ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■雲の向こうの遠雷が呟きさえも掻き消すから 2
幾つかの外回りの仕事を片付けて、乱菊は隊舎に向かって街の通りを歩いていた。戻ればまだ仕事はあるが、終業までにかなり余裕で終わらせられる量だ。乱菊はちらちらと軒先で売られている団子や饅頭に視線を送る。歩き食いが日番谷にばれたら怒られるのは確実だが、いい匂いは湯気とともに通りに漂って乱菊を誘惑している。
賑わう通りの端により、通りの向こう側にある店を凝視して乱菊は考え込んだ。そのとき、目の前に影が現れる。
「こんなところで何してるのさ」
顔を上げると、飾り眉が揺れている。乱菊は鮮やかに笑った。
「なんだ、弓親じゃないの。あんたこそどうしたの」
「僕はお使いさ。今日のお茶請けを買い出しに」
弓親はそう言って抱えた紙袋を顎で示す。乱菊が覗き込むと一番上に金平糖の袋が見えた。
「やちるが待っているわね」
「まだ大丈夫さ。仕事が終わらないとお茶にしないって言ってあるからね。夕方にお茶にできればいい方だよ」
「今日は書類仕事の日ってわけね」
乱菊は苦笑いを浮かべる。十一番隊は虚退治が仕事の殆どを占めているし、それに見合った人材で構成されている。しかし書類仕事が全くないわけではない。机での仕事に耐えられる数少ない死神がそれらを処理するのが十一番隊の常だったが、弓親は遠慮無く書類仕事を苦手とする剣八ややちるにも仕事をさせていた。
弓親はにやりと綺麗な顔を崩さずに笑う。
「そう。どうしても隊長格が確認しないといけないものもあるからね。ここで一気に終わらせないと」
「あらあら、大変ねえ」
全くそう思っていなさげな顔で笑う乱菊に、弓親が眼を細めた。
「君のところの日番谷隊長も大変だろう。勤務中に買い食いしようかどうか悩んでいる副官を持ってるんだから」
「……ばれてた?」
「ばればれ」
いたずらがばれた子供のような眼をして笑う乱菊に、弓親は軽く鼻で笑ってみせる。そして懐から小銭入れを取り出すと、
「まあそういう僕も、何か甘い物でも食べようかと思ってたんだけど」
と言って首を傾げて見せた。
「ならご一緒にお茶でもいかがでしょうか? 十一番隊五席殿」
乱菊も笑って懐から小銭の入った袋を取り出した。
店の前に設けられている赤い傘の下の椅子に並んで座り、乱菊と弓親は饅頭を頬張っていた。二人の間には湯気の立ち上る湯飲みが盆の上に二つ、並んでいる。目の前を人々が通り過ぎていく。乱菊は人の流れに酔わないように、目線を上に向けた。
赤い傘の向こうには青い空が広がっている。
「そういえば」
弓親が顔を前に向けたまま、思い出したように言う。
「この間、朽木隊長と一緒に阿散井が挨拶に来たよ。ちょっと前まで同じ場所にいたくせに、六番隊副隊長って顔をしてまあ畏まって……頑張っていたけどね」
「そうね。就任の日は挨拶回りだけで一日が終わるから、相当気を張っていたでしょうね。疲れるもの、あれ」
十番隊に挨拶に来た阿散井を思いだして乱菊はひょいと肩を竦める。あの日、阿散井は白哉の後ろで硬い顔をして礼をしていた。新任の阿散井を気遣う様子もない白哉と、新任というだけではない硬さで白哉の背を見やる阿散井。二人が去った後、二人の様子を日番谷は一言、硬ぇな、と評した。それに乱菊は苦笑して頷いただけだった。
「初日だから仕方ないけど、朽木隊長とはぎくしゃくしてたわね」
「まあ、彼は朽木隊長と何やらあるみたいだし」
乱菊の言葉に弓親が軽く答える。弓親は饅頭を食べ終えて、両手を体の後ろについて力の抜けた様子をしていた。しかし、乱菊に向ける眼は思わせぶりに光っている。乱菊は華やかに微笑んでみせた。
「そうなの?」
弓親は可愛らしく小首を傾げる。
「僕はよく知らないけどね。一角と彼が話しているのをちらりと耳にしたことがあるだけさ。僕は別に興味はないからね」
「あんたって、ホントそうよね。興味あるのって一角と、あとは更木隊長とやちるくらいでしょ」
溜息混じりに乱菊はそう言う。弓親はすっと眼を細めて微笑んだ。
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07月06日(木)
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