ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■雲の向こうの遠雷が呟きさえも掻き消すから 3-1
 日番谷の言うことを全く意に介さず、浮竹はどこから出してきたのか両手いっぱいの菓子を日番谷に押しつけるように渡す。そしてギンを振り返ると、更に菓子を出してみせた。
「市丸、お前にもやろう。美味いんだ、これ」
「おおきに。今日のおやつにでもいただきますわ」
 ギンが手のひらを出すと、浮竹が白い包み紙で包まれたまんじゅうのようなものを転がした。浮竹は上機嫌な顔をしている。ギンは軽く頭を下げた。
「さあ、一緒に隊舎に戻ろうか、日番谷」
「てめえと一緒に戻る隊舎はねえぞ」
「いや、俺も京楽のところへ行くからな。同じ方向じゃないか」
 日番谷は不機嫌な表情のまま、ギンを振り返った。浮竹もまたにこやかに振り返る。
「じゃあな、市丸」
「じゃあ、頼んだよ」
 ギンはただ笑って片手を上げて、ひらひらと振った。二人はくるりを同時に背を向けて、一方的な談笑をして立ち去ってゆく。まるで親子のような後ろ姿をギンは眺めていた。浮竹は純粋な白髪、日番谷は青みがかって見える白に近い銀髪をしている。影で見ると違うのだが、昼下がりの陽の光の下で見ると同じような色に見えてきて、それが余計に二人を親子のように見せていた。ギンは前髪を右手で摘んで、見上げてみた。青い空を透かすギンの髪は本当に銀色をしている。これも陽の光の下で見ると彼らと同じように見えるのかもしれないが、ギンにそれを見る術はない。少なくともギン自身は、彼らと自分の色は全く違うように感じている。

 先程、浮竹がしていたようにギンは欄干に寄りかかった。浮竹と日番谷はもう角を曲がろうとしている。その消える姿を眺めていて、そしてようやくギンは笑みを消した。
「……聞いてしもたなァ」
 小さく呟いて、ギンは欄干に体重を掛けて仰け反った。少し前まではまだ淡いぼやけた色をしていると感じていた空は、いつのまにか青味を増して高く深くそこにあった。ギンは空を見上げる。空を見上げるといつも思い出す乱菊の言葉が、ギンの耳の奥で響く。
 あのとき、乱菊は確かに言った。
 約束して。ギン。
 枯葉がかさかさと音を立てていた、白っぽく明るい落葉の森。抜けたような青い空を見上げて、乱菊は確かに言った。ギンは約束しなかった。ただ、大丈夫だと繰り返し言っただけだった。
 空に落ちていくまでは、乱菊の手を離さないと。
 ギンは微笑んだ。
「手ェ離さずにいられるやろかねえ」
 乱菊。
 名前だけは口の中で呟く。誰にも聞こえないように、誰にも聞かれないようにギンはその呟きを飲み込んだ。




目次

07月07日(金)
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