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Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
海洋小説としてのガンダム

台風がきっかけで、いい年齢をして、懐かしいけど新しい番組を、最近見ています。
久しぶりの「ガンダム」。昔のではなくて、今TVで放映中の最新作「ガンダムSEED Destiny」。
関東では土曜日の18:00から、TBS系で放映。
この物語は、実は2年前に放映されていた前作の続編ということで、世界設定とストーリーはつながっているとのこと。

前作は、大人が見ても面白いという話は耳にしていました。
新聞でも問題作としてとりあげられていましたし、海洋小説系の掲示板でも「大人でも面白い。お勧めです」という書き込みを読んだことがあります。
私は本来、土曜日の夕方は家にいないのですが、たまたま10月の放映初回の日、台風ゆえに外出できず家におり、「いったいどんなもの?」と好奇心から見てみました。

そうしたら、いや、これは確かに、ドラマとして面白いかも…と。
今のこの世界情勢を微妙に反映させたドラマでもあります。
主人公のガンダムパイロットは、前の戦争で避難中に戦闘に巻き込まれ、家族を失っているのですが、その流れ弾の原因を作ったのは、なんと前作の主人公機だったガンダム。
テロの報復から新たな戦争が始まったり、地球連合軍の中でも北米大陸とヨーロッパの間に主導権争いがあったり。
昔のもの(これも当時としては画期的にティーン向けでしたが)よりはるかに大人向き…というかハイティーン以上の世代をターゲットにしているような気がします。
ガンダムと言いながら、先週も今週も2週間続けてガンダムは出てきません。人間ドラマと政治ドラマが続いていて、私には面白いですけど、子供さんには大丈夫かしら?

それでも何年たっても変わらないところは変わらないもので(というよりは、明らかに親世代のオールドファンを見越してお約束を踏襲しているようですが)、懐かしい部分もあります。
が、なにせ2年前に放映されたドラマの続編なので、前の話がわからないと今の話もよくわかりません。
頭に湧いた、はてなマークを何とかするために、古本屋に行って前作のノベライズを買ってみたところ、
海洋小説ファンとして読むと、結構これが面白いことを発見。TVと違って、小説だといろいろと書き込んでありますし。

「ガンダムってそう言えば海洋小説なんですね」、ということに生まれて初めて(笑)気がつきました。

私はファースト・ガンダム世代ですが、25年前の最初のガンダム放映当時、女子高生だった私はまだ海洋小説というものを知りませんでした。
昔のガンダムはZまで見ていましたが。その後遠ざかってしまいました。
Zガンダムの時はもう帆船小説(ボライソーとかホーンブロワー)は知っていたと思います。でも第二次大戦関連の小説はまだ全く知らず、ガンダムと海洋小説を結びつけたことはなかった
(…と私が書くと、男性陣は驚かれるのではありません? こんなこと男の方には少年時代から当たり前かもしれませんけど。「今さら何を言ってる!」って呆れないでくださいね)。

海洋小説の面白さの一つに、職場の人間関係の妙というのがあると思います。
このジャンルの小説は、学生時代よりも就職してから読むと身につまされるところがある。
帰宅途中の通勤電車で海洋小説を開いたら、上司と部下の連絡不行届から事態が混乱するシーンに当たり、自分が電話の内容を上司に報告しそこねた事を思い出してドキリとしたり。

艦長副長対決というのも海洋小説のドラマの一つですが、私は管理職ではないので、これに関しては今まで全くの傍観者でした。
ところがガンダムSEEDノベライズの艦長副長対決は、両方とも女性だけに、初めて身につまされる経験をしました。
女性は男性のように迫力で押せませんので、時に完璧に手を打って相手を反論の余地なしにして、言い負かせようとすることがあります。私自身はこのような深刻な争いをしたことはないけれど、でも彼女たちの方法論はよくわかる。これよりはるかに小さなレベルでは経験があるから。

このガンダムのシリーズ構成を担当していらっしゃるのは女性の脚本家の方だと聞きました。
なるほど、と納得。
今まで読んできた海洋小説は全て男性作家によるものでしたから(女性が活躍する物語はありますが、やはり男性の書く女性は少し違うと思う)、女性が書くと見方が変わるのだな…と。実際の海洋小説には(ヨットによる冒険ものなどを除いては)女性作家の進出がありませんので、現在のところはこのようなSF小説でしか読めないのですが。

作品中における女性の立ち位置も、ファーストやZガンダムの昔から比べると、隔世の感がありますね。妙な気張りがなくて、男性も女性も自然にふるまった上で、役割分担が出来ている。少々理想的な社会かもしれませんが、あれは未来社会の物語だから、このような形もあるのかもしれません。

…と、話が少々それてしまいました。
海洋小説としての…という話でした。
少なくともこの作品の制作スタッフには、相当、海洋小説がお好きな方、英国冒険小説がお好きな方がいらっしゃるようです。
ネーミングなど、思わずクスリと笑ってしまいます。

前作と違って今放映中の艦内では艦長副長対決がありませんが、先週は「あなたの反対意見を日誌に記入…うんぬん」の話が出てきて、思わず、
「ティーン向けのアニメで、こんなピーター・ウィアー監督みたいなことしちゃ駄目だってば」
と苦笑してしまいました。

「日誌に記入」というのは、M&Cではホーン岬の嵐のところで出てくるセリフですが、そう言えばこの件、何処かで既に解説していましたっけ? どうもまだだったような気が…。

ホーン岬の嵐の時に船匠のラムが「このままではマストが持ちません」という内容のことを艦長のジャックに訴えます。ジャックは「君の発言は日誌に記録する」と言いますが、自身はラムの忠告を受け入れず、南進を続けます。そしてマストは折れ、ウォーリーの命は失われる。

この時、反対意見が航海日誌に記入されているかいないかで、後の責任問題は全く違ってきます。ずるい艦長でしたら、部下の反対意見は日誌には記入しません。
敢えて日誌に記入させた上で反対意見をしりぞけるというのは、それだけ艦長が自分の決断に強い自信と責任をもっている証となるのですが…、

と、これだけで4行も解説しなければいけないセリフを、いきなりティーン向けのアニメに放り込んでも、見ている人が「???」と思うだけでしょう。
M&Cではないのですから、なにもそこまでホンモノらしさを追求しなくっても(苦笑)…。
せめて前作のマーチン・ダコスタ(登場人物の名前です…ジャック・ヒギンズの小説、お好きですね?というのが見え見え)にとどめておけば、わかる人だけニヤ〜リと笑ってすんだのに。

でも製作スタッフにもM&Cファンがいるかも?と思うだけでも、私としては嬉しくはあるのですが。

というわけで、その後もずるずると、久しぶりのアニメを週1回見続けております。
ただこの作品、現実の世界情勢を反映しすぎていて、少々見ていて痛いのと、
それから、
昔は気にならなかったのですが、今は、たとえアニメでも、艦が沈むのが辛いです。

第二次大戦関連の海洋小説を多数読んだおかげで、艦内の状況が想像できてしまうこと、
それに、モビルスーツの動きって急降下爆撃機のようなものですよね、攻撃される艦側は、ユンカースにとりつかれたようなもので、さぞかし怖いだろう
…というようなことはたぶん、考えてはいけないのでしょうけれども。

それでもこのアニメの主人公のハイティーンの少年少女たちが、「なぜ戦争が始まるのか」「争いを止めるためには何をどうしなければいけないのか」悩んでいるのを見ていると、25年前のファーストガンダムの時にやはり主人公たちと同年代だった私たちも、TVを見ながら同じ疑問に悩んでいたことを思い出します。
あの時も、放映中にソ連軍のアフガニスタン侵攻があり、ニュースでは砂漠の戦争の映像が流れていました。そして昔は、その疑問に答えがあると思ってたんですよね。大学で歴史を勉強したらわかるんじゃないか?…とか。
でも実際はそんな簡単なものではないし、アフガンは25年たってもあんな状態だし、疲れた大人は現実に慣れきって、あまりこの問題を考えなくなっていくのですが。

今の日本のハイティーンの子たちも、やっぱりこのTVを見て、この問題をタイムリーに、真面目に考えたりするのでしょうか?
もちろん現実の世界情勢をある程度反映させているといっても、アニメですから、対立構図はかなり単純化されたシュミレーションになっています(現実はもっと複雑だってば、と突っ込みたくはなります)。
それでも同世代の子たちにとって、何かを考えるひとつのきっかけになれば良いと思いますし、私も昔考えていたことを思い出したことで、あまり現実に慣れきっていてはいけないのだわ、と新鮮な気持ちにさせられました。

あらあら、なんだか最後は話しがシリアスになってしまいましたが、このシリアスモード突入がガンダムの伝統(苦笑)ということで(昔見ていた方にはおわかりでしょう?)、私もそこは、オールド・ファンの一人ということなのでしょう。


2004年12月11日(土)