HOME ≪ 前日へ 航海日誌一覧 最新の日誌 翌日へ ≫

Ship


Sail ho!
Tohko HAYAMA
ご連絡は下記へ
郵便船

  



Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
年末のご挨拶

欧米がクリスマスでお休みになり、ぱったり情報が来なくなってしまったのを良いことに、年末大掃除と年賀状に明け暮れておりました。大晦日の本日とて、英文のニュースは無いのですが、とりあえず年末のご挨拶。

実はいまだに「M&C」の予告編に出会えない上に、ダイアルアップ接続のため動画が見られない私は蚊帳の外なのですが、「M&C」の日本公式ホームページと予告編について、いくつかのサイトで問題が指摘されているようです。
日本公式ホームページ http://www.movies.co.jp/masterandcommander/index.html
(個人ホームページからのリンクが禁止されているため、URLのみご紹介します)

とりあえず今私の手元には、友人が持ってきてくれた映画のチラシ(日本公開用)がありますが、確かにこの路線で予告編を作成したら実際の映画とはかなりかけ離れたものになる可能性はあると思われます。

このページは情報提供を第一としているので、批評ページではありませんのでコメントはさしひかえますが、映画のチラシを見て気づいた誤りのみ、訂正をご紹介したいと思います。

映画チラシ裏面「Story」
1805年--ヨーロッパ征服を狙うナポレオンの前に、多くの兵士の尊い命が犠牲になり、イギリス軍はその兵力を補うために、幼い少年達までも船上に送らざるをえなかった。

1789年のフランス革命直後から続いたフランスとの戦争のため、確かに多くの兵士の命が犠牲になりました。イギリス軍はその兵力を補うために多くの成人男子を強制徴募しました。それは事実であり、当時の英国では成人男性の労働力が奪われた結果、女性と子供だけで農場を切り盛りしなければないのはよくある話でした。
しかし、サプライズ号に幼い少年たちが乗り組んでいるのは、兵力不足が理由ではなく、また彼らは強制的に徴募されたわけでもありません。当時はそれがふつうのことだったのです。海軍士官への通常コースは12才で候補生として艦に乗り組むことに始まりました。17才で初乗艦だったホーンブロワーは「出遅れ組」で、そのため最初はかなり苦労しています。
12才で軍艦へ、というと驚かれる方も多いかもしれませんが、当時は日本でも江戸時代、男子の元服は15才でしたし、赤穂浪士の大石主税とて15才にはなっていません。
まぁつい5〜60年前の「おしん」にしてから、10才そこそこで一人前に奉公に出ているのですから、昔は子供が大人になるのは早かったのでしょう。

あとは細かいところですが、あおりについている英語、正しくはこうなります。

Commander → Captain
映画のタイトルが原作1巻の「マスター・アンド・コマンダー」なので無理もないのですが、ジャックの階級は確かに1巻ではCommanderですが、映画の原作となる10巻では一階級上のCaptainに昇進しています。映画の中でも実際に「Captain」と呼ばれています。

Soldier → Sailor (Warrior)
「戦士」と言いたいのかな? だとしたらwarrior。英語でsoldierと言ったら「陸軍の軍人」という意味。海軍の軍人はsailor。士官との対照でsoldierという場合は、common soldierとかcommon sailorと言うようにcommon(平の)という形容詞をつけることが多いです。もっともこの英語で紹介されているキャラミー(映画ではこの発音)君は候補生なので、平の水兵さんではありません。


今回は珍しく、私の訂正ではない訂正でしたね。
訂正の多いホームページを運営している身で他所の訂正というのもおこがましいのですが、来る年も出来るだけ訂正のない正確な情報紹介ページをめざして努力したいと思いますので、みなさまよろしくお願いいたします。


2003年12月31日(水)
【未見注意】M&Cを見てきました(2)

【未見注意】オーストラリアで見てきた「マスター・アンド・コマンダー」について、もう少し具体的にお話しようと思います。
ストーリーに関してねたバレはありませんが、登場人物や各シーンについては具体的な話しも出てくるため、ねたバレ警告を付しました。
また私なりの感想を先に読んでしまわれると、実際に映画を見る時に先入観が入ってしまう危険性もあります。
以上を覚悟の上で、先へお進みください。


パトリック・オブライアンの原作の欠点として指摘されることの一つに「船の生活を描きながら視点が主人公たちに傾きがちで、平水夫たちが描かれていない」という批判があります。
他の小説との比較で言えば、この批判は、他の士官たち准士官たちにも言えることかもしれません。
オブライアンは女性を含めてキャラクターを描き出すのが上手い作家ではありますが、描き込むキャラクターの数が限られてしまい、船全体を見た場合にもう一方の主役である平水夫たちや、中堅技術者である准士官たちにまで手がまわらないきらいがあります。
これは実はC.S.フォレスターの「ホーンブロワー」にも言えることなのですが、TV映画化された「ホーンブロワー」では全ての乗組員が見事な存在感を出していたのと同様、映画「マスター・アンド・コマンダー」も、決して艦長と軍医だけの映画ではなく、全ての乗組員に存在感があり、サプライズ号という一つの組織がみごとに描き出されています。

予告編(いまだに私は見られないのですが)をご覧になった方はお気づきのように、この物語のドラマ軸は、「艦長と軍医」と、「艦長と候補生たち」の二つですが、このドラマの影の目立たないところで、人間関係を締めているのは、副長と老航海長と、老水夫のジョー・プライスでしょう。この三人の存在感が、ドラマ全体に厚みを与えているのだと思います。
副長と航海長は、さほどセリフが多いわけでもないのですが、艦長とのさりげないやりとりの中に互いの信頼関係がはっきり見てとれるのがさすがです。でも副長…原作を読んでいた時、私はこの副長ってサプライズ号唯一の常識人だわ…と思ってたんですが、映画だとだいぶ艦長に巻き込まれてます。それも楽しそうに。やれやれ。

組織としてのサプライズ号が実に効率的に動いている、それがわかる細かい演出にも感心しました。カメラが艦長を追っていても、背景で指示を出している副長の指揮系統がきちんと動いているのがわかる…とか。このあたりが、ウィアー監督のこだわったリアルさなのでしょう。後ろで動いている水兵たちは、ドラマの背景ではなく、サプライズ号一家の雰囲気を伝える役割をきちんと果たしているのです。

サプライズ一家…と今つい書いてしまったのですが、映画「M&C」サプライズ号の持っている雰囲気って、なんだか本当に次郎長一家みたいなんですよね。ジャックって陽気で豪快だから、たしかに水兵に慕われたら実際にはあんな雰囲気になるんでしょうね(幸か不幸かオブライアンはあまりそういうシーンを原作では描いていないのですが)。やっぱりこれ「艦長(サー)!」より「おやぶんっ!」ですよ(苦笑)。それでも軍艦の規律が通ってるところがすごいですが。

艦長と水兵たちの距離が近くなってしまった結果、原作では艦長と水兵の仲立ち役になる艇長ボンデンの存在感が薄れてしまったのが残念。ガラパゴス島を除いては上陸シーンがないので、艇長としての出番もありませんし。せっかくビリー・ボイドをキャスティングしながらもったいないと思いました。キリックは艦長の身の回りのお世話をしている関係で、それなりに見せ場はあるんです。Kさんも書いていらっしゃいましたが、たぶん原作ファンがいちばん涙するのはキリックじゃないでしょうか? 本当にどんぴしゃりのキャスティングで、原作そのものいえそれ以上に素敵です(原作以上に艦長が気の毒…くすっ)。

けれどもやはり、賞賛すべきは主役の二人だと思います。確かに外見的にはラッセル・クロウもポール・ベタニーも、原作のジャックとスティーブンとは異なりますが、中身はそのもの。例えばディビット・スーシェのポワロや、ジェレミー・ブレットのホームズが、話し方や仕草やクセまでポワロやホームズであるように、クロウもベタニーも細かいところまでジャックとスティーブンなのです。だから本来の外見の差違があまり気にならない。本当によく原作を読み込んで演じているなぁと感心します。

船を中心に見た場合、「パイレーツ・オブ・カリビアン」の見所は何といっても右舷の錨を利用した方向転換でしょうけれど、「M&C」の場合は全編がみどころ(何といっても舞台は全て艦の上)でこれといったシーンを挙げることができません。強いていえば、フランス艦を縦射すべく回頭するところでしょうか? 
特殊効果撮影は本当によく出来ていて、どのシーンが模型でどのシーンが本物なのか、よく見ていないと気がつきません。実際のホーン岬で撮影した海の映像と合成した嵐のシーンは大変リアル(オーストラリアのヨット艇長が指摘した通り、ホーン岬の海の色は本当に独特です)とても船だけが模型とは思えない出来です。

実際に本物の重砲を使ったという音響効果、大砲の口径によって発射音が違う…と思います。最初のサプライズ号の発砲シーンで、ホーンブロワーで聴いていたレナウン号の大砲の音より高音なので「あれ?」と思ったのですが、後に撃ち返してきたフランス艦(こちらはサプライズ号より口径の大きい砲を搭載していると思われる)の音は、ホーンブロワーのレナウン号の音に近かった。この差はたぶん口径の差ですね。
この映画はぜひ是非ぜひ、絶対に3Dサラウンドの音響効果の良い映画館でご覧になってください。実際に跳弾は頭上高いところを飛んでいきますし、頭上から海兵隊が撃ち下ろしているのも実際にわかります。

以前に読んだ海外の映画評に「この映画はbloody realisticだ」という一文があり、もしこのbloody(大変、どえらく…の他に血まみれの意味もある)が文字通りだったら、私ちょっと目をそむけるかも…と恐れていたのですが、そこはウィアー監督、不必要に血を流すことはありませんでした。だからと言って死の意味が軽くなるわけではないのですが。
ウィアー監督は「Uボート」のような映画を作りたいと言って「M&C」を製作したわけですが、確かにこれはUボートだけれども(ペーターゼン監督ではなく)ウィアー監督のUボートだとつくづく思います。この映画はエピック・ムービー、アクション映画というカテゴリーに分類されるでしょうが、基本的にまず第一に、人間の機微を描こうとするウィアー監督の映画なのだということを一番強く感じました。

お詫びと訂正:12月4日にご紹介したポール・ベタニーの記事で、「ベタニーがカブト虫に手を焼いた」という話しがあったと思いますが、実際に映画を見てみたら、この甲虫はかぶと虫より小さいものでした。日本で言うところの「かなぶん」サイズの大きさです(色が違うので、あの虫をかなぶんとは言わないと思いますが)。訂正させていただきます。
追記:かなぶん…の他に、コクゾウムシも映画には登場なさいます(それもどアップです)。おたのしみに。


2003年12月23日(火)
スティーブン・マチュリンの造形

米シカゴ・トリビューン紙に、面白い記事がありましたのでご紹介します。

English actor Paul Bettany finds, for him, it's 'Carry on, doctor'
ポール・ベタニーは主に舞台とヨーロッパの映画で活躍してきた性格俳優である。背が高く痩身のベタニーの外見は、「ギャングスターNo.1」の殺人鬼から、「The Heart of Me」の妻を愛しながらも不誠実な夫まで、演じる役によって様々に変化する。
アメリカではベタニーは、「ビューティフル・マインド」の、ラッセル・クロウのルームメイト役が知られているが、「マスター・アンド・コマンダー」では、彼は再びクロウと、複雑な友人関係を演じている。

監督のウィアーによれば、マチュリンは現代的なキャラクターで、(できごとの背景に)今日的な理由を追及するが、オーブリーは、賢明な戦士ではあるものの、当時の絶対専制的な権力に律されており、今となっては歴史のゴミ箱行きの人物である。
長年の友人である二人だが、フランス艦の追撃というストーリー展開の中で、その違いは表面化、激しく対立することによってドラマは盛り上がる。「(この物語で)魅力的なのは、二人には共に、身にあまる巨大な目的があり、常にその目的と格闘してきたということだ。その中で二人の友情の歴史はつづられている。オーブリーはその目的に見込みと希望を見ているが、マチュリンは裏切られたような気持ちを抱いている」
クロウの相手役のキャスティングにベタニーを選ぶことは、最初の時点で明白に決まっていた。「ラッセルの相手役には(共演経験のない)新しい俳優を選ぶことも、考えるべきだったかもしれない。それより何よりベタニーの外見は原作のマチュリンの外見(小男の設定)とは似てもにつかない」
「だが、ラッセル・クロウのような圧倒的な存在感のある俳優を向こうにまわし、正面から渡り合える役者はそう多くない」とウィアー監督は言う。
ベタニー曰く永遠に続くのではないかと思われたオーディションの後に、ウィアー監督は、ベタニーこそがもっともオブライアンのマチュリンにふさわしい人物、との結論に達した。「彼はたとえ二年一緒に航海しても尽きない話題を提供できる人物だ。ポールにはスクリーンでの存在感がある。二人の人間関係と友情を描いたこの映画にとって、それはもっとも大切なことだ」

二人の間には、すでに「ビューティフル・マインド」で確立した友情と絆があった。ベタニーの言を借りれば、音楽とピータ・クックの物真似と、罵詈雑言とクラレット(赤葡萄酒)…という共通項が。
「僕はラッセルを信頼しているし、彼も僕を信じてくれる。あまりよく知らない信用できるかどうかわからない人間と仕事をする時は、相手のエゴを傷つけたりしないかと心配をするものだが、彼と僕の間にはそんな気遣いはまったく必要ないと言える。“ダメだ、そんなのはクソだよ”と言って議論になっても、あけすけな物言いや手のうちをさらけだすような発言で互いを傷つけるようなことはない。“私はここをこのように変えた方がよろしいでしょうか?”とか“その場合、あなたの演じるキャラクターはどのように反応されますか?”なんていう議論は必要ないんだ」

ウィアー監督はこの作品を、しかし、友情についての映画ではなく、(船という閉ざされた)世界の中で、友情とは何かについて学ぶ映画であると語る。
原作ファンの一部は、映画に落胆を覚えるかもしれない。ウィアー監督は、二人の友情のなれそめを説明する必要はないと考えているし、マチュリンが諜報員として暗殺者としての顔を見せることもない。
ベタニー自身も、マチュリンという人物の膨大な人格の一部しか見せることが出来なかったと語っている。「彼はきっと、10年間たった一人で独房に閉じこめられていたとしても、出てきた時には以前と全く変わりがない…というような人物だろう。僕だったらもちろん気が狂ってしまうだろうけど」
彼を理解し、彼の技術を学ぶべく、ベタニーはロンドンの国立外科医科大学(Royal College of Surgeon)やスクリップス海洋研究所(Scripps Institute of Oceanographic Study)の専門家たちの助力を得た。
面白いことに、マチュリンという人物を理解するのに最も役立ったのは、以前に録画されたパトリック・オブライアンのインタビュー映像だったとベタニーは言う。「原作者が最も自己を投影しているキャラクターはスティーブン・マチュリンだと一般には信じられている。この小説は半分自伝のようなものだとね」

教師と秘書(ただし役者としての経験はある)の両親を持つベタニーは、演技という仕事は、常に何か新しく学ぶものが無くなってしまえば、時間の浪費にすぎないと言う。ロケ現場で一緒だったスタッフに言わせれば、ベタニーは真摯で、好奇心旺盛で、自己批判厳しく、面白い奴だが決して無理はいわない人だとのこと。
クロウとベタニーは本当に一生懸命バイオリンとチェロの練習をしていたとウィアー監督は語るが、ベタニーは「僕たちは7ヶ月練習したけど、出来は二人して怪我した獣を殺そうとしているような音しか出なかった」実際にそのシーンを撮影する時は、BGMにプロの演奏を流しながら演奏したそうだ。だが苦労した甲斐はあったとベタニーは考えている。

完成した映画に、彼は満足しているが、だからと言ってハリウッドに行ったきりになるつもりはない。これについて外交的な言い回しをすると「僕はエピック・ムービーが好きだ。ハリウッドはこのジャンルが得意だ。英国ではこれほどの予算と規模でエピック・ムービーは撮れない」とのこと。


2003年12月22日(月)
ホビットの襲撃

「ホビットの襲撃」という本日のタイトルは2つ目と3つ目の記事に由来しますが、まずはピーター・ウィアー監督の記事からご紹介。

20 years later, Peter Weir remembers Kuh, Bembol
記事のタイトルになっているBembol、Kuhというのは、20年前にウィアー監督の「危険な年」に出演した俳優さんと女優さんの名前です。
この記事は広くウィアー監督のフィルモグラフィーを紹介していますが、ここでは「M&C」に関係する部分のみご紹介します。

ピーター・ウィアーは、俳優からの発露を重んじる監督であり、リハーサルを行わないことで有名、もしくは悪名高い。「素晴らしいキャスティングの結果、優秀な俳優が揃えば、多くを説明する必要はない。俳優が事前によく準備をし、監督も万全の態勢でのぞめば、それは生まれるものなんだ。だから私はリハーサルを好まない」
軍医マチュリンを演じたポール・ベタニーも、メキシコの撮影現場に入るまでに事前準備をすませてきた。「ポールは手術シーンを撮影する前に、ロンドンで外科医の指導を受けてきた。だからリハーサルの必要はなかった。目の前に負傷者が横たわっていて、彼は手術をしなければならない、さあこれがナイフだ」という具合だ。
ウィアー監督の鋭い洞察力は、ラッセル・クロウを「予測不能」の俳優と評する。彼がどのように反応するか、どのように応えるか、決して知ることはできない。「それは、役者としては、素晴らしい才能だと言える。映画にとっても素晴らしいことだ。予測可能な映画など、ある意味、死んだ映画も同然だからだ」
この映画の続編の制作が決まった場合、再び監督するかとの問いに対して、ウィアー監督は「続編にはあまり興味を覚えないのではないか」と答えている。「ゴッド・ファーザーと、ロード・オブ・ザ・リングを例外とすれば、たいてい第二作、第三作は第一作ほど面白くはないものだ」

…in working-class society you couldn't say you wanted tobe an actor
英国スコットランドの地方紙The Scotsmanから、12月に2本の出演映画が公開されるビリー・ボイドについての記事です。

ビリー・ボイドにとって「マスター・アンド・コマンダー」の魅力は、監督がピーター・ウィアーであったことだ。「僕はずっとウィアー監督の映画のファンだった。だから監督の作品への出演を断ることなんて考えられなかった」
ボイドはラッセル・クロウ演じるオーブリー艦長付きの艇長バレット・ボンデンを演じている。彼の言を借りれば、この映画製作はまるで「少年時代の冒険物語」のような経験だった。
だが、「M&C」での彼の役割は、ロード・オブ・ザ・リングの最後を飾る第三作「王の帰還」でのピピンの役割に比べれば、小さなものだ。
「第三作はピピンにとって最高の映画だよ。彼は偶然から英雄になってしまう。またガンダルフと行動を共にするんだが、この二人の関係はなかなか面白い。なんといっても「旅の仲間」の最年長と最年少だからね」
そんなボイドにとって、「王の帰還」の最終撮影は感慨深いものだった。「誰かが言ったんだ。『そのホビットの足を履くのも今日が最後だな』って、そしたら胸がぐっと詰まった」
ボイドは、そのホビットの足を記念にもらったが、それを履くのはリタイア後の楽しみにしようと考えている。もっともリタイアというのは、今彼の頭に中にある最も遠い概念だろう。
ボイドはハリウッドの超大作より、創造から得られる充実感の方により興味があるようだ。
地に足のついた彼の生き方は、その生い立ちに理由を求められるかもしれない。
グラスゴーの低所得者用住宅で育ち、15才になる前に両親を亡くして祖母に育てられた彼は、役者になりたいと思っていたものの、いったんは生計のために製本職人として働くことになった。
グラスゴーの市民劇場(Glasgow's Citizen's Theatre)でハムレットを演じるのが彼の野望だが、その夢は来年叶いそうな気配である。


12月20日を過ぎて、映画専門誌が出そろいましたが、まだ「M&C」には早いようです。その中で、これもまだ日本公開には早いのですが、PREMIERE誌日本版がロード・オブ・ザ・リングのホビット4人組(イライジャ・ウッド、ショーン・アスティン、ドミニク・モナハン、そしてボンデン役でもあるビリー。ボイド)を表紙にして彼ら四人のインタビューとエピソードを掲載しているのですが、この中にとんでもない話が出てきます。
ビリーがメキシコで「マスター・アンド・コマンダー」を撮影していた間、ロサンゼルス在住の他の3人のホビットたちもとい俳優たちは、ときどきビリーを尋ねて遊びに来ていました。ビリーは彼らが遊びに来ると、週末のラッセル艦長のラグビーチームを欠席させてもらって、ホビットたちとサーフィンに行っていたようです(この話はすぐ上のThe Scotmanの記事にもチラッと出てきます)。
ホビットたちのいたずら好きは有名で、「ロード…」の撮影中にもヴィゴ・モーテンセン(アラゴルン)やオーランド・ブルーム(レゴラス)はいろいろな目にあったようですが、このホビットたち、なんと「マスター・アンド・コマンダー」の撮影現場にやってきて、持参したバイアグラをビュッフェのドリンクに混入しようとしたのですが…、それはビリーが必死に説得してやめさせたそうです。(PREMIERE日本版2月号P.49より)

…これ、実現したらいったいどういうことになっていたんでしょう? いったいどれくらいの時間で我らがマチュリン先生は、水兵たちに現れた症状を分析して原因を突き止められたのでしょう? 先任衛兵伍長は犯人たるホビットを捕まえることが出来たのでしょうか? こういう場合って艦長の裁断はやっぱり鞭打ち刑なんでしょうか? でも格子板にくくりつけられたピピンとメリーを救うべく、ボロミア…じゃないリチャード・シャープとライフル銃兵が斬り込んできたらこわいなぁ…限りなく脱線しそうなので、本日はここら辺にて。


…しかし本来ホビットは平和な種族の筈では…。


2003年12月21日(日)
ゴールデン・グローブ賞ノミネート

アカデミー賞前哨戦の山場の一つ、ゴールデン・グローブ賞のノミネートが出ました。
渡辺謙が助演男優賞にノミネートされたことは日本の新聞にも報道されていますが、「マスター・アンド・コマンダー」も作品賞(ドラマ部門)、監督賞、主演男優賞にノミネートされています。
各賞の発表は来年1月25日となります。

作品賞(ドラマ部門)ノミネート
コールド・マウンテン
ロード・オブ・ザ・リング:王の帰還
マスター・アンド・コマンダー
ミスティック・リバー
シービスケット

主演男優賞
ラッセル・クロウ(マスター・アンド・コマンダー)
トム・クルーズ(ラスト・サムライ)
ベン・キングズレー(House of Sand and Fog)
ジュード・ロウ(コールド・マウンテン)
ショーン・ペン(ミスティック・リバー)

監督賞
ソフィア・コッポラ(Lost in Translation)
クリント・イーストウッド(ミスティック・リバー)
ピーター・ジャクソン(ロード・オブ・ザ・リング:王の帰還)
アンソニー・ミンゲラ(コールド・マウンテン)
ピーター・ウィアー(マスター・アンド・コマンダー)


ところで、話題の「ラスト・サムライ」を見に行ってきました。
こちらはハリウッドらしい時代モノに仕上がっています。馬がだーっと走って、派手な爆発が上がって劇的なオーケストラ音楽がジャンジャンジャーンと感動を盛り上げる。
「マスター・アンド・コマンダー」とは対照的です。
個人的にはですから、作品と監督は「マスター・アンド・コマンダー」、主演と助演は「ラスト・サムライ」というこのノミネートの意図はわかるような気がするのです。
ラッセルとポールの演技はきめ細やかなんですが、トムと渡辺謙は迫力で大熱演…という感じで、一般的にはトムの方がうけるだろうなぁと思われるのですが。

渡辺謙の演じる勝元は、海外の評価が高いのもうなづけます。トム演じるオールグレンを惚れ込ませるだけの、将としての器とオーラがある。といってとりたてて特別な演技をしているわけではなく、最明寺入道時頼さま(大河ドラマ「北条時宗」の父役)がそのまんま勝元をやっている印象。日本の演技はそのままハリウッドでも通じるのだなぁと思いました。
ただストーリーそのものとしては、うーーーーーん。

私は大学時代の専攻が日本史だったこともあって、ちょっと見る目が厳しいかもしれないんですが、
「この映画のテーマは根本的に間違っていないか?」…と。
これを明治の近代化だと外国人に信じ込まれると、ちょっと、いや大幅に困るなぁ。
武士道って士族反乱の鎮圧とともに消えたものではないと思うのですよ。
実際は形を変えて、「ラストサムライ」では近代装備で武士道を鎮圧したことになっている帝国陸軍などの中に、1945年まで生き続けていたわけで、それを完全に消し去ったのはGHQ…というか、アメリカではないのかしら? それを今になって、どうしてアメリカ人が、こんな映画を作って敢えて武士道をこんな形で肯定評価するのか。
というか、たぶんその原因は、ズウィック監督の考える武士道と、当時の日本人(江戸初期ではなく明治の)の実際の武士観念との差にあるんじゃないかと。
アメリカ人が憧れる武士道のイメージは、かなり観念的哲学的なもので、実際に日本人の武士階級あるいは明治以後の士族階級の生活律の中に生きていた武士の身の処し方とは異なるものなんじゃないかと。
それが、いちばんのこの映画の問題じゃないかと思うのですが。

まぁでもアメリカ人の視点やハリウッドの時代劇が新鮮だったことは確かです。
トムと真田広之の立ち会いは大迫力。数台のカメラで様々な角度から撮った映像を短いカットで組み合わせてあるのですが、動きがとても綺麗に見えるんです。日本の時代劇って視点(たぶんカメラ)が固定しているのではと推察しますが、スピード感のある殺陣にはこちらの方が合うと思います。

「ラスト・サムライ」に行くと「M&C」の予告が見られるというので楽しみにしていたのですが、松竹(ピカデリー)系ではダメでしたわ。「ハリポタ3」の予告は見てしまったけれども。


2003年12月20日(土)
「M&C」は男性向け?女性向け?

この記事はどちらかというと男性向けなのでしょうか? アメリカではそのようなことはないのでしょうか?

Gun experts get a bang out of working on film
米ケンタッキー州在住のフランク・ハウスと、スティーブン・オーヴェンシャインは、映画「マスター・アンド・コマンダー」の武器係スタッフとして、200挺に及ぶフリントロック式ライフル銃やピストルの装填や整備を担当しただけではなく、ラッセル・クロウを始めとする出演者全員にフリントロック式火器の取り扱いを教える役目も果たした。
戦闘シーンの撮影時には、サプライズ号の檣頭に一日中待機し、海兵隊用のマスケット銃を装填する。撮影が始まるとカメラを避けて帆布の下に隠れるが、「カット」の声がかかると這い出して、ただちに全ての銃を再装填する…という作業を繰り返した。
フランク・ハウスは、開拓時代の銃の複製で有名な鉄砲職人である。彼が映画の仕事をするのはこれが初めてではない。2000年に公開されたメル・ギブスン主演の「パトリオット」(アメリカ独立戦争を舞台にした映画)でも撮影用の複製銃の製作を担当した。彼の技に感心したメル・ギブスンは、撮影後ハウスに、ケンタッキー・ロング・ライフルを注文している。
「M&C」の撮影スタッフに「パトリオット」の関係者がいたことから、ハウスに仕事の依頼が来た。ハウスは同郷の、やはり18世紀の火器の専門家であるオーヴェンシャインに声をかけた。オーヴェンシャインの本業はケンタッキー州警察の騎馬警官である。
映画撮影用には、模型ではなく本物のフリントロック銃が使用された。これらの銃に弾丸は装填されていないものの、取り扱いを誤れば火傷など事故の原因となる。また接近戦での発砲には危険が伴った。ハウスとオーヴェンシャインは事故のないように、火薬の量などに工夫をこらした。
撮影終了後、ラッセル・クロウは、ハウスの製作した銃(.66-caliber pistols)を手元に置きたいと希望した。「だから今は、私の作った銃がラッセル・クロウ、メル・ギブスン二人の元にあることになるんだ」とフランク・ハウスは語る。「それは素敵なことじゃないか」

A Salute to peers of old -- Sailors say Crowe masters commander's role
現役の軍人たちは、現在話題の映画をどう見るのか? ロサンゼルス・タイムス紙では、サンディエゴ在住の海軍と海兵隊の関係者を招き、それぞれ「マスター・アンド・コマンダー」、「ラスト・サムライ」を見た感想を尋ねた。
ここでは、「マスター・アンド・コマンダー」の部分のみを紹介します。

サンディエゴを基地とするミサイル駆逐艦、フリゲート艦の現役艦長たちは、「マスター・アンド・コマンダー」を見て、鞭打ち刑が姿を消して久しいが、リーダーシップの原則は、現代でもオーブリー艦長の時代と何ら変わることはない、と口々に語った。
艦長と乗組員との間に必ずしも友情は必要ないが、互いの尊重は艦の運営上不可欠である。「ジャック・オーブリーは部下を導く方法を心得ている。くまなく艦内をまわって状況を把握する。艦長室に座ったまま報告を待っているようなことはしない」と指摘するのは、ミサイル駆逐艦の艦長である中佐。
「真のリーダーシップは、よく目を開き耳を傾けることから始まる」と、インタビューを受けた海軍中将は語る。「オーブリーは経験豊かな船乗り(例えば年配の航海長)の意見に耳を傾け、ないがしろにすることはない。助言は受け入れるが、しかし、最終的に決断を下すのは艦長だ。オーブリーはそれをよく承知している」
オーブリーはまた、地位に能力の伴わない部下の問題にも直面する。これは艦長にとって最も困難な問題の一つだが、オーブリーはこれにもよく対処している。「部下を訓練すると同時に、指導者として導くこともしなければならない。それによって能力を発揮するようになる者もあるが、出来ない者もいる。
映画の中でオーブリーはネルソン卿との思い出を語るが、インタビューを受けた艦長全員が、彼らのリーダーシップや船乗りとしての資質形成にあたって、深い影響を受けた上官の名を上げることが出来ると答えた。
「M&C」の時代にもこんにちにも変わらないものはある。
艦は艦長の人となり、強さ弱さをそのまま体現するものであるということ。
そして、この映画は艦長として海に出ることの、二つの側面を見事に描き出している。生死の決断を下さなければならない重責と、そして、大海原で軍艦を自在に指揮することの喜びである。


この記事、日本語で訳してしまうと気付かないのですが、実はこの記事に登場する海軍士官たちのうち二人は女性です。一人は海軍中将、一人はミサイル駆逐艦の艦長(中佐)。
「マスター・アンド・コマンダー」の公開前に、果たしてこの映画を女性が見に来るのか?という心配がなされていたという記事は以前にご紹介しました。蓋を開けてみると、心配されていたようなことはなく、観客は男女半々のようです。
「女性はこの映画を見ないだろう」と断言したある評論家のホームページには、女性たちからの批判が殺到していまして、そりゃあ男女平等の唄われるアメリカで、評論家もそこまで断言しちゃったら血まつりでしょう…と思いましたが、実際に女性の艦長が存在するとは、びっくりでした。

日本でこの映画がどのように見られるかわかりません。が、個人的には…私は女性ですが組織の一員として宮仕えしている身ですので、海洋小説に描かれる人間関係の中には共感できるものがあることも確かです。私は管理職ではないので艦長の気持ちはわかりかねますが、下位レベルの士官、准士官クラスのトラブルの中には、平和な日本の会社組織でも他人事とは思えないものがありますので。
まぁもちろん、艦長がかっこいいとか、候補生がかわいくて健気だ…とかも魅力なのですけれどもね。(実は航海長が渋くて素敵…と思うのだけれども、これはちょっと爺さま趣味かしら?)


2003年12月19日(金)
AFIベスト10、米放送映画批評家協会賞ノミネート

アカデミー賞の前哨戦と言われるAFIベスト10、米放送映画批評家協会賞のノミネート、ニューヨーク映画批評家協会賞などが続々と発表されています。

アメリカン・フィルム・インスティテュート(AFI)は、12月15日に2003年の映画ベスト10を発表しましたが、この中に「マスター&コマンダー」が含まれています。
AFIは毎年、映画とテレビ番組のベスト10を順位付けしないで発表しており、これは毎年翌年2月に発表されるアカデミー賞の選考に寄与するため2000年に創設されたもの。
発表された10作品は以下の通りです。

AFI2003年映画ベスト10
- American Splendor
- Finding Nemo
- The Human Stain
- In America
- The Last Samurai
- The Lord of the Rings: The Return of the King
- Lost in Translation
- Master and Commander: The Far Side of the World
- Mystic River
- Monster


アメリカ放送映画批評家協会賞のノミネートも16日に発表されました。ノミネート作品、個人は以下の通り。「M&C」は作品賞のほか、主演・助演男優賞にノミネートされています。渡辺謙にもノミネートが来ていますね。
受賞者決定の発表は来年1月10日とのことです。

2003年アメリカ放送映画批評家協会賞候補
Best Picture:作品賞
Big Fish
Cold Mountain
Finding Nemo
In America
The Last Samurai
The Lord of the Rings: The Return of the King
Lost In Translation
Master and Commander: The Far Side of the World
Mystic River
Seabiscuit

Best Actor:主演男優賞
Russell Crowe - Master and Commander: The Far Side of the World
Johnny Depp - Pirates of the Caribbean: The Curse of the Black Pearl
Ben Kingsley - House of Sand & Fog
Bill Murray - Lost In Translation
Sean Penn - Mystic River

Best Actress:主演女優賞
Jennifer Connelly - House of Sand & Fog
Diane Keaton - Something's Gotta Give
Nicole Kidman - Cold Mountain
Samantha Morton - In America
Charlize Theron - Monster
Naomi Watts - 21 Grams

Best Supporting Actor:助演男優賞
Alec Baldwin - The Cooler
Paul Bettany - Master and Commander: The Far Side of the World
Benicio del Toro - 21 Grams
Tim Robbins - Mystic River
Ken Watanabe 渡辺謙 - The Last Samurai

Best Supporting Actress:助演女優賞
Patricia Clarkson - Pieces of April
Marcia Gay Harden - Mystic River
Holly Hunter - Thirteen
Scarlett Johansson - Lost In Translation
Renee Zellweger - Cold Mountain

Best Director:監督賞
Tim Burton - Big Fish
Sofia Coppola - Lost In Translation
Clint Eastwood - Mystic River
Peter Jackson - The Lord of the Rings: The Return of the King
Jim Sheridan - In America

Best Writer:脚本賞
Jim Sheridan, Kirsten Sheridan, Naomi Sheridan - In America
John August - Big Fish
Sofia Coppola - Lost In Translation
Brian Helgeland - Mystic River
Gary Ross - Seabiscuit


アカデミー賞を占う有力映画賞としては、この他に、ニューヨーク映画批評家協会賞とロサンゼルス映画批評家協会賞がありますが、ニューヨーク協会賞は15日に発表され結果は下記の通り。ロサンゼルス協会賞の発表は、12月10日現在では未定。

2003年ニューヨーク映画批評家協会賞
作品賞:ロード・オブ・ザ・リング:王の帰還
監督賞:ソフィア・コッポラ(Lost in Translation)


2003年12月17日(水)
「M&C」を見てきました

お休みをいただいた先週末、実は3日間で海外に行っていました。行き先はオーストラリア・ケアンズ。南太平洋を見に行きました。グレートバリア・リーフと、それから映画の中の海。オーストラリアでは12月1日から公開の「マスター・アンド・コマンダー」を見に。

ケアンズ旅行記の方はいずれ、遡りで12月7日〜9日付けにupさせていただくとして、やはりこのHPの管理人としては先にご報告すべきは映画のこと。
映画の日本公開までまだ2ヶ月もありますので、基本的にはまず、ねたバレなしのご報告をしようと思います。
ただし、ストーリー的にはねたバレがなくとも、私なりの感想を先に読んでしまわれると、それなりに先入観が入る可能性はあると思います。
そこで、映画の感想は2回にわけてupすることにしました。今日upするものは、先入観の入る余地が低い感想。そして第二弾はいちおう【未見注意】の警告を付記した上で、多少先入観の入る可能性のある、けれどもストーリー的にはねたバレなしの感想を上げようと思っています。

****************************************************

映画を見終わって最初に思ったのは「感謝」でした。
この映画をこのように作ったピーター・ウィアー監督と、そしてこのような映画を許した20世紀FOXのトム・ロスマン会長に、深い感謝を。
この映画は制作費1億ドルをかけたハリウッドの超大作としては破格です。はっきり言って全くハリウッドらしくない作品。
ハリウッドで映画化された英国冒険小説の中ではいちばん地味で。そして、最も原作スピリットが生きている作品だと思います。

英国の冒険小説をハリウッドが映画化すると、やたらドンパチの派手な勧善懲悪になってしまい、原作にはきちんと描かれている、勇敢な行為の裏にある苦渋であるとか、勝利の代償というものはないがしろにされがち、それがハリウッドの好みでありアメリカ人の好みなのだ…と私はずっと思っていました。
「マスター&コマンダー」について、英国の新聞が「この作品は原作そのものではない。だが見事に原作のスピリットが生きている」と評した時、正直、半信半疑でした。でもこの新聞評は本当でした。

もちろん原作よりはストーリー展開は派手になっていますし、一般向けに甘くもなっています。でもその程度は英国でTVドラマ化された「ホーンブロワー」と同程度、いやひょっとすると「M&C」の方がより地味かもしれません。
よくもこんな地味な映画が作れたもの…というか、そりゃあこれだけハリウッドらしくなかったら途中共同製作会社から横ヤリが入るのも当たり前(この記事は11月13日にご紹介しました)、でもその横ヤリに対して最後までウィアー監督の演出方針を守り通してくれたFOX社には本当に感謝。
初めて英国冒険小説のスピリットが生きているハリウッド映画に出会えたと思っています。

以下ポイントごとに印象を書いていこうと思います。

ジャックとスティーブンについて:
外見的には原作と異なる、と心配されていたジャックとスティーブンですが、どうしてどうして、中身はしっかりジャックとスティーブンでした。
ラッセルの外見や公開されているスチール写真はこわもてかつかっこ良すぎに見えますが、動き始めると明るく陽気で豪快、艦長の威厳と存在感を保持しつつ、でも時々(ソフィーの愛する)子供のような無邪気な顔もかいま見えたりして「あぁこの人やっぱりジャックだわ」と納得してしまいます。
スティーブンは、いや本来ポール・ベタニーってかなりかっこいい俳優さんだと思うんですが、その鋭さやかっこよさが今回は完全になりを潜めていまして、ふだんは患者に頼られる穏やかな医者の顔をしているんです。時々ちょっととぼけた味も出たりして、ところがご存じの通りスティーブンは必要とあれば非情にもなれる人なので、そういうシーンになると鋭さや一瞬の怖さがのぞく…この切り替えがなかなか見事です。
ただスティーブンに関して言えば、残念ながら今回はストーリーの展開上(すべて艦の上で話が進むため)、彼が諜報員としての顔を見せることはありません。ブラジルで達者なポルトガル語を披露したり、銃の腕を見せたりするシーンはありますが。

ストーリーについて:
原作とされている10巻「The Far Side of the World」については、1月下旬に早川書房から翻訳出版が決定したようですが、映画のストーリー展開は原作からかなりはずれますし、結末も異なります。というより映画「The Far Side of the World」は、原作10巻の大枠(設定とキャラクターと海軍省からの命令書とサプライズ号の航路)だけを借りてきて、もう一つ別の話を作った…と考えていただいて良いのではないかと思います。
先ほど書いた通り、ストーリー展開は原作よりは派手になっています。でもこれは映画である以上は致し方ないですね…まぁ原作はちょっとはずしすぎかもしれませんから(苦笑)。

サプライズ号の仲間たちについて:
映画「M&C」のいちばんの魅力はこれなのではないかと私は思います。上手く言葉に表現しにくいのですが、英語で言うところのcompanionship、日本語だと例えば会社だと社風とか、スポーツだとチームワークとか、一体感とか。つまりはジャック・オーブリーを艦長とするサプライズ号の乗組員たちが団体として持っている雰囲気とか団結力とか一体感とかそういうものなんですが、これが実に良く出ている映画だと思います。
見終わった時に、もう一度見に行きたいと思わされる原動力はこれ。映画を見ている間はサプライズ号と一緒に航海しているような気分になり、彼らと一緒にいられる。見終わってしばらくたつと、また彼らに会いたくなって、やっぱりもう一度見に行こうか…と言う気になる。そんな感じです。

以下原作8巻について、ちょっとネタバレしますが、この件を語るにはどうしても必要なことなのでお許しください。

サプライズ号は3巻でジャックの指揮艦でしたが、その後4巻で彼は戦列艦の艦長に出世し、いくつかの艦を渡り歩いた後、8巻で思いがけずも再びサプライズ号に戻ることになります。
10巻現在のサプライズ号の乗組員たちは、ボンデンやキリック、一部のかつての部下たちをのぞいては3巻のメンバーとは入れ替わっているのですが、8巻の冒頭で別の艦で英国を出航して以来9巻、10巻と3巻連続同一メンバーで航海を続けている設定になっています。ボライソー・シリーズで言えば7巻のテンペスト号状態、ラミジ・シリーズで言えばカリプソ号状態を想像していただければ良いと思います。
もとからこじんまりとしたフリゲート艦のこと、乗組員たちは互いにすっかり馴染みになっていますし、軍医の奇行にも慣れているし、上下を問わず和気藹々といった雰囲気です。もちろん軍艦としての規律は一本ぴしっと通っていますが、ジャックがあぁいう性格であることもあって、一般に言う英国海軍の鉄の規律をご存じの方は、驚かれるかもしれません。

この項、もう少し詳しく語りたいのですが、あまり皆さんに先入観を入れてしまってもいけませんので、日付を変えて、ねたバレ注意報付きで語りたいと思います。

年末を控え仕事が詰まっています。次回更新についてはまた何日かお待ちいただくことになるかもしれません。あしからずご了承くださいますよう。


2003年12月14日(日)
海星出航

横浜を母港とするセイルトレーニングシップ「海星」が、このたび横浜を去ることになったと聞き、ショックを受けています。

セイルトレーニング協会の方からまだ正式の発表が無いため、詳しい事情はわかりませんが、船の維持管理と運営事情に苦しいものがあり、繋船料の高い横浜を離れ、ひとまず沖縄をめざすとのこと。出航は当初予定では14日でしたが、現在のところは16日(火)となっているようです。
いずれにせよ来週末には、横浜のぷかり桟橋で海星の姿を見ることはできません。

たった一度、トレイニーとして体験航海に乗船させていただいただけの身にはおこがましいかもしれませんが、海星にふたたび横浜に帰ってきてもらえるよう、もし何か私に出来ること、このホームページでお役にたてるようなことがあればと思っております。何かありましたらお知らせくださいますよう、関係者の方へ、よろしくお願いいたします。


2003年12月13日(土)
「M&C」2004カレンダー

1週間お休みして申し訳ありませんでした。
海外情報はさすがにピークも越え、この1週間は以下の通りです。
あ…でもその前に国内情報、12月上旬発売の映画専門誌「Movie Star」にサンディエゴ・プレミアのラッセル・クロウ夫妻の写真記事が載っています。サンディエゴ・プレミアにはサプライズ(ローズ)号も参加したようですね。

ここ1週間の海外情報一覧。

まずは、カレンダー。
ラッセルのM&Cカレンダーがこちらからダウンロードできます。
画像は各月ごとに右クリックの画像保存(え…と、林檎機(Mac)の場合も同じかしら?)でダウンロードできますので、ダウンロード後にプリントアウトなさってください。

以下の記事はオーストラリアから、
Taking commandラッセル・クロウについて
Taking a bow映画音楽とバイオリン指導担当のリチャード・トグネッティについて
Rocking the boatポール・ベタニーについて
これらの記事、とりたてて新しい情報は無いのですが、アメリカのネットにいわく「新しい情報は何もないが、ポールの言うことはいつも面白い」。
これは確かに。ポールって基本的には真面目な人で、真摯にインタビューに答えているんですけど、やっぱり面白い人ですね。

また英国のGuardian紙から、2本。

Cooking the books
オブライアン、ジェーン・オースティン、チャールズ・ティケンズ、ジェームズ・ジョイス、イアン・フレミングを、小説に登場する料理から論じたコラム。
オブライアンの料理は「Food for work」と評され、当時の船乗りは1日3,500カロリーを採っていたこと(それで艦尾甲板を散歩するだけなら、確かに艦長は100kgをオーバーするはずだわ)とともに、「ボイルド・ベイビー」(プディングの一種)のレシピが紹介されています。

Read my lip flaps
lip flapsとは、日本語で俗に言うところの「口パク」のことのようです。
「M&C」のその他大勢の水兵たちの声(意味のあるセイフではなく、背後のガヤガヤ、戦闘時の叫び声や悲鳴など)の録音に関する記事。
ピーター・ウィアー監督のこだわりは細部にまで及び、水兵たちの声役の声優さんたちは、1805年当時の水兵たちの訛(スコットランド、アイルランド、イングランド各地)を正確に再現していった。この中にはクック艦長(エンデバー号で、南太平洋を航海した)に敬意を表して、ホイットニー地方の訛も加えられた。
訛の再現にあたっては、サプライズ号より大変だったのが、敵にあたるフランス艦だった。1805年当時のブルターニュ訛がどのようなものか、音響スタッフの中にわかるものがいなかったため、ウィアー監督はカナダ人の時代考証担当、ゴードン・ラコ氏に連絡をとった。ラコ氏はパリ在住の言語学者にメールを送り、その返事がカナダ経由でロンドンの録音スタジオに送られ、そして正確な発音の「Mort aux Anglais!」というセリフが録音されたのだった。


2003年12月12日(金)
New Hollandで2種類のフリゲートを見る(3)

さて午後は島へ上陸、ガイド付きバードウォッチング・ツァーです。

クルーズ船は島から100メートルくらい離れた水深のある沖に停泊しているので、島までは小型のランチボートで移動。
「島の砂は細かくて安全ですから、サンダルは船に置いていってください」と言われます。
このボートは船尾が、小型のカーフェリーのような渡り板になっていて、板をパタンと倒すと先端が砂浜に届くので足を濡らさず上陸できるような仕掛けにはなっているのですが。

この島にはいったい何万羽の鳥がいるのでしょう?


【島は鳥の楽園】

島の中央部は完全に鳥の保護区になっていて、ロープの向こうには人間サマの立入が禁じられています。
島の中央部、わずかばかりの草地には一面、鳥たちが座っているのですが、これは卵を抱いているのだそうで。そりゃあ、おじゃまするわけにはいきません。



【クロアジサシ】

立入禁止のロープにちゃっかり止まっているのはクロアジサシ。この島にもっとも多い小型の鳥です。
コイツはわりとこちゃこちゃっと飛んでいます。
大空を滑空していてカッコイイのはアジサシ。この鳥の名前はかなり昔(子供の頃)から知っていました。「北極のムーシカ、ミーシカ」という児童文学に出てくるんです。北極から南極まで飛んでいく渡り鳥だというので、子供心にもビックリしました。
「このアジサシも北極から南極まで行くんですか?」とガイドさんに尋ねたら、「この種類は行かない。でも日本まで飛んでいくのはいるよ」との答えでした。



【編隊飛行中】ちょっとフレームがずれてますが、何せ敵は飛行速度が速いので撮れただけでもほめて!



【これはバッチリ!】うふふ自信作です。



【こちらはカモメ】これもバッチリでしょう?

カモメはなかなかイタズラ者のようです。下の写真は「現行犯逮捕!」の瞬間をとらえたもの。
右端の奴が卵(たぶんクロアジサシの)を盗んで逃げているのを、左の2羽が追いかけているところ。
でも盗難被害者のクロアジサシはお気の毒。クロアジサシって1回に1個しか卵を産まないそうなので、盗まれてしまうと今年の雛はもう期待できないのだとか。


【ドロボー!:カモメの現行犯逮捕】



【Love Love】
愛をささやくクロアジサシ。
ガイドさんいわく、クロアジサシって一夫一婦で一生同じペアが連れ添うのだそうです。


解説の途中で突然、ガイドさんが「Look!」と叫んで空を指さしました。
「フリゲート・バード!」
青い空のかなり高いところを、すごい速さで滑空していく黒い翼。
か、かっこいい!


【フリゲート・バード】 ち、小さい。実際はアジサシよりはるかに大きいんですけどね。でもそれだけ高空なんです。


かっこいいです。この鳥。さすがフリゲート・バード。
やっぱりこれって、長さ2メートルにも及ぶという翼が帆(セイル)みたいに見えるからなの?
日本語ではこれを「グンカンドリ」って訳しているのですが、軍艦にしてははるかにスマートでスピーディなんですけど。
ガイドさんに尋ねました。
「フリゲート・バードってやっぱり、あの羽が帆のように見えるからなんですか?」
昨日、映画館でフリゲート艦サプライズ号を見てきたばかりなので、私の頭から現代のフリゲート艦のことはすっぽり抜けていて、18世紀の帆走フリゲート艦のイメージで尋ねてました。でも間違ってはいない筈よ。この鳥にこの名前がついたのはその当時の頃の筈だから。
ガイドさん答えて、
「わからないなぁ。そうにも見えるけど、あの鳥はとても攻撃的で、急降下しては他の鳥の卵をかっぱらう…なんてことはよくやるから、それでフリゲートなのかもしれない」
攻撃的だからフリゲート? フリゲートが喧嘩っ早いって固定イメージはいったいなんなんだ?
これって、いったい、誰が悪いんですか???
やっぱり…トマス・コクラン?
ジャックの時代に活躍した歴史上の人物として、この日記では何度か話題に出てきていますが、このトマス・コクランというお方とんでもない艦長で、艦隊司令官が攻撃を開始しないのに業を煮やし、わざと挑発して敵に自分の艦を攻撃させ、司令官を救援せざるをえない立場に追い込んで戦端を開かせてしまった…とか、いろいろとありまして…。

この鳥の名前の由来については、帰国してからちゃんと調べました。こちらのエンサイクロペディア.によれば「飛ぶ速度が速いので、船乗りがこの鳥をフリゲート・バードと呼んだ」のだそうです。
よかった。喧嘩っぱやいからじゃないのね。
速いからフリゲート…うん、これは納得。
ジャックの愛するサプライズ号の船足。原作3巻に登場するこのシーンは、映画にも漏れなく収録されていて、このシーンのジャックと副長の嬉しそうな顔ったら。

でもそうなるとやっぱり、フリゲートバードに軍艦鳥…という日本語訳は適切ではないですよね。
現代のイメージで言ったら、これは、さながらアメリカズ・カップに出場するようなレーシング・ヨットのイメージ。
いやホントに速くってかっこいいんですよ、フリゲート・バード。
…というわけで、「二種類のフリゲートを見る」というこのケアンズ旅行記のタイトルはここに由来しているのでした。

さてさて、あっという間にミコマスケイでの滞在時間が終わりとなり、出航時間が近づきました。
14時を過ぎるとダイニングルームに紅茶とケーキが準備され、乗客はスタッフに姓名を告げ、乗船名簿の自分の名前の横にサインしてからケーキを受け取ります。
これは誰かがケーキを2個とっていかないための用心…ではなくって、全員がミコマスケイから船に戻ってきているかスマートに確認する手段なのです。このためもちろん、ケーキを貰った人は再度上陸禁止です。

14時半出航、ケアンズへ。帰りはメインセイルが上がりますが、風があまり強くなかったせいか完全帆走にはなりませんでした(しくしく)。エンジンはかけっぱなし。
クルーズ船の場合、スケジュール厳守は至上命令なので、よほどのことのないかぎり風まかせにはならないよう。
それでも風の助けを借りた帰路は往路より早く、当初予定より45分早い17時前にケアンズ港着。


帰りは説明やスライド上映などのアクティビティが無いので、ずっと日陰の甲板にすわってぼ〜っと海を見ていました。
う〜ん、しあわせ。
時間に追われる日本の日常から、何もかも解放された感じ。
この日はさほど揺れませんでした。もちろん船ですから多少は揺れますけど、東京湾の中央部程度の揺れで外海の揺れではありません。


【キャプテン・クックの見た光景?】
前方の水平線に陸地が見えてきました。オーストラリア大陸の山ですが、形が形なので島のようにも見えます。
とつぜん気がついてしまったのですが、この景色ってキャプテン・クックの昔から変わっていないんですよね。
この景色はたぶん、クックが見ていたものと同じ。
19世紀の海洋小説を読むようになってから、私はあちらこちらに物語の舞台を尋ねてまわるようなりました。が、ほとんどの場所は200年の間に景色が変わってしまっています。
とくにヨーロッパは第二次大戦の影響が大きく、物語の舞台はどこも軍港でしたから爆撃がひどい。一見、時の流れが止まったかのように見えるマルタ島のグランド・ハーバーですら、全ては戦後の再建です。
彼らの見たものと同じ光景を見ることのできるのは、もはやこのような大自然の中だけなのかもしれません。

やがて前方に一群のビルが姿を現しました。これはクックの見なかった光景…ケアンズの海岸沿いの立つ高層ホテル群です。
ケアンズ港着は予定より30分早い17時。これはやはり帆の助けを借りたからでしょうか?

船を下りてすぐにLake Streetに走っていきました。お店が閉まる前に海図を買うためです。ケアンズ市内の商店はほとんどが平日18時閉店。いそがないと間に合いません。
クルーズ船の操舵室の横に貼ってあった海図が面白かったものだから、航海士さんに海図店の場所を尋ねたのでした。

ケアンズの海図店
ADAMS CHARTS & MAPS
Lake StreetのOrchid Plazaの真向かいの細い道を入った右側です。

私ったらアームチェアー・セイラー(本を読む専門)のクセして、妙な海図を持っていたりします(ファルマスとか、リオン湾とか)。
でも今回は自分で舵をとらずとも、ちゃんと船に乗って行ったルートだから良いですよね。

小説を読んでいてお得だなぁと思うのは、旅行をした時に旅先での楽しみが2倍になることです。今回だって、2003年のケアンズだけではなく、18世紀末のグレートバリア・リーフを平行して楽しむことができました。
鳥の観察だって、マチュリン先生やマーティン牧師や、古くはアーサー・ランサムのオオバンクラブの皆を知らなかったら、その楽しさがわからなかったでしょうし。

また実際に南太平洋を見た上で、海洋小説を読むと実感が違います。
ということは3倍に美味しい…ということでしょうか?
これからも小説とともに楽しい旅を味わっていきたいと思っています。


2003年12月09日(火)
New Hollandで2種類のフリゲートを見る(2)

今日は紺碧の南太平洋をもとめて、アウターリーフ・1日クルーズへ。
選んだのはオーシャン・スピリット社のミコマス・ケイ・クルーズ。船がカタマラン・ヨットで、一部でも帆走してくれるクルーズはこのオーシャン・スピリットだけ…と日本で仕入れた情報にはあったので、このクルーズに目をつけていたのでした。
現地で探してみると、もう少し安いヨット・クルーズ、パッション・オブ・パラダイスというツァーもありましたが、こちらは行き先が手前のグリーン島。ミコマスケイの方がもう少し沖まで行けることもあり、少し贅沢してこちらに決めました。

ケアンズの観光客向けヨット・クルーズ
◆オーシャン・スピリット・クルーズ
  料金:155豪ドル(12,400円)、日本人スタッフ1名乗船
 Ocean Spirt
◆パッション・オブ・パラダイス・クルーズ
  料金:89豪ドル(7,120円)、英語のみ
  Passions of Paradice

このほか、ヨットであることにこだわらなければ、完全日本語対応のツァークルーズはいろいろあります。が、日本語対応のツァーはすべて170豪ドルを超えてしまいます。これは日本語対応だからなのか、それとも風の力を借りない分だけ燃料代が20ドル余計にかかる…なんてことではありませんね、たぶん。

朝7時50分ピックアップ、出航8時半。
ミコマスケイはグレートバリア・リーフの自然保護区内にあるので、乗船時に外国人でもリーフ・タックス(珊瑚礁入場特別税)4.5ドルを支払います。
乗船するとまずは紅茶とクッキーのサービス。紅茶というところがさすが英連邦諸国です。

このツァーは原則、案内は英語ですが、各国からの乗客に対応して、南米(メキシコ)人や、日本人スタッフも1人ずつ乗船しています。
この船では帰航時に、その日の乗船客の国旗を満艦飾のように掲げてくれますが、この日は21カ国でした。オーストラリア、ニュージーランドなど地元大洋州、アメリカ、カナダの北米大陸、メキシコ、チリ、ブラジル、アルゼンチンなどの中南米諸国、シンガポール、マレーシア、インドネシアなどのアジア、イギリスなどヨーロッパ諸国、タンザニア、ケニアなどアフリカからも。オーストラリアの地理的な位置を考えると納得ですが、ここまでインターナショナルな顔ぶれというのも珍しい。
乗客の年齢層はかなり高く…というか、時期が時期(ホリデーではない平日)だけに、リタイア後のおじいさまおばあさま多数…このかたがたが大変お元気。
白人(とくにアメリカ人)はお年を召されても全く気にせず派手なTシャツに短パン、体型を全く気にせずおばあさまでもビギニなのですが、このクルーズ船も同様で、ぱっぱとTシャツを脱いで太鼓腹を日陰のデッキチェアに並べるおじいさま、おばあさまがた。本当に楽しそう。こういうところ、日本の引きこもりがちな老人はもっと見習わなければならないと思うのですけれどもね。

出航後まもなく、本日のクルーズの説明(英語)が始まります。日本人には日本人スタッフから別途日本語で説明がありますが、ここでのアドバイスは、この日本語説明では英語だけのオプショナル・アクティビティの説明がはぶかれてしまうので、それについても質問すること、です。
これはケアンズ観光全般について言えることですが、日本人観光客の多いケアンズは日本語対応が充実していて、英語が全くわからなくても不自由しません。がその反面、日本人は日本語の通じるエリアだけに囲い込まれてしまい、多くの観光チャンスを逃してしまうことにもなります。せっかく同じ外国人と同じ値段を払って乗船しているのですから、追加料金なしのオプショナル・アクティビティは楽しまなくちゃ損!です。

クルーズの説明の後は、グレート・バリア・リーフの成り立ちと自然についてのスライド・ショー、これは英語のみの説明ですが、昨日からにわか自然観察者になっている私にはたいへんためになるプログラムでした。
面白かったのは、いろいろな魚が出てくるたびに解説者が「これは映画ファンディング・ニモのあの○×、あれはニモの△○」と紹介してくれることで、あぁ映画を先に見ていたらもっと楽しめたのに」

スライドショーを見終わって、ふたたび甲板にもどると、あら? 海の色がすっかり変わっています。
これはあの、BBCの復元船エンデバー号のドキュメンタリーで見たあの南太平洋の青!
やった! ついに念願の海の青にご対面!
でもよく見ると左舷の遠くはまた海の色が異なっていて、そちらは見たこともない薄緑です。
どうも、水深によって海の色が全く異なるようなのですね。…ということが何故すぐにわかるかというと、
ダドリ・ポープのラジミ・シリーズで、ラミジがカリブ海の海図のない海域に乗り入れる時に、腕っこきの部下をマストのてっぺんに上げて、前方の海の色を報告させて水深を知り、座礁しないように進路を選んだ…というシーンを思い出すからです。
ああ、あれってこういうことなのね…と納得しました。本当に海の色が全く違うんですよ。マストのてっぺんから見たら、きっと海がまだら模様に見えるんじゃないかと思います。



【全く異なる海の色】

このクルーズ船の操舵室(というかこの船の大きさだと船橋というのかもしれませんが)の入口のところには、乗客も見られるとようにこの海域の海図が張り出されています。これを見ると、さっきの海の色の違いと水深の関係が確認できると思います…思いますというのは、現在位置が海図上のどこか私がわかっていないので、海図の何処を見たら良いのかわからない…という問題があるからなんですが。
おそらくこの船にはGPSがついていると思われるので、操舵者は現在位置(緯度経度)を完全に把握しているでしょうが、天測で緯度経度を測っていた昔は、海図があっても本当に大変だったでしょうね。これが山だったら、山道の曲がり具合とか尾根線の方位とかで比較的簡単に現在位置がわかるのですが、見渡す限り水平線では手がかりになるものが全くありませんし。
まぁ本当の大海原に出てしまえば、見渡す限り水平線でも水深があるから問題ないのでしょうけれど、100km沖まで浅瀬が続くグレート・バリア・リーフの場合は本当に大変。キャプテン・クックの時代、ここが船乗りにとって恐怖の海域だった…という理由はわかるような気がします。

BBCのドキュメンタリーなどによれば、クックは当初、バリアリーフの沖を迂回航海したかったのだが、当時はオーストラリアが大陸なのか島なのかが確認されていなかったため、これを見極めるために沿岸沿いを航海せざるをえなかったとのこと。
実際クックはケアンズから200kmほど北の地点でついに座礁し、船体修理のため上陸せざるをえなくなります。この上陸地が現在クック・タウンと呼ばれているところだそうです。
またクック来航の15年後の1792年にはここから600kmほど北の海域でパンドラ号というイギリスのフリゲート艦が座礁、沈没しています。

さてクルーズ船は3時間の航海の後、目的地であるミコマス・ケイに到着しました。ケイとは岩礁や小島という意味で、波で削られたサンゴが砂になって堆積し出来た島です。長さ300m、幅60m、現在も年に1メートルずつ北に移動しているそうです。
ここは鳥の楽園、多い時期には約3万羽の野鳥が生息し、1975年に国定公園に指定されました。今、人間サマは島を訪れることは出来ますが、上陸を許されるのはロープで区切られた浜辺のみ。島の大部分は鳥の保護区となっています。



【ロープに囲われた人間サマ】



【ロープの向こうは鳥の楽園】小さな島です。反対側の海がここから見えてしまう。

思うに、オブライアンの原作3巻(上)でスティーブンが鳥を見に行ってとり残された岩礁ってこんな感じのところではないでしょうか? 彼はカツオドリとアジサシを見た…とありますが、このミコマスケイもアジサシの天国。私は見られませんでしたが、カツオドリもいるそうです。
クルーズ船には「ミコマスケイの鳥たち」というパンフレットが各国語で常備されているのですが、この日本語版は英語版より凝っていて秀逸です。Junさんという方のイラストでchiemomoさんと方が編集されています。
このパンフレットから、スティーブンが見たというカツオドリとアジサシ、あと私が見た鳥たちのイラストだけ使わせていただきます。
本来は一応chiemomoさんにお断りしてからupすべきものですが、ご連絡先がわかりません。…というわけなので皆さま>、この画像をこのHPから更に転用することは一応お避けください。またこの画像使用に差し障りがありましたら、左下の「郵便船」のところから私に連絡可能ですので、お知らせください。






スティーブンはこの島に3日間とり残されて飲み水がなくなり、あやうく日干しになるところでしたね。これって実際、相当つらかったと思います。ここは岩礁ですから木や丈の高い草はありません。つまり強烈な日差しを避ける日陰がないってこと。南緯17度の日差しは暴力的、当たっているだけで突き刺すようです。
このクルーズ船でも「日焼けに注意!」は最初に注意事項として警告されます。また日焼けしないように肌を覆うスーツの貸し出しもあります。
前述の難破船パンドラ号の乗組員は、艦の沈没後、岩礁に上陸したものの、日陰を作る草木のない島で強烈な日差しに耐えかねて、日中は体を砂に埋めて苛烈な日光を防いだそうです。ちょっと考えると…ぞぞっ!

アレクサンダー・ケントのボライソー7巻「反逆の南太平洋」に、この同じ海域を漂流するエピソードがえがかれます。
物語の舞台はここより東のフィジー諸島ですが、緯度はほぼ同じ。この海域を日差しをさえぎるもののない無蓋ボートで、500マイル(800km)航海するのです。最後には彼らは夜明けを恐れるようになるんですよね、太陽が昇った後に味わう日焼けと暑熱の苦しみを恐れて。
これは小説の上だけの話ではありません。バウンティ号のブライもパンドラ号のエドワーズ以下乗組員たちも、この同じ海域で漂流し生還しています。実際にこの日差しを浴びてみると、この苦難の中で希望と冷静さを失わなかった彼らの強靱な精神力に、頭が下がります。

「青い地図」というキャプテン・クックの航跡を尋ねた旅行記が今月(2004年1月)の新刊で発売されました。著者はアメリカ人のジャーナリスト、トニー・ホルヴィッツ氏。氏はクックの復元船エンデバー号で体験航海を経験し、当時の船乗りたちの苦難を想像します。粗末な食事と重労働、耐えざる危険、寒風、嵐、南国の暑熱。
冷暖房完備、雨風をしのげる住まいとゴアテックスの雨具、レトルトやインスタントの食品で快適な生活を知った現代人には、こんな生活は耐えられないでしょう…彼らにとっては当たり前だが我々にとっては過酷な日々。考えてみれば基本、というか苦痛を感じるレベルが違うんですよね。
そんな毎日に鍛えられた18世紀19世紀の船乗りたちであったからこそ、無蓋ボートでの漂流も可能だったのかもしれません。

さて話し戻って。
ミコマスケイ・クルーズのタイムテーブルは8時半出航、11時にミコマスケイに到着、14時半まで3時間半の現地滞在、帰りは14時半に出航して18時にケアンズ帰航(予定)です。
ミコマスケイではクルーズ船は沖に停泊。喫水の浅いランチが浜辺と船を往復して乗客を運びます。
3時間半の滞在の間に、体験ダイビング、潜水艇クルーズ、ガイド付きシュノーケリング、ガイド付きバードウォッチングなどいくつかのアクティビティが用意されていますが、日本語対応なのは体験ダイビングのみ。あとは英語対応です。

お昼はクルーズ船のダイニングにて、豪華なビュッフェスタイル。
お味は…ケアンズでは特筆もの、日本レベルでは普通。いやその、ケアンズって元英国植民地の港町だからね…っていうのは偏見かもしれませんが、基本的に西洋料理にはあまり期待できません。ベトナム料理とか中華とかタイ、インド料理…なんてところはおすすめですが。
あとでこの話しを聞いた父が一言。「そうか、ではもし行くとしたらタヒチかニューカレドニアだな」そのココロは、旧フランス植民地だから食事が美味いだろう。やれやれ…。
でもケアンズ、さすが海の幸は豪華です。日本のスーパーでよく「オーストラリア産有頭エビ」として売っている15センチくらいのエビは食べ放題。
そうそう、昨日のお昼のベトナム海鮮フォー(お米のうどん)には、エビ3匹と、タコ(日本で言うところのイイダコ・サイズ)3匹がどんっ!と入っていて感激しました。でもここの西洋人は丸ごとのまんまのタコ、平気なんだろうか。

さて、クルーズ船でのアクティビティ。私のチョイスはお昼前に潜水艇クルーズ、午後に岩礁でバード・ウォッチング・ツァー。
新婚さんらしい日本人カップルに人気なのは、体験ダイビング。キョウコさんと言う日本人のダイビングインストラクターが指導してくださいます。
ここの体験ダイビングって年齢制限ないのかしら?(サイパンは60才以上はダメなんですよ)おじいさまやおばあさまのダイビング参加も多かったけど。

潜水艇クルーズは全面ガラス張りの船で珊瑚礁をまわってくれるというもの。私は進行方向右(右舷側)の席に座ってしまったのですが、おすすめは左(左舷側)。たとえダイビングができなくても、グレートバリアリーフの海中がお手軽に楽しめます。
船首部にガイドが、船尾に艇長さんがいるのですが、ガイドさんは「左手にエイが泳いでいます」とか言うわけです。ところがその説明の最中に艇長さんが突然「スターボード(右舷)! タートル!」と叫びました。すわっとカメラを構えて、こいつ〜オートフォーカスだからピント合うまでに2秒ほどかかるのよ…シャッターを切った時には撮れたのはウミガメのおしりのみ。でも撮れてよかった。ガイドさんが「右手(ライトサイド)にウミガメ」と言ってからカメラをまわしていたら間に合わなかったわ。海洋小説を英語で読んでいた恩恵がこんなところに。
クルーズ船のスタッフには、操船担当の船乗りと、ガイドやダインビング・インストラクターなどの客室乗務員がいるわけですが、当たり前かもしれないけど使う用語が違いますね。乗務員は普通の人向けの英語で案内する。でもバウ(船首)とスターン(船尾)は普通に使われていたから、これは専門用語ではないのかな?

午後からは岩礁に上陸して、いよいよバード・ウォッチング・ツァー。
長くなりましたので、これから先は明日づけの日記につづく…。


2003年12月08日(月)
New Hollandで2種類のフリゲートを見る(1)

ジャック・オーブリーの時代、オーストラリアはまだNew Hollandと呼ばれていました。
最初にこの地を発見したヨーロッパ人はオランダ人で、17世紀のことでした。ためにこの地は、New Holland(新オランダ)と名付けられたのです。

イギリスとオーストラリアの関わりは、1769年のキャプテン・クックの探検に始まります。
クックのエンデバー号は、1770年オーストラリアの東海岸を探検し、彼らは現在のシドニー南部ボタニー湾に上陸しました。

オーストラリアは先年、このエンデバー号を復元しましたが、この復元船エンデバー号は「マスター・アンド・コマンダー」の製作に一役いえ二役かっています。
ひとつめはピーター・ウィアー監督とディレクター、撮影監督に帆船航海の経験を提供したこと。二つめは、サプライズ(ローズ)号の代わりにホーン岬をまわる航海に出て、本物のドレイク海峡の映像を撮影したこと。
あ、もうひとつありました。昨年11月のロンドン・プレミアに合わせて、テムズ川にその姿をあらわしましたね。

復元船エンデバー号は、クックの足跡をたどる再現航海も行っています。
この様子を記録したドキュメンタリーが昨夏、BShiビジョンで放映されました。この番組で私が魅了されたのは、オーストラリア・グレートバリアリーフの、海の青でした。
「マスター・アンド・コマンダー」の映画を見に行くだけなら、グアムでも香港でもマニラでも良かったのですが、どうせなら海の綺麗なところ、ジャックのゆかりの地とはいかないまでも、せめてエンデバー号ゆかりの地。

…というわけで、私が選んだ旅行先はオーストラリア北部の観光地ケアンズになりました。
東京からは7時間弱のフライトですが、南緯17度のケアンズは、南半球、熱帯に位置する常夏の地です。
飛行機は明け方の5時半に到着だというのに、気温はすでに25度をうわまわり、もあ〜っとした湿気と熱気。強烈な太陽。
空港からホテルまでのシャトル・バスの値段を聞いたら、カウンターのおじちゃんは「アイト ドラーズ($8)」と。
あぁのっけからオーストラリア英語の洗礼だわ。

ホテルに荷物を置いてから、とるものもとりあえず、まずは海!海を見に。そのためにここを選んだのだから。
ケアンズの高級ホテルは海岸沿いにありますが、宿代をケチった私のホテルは海から一ブロック入った通りにあり、海は見えません(でもお値段は日本のビジネスホテル・クラスでシングル1泊7,000円強)。
なので海を見に行くためには、通りを横断し、高級ホテルをぐるーっと回っていかなければなりません。
海岸沿いは公園緑地になっていて、遊歩道では朝のジョギングに精を出す人々が。
もちろん私は一直線に海側の柵に突き進んでいきました。
わくわく。
初めて見る南太平洋。
初めて見る海というのは、やっぱり特別なもの。太平洋岸に育った私には、清水トンネルを抜けて初めて日本海を見たのも感激でしたが(これは中2の時)、海洋小説を知ってから出会った初めての北大西洋、北海、バルト海、地中海、インド洋にも独特の感慨がありました。
小説では良く知っているのだけれど、実際この目で見た時に、あぁこれがあの海なのか…と思う。それに重なる物語を知っていると、単なる海でも感激がまた違うのです。
さぁ! 目の前に広がる紺碧の海! 南太平洋とご対面だっ!
………。
あれれ?
紺碧じゃない。手前に干潟があって、泥の海があって、その先の沖にやっと水色の海が。
そうか、遠浅なのね。くく。紺碧の太平洋は沖までいかないとダメ?

でも干潟には何か大きな鳥がいます。よく見ると、くちばしに袋が下がっていて…、
これってひょっとして、ペリカンって奴?
いやだー!うそー!本当にくちばしに袋がついてるじゃない。
…なんだかボキャブラリーが貧弱で申し訳ありませんが、イイ年をしたオバサンの言うセリフか?と突っ込まれそうですが、でもホンモノのペリカンを生まれて初めて見て…ですね、本当にくちばしに袋がついていたら、やっぱり誰だって最初は「うっそー!」って感想になると思いますよ。だって変なんだもの。あきらかに、ありえないものが、くちばしについてるんですよ。

珍しいものを見たらどうするか? 
マチュリン先生なら捕まえるでしょうけれど、ここは自然保護区ですから現代ではムリです。
先生ならスケッチするでしょうけれど、幸いにも現代にはカメラというありがた〜いものがあります。
惜しむらくは、こういう事態を想定していなかったから、最大でも105mm望遠のズームレンズしかつけてこなかったことだわ。



【ペリカンです】

そしてこのペリカンとのご対面が、今回の旅のテーマを決めてしまったみたいです。
以後私は、なけなしの望遠レンズで鳥を追いかけ回すことになるのでした。
にわか自然観察者ですね。
もっとも、鳥を観察するのは私も初めてですが、高山植物なら昔、学生時代に山に行っていた時の楽しみの一つでした。一眼レフのカメラを買ったのも、最初は高山植物を撮るためだったので。

アウトドアと自然観察というのは、しぜんとペアになるものなのでしょうか?
それともこの二つがペアになるのは、イギリス人だけ?
私が海洋小説を読むそもそものきっかけとなったのは、小学生の時に読んだアーサー・ランサムの児童文学でした。
そこに描かれているのは、夏休みに英国の湖沼地方で小型ヨットを操りアウトドアに親しむ英国の子供たちです。
彼らはごく自然に地図を読み、鳥を観察し、子供なりの探検を実現していきます。
それに憧れた私は地図を抱えて旅行に行き、おかげで「地図の読める女」に成長してしまったんですが…、考えてみればそんな夏休みの宿題の自由研究みたいなことを、遊びでやっているランサムの子供たちってすごいですよね。

ひとしきりペリカンの写真を撮った後は海岸沿いのカフェでゆっくりと朝食。
英連邦諸国を旅していてありがたいのは、何処でもたっぷりのミルクティーを飲めること。
イングリッシュ・ブレックファストはいかが?と言われたけれど、気温30度の真夏の朝から揚げ物、焼き物満載のメニューにげんなりし(これはやっぱり寒い英国の朝のものでしょう)、トーストにベイクド・ビーンズというあたりで落ち着きました。

朝ごはんの後はケアンズの町を見て回って、朝市などをのぞき、
忘れずに映画館もチェック!

ケアンズの町中に映画館は2カ所あります。グラフトン・ストリートのシティ・シネマと、ケアンズ・セントラル・ショッピングセンター内のBCシネマ。
上映作品は異なり、「マスター・アンド・コマンダー」はシティ・シネマで上映されていました。
映画館の正面入り口には、その週の上映作品と上映時間の一覧表が張り出してある…といってもこれがわずかB4の、白黒コピー紙。
だいたい映画館といっても、外見は普通の建物とほとんど変わりがなくて、日本の映画館のように上映中の映画の看板など掲げているわけではありません。
「マスター・アンド・コマンダー」の上映は1日5回、10時の朝一番から、最終は9時のレイトショーまで。

当初の予定ではもう少し観光してから、午後の回を見ようと思っていたのですが、10時をまわって気温はぐんぐん上昇。
熱帯の真夏の太陽は強烈で、冬至間近の日本から来た、夜行フライト睡眠5時間の身にはあまりにも攻撃的。
日本のガイドブックには注意事項として「夜行フライト到着初日は仮眠をとろう」とか「初日は体力を消耗するツァーには参加しないように」とか書かれていますが、いや確かにこの天候の激変はキツイわ。
この炎天下、あまりあちこち歩き回るのは得策ではないかもしれない…と思い、予定を変更して、午後一番の回を見る、つまり一日で一番気温の高い時間は映画館の冷房の中に避難することにしました。

ケアンズ・シティ・シネマは、8本程度の映画を平行上映するシネマ・コンプレックス館。「マスター・アンド・コマンダー」はシネマ1という一番大きい上映室にかかっており、ここは約500席。スクリーンも音響も充実していて迫力満点でした。
シネコンというのは何処の国でも同じようなスタイルなのか、このシティ・シネマも雰囲気は日本のワーナー・マイカルに似ていますが、チケットを買おうとして困った…チケット・ブースがありません。
見回すと奥の売店(ポップコーンやジュースを売ってるところ)に長い列が出来ています。他に列は無いし、映画館のスタッフはこの売店にしかいません。
暑熱と強烈な太陽ですっかり日干しにもなっていたので、じゃぁとりあえず冷たい飲み物を購入かたがたチケットの販売所を尋ねるべ…と思って列にならんで(海外では忍耐強く気が長くなる私)、オレンジジュースのオーダーとともに「チケットは何処で買うのですか?」と尋ねたら、「ここです!」との返事。
なんとまぁびっくり。
ふつうはチケット・ブースが別にあって、上映時間とか上映館とか料金とかが出ているものでしょう? ひょっとして、このシネコンの場合は正面入り口に貼ってあったB4の紙がその全てだったわけ?
いやまぁコスト削減と効率化にはこれが一番かもしれないけど(スタッフ数が半分ですむし、売店兼用だとチケットと一緒についポップコーンを買ってしまう人も増えるだろうし)、なんとも素朴なシネコンだと感心したのでした。
「マスター・アンド・コマンダー」のチケット代は13.5豪ドル(1,080円)、これは休日料金で、この他に11ドル(880円)の日と6ドル(480円)の日があるらしいのですが、どのような制度になっているのかはわかりません。
オーストラリアの映画専門誌などを読むと、ランキングがこの3種類で評価されていて、この映画は13.5ドルの価値がある、この映画は6ドルで十分…などと書かれています。日本で私たちが「これはレディースデーで十分」などと言うようなものですね。

映画そのものについては、12月14日と23日の日記にありますので、そちらをご参照ください。
ここで特筆すべきは、やっぱり観客でしょうか? アメリカのサイトで「M&Cは観客の年齢が高い」とか「若い人はほとんど来ていない」とか言われていましたが、オーストラリアでも状況は同じ。
午後一番の回では、少なくとも20代の人はいませんでした(!)。30代以上のご夫妻、単独の男性客、お友達同士でいらしたおばさま…でトータル100名超といったところでしょうか、目につくのは年配のご夫婦。男女比はほぼ同数で、男性は単独ですが、女性はお友達同士というのが多かったようです。
そうですね、去年私が日本で見た映画で、これと同じような客席と言えば、「永遠のマリア・カラス」でしょうか。
でも、日本で「マスター・アンド・コマンダー」を上映して、この客層ということは無いでしょうから、どうなるのでしょう?
ちなみに2回目を見に行った夕方の回では、300名近く入っていて、10代の子供さんを連れて見に来たご一家というの何組かありましたから、もう少し年齢層は下がるかもしれません。

映画を見終わった後、しばらくその世界から戻って来られずぼーっとしていて、汐の香りが恋しくなったので再び海岸ぎわの公園に。
さらには船が見たくなって、埠頭(リーフ・フリート・ターミナル:ただしフリート(艦隊)というほどのものはない。観光船と個人ヨットのみ)へ。
映画の余韻を楽しむには最適の地、ケアンズでした。

その後は遅い昼食、明日の1日クルーズを予約してから、軽〜いショッピング。
翌朝は7時50分ピックアップ、18時すぎに帰港の遠距離クルーズを予約してしまったので、明日はあまり時間がとれないであろう。
もう一度映画を見るのなら今日のうち…ということで、夕方の回にもう一度行ってきました。
夕食は中華のテイクアウト、ビールを探しましたが、オーストラリアはパブか酒屋以外ではお酒が手に入らないらしく、ホテル近辺には酒屋が無かったので、代わりにジンジャー・ビア。
ランサマイト(アーサー・ランサムのファン)ならジンジャー・ビアでしょう、というのもありますが、私にとっては今や、ボライソー・シリーズに登場するトマス・ヘリックの飲み物…というイメージが強くなっています。
P&N Beverages社のTraditional style ginger beerというのを選びましたが、生姜が利いていて美味でした。

明日は早いし昨日は寝不足なので、ホテルにかえって早めに寝ることにします。


付録:ショッピングの収穫
本屋さんでこんな本を見かけました。他にいろいろと購入したのでここまで手がまわりませんでしたが、ご参考まで。
Amazon.ukで入手可能だと思います。

◆ Evolution's Captain
著者:Peter Nichols, 出版社:Harper Collins
ダーウィンのビーグル号で艦長をつとめたRobert FitzRoyの知られざる運命。

◆Rifles
著者:Mark Urban, 出版社:すみませんメモとり忘れました
 この紹介は英語の方がズバリでしょう「Wellington's Legendary Sharpshooters」。
ライフル銃兵に興味をお持ちの方、およびシャープ・ファンは必読かもしれません。まじめな研究書です。
 著者のUrban氏は「Faber and Faber」というナポレオンの暗号解読をめぐる本も記しているそうですが、
 マチュリン先生関連ではこちらの本の方が参考になるかもしれません。


2003年12月07日(日)
Empire誌インタビューつづき+休暇届

Empire 誌ピーター・ウィアー監督インタビュー

一昨日(12月4日)に要約が間に合わなかったウィアー監督インタビューの要約です。

オブライアンの原作について:
映画を念頭に置いて書かれたものではない(ありがたや!)。むしろTVシリーズ向けだと思うが、本当にTVドラマ化したら費用がたいへんだろう。ホーンブロワーを製作している人たちはいったいどうやっているんだろう?

海上シーンの撮影について:
90日をメキシコのタンクのセットで、10日を洋上で撮影している。

ガラパゴスでの撮影は難しかったのでは?:
撮影交渉には何ヶ月もかかった。実際だめな場合を覚悟して、メキシコ国内で代替地を探していた。
最終的に許可を得られたのは、脚本の内容だった。
実際に撮影して困ったのは、動物たちがおかまいなしに、小道の上に寝ころんでいることだった。私たちは動物たちとも交渉しなければならなかった。

主演の二人について:
ラッセル・クロウはキャラクターに複雑な陰影を出すことが出来る俳優であり、ジャックが二次元的なキャラクターに終わることがなかったのはラッセルのおかげだ。
この二人が「ビューティフル・マインド」で共演したことがポール・ベタニーをキャスティングした理由ではない。私は「ギャングスターNo.1」を見て、この俳優には何かがあると思った。

DVD版の作成について:
DVDは単なる映画そのものを発売するものだと思っている。DVDのために特別になにかということは考えていないし、コメンタリーなどの予定はない。しかしDVD用に特別のインタビューは受けたし、23分程度の特典映像は付けるつもりだ。

★お詫びと訂正
一昨日のヨット艇長の記事で、二つの理由のうち二つ目を書き落としていました。ホーン岬での空と海に関する部分を追加しましたので、ご確認ください。
すみません。どうも夜遅く作業すると、頭が寝てしまいまして…。

また明日から2泊3日で旅行に出ますので更新はお休みになります。
戻ってきてもお休みをとった分残業になる可能性が高いので、すぐに更新が再開にならないかもしれません。よろしくご理解くださいますよう。


2003年12月06日(土)
2人の専門家の意見

今日は、二人の専門家の意見をご紹介します。

最初は、米国の出版社主催のフォーラムへの投稿から、
Heart of Oak
英国ではネルソンの研究者として有名なコリン・ホワイト博士のバースでの講演を聴いた方からの投稿。
ホワイトは博士は「M&C」を、今まで見たネルソンの時代を描いた映画としては、最高の作品であると評価しているとのこと。

いま一つの記事は、オーストラリアの新聞から、
Finnishing touches
フィンランド海軍での経験を持ち、現在はレーシング・ヨットの艇長をつとめるLudde Ingvall氏は、「M&C」の撮影中、ラッセル・クロウから様々な相談を受けていた。
撮影終了後の今年1月、ラッセルはIngvall氏の艇でシドニー〜Coff港のレースに参加し、二位となった。
「M&C」の映画を見て、Ingvall氏は二つの点で感心したという。
ひとつはラッセルとウィアー監督が、海上でリーダーの地位にいる者の孤独をみごとに表現していること。
海上ではリーダーの一瞬のためらいや弱さが命とりになることがある。たとえ次に何をすべきか確信がなくとも、ただちに決断を下して乗組員に指示を出さなければならない状況がある。
二つめはホーン岬沖の映像である。Ingvall氏は実際にヨットでホーン岬をまわったことがあるが、あの海域はかなり南に位置しているため、空の色にも海の色にも独特のものがある。映画の映像は正確に、この色を再現している、とのことである。

Ingvall氏は、200年前の船乗りと現代との最も大きな違いは、船の設計の変化や航法装置の発達よりむしろ、食料と衣類の変化だと言う。乾燥食品やゴアテックスの雨具は、船乗りの生活を劇的に改善した。彼は最長28日間連続ヨットで航海した経験があるが、それは本当に厳しい生活だ。それが10倍の280日で、それを貧弱な食料と常にびしょぬれの衣服で過ごすことを考えると「その昔、船は木造だったかもしれないが、船乗りはきっと鋼鉄で出来ていたんだろう」とIngvall氏は語る。

英国の映画専門誌「Empire」誌12月号に、ウィアー監督とポール・ベタニーのイタンビューが掲載されています。
ウィアー監督のは長いので、本日はURL紹介のみにて勘弁していただくとして、とり急ぎベタニー インタビューの要点のみ。

ピーター・ウィアー監督インタビューEverything's Shipshape

Is the Doctor In?ポール・ベタニー インタビュー
ジャックとステーブンの関係について:
二人は互いに素直な愛情を抱いており、それは知と情の双方で二人を結びつけている。それに実際に互いの命がかかっていることもある。だか二人は全く異なった目的を持っているんだ。
野生動物に囲まれたガラバコス島での撮影について
ロンドンという都会で生まれ都会で育ったベタニーにはとまどうことが多かった。「かぶと虫ときたら、パッと逃げるかと思えば顔すれすれに飛んできたりして」
「ガラパゴスの海岸でうとうとしてハッと目をさましたら隣にトドの赤ん坊がいて、いきなりすり寄って来た。いったいどうしたらいいのか途方にくれてしまったよ」


2003年12月04日(木)
オブライアンの隠された過去

「M&C」の原作者パトリック・オブライアンは、第二次大戦直後、30台前半に妻子を捨てて出奔したという過去がありました。地味な伝記作品を書いていた時には彼の過去を探り出す人などありませんでしたが、オーブリー&マチュリン・シリーズがベストセラーとなった結果、作者オブライアンにも関心が集まり、1990年代の後半、80才を越えた頃になって、オブライアンのかつての出奔劇が二方向から明らかにされることになりました。一つはオブライアンの伝記を執筆したアメリカ人のディーン・キング。いま一つは英国の新聞デイリー・テレグラフ紙でした。

The bizarre past of the man who wrote Master and Commander
この記事はオブライアンの過去を紹介した記事で、たとえ作者の若かりし頃の過去がどうであろうと、彼の作品そのものの価値に影響はない、と結んでいます。

Master and deceiver
オブライアンはその後、生涯をともにすることになる二度目の妻メアリーと駆け落ち同様に再婚します。ロンドン・タイムズ紙のこの記事は、メアリーの前夫との息子ニコライが、継父にあたるオブライアンの思い出を書いたもの。歴史に興味のあったニコライは、新たに継父となった人の博識を好ましく受け止めていたようです。オブライアンは若かりし頃の出奔が明らかにされたあと、かなりの批判を受けたようですが、これを弁護する内容になっています。


ロンドン・タイムズはまた、M&C公開にちなんで、ナポレオン戦争の時代の海軍を紹介する記事も掲載しています。
Master and Commander Souvenir


2003年12月03日(水)
二つの時代、三つの時代

米国コロラド州では、今日と明日「ホーンブロワー(HH)3」の放映があるようです。

Coming about!
デンバー・ポストのこの記事は、HH3とM&Cの人気の秘密を、200年をへだてた2つの時代の比較で論じています。
街角の車が爆発したり、空から突然飛行機が落ちて来たりする2003年、もはや戦争にエチケットも格式もなくなってしまった時代、人々は、「Mr.This」と「Mr.That」の間で「If you please」などというせりふが挟まれながら手順に乗っ取り進められる戦争に、安心感を感じるのだ。


時代の比較と言えば、ここ2〜3日、海洋系の掲示板やNHKの大河ドラマを見ながら、ふと思ったことを書いてみたいと思います。
それは3つの時代の話。つまり、ひと時代前(20世紀前半)の作家が書いた、ふた時代前(19世紀前半)の物語が、現代(21世紀)に映像化されることについて。

今年のNHK大河ドラマは吉川英治原作の「武蔵」でした。この作品は何度か映像化されていますが、今年の「武蔵」は、15年ほど前にやはり同じNHKでドラマ化された役所広司と古手川祐子の「宮本武蔵」とくらべても、かなりヒロインの解釈が変わっています。

吉川英治は1892(明治25)年生まれ、1935(昭和10)年に17世紀の初頭を舞台にした「宮本武蔵」を書きました。吉川英治の描く原作のお通(今NHKで米倉凉子が演じている役)は、ひたすら耐える女性でした。ところが今年の「武蔵」を見て、ビックリ! お通のキャラがずいぶん変わっている。ものすごくたくましく(笑)なってるんです。
やっぱり昔のままのお通像では、現代女性の共感を得られないと思って、多少解釈を変えたのでしょうね。

ところで、ホーンブロワー・シリーズの作者、C.S.フォレスターは1899(明治32)年生まれ、1937(昭和12)年に「パナマの死闘」を書きました。
けれどもこちらのヒロインであるマライアは、NHKのお通さんのように21世紀対応のキャラ変化をしているわけではありません。けれどもTVドラマ化にあたっては、演じる女優さんがそれなりの解釈をしていらして、原作よりはかなり深みのあるキャラクターになっています。
その結果かどうかわかりませんが、ホーンブロワーの妻マライアに冷たいとか、あれではマライアがかわいそう…とかいう感想が出てきているようです。

いやまぁそれを言えばNHKの「武蔵」に出てくる男たちだって、現代から見れば、純粋かもしれないけれども無茶苦茶な生き方をしていて、こんな人が今近くにいたら、きっと引いてしまうと思います。
でもこれは時代劇ですし、江戸時代始めの話ですから、誰も彼らを「非道い」とは非難しないわけで。

結局これには3つの時代の価値観があるのでしょう。物語の舞台となる時代の価値観、作者がこの小説を書いた当時の価値観、そして現代21世紀の価値観。
第二次大戦後、そして日本でも均等法後のここ15年、女性をめぐる価値観は劇的に変化しました。
フォレスターが最初に小説を発表した1935年(第二次大戦以前です)には、英国でもかなり価値観が異なったのではないかと。

まぁこのまま、ヨアン・グリフィス演じるホーンブロワーが女性の総スカンをかうようだと、ちょっと問題かもしれないと思いますが。
でもまぁドラマには定評のある英国の製作ですから、落としどころは心得ているかな?
ホーンブロワーの前に英国で放映していたシャープ・シリーズの、TVドラマでのシャープと妻ジェーンの関係は上手く描かれていたと思うんですよね。二人が何故すれちがっていくかが、見ている人にも良くわかるストーリーになっていたし、ジェーンって原作ではかなり「イヤな女」に描かれている部分がなきにしもあらずなんですが、TVのジェーンは悪役ではなく、彼女の心が夫から離れていく過程が共感できるものになっています。いやこういう話は現代にもよくあるわ…という展開。
夫が仕事にかまけて妻をかまわず、満たされぬ妻は買い物依存症になる。これって現代だったらクレジットカード破産でしょう(笑)。

でも、最初の話に戻って、現代には失われたゆえに昔のものが見直されるという価値観もあるわけで、ゆえに歴書小説や映画は面白いのかもしれません。


2003年12月02日(火)
「M&C」10の質問

英国では先週末28日から、オーストラリアでは今日12月1日から公開の「M&C」。
その関連でまた紹介記事がいくつか新規に登場です。

Crowe's quest to get ship shape
ジャック・オーブリーは体重17ストーン(108kg)の巨漢である。かつて「インサイダー」の役作りに35kg増量した経験のあるラッセル・クロウは、早速体重増にとりかかった。だが撮影に入る6週間前に、ピーター・ウィアー監督から電話がかかってきた。「考えてみてくれ。思うんだが、昇降階段で艦長を押し上げる士官候補生が必要だ、なんて事態は避けたい」
「これは結構大変だった」とクロウは語る。「既にかなりの増量に成功していたからね」ただちに彼は食事を変え、トレーニングを再開した。結局ウィアー監督のこの決定は成功だった。映画では活動的な戦う艦長を見ることができる。
クロウがオーブリーというキャラクターに魅せられたのは、ウィアー監督のこのような説明だった。
「オーブリーは少年時代からずっと、人生のかなりの部分を船上で過ごしており、海軍に育てられたような男だ。彼の節くれ立った手にはロープを滑り降りたり、リギンを登ったりしてたこが出来ているが、バイオリンを手にとると、その指から美しい音色を紡ぎ出す」
クロウはオーブリーを、ただ単に力強く雄々しいキャラクターとしては演じていないという。「これまで僕が演じてきた様々なリーダーと同様に、責任ある立場にある者には内面の葛藤がある。ジャック・オーブリーも同様に」

Smooth sailing
「M&C」でポール・ベタニーはオーブリーの友人で艦の軍医でもあるスティーブン・マチュリンを演じた。
「ビューティフル・マインドで友人役を演じたことで、ラッセルと僕の間にはすでにある程度の親密な関係ができあがっていた。ビューティフル・マインドでは、僕が社交的でラッセルが内省的、だが今回は彼の方が外向的で、僕の方が沈思黙考タイプだった」
ラッセル・クロウはキャプテンとして出演者たちのチームワークにも気をくばり、休日にはサッカーの試合なども企画したが、ベタニーはこの試合には参加しなかったという。
「マチュリンという人物は孤独で、ある意味ではアウトサイダー的存在だと僕は思った。だから僕もある程度、皆とは距離をおくべきだと考えたんだ」
ベタニーは一人、他のキャストたちとは離れたところに家を借りて暮らすことにした。だが、
「その結果として、僕はたいへんな孤独感を感じ、毎日撮影所に着くと、誰かと話しをしたくてたまらない気分になってしまったんだ。全くマチュリンのキャラクターとは正反対にね。だからまったく逆効果というわけさ。だからジェニファーが僕の家を訪ねて来てくれた時は本当に嬉しかったよ」


その他の記事のご紹介
Crowe's Masterplan
ラッセル・クロウに関する記事

View from the Crowe's nest
撮影裏話など

Oregon engineering company goes Hollywood
サープライズ号の揺れを起こす機械を開発したメーカーの苦労談

Are you lubber?
「M&C」10の質問。
英ガーディアン紙の「M&C」クイズ。さすが海洋王国イギリス、質問内容が非常に高度です。
是非挑戦してみてください。


2003年12月01日(月)