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Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
サプライズ号のクールビズ

金曜日に地下鉄の霞ヶ関駅を通ったところ、
「男性がネクタイを外せば、女性の膝掛けがいらない職場になります」
「ノーネクタイ、ノー上着、部下からは出来ません、社長」
などなど、夏の軽装を広めるポスターがずらりと並んでいて、うわぁ政府は本気だわ、と思いました。

私の職場でも5月に「今年の夏は軽装とする。各自適宜、暑くなったら軽装でも良い」とお知らせがまわっていたのですが、
「軽装ってどういうものですか?」とか「いつからやらなければいけないんですか?」とか質問が出たらしく、先週あらためて「夏期の軽装について」というお達しが配られました。
それによると、軽装はノーネクタイ、ノー上着で社会常識を逸脱しない節度を保った服装のこと、ポロシャツも可、これは男性の場合だが、この趣旨は男女をとわない…のだそうで。
ま、言われなくても昔から女性はクールビズですが。
女性の夏用スーツは半袖デザインが普通だし、インナーにタンクトップ組み合わせればいくらでもスーツで涼しくいられるし、ねぇ今さらクールビズもあったもんじゃ…。

このお達しには、注意事項が付記されていまして、
「たとえ、トップからの呼び出しがあったとしても軽装で良い」とか「外部者を呼ぶ会議の時は、会議案内状に軽装実施中であることを付記し、外部者にも軽装をうながす」とか。
うーん、日本を変えるのはやっぱり大変なことのようです。

この話をオフ会でしたところ、「そりゃあ、ミスタ・ホラムには朗報ですね」と仰った方がありました。
そう言えば、映画M&Cでドルドラム(赤道無風帯)でサプライズ号が風に見放された時、艦内では艦長以下、ノーネクタイならぬノー襟飾りにノー上着で軽装を実施していましたが、艦長室に出頭したホラムは、上司の前に出るということで、きっちり上着を着こんで暑苦しそうでした。

当時の小説を読んでいると思いますが、海軍さんでも陸軍さんでも英国軍は服装の礼儀作法が厳格ですね。
それがそのままサヴィル・ロウに反映されて、現代のスーツ、ネクタイの伝統が確立されたのかもしれませんが、考えてみれば夏は35度を超す日本で、よほどの事がない限り年に数日しか30度を超さないヨーロッパの夏の伝統そのままの礼儀作法を、そのまま実行しようというのが無理だったのでは?

でも考えてみれば、英国軍は第二次大戦以前にこの無理を解決する方策を実践していました。
私には映画で見た知識しかありませんが、インド駐留英国陸軍の軍服は映画「ガンジー」の時代にはもうレッドコートではなくてカーキ色の半袖半ズボンの、いわゆる探検家スタイルになっていました。海軍さんは白の半袖半ズボンです。
60年以上前から軽装の伝統があったんですね。
この伝統は…日本には伝わらなかったのでしょうか?

そろそろ20年近く前、ホンダがF1に再参戦した時に、夏になると欧米F1チームの制服は半袖半ズボンに変わるのに、ホンダの人たちだけ長ズボンなので、奇異の目で見られたという話がありました。
現在はホンダもトヨタもブリジストンも、F1チームスタッフは皆さん半袖半ズボンですが、これも変わったのは比較的最近だったような気が…。

ところで先刻、サプライズ号では熱帯で軽装を実行していたと書きましたが、この軽装実施の実際はどのようになっていたのでしょうか? 軽装規定のようなものがあったのでしょうか?
疑問に思って、私の手持ちの本の中ではいちばん詳しいと思われるBrian Laveryの「Nelson's Navy」の制服のところを読んでみたのですが、制服規定は細かく説明されていますが、軽装に関する記述はありません。
Dudley Popeの「Life in Nelson's Navy」にはひょっとしたら記述があるかもしれませんが、この本280ページもあるのでとてもすぐには探せません。
結局のところ、これまで読んできた海洋小説の記憶の中から類推するしかないのですが、

これどうでしたっけ? どなたか覚えていらっしゃいます?
何処で読んだのだったか、熱い熱帯でも艦長がうるさい人でウールの軍服を着ていなければいけない艦があって、軽装実施中の僚艦がそれを気の毒に思う…というような話があった気がするのですが、これが何の話だったか思い出せる方あります?
もしそうだとしたら、軽装の実施は、艦長の一存に任されていることになりますね。
まさに「ノーネクタイ、ノー上着、部下からはできません。社長」という標語の通りになるわけですが。
考えてみればいま日本で実行しようとしている軽装も、決して規定うんぬんではなく、あくまでお知らせとかお達しレベルの話なので、当時の英国海軍に軽装規定がなくても別に不思議ではありません。

本人が有能で形式にとらわれない実際主義、部下思いの艦長であれば、ためらいなく軽装を実施すると考えて良いのかもしれません。
ジャックなんてその典型ですね。
ボライソーの艦は南太平洋で軽装を実施していた記憶があります。
ホーンブロワーはどうだったかしら、どちらかというと暑いところより寒いところの話が多いので、艦長になってから暑いところ…というとパナマ沖ぐらいか、ざっと流し読みしてみたのですが、総督邸に行くため正装するシーンはありましたが、艦上で軽装があったかどうかは確認できず。
ラミジは今日の午後から探しているんですけど、巻数が多くてまだ発見できず。あぁでも彼も泳ぎやすさを最優先して襟飾りをふんどしにするような人だから、可能性はあるような気がしますが、

そういえば、5巻でミセス・ウォーガンの存在をコロッと忘れて、水泳後に誕生日衣装で艦に上がったジャックが、夫人を見かけ慌てて(服を着ている)プリングスを盾にするシーンには笑いました…が、副長では盾にするには横幅が足りないと思ったのも事実。

あぁいや、なんだか話がずれてしまいましたが、ですからクールビズ。
果たして日本に根付くのか興味津々ではありますが、寒すぎる冷房で体調を崩した経験があり、冷え対策を考えると夏の映画鑑賞にスカートでは行けない身としては、日本の冷房温度が下がることを願ってやみません。


2005年06月12日(日)