2005年04月19日(火)  ありがとうの映画『村の写真集』

■『パコダテ人』を魔法のような手腕で実現させたビデオプランニングの三木和史社長(でいいのかな)が製作・プロデュースする映画『村の写真集』(三原光尋監督)の最終試写に駆け込む。この作品、ラインプロデューサーに石田和義さん、ヘアメイクに小沼みどりさん、出演者に徳井優さん、木下ほうかさん、粟田麗さんとパコ度高し。しかも、『雪だるまの詩』主演、『彼女たちの獣医学入門』出演の斉藤歩さんも出演……という贔屓を抜きにしても、いい作品だった。故郷で写真館を営んでいたがしばらくカメラから遠ざかり、山仕事をしていた寡黙な父・高橋研一(藤竜也)。父に反発しつつ写真の道に進み、「東京で活躍する写真家」ということになっているが助手どまりの息子・孝(海東健)。そんな二人がダムで水底に沈むかもしれない故郷の風景と村人たちを納めた写真集を撮るために向き合うことに。言葉もなく距離を置いて山道を行く父と息子の姿は『山の郵便配達』の父子に重なる。一軒一軒訪ね歩いた先との小さなエピソードを積み重ね、父と子がぶつかりながらも心を通わせていく展開もまた、『山の郵便配達』を思い起こさせるが、この作品で印象的なのは「ありがとう」の言葉。頑固だが人情味のある研一は、写真を撮り終えるたびに「ありがとう」と頭を下げ、撮られた人たちも「ありがとう」となる。息子を戦争で亡くし、山の上で一人暮らしする山本のおばあちゃん(桜むつ子)は、手を合わせ、人やお天道様やあらゆるものに感謝を示す。その笑顔を見ているこちらもありがたい気持ちになる。そう、「ありがとう」という言葉がThank youより多謝よりありがたく聞こえるのは、この五文字の中に「こんなすばらしいことはなかなかない」という意味が込められているからではないか。でも、聞き慣れたありがとうの響きが流れてしまうのと同じように、日々のささやかな幸せをありがたく思うことも忘れがちになっている。たとえば、故郷がそこにあること。家族がそこにいること。歩けば見えてくるものがあること。淡々と、だけど、しみじみと忘れ物に気づかせてくれた映画に、ありがとう。この作品の撮影後、今年1月23日に83才で亡くなった桜むつ子さんの天真爛漫な笑顔にもありがとう。エンドロールに延々と百行近く映し出されるロケ地・徳島の皆さんの名前に、三木さんがパコダテ人で見せた「ありがとう」を思い出した。公開は、東京都写真美術館ホール(4月23日〜)、梅田OS劇場C.A.P(5月7日〜)、シネマスコーレ(陽春公開)、OS・シネフェニックス(5月7日〜)、広島宝塚(5月14日〜)、京都シネマ(6月)、高知東宝(初夏)、津大門シネマ・札幌シアターキノ・仙台フォーラム・新潟シネウインド(時期未定)。

2002年04月19日(金)  金一封ならぬ金1g


2005年04月18日(月)  日比谷界隈お散歩コース

■昨日、シネスイッチで『コーラス』を観た後、銀座から大手町まで歩いた。この辺りは冷やかして楽しいお店が多くて、散歩にうってつけ。日比谷まで来て、いつも通りがかるたび気になっていた東京會舘のカフェ・テラスへ。窓際のテーブルについてからブラインドを上げてくれたことに感激。天井は高くて、テーブル間隔は余裕があって、ホテルのラウンジは豊かな気分にしてくれるのが好き。ここはホテルの割には値段もお高くないのがいい。ベーカリーも100円でおつりが来る揚げどーナツなど良心的なお値段。
■ひとけのない日比谷公園の桜を愛で、遊歩道を歩いているうちに、噴水のある一角に出た。デジャヴのある光景だと思ったら、以前夜景スポットとして紹介されているのを見て、一度行ってみたいと思っていた和田倉噴水公園。夕景もまた幻想的だった。


2005年04月17日(日)  ティッシュちりぢり映画『コーラス』

■新聞で激賞されていた『コーラス』を観にシネスイッチ銀座へ。上映30分前にも関わらず「立ち見になるかもしれません」と窓口で告げられる。前のほうにかろうじて席が残っていたが、前評判はかなり高いよう。はじまってみると、『ニュー・シネマ・パラダイス』でサルヴァトーレを演じたジャック・べランが高名な指揮者ピエール・モランジュ役で登場。彼の元に、一冊の日記を携えて少年時代の友人ペピノが訪ねてくる。日記は二人が出会った寄宿舎学校「池の底」に舎監として赴任したクレマン・マチュー(ジェラール・ジュニョ)が遺したもの。日記に書かれた1949年の出来事を追想する形で物語は進む。家庭環境に恵まれない少年たちは校長のスパルタ教育に抑圧され、ますます荒んでいく毎日。そこに現れた風采の上がらない失業音楽教師は、少年たちに合唱を教えることを思いつく。少年たちの歌は次第に磨きがかかり、暗く沈んでいた瞳にも光が宿ってくる……という読める展開なのだが、予定調和になりそうなところで小さな裏切りが仕掛けられ、登場人物たちを人間くさく描いている。うまくいくかと思えばハシゴを外し、がっかりさせておいて不意打ちのような救いが用意されている。脚本は、この作品が長編デビュー作となるクリストフ・バラティエ監督の手によるもの。フランス人監督のデビュー作にしては手堅くまとめた印象もあるが、ツボを押さえたストーリーと演出にしっかり泣かせてもらった。■何より涙を誘ったのが、少年時代のモランジュを演じたジャン=バティスト・モニエの声。サン・マルク少年少女合唱団のソリストだそうで、まさに天使の顔と奇跡の声の持ち主。彼の澄んだ歌声が響くたびに、客席からは洟をすすり上げる音が聞こえる。チラシのキャッチコピーには、「涙がこぼれそうなとき、歌があった」とあるが、わたしは「歌が流れるたび、涙がこぼれた」。心洗われる声というのは、人をこうも無防備にして揺さぶってしまうのか。不覚にもハンカチを忘れ、花粉症対策のティッシュは水を含みすぎてちりぢりになり、金魚のように腫れた目で銀座の街を歩くことに。ハンカチに加えてサングラスも持って行くべきだった。■作品のサイトによると、フランスでは7人に1人が観て、サントラ盤を150万枚売り上げたそう。さらに少年時代のペピノを演じた愛らしい男の子マクサンス・ペランがジャック・べラン(製作にも参加)の息子だったと知る。


2005年04月16日(土)  オーディオドラマ『アクアリウムの夜』再放送中

■「怖いです」「夢に出そう」「眠れません」「助けて」という悲痛なメールが今週はたくさん届き、わたしを喜ばせた。11日からNHK-FM青春アドベンチャーで再放送が始まったドラマシリーズ『アクアリウムの夜』(全10話)の感想。怖い怖いと言われるほどうれしいのは、稲生平太郎の原作を脚色するにあたり、わたしも相当怖い思いをしたから。怖がりなくせに執筆にあてられる時間は夜しかなく、人一倍たくましい想像力のせいで恐怖が増幅され、夜中に半泣きでワープロをたたいていた。停電事件なんてものにも肝を冷やされ、わずか150センチの身がさらに縮む思いをした。そんなわけで、ラジオの向こうの皆さんに怖がっていただけると、報われたような気持ちになる。出演者(松田洋治 國府田マリ子 有馬克明 清水紘治 秋元紀子 谷川清美)の力演、ミステリアスな音楽(選曲:伊藤守恵)に盛り上げられて、脚本よりもさらに鳥肌度倍増。来週18日からは後半6〜10話の放送(月〜金22:45〜23:00)と前半1〜5話の再放送(月〜金17:45〜18:00)がスタート。途中から追いつく人はあらすじをどうぞ。

2002年04月16日(火)  イカすでしょ。『パコダテ人』英語字幕


2005年04月15日(金)  トンマズィーノでアウグーリ!

外苑前のトラットリア・ダ・トンマズィーノで同僚のE君とT嬢に2か月遅れで誕生日を祝ってもらう。互いの誕生日を祝いあう仲良しトリオなのだが、なかなか三人の予定が合わず、気がついたらカレンダーが2枚めくれていた。トンマズィーノは「東京でいちばんうまい!」と推す人も多い、シチリア料理が自慢のお店。去年の秋にはじめて来たとき、料理のおいしさはもちろん、店員さんもお客さんもいい顔をしているのが気に入った。食事を楽しませる雰囲気作りの天才のような店員さんたちが、誇りを持ってすすめるワインや料理は、運ばれてくる前からおいしい気持ちにさせてくれる。

E君とT嬢は、これまた食事をおいしくする最強カードの二人。三人そろうのがひさしぶりなこともあって、いつも以上に話が弾み、よく笑い、よく食べた。デザートが運ばれる時間になって、揺れるキャンドルの光とイタリア語の「Tanti Auguri a voi」の合唱がテーブルに近づいてきた。まわりのお客さんたちもおしゃべりをやめ、拍手を贈ってくれる。苺のティラミス、ベリーのプリン、セミフレッドのデザートの上にキャンドルを掲げたバレリーナが立っているのがお茶目。T嬢が見立ててくれたサラダカラーの花束にも感激。家に帰って活けてみて、春だなあ、と思う。冬生まれなのに、春に誕生日気分を味わえるなんて、ぜいたくな話。バレリーナは、新天地のプミラの土の上で回ってもらうことに。
バレリーナ

2003年2月9日(日) 何才になっても祝うのだ
2004年2月9日(月) 今年もハッピーバースデー

2002年04月15日(月)  イタリアンランチ


2005年04月14日(木)  マシュー・ボーンの『白鳥の湖』

「1回観といたほうがいいよ!」と8回観たという同僚T嬢にすすめられ、マシュー・ボーン(Matthew Bourne)の『白鳥の湖(Swan Lake)』を観る。

去年に続いてのロングラン公演にもかかわらず、bunkamuraオーチャードホールはほぼ満席。引き算の美学のようなシンプルな舞台美術に、ロイヤルシェイクピア劇場で観た『Beauty and Beast』を思い出す。真っ白い壁に映る大きな影は影絵を見ているようだし、何もない舞台中央に置かれたベッドの使い方も巧み。

『白鳥の湖』といえば、子どもの頃に日本のバレエ団の公演を観たきりだが、白いチュチュの四羽の白鳥の舞が印象に残っている。CMでもよく使われているせいかもしれない。だが、マシュー・ボーン版では白鳥たちは男性で、力強い群舞で迫ってくる。四羽のダンスもまったく違った見え方になる。この白鳥たちは、王子が湖で出会うシーンと、終盤の王子の夢のシーンで登場するが、白いベッドに群がる白鳥たちの動きがだんだん本物の羽ばたきのように見えてくる。

人間の肉体、人間の動きってなんて美しくて面白いんだろう……と感極まったところで、幕。その途端に拍手と「ブラボー!」の嵐。日本の劇場で、あんなに大勢が「ブラボー!」と叫んでいるのを見たのは初めてだった。前のほうの客席は総立ちで拍手を贈り、カーテンコールが何度も沸き起こる。

カーテンコールというものにわたしは弱くて、興奮と熱気に呑まれているうちに涙が出てくる。力を出しきった人間を、心を尽くして人間が讃える。その惜しみないやりとりの中にいると、気持ちが満たされてあふれだすのかもしれない。CGでも合成でもなく、生身の人間の肉体芸術。もっとバレエを見たくなった。

「やっぱりナマってすごいね」とT嬢に言うと、「音楽もナマだと、もっといいよ」。今日を含め4月6日(水)〜 17日(日)の東京追加公演での演奏は録音テープだったのだが、 4月19日(火)〜27日(水)は東京フィルハーモニー交響楽団による生演奏。T嬢は9回目を観に行くそう。

2002年04月14日(日)  おさかな天国


2005年04月13日(水)  お風呂で血まみれ事件

■わたしがアメリカに留学したいと言いだしたとき、「ええことや、行っといで」とおおらかに、そして無責任に背中を押してくれた久子ばあちゃんは、ちんまりした見た目に似合わずなかなかぶっ飛んだ人だった。初孫のわたしと対面した最初の一言は、「かわいい」でも「うれしい」でもなく、「鼻がない!」で、さらに続けて「穴しかない!」と叫んだという。それほどわたしの鼻は生まれたときから低く、それでいて鼻の穴は大きかった。そんなことを風呂場で血まみれになって考えていた。薄れ行く意識の走馬灯ではなく、噴き出す鼻血を持て余しながら。その鼻血の原因というのが情けない。お湯から上がろうとした瞬間、どういう弾みか小指が鼻の穴に飛び込み、よく伸びた爪が鼻の奥を突き刺した。弾みとはいえ、こういうことが起こる確率ってどれぐらいあるのだろう。剣玉だって狙わなきゃ入らないのに……と悲しくなり、それほどわたしの鼻の穴は懐が広いのだと思い当たり、ばあちゃんの実も蓋もない言葉を連想ゲーム式に引き出したわけだった。貧血になるかというぐらいよく血が出た。あまりに情けなくて、誰かに聞いてもらいたくて、帰宅したダンナをつかまえて報告したら、心底不愉快な顔になった。鼻に小指突っ込んで血まみれになるのも悲しいが、そんな女が自分の妻だというのも気が滅入るものらしい。

2002年04月13日(土)  パーティー


2005年04月08日(金)  懐かしくて新しい映画『鉄人28号』

去年秋オープンした渋谷のPICASSO347へ。そそられるかわいいお店がいろいろ、でも今日のおめあては、7・8階にあるシネコン・アミューズCQN。冨樫森監督の『鉄人28号』(このサイト、よくできてます)を見る。冨樫監督の『ごめん』に鉄人28号のプラモデルが登場するのだが、今度はどーんとでっかく本物サイズ。といってもわたしは漫画をちゃんと読んでいないので、漫画の実写版という見方はできず、いきなり実写版で出会ってしまった。映画版では少年の成長物語に光を当てたとのことで、キャッチは「鉄」+「勇気」。主人公・正太郎役の池松壮亮君は、8000人を超える応募者から選ばれたそう。蛍雪次朗さんが出ているのを見つけて、うれしくなる。あっけにとられる表情だけの演技がお見事。漫画を知らない人にも楽しめるストーリーになっているけど、原作と比べられたらもっと楽しいかもしれない。ラストで流れる主題歌はテレビ版と同じものなのだろうか。懐かしそうに聴き入っている人がいた。

2004年04月08日(木)  劇団ジンギスファーム「123」
2002年04月08日(月)  シナリオに目を向けさせてくれた「連載の人」


2005年04月02日(土)  アンデルセン200才

■わたしの作品をいくつか観てくださったという政治家氏にお会いしたときのこと、「良かったですなー、あなたの、あの人魚姫の話」と『真夜中のアンデルセン』(2002年8月、NHK夏の特番で放送)のことをほめていただいた。タイトル通り真夜中の放映だったので、「よく起きていて観てくださいました」と感激したら、「いやー感動しました。陸の世界に憧れた人魚姫が危険を冒して夢に向かっていく姿……」と賛辞が続いたが、そこは脚本家のわたしが手をつけるとっくの昔に原作者のアンデルセンが創った部分であった。「バーを舞台に『人魚姫』をモチーフにした音楽芝居を」と依頼を受けて脚色にあたったが、原作のエッセンスはできるだけ活かした。19世紀に書かれた作品は、21世紀の人の心を動かす力を失っていなかったのである。今日2005年4月2日は、アンデルセンの生誕200年。自分の作品が人にどう思われているか人一倍気にしては、小躍りしたり落ち込んだりしていた(わたしが彼の自伝でいちばん共感したのはこの部分だった)アンデルセン大先生、政治家センセイの感想を聞いたらさぞかし喜んだだろう。■アンデルセンの誕生日にちなんで今日は「国際子どもの本の日」でもあるらしい。子どもではないけれど、ひさしぶりにアンデルセンの童話集を読んでみようと思う。もしも『真夜中のアンデルセン』の第二弾が来たら、『雪の女王』をやってみたい。

2002年04月02日(火)  盆さいや


2005年03月31日(木)  「またたび」の就職活動生

■就職活動の学生には、できるだけ時間を作って会うようにしている。社会人の先輩としてわたしが伝えられることもあるし、彼らから学べることもある。去年、エンジェル大賞の授賞式で知り合った博報堂の植木さんから「広告業界に就職したい学生に会ってもらえませんか」とメールをもらい、うちの会社にエントリーシートを取りに来たコピーライター志望のK君と会うことに。K君の友人でアートディレクター志望のM君も一緒に会社近くのカフェへ。好奇心旺盛、話題豊富な二人で、気がついたら2時間しゃべっていた。わたしが広告会社での仕事のことやアイデア出しのコツを話す代わりに、彼らも最近気になるCMのことや自分たちのことを話してくれ、「バナナが好き」といった妙なことで盛り上がったりした。大学は違うけど高校時代のサッカー部の同期という二人は、旅するアーティスト集団「またたび」のメンバーで、学生でありながら実にユニークな活動をしている。「またたび」は、熊本県御所浦町での「島まるごとワークショップ」を行う目的で、2003年7月に結成された団体だそうで、猫好きの集団ではなく、「また旅をする」が名前の由来だとか。M君がデザインした黄色い名刺は上下左右につなげると、「またたび」のロゴがつながるようになっていて、「人と人のつながりで生まれる広がり」を見せてくれる。東京と熊本を行き来する旅そのものがアート活動という考え方も面白い。現在は、「トラックの荷台に伝馬船を乗せ、東京から御所浦まで旅しながら、車が停まった所を展示場所にして路上にアートを広げる」という「しましままたたびただいま展」を展開中。わたしに会ったあとで、K君M君は就職活動へのやる気をますますかきたてられたようだが、わたしもいい刺激をもらった。就職する前に自分のやりたいこと、夢中になれるものがちゃんと見えているってすごいと思う。広告業界にぜひ来て欲しい二人とは、またまた、たびたび会いそうな予感。

2004年03月31日(水)  岩村匠さんの本『性別不問。』
2003年03月31日(月)  2003年3月のカフェ日記
2002年03月31日(日)  レーガン大統領と中曽根首相の置き土産
2001年03月31日(土)  2001年3月のおきらくレシピ

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