■5つあるShakespeare Houseのひとつ、シェイクスピアの妻、Ann Hathewayの家は宿泊先のHeron Lodgeから歩いて10分ほどの緑の中にある。木の上を走り回るリスを見上げながら10時の開館を待つ。「シェークスピアも興味ないのに、妻の家を見せられてもねえ」とダンナは渋々お付き合い。シェークスピアは結婚前、現在タウンセンターにある生家から徒歩でここまで通っていたそう。わたしたちは昨日Ann Hatheway Houseからタウンセンターへ抜けたのだが、もしかしたら同じ道を歩いたのだろうか。「シェイクスピアとアンが会うときは必ずアンの家族の目があったが、なぜか結婚したときアンはすでに身ごもっていた」らしい。ここは庭が素敵で、寄付した人のメッセージ("Eternity is in your lips and eyes""I loved nothing in the world so well as you"など詩のようなフレーズも)が刻まれたベンチや彫刻や植え込みでできた迷路などが上品に配置されている。これらは最近の試みのよう。■ギフトショップで買い物しようとして、トラブル発覚。財布がない!あわててHeron Lodgeに戻ると、部屋にもない。最後に使ったのは、昨日タクシーで宿に戻ったときだから、落としたとしたらタクシーの中。ベルを鳴らし、ChrisとBobに助けを求めると、ストラットフォード中のタクシー会社に電話してくれるが、答えはことごとくNO。ところが最後に警察に電話したBobが「Fantastic!」と叫んだ。なんとわたしたちの後に乗った乗客が車内で拾って届けてくれたらしい。警察署に現れたわたしを見るなり、窓口の女性が「あなたがラッキーレディーね」とにっこり。クレジットカードに顔写真が入っているおかげで本人確認もスムーズ。届けてくれた親切な人の住所と電話番号を聞き、電話でThank youと伝えると、良かったと喜んでくれる。お礼なんていりませんよと遠慮されたが、日本から何か送ろうと思う。ほっとしたらおなかがすいて、EDWARD MOONでスープとビーンライスをもりもり食べる。綾戸智絵風な元気笑顔のウェイトレスさんがとてもいい感じ。■バンクホリデーなので今日もパブリックバスは走っていない。シェイクスピアハウスを解説付きで巡回する観光バスを使うしかないが、£8もするくせに解説の日本語はコピー的にもナレーション的にも改善の余地大いにあり。「妻の家も興味ないけど、お母さんの家もねー」とぼやくダンナを引きつれ、郊外にあるMary Arden's Houseへ。タウンセンターに戻り、「今度は長女夫妻ですかい?」。長女の夫は外科医で、当時の医療器具やカルテも展示されている。このハウスに併設されたティールームはとてもいい雰囲気なのだが、4時でclosed。残念。■近くに教会があるので行ってみると、ここにシェイクスピアが眠っているという。妻のアンや母のメアリーの名前もある。高い天井、ステンドグラス、閉館前で他に訪問客はいない。あなたの今日のdonationもTSUNAMIで被害に遭った人に届けられますよと案内の男性。どこの教会へ行っても「TSUNAMI DISASTER」への募金と理解を呼びかけている。「正面は鍵閉めちゃったから、こっちから出て」とおばちゃんが先導してくれ、立派な教会とギャップの事務室のようなところを抜けて裏口に出る。「バックステージを見られてラッキー」と言うと、おばちゃんは笑っていた。 ■昨日一昨日に比べると今日は人出が多く、Avon川のほとりを散歩する人の姿も目立つ。シェークスピア気分が高まり、「今夜はシェイクスピア劇に挑戦しよう」。「Caesar」のチケットを求めると、立見しか空いていないが£5だと言うので購入。劇場のSwan TheaterはRoyal Shakespeare Theaterの隣。ここには小さなミュージアムがあり、過去の公演で使われた衣装が展示されているが、点数は少ない。川の近くのダイナーで腹ごしらえ。カウンターでテーブル番号を伝えて注文するスタイルだが、チップの煩わしさもなく、長居出来た。ここも店員さんはウェルカムな感じ。さて、Caesarは予想を裏切り、ウエストサイド物語の決闘シーンのような衣装とライティングで幕開け。ダンスが始まるのではと期待させたが、ひたすら台詞、台詞。元ネタがよくわかっていない上に現代風にアレンジしているので、わけがわからない。聞き取れるのは「シーザー!」だけ、と思ったら、もうひとつ、「ブルータス!」も出てきた。この状況で、バーにつかまっての立ち見もキツイ。客席を見回すと、皆腕を組み、神妙な顔つき。退屈しているのか反芻しているのか。と、万雷の拍手。すばらしーというより、やっと終わったーと聞こえる。1時間半かけて第一部が終了したのだが、見続ける体力はなく劇場を出る。£5のチケットに未練なし。 ■パスタが食べたくなり、CAFFE UNOというイタリアンへ。二人合わせて大人一人分の小柄なわたしたちはどの店に行っても「一皿をシェアします」と言うのだが、取り分け皿を出してくれるお店さえ稀なのに、この店は最初から二皿に盛ってきてくれた。「わたしもコレ、今日の夕食に食べたのよ」と言うウェイトレスにも好感。味も期待以上。
■今夜のストラットフォードは芝居もなく、昨日以上にひとけはない。そんな中、妙ににぎわっているレストランVintnerに入ると、大当たり。対応よし味よし、アスパラとルッコラのバルサミコ酢&パルミジャーノ、ケイジャンチキン&アボカド、ほうれん草とリコッタチーズのラビオリをぺロリ。親切なウェイターが「この街にはcinemaがある」と隣の客に話しているのを聞きつけ、場所を教えてもらったのも収穫。 ■映画館は、何度も通っている時計台前から少し奥まったところにあった。8:30からMarchant of VeniceまたはLimony Snicket's a series of Unfortunate Eventsの上映。シェイクスピアの里でベニスの商人を観るのも粋だけど、ジム・キャリーが怪しいオッサンになって三人の子どもたちをびびらせているポスターに惹かれて後者を選ぶ。ここでも一人£5.5。このLimony Snicketが掘り出し物。「げ、スクリーン間違えた?」と焦るような明るいアニメではじまり、「これはこれから上映する作品とは別物。ハッピーエンドがお好みなら、今からでも遅くないから他のスクリーンへどうぞ」と人を食ったナレーションが入る。主人公はBeaudelaireの三きょうだい、inventer(発明家)の姉Violet(Emily Browning)、reader(読書)の弟Klaus(Lian Aiken)、biter(何でもかじる!)の赤ちゃんの妹Sunny(Kara and Sherby Hoffman なぜ二人?)。 両親を失い、孤児になった三人は莫大な遺産を相続するが、それを狙うのがジム・キャリー演じる初代後見人Count Olaf。本気で子どもたちを殺そうとするし、2代目3代目後見人guardianにも容赦なく手を出すし、長女との偽装結婚まで企てるし、子ども相手に本気で立ち向かってくるのだが、きょうだいは発明したり本の知識を応用したり噛んだりしてピンチを乗り切る。はちゃめちゃのまま突っ走るのかと思いきや、ラストには泣ける手紙。あなたたちにはお互いがいる。どんなに小さくてもサンクチュアリを作ることは出来る。どんなときにも何かできることがある……。"There is something"は何度も出てくるフレーズ。絶望的に見える状況でも何かある、何かできる、と希望を失わない三人のたくましさに拍手。演技もブラボー。語り部リモニー役はジュード・ロウ、文法命の後見人Josephine役はメリル・ストリープと贅沢なキャスティング。クレジットロールの屏風調アニメも凝っていて、ビジュアル的にも楽しみが尽きない。わたしは知らなかったけど、原作のリモニー・スニケットは全世界で1800万部売れている人気シリーズなのだそう。映画の邦題は『レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語』。
■ロンドンからシェイクスピアの故郷Stratford upon Avonへ行くには「Paddington駅から」とガイドブックに書いてあったので、Paddington発Stratford upon Avon着で列車を検索し、プリントアウトを持ってきた。乗換えがいっぱいで厄介だなあと思っていたら、乗換え1回というルート見っけ。London Paddington駅から地下鉄で2駅のLondon Marylbone駅へ行けば、あとは一本。地図で調べると、Marylboneは「ロンドンにいくつもある鉄道始発駅のひとつ」だとわかる。二日酔いのC君に直接駅まで送ってもらい、乗換えなしで終着駅のStratford upon Avonまで約2時間半。今夜から4泊するB&B、Heron Lodgeは駅をはさんでタウンセンターと反対側へ約1マイル。ご主人のBobに駅でピックアップしてもらい、宿に到着すると、夫人のChrisが温かいお茶とクッキーで迎えてくれる。 ■外は強い風雨だが、傘を借り、タウンセンターまで歩く。雨の元旦ということで人出は少なく、開いている店もまばら(商店は5時で閉まることを後で知る)。だが、ロイヤルシェイクスピア劇場では今夜上演があると言う。窓口で「なるべく舞台に近い席」をお願いすると、前から3列目が空いていた。芝居前に腹ごしらえする客目当てのレストランが集まるSheep StreetのOppoという店で海鮮サラダとラザニアの夕食。イギリス料理にしては繊細な味つけ。バースより食事のレベルは高いのかも。調子に乗ってデザートも注文したら、甘さに卒倒しそうになる。 ■7:15Beauty and Beast開演。黒いスーツとドレスに白塗りの顔の男女が客席側から舞台に上がり、呼吸を合わせてサングラスをかけ、スポットライトがONになる。かっこいいオープニング。このお芝居では彼らが黒衣とダンサーを兼ねる。対照的な白い衣装の男女8人が登場。お金持ちの夫婦と6人の子どもたち。長男は天文家を夢見る勉強バカ。次男はオリンピックを目指すスポーツバカ。三男は嫌われ者のただのバカ。長女は高望みな生意気娘。次女は物欲狂いの病気ちゃん。今度こそ、の望みを託されて生まれた三女は生まれたときに"Qu'est bella la Monde(世界は何て美しいの!)"と言ったことからBeautyと名づけられ、姿も心も美しい子に育つ。■舞台装置は極めてシンプルだが、想像力をかきたてる計算が尽くされている。母が亡くなり、父が事業に失敗し、召使つきの生活から一家が没落するシーンでは、天井から吊るされた7本のハンガーに父子がそれぞれの上着をかける。天井に引き上げられる上着を見上げる7人は客席に背を向けているが、もう手が届かない優雅な暮らしを惜しみ、行く末を案じる気持ちは、表情を見せないことでかえって伝わる。そして、自らが耕すことになる荒野へ向かう7人は、天井から吊るされた大きなブランコに乗り込む。ステージ上をスイングするブランコの上で力強く歌う父子。その下では沼地を表す茶色い布が張られ、布の下を動き回る黒衣の動きがぬかるみを表現。左右からパペットのウサギが現れると、"What's that?""Dinner!"と笑いを取ることも忘れない。ロープ使いといえば、道に迷ってBeastの屋敷に迷い込んだ父がBeautyのために摘むバラの花は、左右からピンと張られたロープの真ん中に咲いていた。Beastが天井から壁を這って登場したり、Beastの屋敷のMirror Roomの「鏡」を枠と黒衣のパントマイムで表現したのも面白かった。役者もレベルが高く、Beauty一家とBeastはもちろん、三枚目役のロボット召使(三男、長女が二役)のコミカルな演技も爆笑を誘っていた。■ディズニー映画のBeauty and Beastは大家族の設定でなかった気がするが、この舞台は、バラを摘んだのを見つかった父がBeastに「生きたまま食うぞ」と脅され、「さもなくば、Beautyという愛娘を差し出せ」と持ちかけられる。父の苦悩を知ったBeautyが自ら宮殿に乗り込み、Beastと心を通わせ、呪いを解く。感動的なストーリーだが、呪いが解けて人間の姿になったPrinceが立ち上がったとき、観客の目に最初に飛び込んだのが淋しい頭髪で、ちょっと夢がさめてしまった。大団円のウェディングパーティーの後、冒頭と同じく黒衣たちが舞台中央に集まり、ポーズを決め、サングラスをかけ、指で「オフ」の合図をするとライトが落ちる。その瞬間沸き起こる拍手の嵐にゾクゾク。シェークスピア作品ではないけど、さすがシェークスピア劇場!
ヴァージン・アトランティックの航空券はH.I.Sで入手。引換証はメールで送られてきたものをプリントアウトする形。宿はsuperbreak.comやExpedia Travelといったサイトで探す。宿泊を希望する街と日付を入力すると、空いている宿を検索でき、ディスカウント料金で予約もできる。B&B情報充実のcomestaywithus.com、宿泊日が近くなった部屋を格安で予約できるlaterooms.comも利用価値大。宿探しをしながら旅程を固めていき、ロンドンを拠点にBath(バース)とStratford upon Avon(ストラットフォード アポン エイヴォン)を訪ねることに。鉄道の時刻表検索はnational railサイトのPlanning your journeyで。出発前に街の下見もできて、なんとも便利な時代。