2007年02月12日(月)  MCR LABO #1「運命」@shinjukumura LIVE

G-upの赤沼かがみさんからMCR LABOの第一回公演の招待案内が届く。「小細工抜きのせめぎあいがしたくて」MCR LABOを立ち上げ、「シンプルで力強い、卵かけご飯のような美味しさをもつ企画」を見せるという作・演出のドリルさんの言葉に意気込みと勢いを感じる。LABOと名乗るように、毎回の舞台はどんな化学変化が起こるか未知数な実験であり、観客にその立会人になってもらうという考えのよう。こういう試みは、わたしのシナリオのご意見番・アサミちゃん好みなのでは、と彼女を誘ってみた。

劇場は西新宿にあるSHINJUKUMURA LIVE。ここが新宿!?と疑うようなのどかな空き地の先に建っている。殺風景なハコをイメージしていたら、中は布のあたたかみとやわらかさがあふれて大きなリビングルームのような空間だった。三方を客席に囲まれたステージは出演者三人のオムニバス作品にはちょうどよい大きさ。チラシによると、MCR LABOでは「テーマを設定したオムニバス作品を少人数で上演」し、「それはどれも、日常に当然の様に降りかかる二文字の事柄」であり、第一弾のテーマは「運命」。といっても描かれているのは、運命的なとか宿命とかいった劇的なものではなく、運命のいたずら的なもの。そのちょっとした「フツーではない状況」をつかみの短時間で示し、観客を登場人物たちの置かれた立場に引きつけ、運命共同体にしてしまう。間の悪い現場に居合わせてしまった三人が見せる「運命」との距離感、互いとの力関係が微妙に変化していく過程が面白い。「笑いは間合い」だとNHKの『課外授業ようこそ先輩』で語った落語家は志の輔さんだったか。台詞のやりとりの呼吸、言葉や動きの力の入れ加減(抜き加減)、空気を変える瞬間を差し込むタイミング、間の取り方が実に絶妙。

わたしとアサミちゃんがとくに気に入ったのは、二話目の「徘徊の隙間」。ゾンビに噛まれて瀕死の友人を担いでビルの狭い部屋に逃げ込んだ男二人が、迫り来るゾンビ集団という外からの恐怖と、潜在的ゾンビである友人という内に抱えた恐怖の間で身もだえる。生きている友人を邪険にできないが、死んでゾンビに豹変したら襲われる。ゾンビになる瞬間を見極めようとするが、友人は死にそうでなかなか死なない。いつゾンビるか、もうゾンビるか、とはらはらさせてはぐらかすジェットコースター的展開。緊張の後の弛緩は笑いを呼ぶのだと実感。男二人が必死になればなるほど客席はよく笑った。ゾンビの形態模写がけっこうリアルで、「夢に出そうだね」とアサミちゃんと話していたら、本当に夢に出てきた。フロイト曰く、夢は欲望の充足。わたしもゾンビに取り付かれてしまった。

ところで、この話に出ていた絶対王様の有川マコトさんをinnerchildの小手伸也さんだと思って観ていた。どちらも存在感のある体格と声をしているけれど、並べてみると全然違うのだと思う。でも、似ていると思う人はいるのだろうか。そんなことを聞ける人が身近にいないのが残念。

帰り道、「演劇は奥が深いねえ」「層が厚いねえ」とアサミちゃんとしみじみ語る。力と才能が有り余っている人たちがたくさんいる。掘っても掘っても掘りつくせない宝の山のよう。作・演出のドリルさんって何者なんだろうと調べたら、劇団MCRの主宰で役者名は櫻井智也、「徘徊の隙間」に出ていたとわかる。ゾンビの人かな。

MCR LABO #1「運命」
作・演出:ドリル
プロデューサー:赤沼かがみ

「修羅場詰め将棋」
辰巳智秋(ブラジル)
伊波銀治(TEAM 発砲・B・ZN)
北島広貴(MCR)

「徘徊の隙間」
有川マコト(絶対王様)
瀧川英次(七里ガ浜オールスターズ)
櫻井智也(MCR)

「事故(みたいなもの)」
宇鉄菊三(tsumazuki no ishi)
康ヨシノリ(康組)
宮本拓也(MCR)

「あさはかな魂よ、
慈悲深い雨となって
彼女の髪を濡らせ」
児島功一(劇団ショーマ)
森岡弘一郎(無名塾)
福井喜朗(MCR)

MCR LABOの実験は一年をかけて続く模様。
#2「無情」3/19-21 下北沢駅前劇場
#3「審判」5/15-20 shinjukumura-LIVE
#4「愛情」7/11-16 shinjukumura-LIVE

2006年02月12日(日)  『子ぎつねヘレン』完成披露試写
2005年02月12日(土)  浸った者勝ち映画『ネバーランド』
2004年02月12日(木)  本のお値段
2003年02月12日(水)  ミヤケマイ個展 MAI MIYAKE EXHIBITION2003

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