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Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
Just go straight at 'em 原書読み(その2)実践編

原書の読み方(その2)は実践編です。
今回のタイトルにした「just go straight at 'em」は、映画M&Cの艦長室でのディナーの際にジャックが紹介したネルソンの言葉。
正確には「Never mind the manoeuvres, just go straight at 'em」細かい戦略など気にせず、突き進め!…というような意味。

英語の原書を読み通すコツは、
「Never mind a single word, just go straight at 'em」
単語の意味がわからないと言って立ち止まらず、とにかく読み進んで行け!

これは私見ではなくって、私が一番最初のペーパーバックを読んでいる時に目にした雑誌の、「ペーパーバックを読んでみよう!」特集に載っていたアドバイスです(あ…この雑誌がネルソンの言葉を引いていたわけではありませんよ)。

最近ちょっと大きな本屋さんの洋書売り場に行くと、「英語でハリーポッターを読むための本」というのが出ています。
各章ごとに単語や熟語の意味が細かく解説してある参考書、まるでなつかしの「教科書ガイド」みたいな本。
…教科書ガイドっておわかりです? これって特定年代にしかわからない言葉かしら? 今でもあるのでしょうか?
教科書ガイドは、主要な教科書にぴったり準拠して、単語の意味やらポイントやらを事細かに解説してくれる参考書。これ1冊持っていると英語や古文の予習に辞書を引く必要が全くない(どころかまったく予習の必要もない)という、怠け者の学生にはありがたいが、たぶん先生は眉をひそめていただろう…参考書のことです。

この「ハリーポッターを読むための本」確かに、ハリーポッターで「英語を勉強しよう」という人のためには、大変参考になる本です。単語や熟語が使用例とともに紹介されていますから、実際の文章の中でどのように使われているのか大変よくわかる。知識が増え単語や熟語も覚えられて、英語の成績upは必定です。
でもこれ、英語で「小説を読みたい」人の参考になるか…というと、ちょっと?な部分が。

日本語で小説を読む時のことを考えてみてください。二度目、三度目はともかくも、最初に読む時は私たちはストーリーを追っているのであって、文章を読んでいるわけではありません。司馬遼太郎など読んでいると、たまに現代人に馴染みのない漢語なども出てきますが、だからといってそこでいちいち漢和辞典を引いたりはしないでしょう?

英語も同じです。いちいちわからない単語を全部調べていたら、3ヶ月で読み終わる筈の本に1年半はかかります。人間そんなに長く根気は続きませんから、絶対に途中で挫折します。
いやそれ以前に先が知りたくってイライラするのではないかしら?

そこで、「単語の意味がわからないと言って立ち止まらず、とにかく読み進んで行け!」
というわけです。
そんな無茶な…とお思いでしょう? 確かに無茶です。私もこれで、失敗をいくつもしています。
たとえば、人が死んでいたのに気づかなかった…とか、死んだと思っていた人が実は生きていた(笑)…とか。

でもこれは結局、どちらのweevil(コクゾウムシ)を選ぶか…と同じ選択で、私は、多少無茶でもとにかく最後まで読み通す方が良い…と思っているのです。
最後まで通しで読んだら、あとはいくらでも前の章に戻って、詳しく知りたい部分だけじっくり辞書を引いてみてください。それからでも遅くはありません。

ただし読んでいる最中で、どうしても鍵になるような単語が出てくることがあります。
たとえばオブライアンの3巻「特命航海、嵐のインド洋」を読んでいた時のこと、スティーブンが深刻そうにscurvyを心配し、ジャックと議論になるエピソードがありました。これはscurvyが何だかわからないと話のポイントがわかりません。
私はたいてい通勤電車で英語の本を読んでますが、こういう時にそなえて、ハンドバックの中には常に様々な色の付箋紙と、小さなノートが入ってます。
とりあえず電車の中ではscurvyのところに付箋紙をたててページがわかるようにし、家に帰ってから辞書を引きました…すると「scurvy=壊血病」とあって、あぁなるほどな…と。
でも私も1回で英単語を覚えきれるほど記憶力がよくありませんから、その結果を小さなノートにメモしておくわけです。それから付箋紙をはずします。

この小さなメモ・ノートを、私は「本の航海日誌」と呼んでます。
後で役立ちそうな情報をメモして残しておくのです。
日本語の本だと、「あれ?この人誰だったかしら?」とか「この人とジャックとの過去のいきさつはどうなっていたかしら?」と思った時に、前の章の該当箇所をすぐに探せるのですが、英語の場合それは非常に難しい。そこで、後で困らないようにこのノートにメモしておいて、必要な時にはハンドバックからさっと取り出して、ふむふむ…と。

また海洋小説の場合、やたら登場人物が多いので、名前を覚え切れません。そんな時にもこの「本の航海日誌」は大活躍。
最初に登場した時にメモをとり、その人の特徴とかも記しておきます。
3巻のメモをたどってみると、Mr. Herveyの項には「副長、まるっこい、近視、骨の髄まで海の男」、Mr.Stanhopeは「外交使節、H.E.とも呼ばれる、いいひと、船酔い」…けっこう笑えますね。

そういえばこのメモ、日本語で海洋小説を読む時にも作っておくことをおすすめします。
え?文庫の場合、登場人物一覧があるって? だめだめ。これが実は大ネタバレのもと。
日本語訳の文庫を読む時に、もし本当にネタバレがお嫌なら、絶対に「登場人物一覧」は見ないこと!です。
とくに年代記風の海洋小説の場合、思わぬ時に思わぬ人が再登場して「びっくり!」が結構あるのですが、最初に「登場人物一覧」を見てしまうと、しっかり再登場人物まで入ってますから、まったく「びっくり!」できません。

さしあたってのネタバレ警報は、次に日本語訳が出る予定のオーブリー&マチュリン4巻、最もネタバレが悲しかったのはボライソーの15巻。これからこれらの本を読まれる方は、絶対に最初に「登場人物一覧」をご覧になりませんように。

話し戻って「本の航海日誌」
私はここに、このエピソードが好き!とか、簡単な感想、印象に残ったセリフなども書き入れてます。
「Jack! You have debauched my sloth!」…このセリフをわざわざメモしていた私って…。

「This is my country」これはダイアナのセリフ。thisはインドのことです。ダイアナらしいなぁと思ってメモしてしまいました。
このとき思い出したのは、満州育ちの人はスケールが大きいとか昔から日本でも言われている海外育ちの人の評価。ダイアナってたぶん、当時のイングランド人のスケールにはずれた女性だったのではないかと。彼女は寒くて霧の多いイングランド女性ではなくて、極彩色でエネルギッシュなインドの女。それが彼女の魅力だと思うのですが。

いけない。話しが脱線している。
まぁ「本の航海日誌」の利用法は人それぞれだと思います。
わざわざメモをとるなんて面倒くさい…という方は、ずばり「ピーター・ウィアー方式」で代用することもできます。
これはDVDのメイキングで紹介されているのですが、ウィアー監督は脚本執筆にあたって、全20巻を丁寧に読み、エピソードごとに山のような付箋を立てていきました。本からはみ出した部分に「ジャックとスティーブンの議論」とか「愛国心について」とかテーマが書いてあり、各エピソードを簡単に探せるようになっています。
この方法なら比較的簡単に、メモを残すことができるでしょう。

話しを「scurvy」まで戻しましょう。
意味のわからない単語について、通常の辞書で引いても良いのですが、海洋モノには特殊な専門用語があり、一般の辞書だけではカバーしきれないことがままあります。
読者に対して手加減をせず、当時そのままの言葉や専門用語、ラテン語やフランス語を使いまくるパトリック・オブライアンの場合は、一般の辞書だけでは役に立たないことが多いのです。

これで困ったのは外国人だけではないようです。古い単語や専門用語に慣れていないアメリカ人も、オブライアンには手を焼いたようで、このような参考図書が別個に編集されました。
「Sea of Words」
パトリック・オブライアンを読むための辞書(その1)です。
調べようとした単語が専門用語くさかったら、一般辞書を引く前にこれを引いてみた方が良いと思います。
ネット上では専門家向けの本格的海事用語専門辞書などもありますが、こちらはあまりに専門的すぎるので、小説だけを読むのなら「Sea of Words」で十分…というか、むしろこれをおすすめします。1冊持っていると他の海洋小説にも使えるのでお得です。

また、突如マチュリンが口にするラテン語やフランス語やカタロニア語、カスティリア語やポルトガル語その他もろもろ…については、ネット上にこんな便利なホームページがあります。オブライアンを読むための辞書(その2)ですね。
「オーブリー&マチュリンを読むための英語以外の言語辞書」
管理人のブラウン氏は>10月29日の日記でご紹介した「百科事典」の著者でもあります。


付録として、おそらく今読んでいらっしゃる方がいちばん多いと思われるオーブリー&マチュリンの4巻について、簡単な水先案内をつけてみることにしました。
原則、ねたバレはありません。
長い距離を旅する者にとっては、先の道程がいったいどのようになっているのか、大まかなところを知りたいものです。
あと何kmくらい歩かなければならないのか? どこでひとやすみ出来るのか? 越さなければならない山の高さはどの程度か? このようなことが前もってわかっていると、ペース配分がしやすいかなぁ?と。

やっぱり海戦はハードだから、連チャンすると疲れます。知らずに次の章に入ってしまい次の海戦が始まってしまって、もう疲れて寝たいのに、主人公がピンチで心配で寝られなくって、日本語だったら1時間で読めるのに、英語だから時間がかかって、「寝たい〜、寝たい〜」と言いながら夜半直まで泣きながら勤務(読書)を続ける羽目になる…とか(そんなの私だけ?)。
こんな水先案内があれば、覚悟の上で危険水域に入れるかなぁ…と思った次第です。

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原作4巻「The Mauritius Command」
(各巻のページ数は、英国ハーパーコリンズ社版のペーパーバック1996年版によります)
全10章構成 334ページ

第1章:プロローグ部分、陸の上、全37ページ
  今回の舞台となるアフリカ沖のモーリシャス島の歴史的経緯について、メモしておくと後で便利。

第2章:出航。航海中に今回の基本設定(艦と登場人物)が明らかになる。全29ページ
  ジャックの艦と登場人物(新しい部下たち)をメモ。
  重要な脇キャラとなるクロンフォート卿とジャックの過去のいきさつについても忘れずにメモ。

第3章;南アフリカ・サイモンタウン到着。現地で合流する登場人物と艦が紹介される。全40ページ
  各艦の艦名と艦長名はすぐに取り出せるように付箋紙に書き出して貼っておくことをおすすめします。

第4章:最初の作戦行動 全40ページ
  この作戦は一章完結。

第5章:2回目の作戦行動 全37ページ
  この作戦も一章完結。

第6章:3回目の作戦行動(その1) 36ページ
第7章:3回目の作戦行動(その2) 37ページ
第8章:3回目の作戦行動(その3) 22ページ
  この作戦は3章にわたって続くかなり長いもの。
  6章終了時にひと休みはあるが、7章と8章は連続していると考えた方が良い。
  7章と8章はハードな海戦続き。
  でも印象的なエピソードがいろいろあって心に染みます。

第9章:4回目の作戦行動 30ページ
  作戦そのものは一章完結。

第10章:最後の決戦とエピローグ 26ページ

だらだらと進行して最後までヤマをはずした3巻(特命航海 嵐のインド洋)と比べると、同じ作者か?と思われるほど起承転結がはっきりした、緩急のある娯楽小説に仕上がっています。
私はオブライアンを、まだ前半の10冊しか読んでいませんが、その中では一番素晴らしい小説だと思います。

波瀾万丈なストーリーだけではなく、脇キャラであるクロンフォート卿、ピム艦長、コーベット艦長、軍医のマカダム、陸軍のキーティング中佐(私、この人のファンです)、外交官ミスタ・ファーカーが、それぞれに個性的で魅力的。ジャックは今までの中でもっとも大人で頼もしいですし、諜報員スティーブン・マチュリンは大活躍(これが近現代なら、彼はきっと大佐待遇の情報将校なのでしょう)。
苦労して読んでも損はしない1冊だと思います。

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最後に、BBSのご紹介。
オーブリー&マチュリン・シリーズのホームページを作っていらっしゃるKumikoさんのところに「原作読み応援BBS」が出来ました。
トップページから「掲示板使用上の注意」経由で、お入りください。
注意書きにもある通り、BBSの扉を叩く前にできるだけ自力で調べてみて、わからない時のみご利用くださいね。
よろしくお願いいたします。


2004年05月23日(日)