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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2012年10月21日(日) --

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『こわい部屋 謎のギャラリー』

こわい話とはどんな話なのだろう、とさんざん考えていると、 北村薫・宮部みゆき名コンビによる対談付きアンソロジー 「謎のギャラリー」シリーズから、 『こわい部屋』(2002年 新潮文庫)におまけの一編をつけた 『こわい部屋』(2012年 ちくま文庫)が新刊で積まれていました。 これを天佑という‥‥?

この読み巧者書き巧者のお二人のおすすめ作品は、 なんといっても文章としての完成度が高い。 怖いか、というとやはり「びっくりする」とか「気持ち悪い」、 「高い所・狭い所はイヤ」といった系列に入るものも多いのですが、 文章を読んでみて、なるほどー、これはさすが、と 書き方に感心するものばかりです。 だから「こんな話」と内容を語っても怖くない。 「読んでみて」話の中に身を置くしかありません。

十六歳にして完璧な作品、と当時話題になった、 人気作家・乙一のデビュー作『夏と花火と私の死体』もまるごと収録。 おなじみ巻末対談は、収録作以外の作品の話題にも花が咲き、 二人してどんどん深沢七郎で盛り上がる。 ですよねー、深沢七郎すごいよね、採られてないけど、と 自分もなんだか一緒になって盛り上がってしまいます。(ナルシア)


『こわい部屋 謎のギャラリー』編:北村薫 / 出版社:ちくま文庫2012
『謎のギャラリー こわい部屋』編:北村薫 / 出版社:新潮文庫2002

2010年10月21日(木) 『赤朽葉家の伝説』
2003年10月21日(火) 『リカちゃん大図鑑』
2002年10月21日(月) ☆「ワンス・アポンナ・タイム・シリーズ」
2000年10月21日(土) 『神秘学マニア』

お天気猫や

-- 2012年10月20日(土) --

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『幽談』

こわい話が好きです。 けれど、いつも思います。 本当に怖い話ってどんな話だろう。

いかにも京極夏彦的な語り口による短編集『幽談』、 最終話の主人公は一心不乱に「こわいもの」とは 何かを突き詰めて考え抜きます。

こういうものは、驚くだろう。怖くはない。 こういうものは厭だ。とても厭だけれど、怖くはない。

私も「こわい話をして」と言われるといつも思います。 この話をするとびっくりするだろう。でも怖いだろうか。 この話は気持ち悪いけれど。怖いとは違うのかもしれない。 京極氏も常に思うのでしょう。

『幽談』は異様な話、とでもいうのでしょうか。 『夢十夜』的夢幻感や、厭な感じを、 さめているのか、執着しているのか、あの語りで。

怖くはない。 とても奇妙ではあるけれど。 この世には怖いものなど何もない──のでしょうか。 この世のものが怖くないのなら、あの世のものは。 あの世のものなど関係ないのだから、やはり怖くはない。 怖くはないけれど。

例えば。 亡くなったはずの親しい人を見かけたとしたら。 怖いだろうか。怖くはないだろう、親しかったのだから。 嬉しいだろうか。嬉しくもないだろう──

私もよく思いました。 京極氏も常に思うのでしょう。

だから、第二話「ともだち」の虚ろな寂しさが心に残ります。 (ナルシア)


『幽談』著者/京極夏彦 / 出版社:メディアファクトリー2008

2003年10月20日(月) 『パンプキン・ムーンシャイン』
2000年10月20日(金) 『悪を呼ぶ少年』

お天気猫や

-- 2012年10月17日(水) --

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『悪魔に食われろ青尾蠅』

これもまた不穏なタイトルですが、 『悪魔に食われろ青尾蠅』というのは 子供たちも歌うような米国のカントリーソング (「ブルーテールフライ」「ジミークラックコーン」等とも) なのだそうです。

主人公はそんな俗謡とは無縁のように見える 優美なハープシコード奏者。 感受性豊かな彼女は、自分を取り巻く環境に違和感を感じはじめます。 周囲が自分を騙しているのか、それとも──おかしいのは私?

現代でこそ見事なサイコ・サスペンス (当時の言い方ならばニューロティック・スリラーでしょうか、 ヘレン・マクロイの『暗い鏡の中に』の 精神科医ベイジル博士シリーズと同じ時代です)の 古典と称賛される作品ですが、 1948年にアメリカで書かれた本書は出版先が見つけられず、 1967年にイギリスでやっと刊行されたという曰く付きです。 確かに異常心理モノ慣れした私達にとっては 「きたきたきたきた!」という場面でも、 当時の読者には唐突すぎる展開だったのかもしれません。

先日紹介した『六本指のゴルトベルク』の中では、 『悪魔に食われろ青尾蠅』はトマス・ハリスの『羊たちの沈黙』の 対になるような作品として読み解かれています。 青柳さんによれば、主人公が完璧を求めて演奏するのは ともにバッハの『ゴルトベルク変奏曲』ですし、 レクター博士や捜査官クラリスの造形に影響しているような描写も多い。 そう指摘されれば、私は『青尾蠅』を読んだ時、 トマス・ハリスの『レッド・ドラゴン』の方を思い浮かべました。

『青尾蠅』は描写も主人公もずっと美しく繊細なのですが、 入り組んだ情景の中から徐々に姿を現す真実の恐ろしさは、 「慣れている」はずの私達、現代の読者にとっても衝撃的。 (ナルシア)


『悪魔に食われろ青尾蠅』 著者:ジョン・F・バーデン / 訳:浅羽英子 / 出版社:創元推理文庫2010

2003年10月17日(金) 『ハロウィーン・パーティー』
2001年10月17日(水) 『民子』
2000年10月17日(火) 『TEA<茶>の本』

お天気猫や

-- 2012年10月16日(火) --

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『六本指のゴルトベルク』

不気味なタイトルですが、ホラーではありません。 明晰な文体のピアニスト・青柳いづみこが 「文章で表現された音楽」を語るエッセイ集です。

なぜハロウィーンにおすすめするのか。 例えば表題の『六本指のゴルトベルク』とは、 我らがダーク・ヒーロー、ハンニバル・レクター博士。 映画『羊たちの沈黙』の凄惨な場面で、 レクター博士がうっとりと浸るバッハの 「ゴルトベルク変奏曲」の旋律が甦ってくるではありませんか。

それにしても音楽とは恐ろしいものですねえ。

ただ人の心を和ませたり楽しませたりするだけのものではない。 「音楽」とは、「演奏」とは、まさにこんな感じだなあ、と 現役演奏家も納得する音楽の文章表現は、 物語をサスペンスで満たし、多くの悲劇を引き起こします。

筆の立つ演奏家である青柳さんが、 自分たち音楽家の「業」の実情をまじえながら紹介する 物語の数々を読んでみたくなるのはもちろんですが、 文章で表現されている音楽がどんな曲かも気になる訳で、 本を片手にいちいち検索し、「ああ!この曲か!」と頷いてしまいます。

軽やかなタッチに乗せて次々と展開してゆく 文学と音楽と人間のおそろしさを秋の夜長に堪能してみては。 (ナルシア)


『六本指のゴルトベルク』 著者:青柳いづみこ / 出版社:中公文庫2012

2001年10月16日(火) 『テディとアニー』
2000年10月16日(月) 『バーニング・ツリー』

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