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Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
キングダム・オブ・ヘブン

「キングダム・オブ・ヘブン」を見てきました。
リーアム・ニースンを聴きに行っただけではなく、もとから史劇好きなので、「トロイ」「アーサー」「ジョヴァンニ」「アレキサンダー」と洩れなく網羅しておりまする。
が、それにしても、そのおかげで、
なんだかここ2年、ヘルムス・デール(LOTR:二つの塔)以来、投石機を使った攻城戦ばかり見ているような気がするのですが、「ジョヴァンニ」を例外として。

キング・ダム・オブ・ヘブンの時代は12世紀の終わり、トロイやアレキサンダーに比べれば遙かに現代に近い時代ですが、戦さの方法は意外と変わっていないのね…と思いました。
というか、いや火薬が登場するジョヴァンニ(16世紀)の時代以降400年間の、戦争技術の発展スピードが速すぎるのかしら。

先日、やはり史劇好きの友人がメールを送ってきて「どうだった? 見比べると私は『トロイ』が一番良かった気がする」と書いてきたのですが、私は、ここ2年のハリウッド歴史スペクタクルとしては、「キングダム…」が一番かなとおもいます。。
いや、人間ドラマとしてはやはり「トロイ」なのだと私も思うのですが、あちらの方が確かに華麗だとも思うし、でも私が「キングダム…」と敢えて言うのは、印象的な時代の「絵」を見せてくれたから。

「キングダム…」の方が、一度みたら忘れられない「絵」が多かったんです。私の場合。
荒涼とした冬のヨーロッパ、灼熱の砂漠、美しきエルサレム、無惨に破壊された城壁、死屍累々禿鷹の舞う戦場。
その全てに暗いフィルターがかかっていて、陰鬱な「絵」が多いのですけれども。

ナポレオン戦争の戦場跡を描いたターナーの絵を見たことがあります。(日本でのテイト・ギャラリー展だったか、それとも英国でだったか記憶が定かではなくて恐縮なのですが)
とても陰鬱な絵で、間違ってもこの絵が「好きだ」とは言えませんが、でも一度見たら忘れられない「絵」でした。
ITVテレビの「Sharpe's Company」(シャープ3作目)の、あれはバタホース要塞の攻城戦でしたっけ? 多大な犠牲を払って破口を開けた城壁(ここで子役時代のウィリアム・マナリング=M&Cのファスター・ドゥードルが演じていた候補生の少年が気の毒に死んでしまう)を翌朝、ウェリントン将軍とシャープが見ているシーン…これも一度しか見ていないのに焼き付いてしまった「絵」なのですが、エルサレムの城壁もきっと、同じように、これからずっと、私の脳裏に焼き付いていくでしょう。

さすが名匠サー・リドリー・スコット監督…でしょうか?
今回、もう一つ、私にとってとても魅力的だったのは、映画に再現された12世紀のエルサレムの町でした。
セットの製作にあたっては、スタッフは詳細なリサーチを行ったと言います。この時代に詳しいわけではありませんから、何処まで正確でどこから創作なのか、私にはわかりません。ただ、この再現されたエルサレムの凄いところは、町の雰囲気までもが見事に描かれているところです。
スコット監督が「ブレードランナー」で描いた近未来ロサンゼルスは、想像の産物なのですが見事に「生きている都市」でした。
このエルサレムも同じように生きていて…ゆえに死にかかっていてとても魅力的だった。
死にかかっている…というのは、私がこの映画のエルサレムを見ていて、なんとなく戦前の上海(これも映画などで再生されたものしか知りませんが)を見ているような気分になったから。
同じように魅力的に見えるのは、私がこの町の運命を知っていて、この町のこの姿が、この映画の最後では失われるとわかっているからなのでしょうけれども。

何やら私、外縁的なことばかりを語っていて、まったく映画の本論…登場人物とストーリーに触れていませんね。
これはですね、まだちょっと、1回しか見ていないものですから、割り切れてなくて書けないんです。
でもおそらく、2回目に行く時間はないと思うので、それを語るのはDVDが出てからでしょうか?

これは役者さんのせいでは全くなくて、歴史の描き方というか解釈の部分…に私がちょっと引っかかっているから。
歴史は歴史、映画は映画と割り切って、物語としてもう一度見たら、例えば主人公バリアンの心情とかボードワン四世の描き方とか、いろいろ語ることがあると思うのですが、現時点ではその前で引っかかってしまって、まだ主人公の心情を考えるところまで見切れていないのが実情です。

実はこの映画、歴史上のキャラクターとエピソードを整理統合して、2時間半ですっきりおさまるわかりやすい話にまとめています。
例えば、原作小説のキャラクターを整理して(M&C10巻のマーティン牧師が切られるとか)、エピソードを切って(先生が窓から落ちないとかアマゾネスに会わないとか)すっきり話をまとめるのは、私は可だと思うのですよ。
でも歴史的事実に対して、これをやってしまっていいのか?というと、
どうなんでしょうか?
大学時代に歴史学科(日本史ですが)に居た身としては、かなり抵抗があるんです。
数人いた家臣を一人に統合して代表させるという程度は可だけれども、一代すっとばして争いを簡略化するというのはちょっと。

ましてやあの時代は現代にまで禍根を残す、かなり微妙な時代と場所なわけで、
にもかかわらず、意外と歴史の詳細を知っている人が少なく、この映画の内容をそのまま史実と考えてしまう人の数はかなり多い。
「ラスト・サムライ」を見た外国人が、「あれは明治10年に日本で本当にあった話だ」と思いこむより、問題は大きいと思うんですけど。

ボードワン四世が瀕死の床についていた時、確かに十字軍側は穏健派と強硬派に分裂していたけれども、穏健派のリーダーでティベリアスのモデルになったトリポリ伯レイモンには彼なりの野心があり、ティベリアスのようなまったくの忠臣ではなかった。
ボードワン四世には6才の息子がいて、王位は一旦この幼児が継いだのだけれども、幼年王は翌年死亡。その後、王位は婚姻によって強硬派であるギーのものとなった。
新王への服従を拒絶したトリポリ伯は、逆にサラディンと手を結ぼうとした…という流れでは?

ボードワン四世の下で十字軍内に対立関係、というより激しい勢力争いがあったことと、四世の死後、ボードワン五世が即位したこと、穏健派は強硬派の追い落としにサラディンの手を借りようとしたこと。
でもその通りに話を作ると、ギーとルノーははっきり悪役で、すんなりわかりやすいストーリーの、この映画にはなりませんから。
だからこのような話になった? だから強硬派の二人は実名なのに、対するトリポリ伯レイモンは実名では登場しない?
いいのかしら? 映画製作上はいいのだろうけれど、でもこれ歴史だから。うーん。

もう一つ気になっているのは、バリアンの現代的な価値観。
私は以前、英国海軍の追っかけ(?)でマルタ島に行った時に、聖ヨハネ騎士団に興味をもって(注:マルタ島は本来は聖ヨハネ騎士団の島です。英国海軍の島ではなくって)、十字軍の通史を1冊読んだことがある(解説パンフで山内進先生が名前を挙げていらした「アラブが見た十字軍」という本)のですが、
その本を読んで思った当時のイメージなり価値観と、今回の映画で描かれた価値観がちょっと違う…というのが、もうひとつ引っかかってしまった理由。

主人公バリアンって、現代的な価値観で見たところの「良き領主、良き家臣」ですよね。
自ら井戸を掘って貧しい領民のために畑を開いたり、貧乏くじを承知で防御戦の指揮をとったり、
あの時代、フランスからいきなり異国の地に来て、いきなり城主だと言われた人が、果たしてあのような価値観を持てるものなのか?
これもね、それを疑ってしまうと、この映画にならないんですけど。

ヨーロッパから来たばかりの一世代目の十字軍兵士と、中東で生まれた二世代目では価値観が違う…という例が私の読んだ十字軍の本にはいくつか書かれていて、
現地で生まれた二世代目は、外見的にはヨーロッパ人でも中身はオリエントで、新たに来たヨーロッパ人よりもむしろ、敵であるムスリムと価値観を共有してしまうような人物がいる。
…と、私が読んだ本には書いてありました。
こういうことって、植民地時代のイギリスでも時々起こる(つまりインド植民地生まれの英国人は本国生まれと価値観が違うというようなこと)ので、私はこれって面白いと思ったんです。
そんな例を頭に置いて見ていると、果たして、フランスからやってきたばかりなのに、バリアンのこの価値観は普通なの?って映画見ながら悩んでしまいまして。

私は東洋史専攻ではありませんでしたから、この時代の価値観が実際のところどうなっていたのかはわかりません。
そのようなものは本1冊読んだくらいでわかるものではなく、当時のさまざまな原史料を読んでゼミなり卒論なりで1〜2年おつきあいしてやっとなんとか雰囲気がつかめる…たぐいの話だと思います。それに私が読んだ本はアラブ視点の本だったから、キリスト教視点だとまた違うとも思いますし。
だから断言はできないんですけど、
でもやっぱり…妙なところが引っかかってしまって先に進めない私なのでした。

そのようなわけでこの映画、登場人物とストーリーについて語るのはもうちょっと待ってね…というところです。
史実を置いて、ドラマとして見る分には良かったと思います。渋い演技派を揃えていましたし。

リーアム・ニースンは、スターウォーズ1もだけれど、こういう無骨な父というか師というか、人生の先輩を演じるといいですね。
ホスピタラーとティベリアスはちょっとキャラクターが重複していたような気がするのですが、ティベリアスの役割が歴史上の実在人物であるレイモンだったら、もう少しアクが出て(たぶんジェレミー・アイアンズが「仮面の男」で演じたアラミスみたいな感じになるのかと)、ホスピタラーの寡黙だが信義を貫く生き方と対比になったのかなぁと。
ブレンダン・グリーソン(ルノー・ド・シャティオン)には最近よくご縁があるけれども、この人も本当に上手い。

オーランド・ブルームは立派に主人公をつとめていましたが、私、これ「コールド・マウンテン」の主演ジュード・ロウを見た時にも思ったんですけど、彼らはもちろんこういう正当派主人公を演じても良いのですけれども、こういうアクの無い役って別に彼らでなければいけない必要性はないんですよね。
でも「トロイ」のパリスはブルームでなければ駄目…というか、他の人が演じたらもっとどうしようもない男になった筈のパリスを、「しょーもない弟だなぁ」と上手く思わせてしまうのは、ブルームでなければ出来ない。
この人って、世間では正統派王子様のように言われているけれども、実はジュード・ロウ同様、個性派脇役じゃないの?…と個人的には思います。

あーところで、サラディンの副将、バリアンと馬のご縁がある人ではなくって、もう一人のあっさり顔の、アラブというよりはタタール(モンゴル系遊牧民)の血を引いてません?…と思ってしまった方の副将ですが、あれって誰なのですか? いや俳優さんじゃなくてポジション。
私、最初はサラディンの弟なのかなと思ってたのですが、違うみたいで…、映画パンフキャストにものっていないので、確認がとれませんでした。
未確認といえば、チョイ役で出ていたニコラス・コスター・ワルドウも確認しそこね。どうやらフランス人の追っ手みたいですけど、あらあら、つい先日「ウィンブルドン」のドイツ人を見て、やっと母国(デンマーク)に近づいたかと思ったら、また「ひとつ戻る」でフランス人?…と笑ってしまいました。

ごにょごにょいろいろ言ってますが、DVD出たら買います!楽しみに待ってます!
砂漠と空と…この地域が好きで、ヨーロッパとオリエントが混在したこの雰囲気が大好きで。
やっぱりいい映画ですよ〜。

でも皆様>
やはり初回は映画館の大スクリーンでね。
私はM&C以来、1年2ヶ月ぶりになる有楽町マリオンの日劇1に行きました。
城壁に激突する岩の音を聴きながら、サプライズ号の砲撃をなつかしく思い出しておりましたことよ。


2005年06月19日(日)