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Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
鷲は再び舞い降りた(ウォルター少年と夏の休日)

終了直前の「ウォルター少年と夏の休日」を、滑り込みで見てきました。
夏休みに子供さんを連れて映画なら、「ハリポタ3」よりむしろ「ウォルター少年」なのでは…と思ったのですが、ウォルターは上映終了だから時すでに遅し…ですか。

どちらも、家庭愛に恵まれなかった13〜4才の少年が、様々な経験から糧を得て、最後にはひとつ成長する、という物語なのですが、ウォルター少年の方がこの道筋がわかりやすく、はっきりしているような気がします。
「ハリポタ3:アスガバンの囚人」の原作は、確かにハリーの心の軌跡が見える面白い物語なのだけれども、映画になってみたら主人公の心の動きより、あっと驚く不思議な映像が先行する作品になってしまって、魔法は見られて楽しかったのだけど物語はどこへ???

原作より映画を先に見た友人が「ハリーは、おばさんにひどい仕返しをしてもお咎めなしだし、校長先生はひいきをするし、あれでいいのかしら?」と言っていたのですが、確かに、映画だけを見るとそのように感じるかもしれません。
おばさんが風船みたいにふくらんで飛んでいってしまいました…というのは、文章で読めばユーモアですが、実写で見てしまうと、ちょっとあくどいですし(これって日本人感覚? 欧米ではそんなことないのかしら?)、原作では、やはり子供時代に温かい家庭にめぐまれなかったルーピンが、代わりにホグワーツで、一緒に動物に変身してくれる大切な友人を得た…というサイドストーリーが脇にあって、だからハリーにも、同様にロンやハーマイオニーがいるのだよとわかるような、一種の救いがあったと思うのですが、映画はどたばたと忙しくストーリーの上筋だけを消化して終わってしまったような…。
私が心配することではありませんが、この路線で「ハリポタ4」に行ったら、4はあぁいう結末の話しではあるし、いったいどうなるのかなぁと、少々心配。
ストーリーの上筋だけに終わらないのが、J.K.ローリングのファンタジー(原作)の良いところだと思うのですけれども…。

そうそう、ホラム君…じゃなかったリー・イングルビーは、ちょっとキレた過激なバスの車掌さんが見事にはまってました。
今月の「Movie Star9月号」にもちょこっと取り上げられていましたね(P.35のハリポタ特集の一部)。イングルビーの次作は欧米で12月公開の「ヘイヴン」。これはオーランド・ブルームの映画ですから、いずれ日本でも見られるのではないでしょうか?

さて、話しは戻りますが「ウォルター少年」。
これはハーレイ・ジョエル・オスメント演じる少年ウォルターが、母親の身勝手から、ひと夏を2人の大おじさん(ロバート・デュバル&マイケル・ケイン)の農場に預けられる物語です。
大おじさん2人は、近所では有名な偏屈じじぃなのですが、銃の扱いにたけていて喧嘩も強く、本人たちはむかしモロッコの外人部隊にいたからだと主張していますが、近所では実はあの2人は銀行強盗だった…という噂が流れています。
このおじいさん2人がなかなか素敵なのですよ。
(ほらまた葉山さんの爺さん好みが始まった…って? はい。本人ようく自覚しておりますので)

それはさておき、実は今回最大の大発見はパンフレットにありました。
映画パンフ掲載のインタビューの中で、マイケル・ケインが「デュバルのことは昔からよく知っているんだ。初めて一緒に仕事をしたのは1976年の『鷲は舞い降りた』だから」と答えていたのです。
「鷲は…」の主人公クルト・シュタイナを演じたのがマイケル・ケインだということは私も記憶にあったのですが、ロバート・デュバルって?
…と思ってネットの映画データベースで調べてみたら、
なんと!ロバート・デュバルって、マックス・ラードル役だったんじゃありませんか!

私もさすがにこの映画、リアルタイムでは見ていません。でも昔からタイトルだけはよく耳にしていました。少女漫画を毎月買っていたティーンエージャーの頃、「この映画が好き!」とおっしゃる漫画家の先生方が多くいらして、いったいどんな映画なんだろう?って思っていた作品だったのです。
その後原作があることを知ってこれを最初に読み、それからずいぶんたってから「東京12チャンネルの昼間の洋画」でやっと見ることができました。

これは第二次大戦末期のドイツ軍の特殊作戦を描いた、分類は戦争アクション映画になるのでしょうか? 原作はジャック・ヒギンズの冒険小説ですが、こちらはアクション以前の英独双方の動きが丹念に描かれていて、むしろミステリ小説やスパイ小説の分類に入るのだと思います。

主人公はドイツ人の父とアメリカ人の母を持つドイツ軍少佐クルト・シュタイナ(マイケル・ケイン)と、祖国アイルランドの完全独立のためにドイツ軍に加担するスパイ(どっかで聞いた設定?まぁ同じ目的でも第二次大戦中はイギリスの敵になってしまうんですね)リーアム・デブリン(ドナルド・サザーランド)。
この特殊作戦を立案するベルリンの軍情報部中佐がデュバル演じたマックス・ラードルでした。
そして今回、もう一つ発見! このラードル中佐にはカールという補佐官がいるのですが、これを演じていたのがマイケル・バイン。「ホーンブロワー」の第一話に出てくるジャスティニアン号のキーン老艦長や、「シャープ」のウェリントン麾下の2代目スパイマスター、ナリン役などを演じていた渋い役者さんです。

さきほど、デブリンの設定について「どこかで聞いた話?」とか書きましたが、
この作品は、意外と「M&C」ファンにお勧めかもしれません。
国籍も人生哲学も価値観も異なる二人の男が、ある作戦のために組まなければならなくなる。
クルト・シュタイナはジャックより更に正統派の軍人さんですが、リーアム・デブリンは…私、アイルランド人のヒネクレには一定のパターンがあるような気が…しないでもない。考えてみればデブリンは、ダブリンの名門トリニティ大学の卒業で、マチュリンの約140年後輩(笑)に当たるのでした。

でも、出来たら先に原作「鷲は舞い降りた」(ハヤカワNV834)からお読みになってくださいませ。
映画から先にご覧になった方はきっと、映画を「素晴らしい!」って仰るんだと思うんですけど、私は原作を先に読んでしまったので、「映画は原作の味をこわしてしまった」と苦く思う一人です。
ハッキリ言って、ヒロインに関してはこの映画、「キング・アーサー」と同じ失敗をしているような? こういう方がやっぱり、アメリカ人にはウケるんでしょうかねぇ?(ため息) 原作のラストの方が絶対に余韻が残るのに、残念です。


2004年08月07日(土)