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Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
ナニー・マクフィー他GW映画

ゴールデンウィークからこの方、年度末の分を取り返すかのようにせっせこ映画に行っています。
それでも取り返せないもの(ヒストリー・オブ・バイオレンスとか)はあるし、連休明けから私の部署は1名欠員(退職者補充無し)のまま発進なので、今後どうなるかは全くわからないのですが。


ともあれ、まずは「ナニー・マクフィーと魔法のステッキ」。
http://www.nanny-movie.jp/top.html
子供むけ(児童文学の映画化)ですが、子供向けというより英国人(もしくは英国好きな方)の大人むけコメディではないでしょうか?
子供に見せておくのは勿体ない、というか大人でないと笑えないネタが続出し、これは子供にはわからないでしょう?と。

舞台はおそらく19世紀末。7人の子供を残して妻に先立たれたミスタ・ブラウン(コリン・ファース)は、妻を失った悲しみにとらわれたまま、子供たちにまで心がまわらず、仕事(葬儀屋の経営者)が忙しいと家をあけ、というよりは仕事に逃げ、子供たちのことはナニー(乳母+家庭教師)にまかせきり。
本当はパパに振り向いて欲しい子供たちは、やんちゃやいたずらの限りを尽くし、次々とナニーを追い出します。
そんな子供たちを氏はただただ叱りつけるばかり。
最後にやってきたナニーは、醜く怖い魔女のようなナニー・マクフィー(エマ・トンプソンwith特殊メイク)でした。
いや実際に、マクフィーは魔女のようなちからを持っているのですが…。

マクフィーの活躍で、ブラウン氏も、子供たちも、本当に大切なものは何かに気づきます。そして最後に再び、暖かで思いやり深い家庭が戻ってくる…あらすじだけを解説すればそんな物語です。
でもこの、マクフィーの活躍が、本当を言えば彼女はあまり活躍していないんですよね。ただ単に、気づくきっかけを与えているだけ。

マクフィーが子供たちに教えるのは「行動とそれにともなう責任」
いたずらをしてはいけません!と怒るのではなく、いたずらによって生じた結果(被害)を子供たちに自覚させ、その責任をすべて子供にとらせること。
このあたりの価値観やしつけががとても、英国的だなぁと思う次第。
父親のブラウン氏も、いろいろ散々な目に遭いながら最後に自分で、自らの至らなかった点に気づきます。

その課程が…しかしけれども決して教訓的ではなく、見事なコメディになっていて、観客は右往左往するブラウン家の人々のどたばたに笑わせられながら、最後には大切なものを教えられる。
原作の力もあるでしょうが、エマ・トンプソン自身によるこの脚本は見事です。

キャストがまた豪華なんですよね。ブラウン家の台所頭に「ヴェラ・ドレイク」のイメルダ・スタウントン、ブラウン氏の葬儀社での部下その1にカドフェルのデレク・ジャコビ…などなど。
豪華キャストを惜しげもなく脇役に使っているところはハリー・ポッターと同じですが、ハリポタと違って脇役がその実力を発揮する機会がふんだんにある。
駄目パパのどたばたを、なさけな〜く演じているコリン・ファースも見事です。
あぁでも「高慢と偏見」以来のファースファンは泣くかな〜。これを見ながら私、二枚目俳優田村正和が初めて駄目パパコメディドラマに主演した時の衝撃を懐かしく思い出してしまいました。

そうそう、海洋小説ファンやシャープ・ファンには笑える…とっても英国的なネタがあったわ。
子供たちが仮病を使って朝起きようとしないんですね。今まで子供たちは、病気になると我が儘が言えて、台所頭のおばさん(イメルダ・スタウントン)にアイスクリームを作って貰えたんですが、ナニー・マクフィーは台所のおばさんに「アイスクリームは作らなくてよろしい」と命じるんです。
「子供たちに必要なのは、アイスクリームより栄養のあるスープでしょう。あなたは昔、陸軍の食事係として働いていたと聞きました。大英帝国の兵士を強くした陸軍特製のスープを、子供たちに作ってあげてください」

イメルダおばさん「了解」っとナニーに敬礼するなり、いきなり、台所のゴミ箱をひっくりかえします。
彼女が生ゴミの中から掘り出すのは、さばいて捨てた鶏のキモや生首(トサカ目だま付き)、ジャガイモの皮、タマネギの芯などなど、これらを全部ぶちこんで、ごった煮にしたのが、おばさん特製「英国兵士を世界最強にした陸軍のスープ」なのです。
飲んでいるうちに鶏のアタマが出てくるスープに、子供たちは悲鳴です。

これは19世紀末の物語ですから、このおばさんが若くて陸軍でばりばりに働いていた頃は、ビクトリア朝の最盛期でしょう。
いやー私、これまで、大英帝国が7つの海に君臨できたのは、彼らがコクゾウムシ・ビスケットと塩づけ肉だけの「粗食」で暮らせる民族だったから…だと思ってたんですが、それは海軍さんの事情で、陸軍さんの事情としては、彼らがジャガイモの皮だろうが鶏のトサカだろうが何でもかんでも食える「悪食」だったから…なんだなぁ、と。え?ちがう?


5月1日のことでした。
仕事が早く終わったので、前売り券を持っていた「ニューワールド」に行こうと思ったら、なんだかものすごく混んでいる。
どうして?と思ったら、前の人が1000円しか払っていなかった。「しまった!今日は映画の日」…これを忘れるなんて、映画ファンとしてはもうボケもいいところで、いかに年度末に忙殺されていたとはいえ…自分が悲しくなって落ち込みました。
でも、とりあえず。
1000円で見られる日に1300円払う馬鹿はいない。他の映画に行こう。
と言っても、有楽町マリオンに他に見たい映画はなく、日比谷に行ってみたら何かあるかな〜とそちらに移動し、紆余曲折のすえ話題の「ブロークバック・マウンテン」に。

感想は…難しいですね。
こういう人間ドラマは、ストーリーを理解するというより人間を理解しなければ本当にわかったと言えないのだろうし、頭では理解しえない話なので、どこまで共感できるか、ひいては映画を見る人の人生経験を総動員してどこまで理解できるか…という問題になるんでしょうけれども、
私やっぱり、主人公のイニスよりも、その彼を理解できなくて結局別れてしまう妻アルマや恋人キャシーの方に共感してしまうんですよ、そちらに引っ張られて、彼女たちの目でイニスを見てしまう。
それではたぶん、この映画を理解したことにはならないんじゃないかと。

イニスは人付き合いが不器用で、ちょっと自閉的な性格で、彼にとっていちばん居心地の良い空間は、ジャックと暮らしたブロークバック・マウンテンでの生活だった…ということはわかるんです。
妻や子供たちや、人の多い町での生活が、イニスにはわずらわしく感じられる、だから彼はジャックとブロークバック・マウンテンを求める。
ここまではわかるんだけど、この先がね。

イニスには彼の世界があって、そこには町に住む女は入っていかれないんですよね。私も同じところで跳ね返されてしまって、その先が理解できなくなっている…ような気がする。
二番目のガールフレンドとなるキャシーに「俺は面白くない男だから」と言ってイニスは別れるんですが、その時キャシーが「本当に面白くない男なんて、女は好きになったりしないわ」と言ってつーっと泣く。
そこに壁があって、その先に入れない彼女の悲しみの方に共感してしまった時に、あぁたぶんこの壁の向こうに行かないとイニスは理解できないんだろうな…と思ったのですが、やっぱり壁は壁。私にはこの先は無理かも。
いや恋愛は理屈じゃない、頭で理解するものじゃない、と言われてしまえばそれはもちろん、その通りなんですが。

もっとも壁があっても共感はできなくても、共存はできるわけで、当時の周囲の人々のようにイニスとジャックの世界を否定することはできない。
居心地の良い空間で暮らすことが幸福なのだから、イニスは彼にとって辛くない空間で暮らしたら良いだろうと思うのだけれども。
それは現代だから思うことなのか、あの時代は過渡期だから難しいことなのかもしれないけれども。

同じワイオミングが舞台ということもあって、20世紀初頭が舞台の「レジェンド・オブ・フォール」を思い出しました。
あの映画でブラッド・ピットが演じたトリスタンって、ちょっとイニスに似ていませんか? 人付き合いが不器用で、ワイオミングの野生の中で生きることが自然で、トリスタンにとっての禁断の人は「兄貴の嫁さん」で女性だったけれども。
第一次大戦から第二次大戦にかけてのあの時代から過渡期はすでに始まっているのでしょうけれど、「レジェンド…」の物語の始まる以前の時代(19世紀のワイオミングとアメリカ家族の価値観=あの映画でアンソニー・ホプキンスが演じていた父親の時代)に生きていたら、イニスはワイオミングの農場で居心地よくふつうに暮らせたのではないか…などと。
ある意味イニスは、カウボーイの価値観に反することをしながら、その実はカウボーイすぎて時代乗れないところもあるのかもしれませんね。「シービスケット」(こちらは1920年代の話)でクリス・クーパーが演じていたあのカウボーイのように。

なんとなく外縁部を歩いているような感想ですね…でも私にはこれが限界のようです。


そして結局、「ニューワールド」の前売り券は、1週間後の5月8日に使用しました。
この映画、たぶんこのホームページをご覧になってくださる方にはおすすめなのではと、
以下のいずれかに該当された方>ぜひ映画館に足をお運びください。

1.アメリカの歴史に興味がある。
2.アメリカの美しい自然を堪能したい。

3.ドレイクや無敵艦隊の時代の英国の船や船乗りに興味がある。
4.木造帆船が好きである。
5.ネイティブ・アメリカンの民俗に興味がある。

6.コリン・ファレルのファンである(みいはぁファン含む)
7.クリスチャン・ベールのファンである(みいはぁ含む)
8.クリストファー・プラマーとディビット・シューリスの上手い演技を堪能したい。

9.ボライソーやアラン・リューリーに描かれたアメリカ独立戦争時代のポトマック湾などの舞台を見てみたい。
10.アーサー王伝説より、映画「キング・アーサー」の方が好き。

11.テレンス・マリック監督作品のファンである。

とても綺麗で丹念に作られた映画なんですけど、ちょっと哲学的で、ストーリーは淡々と進行します。
元になるポカホンタス伝説や、新大陸入植のロマンとアドベンチャーを期待される向きには、はずれでしょう。
このハズレの地味さ加減が、M&Cやキングアーサーに似ているので、私にはとっても好み。

ということで、久々のホームページジャック予告。
明日から1〜2回、このホームページは「ニューワールド」のページになりますので、皆様ご了承くださいまし。


2006年05月12日(金)