかなりハッキリしていたのです。

そうなると、うーん、結果的にコメディ的な部分が増えたのは、真正面からの悲劇は無理かと演出家が判断してしまったのだろうか…と邪推してしまう……。個人的には悲劇は悲劇として観たかった。しかしそもそもこの作品は悲劇なんだろうか、と言う疑問も残ります。違う視点からのものも観てみたい。渡りに船で10月に山の手事情社が上演するとのことなので、こちらも観ようと思っています。思えば安田さんも、独特なサウンド+ヴィジュアル感覚の演出をする方だが、ホンの内容をクッキリ伝える腕を持つ演出家。楽しみです。

本日のカフェペペロネでは夏メニューで冷製トマトのスープパスタをいただきました、おいしかったー。