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Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
卵を割らないとオムレツは作れない

5月30日の日記で、You can't make omelets without breaking eggs.
卵を割らずにオムレツを作ることはできない
ということわざを紹介し、その意味を、
何かをしようと思ったら、それに付随するトラブルは引き受けること
…とご紹介したのですが、先日ある国際謀略小説を読んでいたら、このことわざの使用例に当たりました。

そしてわかったこと、
どうやらこれは「付随するトラブルを引き受ける」よりももっとシリアスな状況に適用され、実際のところ「lesser weevil」と同じような意味で使用されているらしい。

読んでいたのはクリス・ライアンの「暗殺工作員ウォッチマン」(ハヤカワ文庫NV1042)、このことわざが登場するのは163ページ。
この本も「蘭に魅せられた男」と同じ2003年8月の新刊で、私にとっては積ん読になっていた本のひとつ。
組織を裏切った元MI5工作員を、暗殺するように命じられたSAS士官の話ですが、これって最終的には「オムレツを作るために卵を割れるか割れないか」という話なんですね。ただしこの場合の卵には、人の命が懸かっています。

映画「インファナル・アフェア」がお好きな方はこの小説、手にとってみられると良いかもしれません。
あれは「潜入者は潜入者にしか理解できない」ですけど、こちらの場合は「暗殺者を本当に理解できるのは暗殺者である」でしょうか? 追う者と追われる者は鏡の表裏一体である…というような。
その意味ではギャビン・ライアルの名作「深夜プラス1」を彷彿とさせるところもありますが、ただいかんせん、21世紀の追撃戦はデジタルで、古き良きこだわりの世界からはほど遠いところにあります。

M&CのYahoo映画評の中に、「プロフェッショナル集団の群像劇の面白さ」という評があったと思うのですが、私がなんのかんの言いながらもクリス・ライアンの小説を読み続けている理由の一つはこの「プロフェッショナル集団の群像劇」だったりします。
彼の小説に登場する兵士たち、諜報関係者は男女を問わず皆、徹底したプロフェッショナル。
それでありながら、主人公の価値観は市井のごく普通の一般人のそれである…そんなところがある意味、「非情の世界の情」を描くダグラス・リーマン(4月11日の日記参照)にも通じる魅力なのかもしれません。もっともそれゆえに主人公は困難な立場に追いやられるのですが。


こんなことばかり書いていると、私って物騒な女だと思われてしまいますね(笑)。
べつにこんな本ばかり読んでいるわけじゃないんですよ…といいわけ。
もっとも昔からスパイ・謀略小説の方が好きなのは、否定いたしませんが。
このHPは海洋小説がテーマなので、そのテーマで書いていくと、どうしても物騒な話が多くなる…というわけでして。
よろしくご理解ください…ませませ。


2004年06月12日(土)