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Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
航海前夜

いよいよ明日から、「M&C」が日本公開になります。
ワクワクしておられる方も多いのではないでしょうか?

あいにくと私は、もう年度末に入ってしまって、今週から猛烈に仕事が立て込んできてしまいました。がんがんお仕事やっつけないと年度内に終わらないので、時間的にも精神的にも今は余裕がないというか、あまりこちらの世界をかまっていられず、さっき仕事から帰ってきてやっと「明日かぁ」と思ったものの、まだあまり実感がわきません。
私は既にオーストラリアで一度見ていますし、私個人としては、明日映画を見たから特別に何かが変わるわけでもないのですが、世の中はどうなのでしょう?

海洋小説というのは1冊が厚いですし、歴史モノである上に専門海事用語が並んでいて、一般の方にとっては、けっこう敷居が高いものです。ところが映像媒体である映画は、往々にしてこの敷居を簡単にとっぱらってくれるのですね。
あの「指輪物語」がまたたく間に日本全国に広まり、今では多くの人がフロドの名を知っているように。

ただ、「指輪物語」の場合は、映画の世界と原作の世界の間にかなりの差異があり、例えば職場などで話をしている時に「ロード・オブ・ザ・リング好きなんですか?」って訊かれると、「うーん、好きは好きなんだけど、どっちかというと原作の方」という応えになってしまいます。
これが「マスター・アンド・コマンダー」だと、たぶんそのようなことはありません。
指輪物語ほど、映画と原作のギャップがありませんし、私は密室の人間ドラマが好きで海洋小説を読んでいるところがありますから、ウィアー監督が描き出そうとした世界がイコール、私が魅力を感じる海洋小説の世界でもあります。

その魅力を、今までひとに説明するのが難しかったのですが、今回、映画というかなりメジャーな媒体で、多くの人にその入口が広がって、少なくとも今まで海洋小説を読んできた人以外の人にもこの世界をわかってもらえる。
それは大変ありがたいことです。
これはNHKBSで「ホーンブロワー」のドラマが放映された時にも思ったことなのですが、衛星放送と比べて今度の方が、あきらかにより多くの方の目に触れるでしょうし、世界が広がると思います。

今回の日本公開で、こんなことが変わるといいなぁ…という私のささやかな、でも現実的な夢は、
ずばり、海洋小説の売り上げがのび、徳間文庫で続刊があやうくなっている海洋小説アラン・リューリー・シリーズの翻訳続行が決まることです。
それから、TVドラマ「ホーンブロワー」の日本版DVDが出ることかしら。

「マスター・アンド・コマンダー」という映画自体の続編は、日本の興行収入で決まるものではなく、むしろ明後日のアカデミー賞の結果の方がひびくと思いますから、ここでじたばたしてどうなるものでもないでしょう。

それでも、せっかくなのだから、この映画の魅力がわかっていただけるより多くの方に、この映画を見ていただきたいと願う…少しはじたばたしてみたいと思うのです。

欧米での客層を語るまでもなく、「マスター・アンド・コマンダー」というのは、実は中高年向きの名画ではないかと思います。
以前に一度書きましたが、私がオーストラリアで見たこの映画の客層は、まるで去年の日本の「永遠のマリアカラス」の客席のようでした。もしくは「たそがれ清兵衛」のような。

考えてみれば欧米のおける原作者パトリック・オブライアンの位置づけは、日本で言えば藤沢周平や、司馬遼太郎のようなものかもしれません。中高年層に愛読者の多い歴史小説のベストセラーですから。
また映画そのものも、最近のハリウッド映画にありがちなドンパチの派手な歴史アクションではなく、人間関係の機微を丁寧に描いたドラマになっています。デイビット・リーンの世界をほうふつとさせるこの映画は、最近の派手な映画に眉をひそめるご年配の方には、往年の名画の記憶を刺激するような作品になるのではないでしょうか?
配給会社の方にはぜひこの方向で、宣伝をお願いしたいと。

実は平日昼間の有楽町・銀座の映画館にはシルバー世代のカップルが多いのです。あの世代…私の親の世代ですが…にとって、銀座で洋画…というのはオシャレなデートだったのですよね。昼間の映画館はどうしても客足が遠のきますし、そこを狙って本格的に中高年にアピールしてみてはいかがでしょう?

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さて、今後のこのサイトの予定ですが、管理人が年度末の多忙期に入ってしまったため、3月中旬まで約3週間強、更新は週末のみになる予定です。ただし1日のアカデミー賞結果だけは何とかします。
欧米サイトはここ1ヶ月ほど落ち着いており、DVDの詳細もお伝えしましたので、現時点で急ぎの海外ニュースは、もうあまりないと思われます。

ねたばれの関係上今までご紹介できなかった、脚本ジョン・コーリー氏と、編集監督の記事は、公開後2週間以上たってから、3月中旬以降のupとなる予定です。

代わりに、来週あたりをめどに、「マスター・アンド・コマンダーを楽しむために」と題して、海事用語や当時の海上生活の詳細などを紹介するページのupを企画しています。
たとえば、映画の冒頭にカラミーがホラムに「当直士官は貴方なのだから、貴方が決断すべきだ」というような内容のことを告げるシーンがあるのですが、これって「当直士官」の意味がわかっていないと、本当にはわからないセリフと人間関係だと思うのです。
この企画、私ひとりでは手に負えませんので、海洋小説系HPの多数の皆様にご協力をお願いしています。映画を見ないと解説できない部分もありますので、upまでにはしばらく時間がかかりますが、よろしくお願いいたします。

それでは皆様> 明日からサプライズ号のクルーとともに、南太平洋に乗り出しましょう!
素晴らしい航海を!


2004年02月27日(金)