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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
訃報:コリン・ホワイト(英海軍博物館館長)

英国ポーツマスの海軍博物館館長で、日本でも翻訳が出版された「ネルソン提督大辞典」の著者コリン・ホワイト氏が、12月末に死去されました。
1月2日に英タイムズ紙に掲載された、故人の紹介記事が、米パトリック・オブライアン・フォーラム(掲示板)で紹介されていましたので、ご紹介します。

英タイムズ紙2009年1月2日
http://www.timesonline.co.uk/tol/comment/obituaries/article5429419.ece

コリン・ホワイトは何より、ホレイショ・ネルソン提督の研究分野で英国の第一人者である。

ネルソン提督についてはこの200年間に数多くの、軽く100冊以上の伝記が出版されているが、その内容の真偽…歴史的正確性に研究の手が伸ばされたのは、ごく最近のことである。
コリン・ホワイトはネルソン提督の書簡について徹底した収集と分析を行った。
世界33箇国から1400以上もの書簡(公的報告書を含む)を参集している。
これらの研究分析をもとに、ホワイトは実際の史実に即した(英雄譚に彩られることない)ホレイショ・ネルソン像を洗い出し、自身の著作を通して現代に紹介した。

1951年生まれ、ロンドン大学キングス・カレッジの修士課程を卒業し、1975年に海軍博物館に入る。1995年から副館長、2006年から館長職にあった。
2005年のトラファルガー200周年記念式典においては実行委員会の委員長も務めていた。

海軍の名誉艦長職(hon.Capt., RNR)にあったが、階級のない一般職(ordinary seman RNR)から艦長職に特進した唯一の人物である。

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蛇足ながら多少の解説を、
「ネルソンの書簡研究」と聞いて思い出したのは、大学時代に学んだ「史学概論」の史料等級の話でした。
史料の正確性については、その出自から等級があるのですが、書簡は一等史料と呼ばれて日記記録より史料価値が高いとされています。
書簡には必ず相手があるため、もし間違いが記録されていた場合、相手からの返信でそれが正されます。
その意味では間違いをそのまま記録している可能性もある個人の日記より、史料価値は上というわけです。
ホワイトもおそらく、ネルソン発の書簡のみではなく、相手の艦長、提督、海軍本部などからの返信書簡をも比較検討し、歴史上の真実を洗い出そうとしたのでしょう。
ネルソンのように、英雄的な最期をとげ、直後から伝説となってしまった人物については、当時の史料が大量に残されているものの、実際の人となりまたは史実と、英雄伝説部分の選り分けが難しかったものと思われます。
実際には気の遠くなるような検証作業であったことが、容易に想像されます。

また最後の一行については、思わず苦笑してしまいました。
海軍の文官については、武官と異なり階級が無いわけですが、大学院修士卒の研究者でも、確かに武官の目から見ればordinary seman(ヒラ水夫)以外のなにものでもないわけで、
マスト上りが達者なわけでも、腕力があるわけでもないですから、帆船時代的に言えば「使えない」人ではあることは確かではありますが。


享年57才、まだまだ働きざかりであったことから、その死が惜しまれます。
ご冥福をお祈りしたいと思います。


2009年01月11日(日)