2007年01月31日(水)  マタニティオレンジ68 左手に赤ちゃん右手にナン

先週の水曜日、千駄木のインド料理屋で、左手に赤ちゃん右手にナンという無理のある体勢でカレーに挑む女性客の姿があった。それはわたしなのだが、周囲のテーブルからの「なんだか大変そうだね」「待ち合わせの人が来なくて一人なのかしら」という同情やら疑惑やらの混じった視線に「はい、わかってます、無理あります」と心の中で答え、「片手でナンをちぎるのって難しい」と発見したり、そんなわたしから目をそらさず微笑みかけるインド人の店員さんの懐の広さに感激したりしながら、ぐずり寸前の娘のたまをあやしつつランチセットを平らげた。なんとかカレーを服に飛び散らさずに済んだと思ったら、爪の間に入り込んだカレーを見落としていた。その手でたまを抱っこしたものだから、ベビー服には明らかに誤解を招きそうな黄色いシミが点々……。

そこまでして食べたくなったのは、その一週間前、五反田の路上でインドカレーのランチboxを売っているおじさんに出会ったからだった。すでにランチを買い込んで友人宅へ向かうところだったのだけど、どんなカレーだろうと気になったので「いつもやってるんですか」と話しかけたら、すぐ近くのアロラ・インド料理学院のカレーなのだと言ってお店のハガキをくれた。学院ではイートインもやっている(前日までの完全予約制 平日11:00〜14:30)と言う。むかし隣の家にインド人一家が住んでいたという話をしたら、名前も聞かずに「ワタシ、その人、知ってる」とおじさん。「いやいや、三十年も昔のことだし、大阪だし」と答えたのだけど、こういうやりとりもインドっぽいなあとうれしくなった。4才で本場の味に出会ってインドカレー歴はかれこれ三十余年。出産後はスパイスで母乳の味が悪くなるという説もあり、ほどほどに控えていたのだけど、おじさんのせいでにわかにインドカレー熱がぶり返した。五反田の友人と「じゃあ今度そこ行こうよ」と約束したものの、それまで我慢できずに千駄木でフライングカレーを食したのだった。

で、今日は待ちに待ったアロラカレー当日。大人三人+赤ちゃん二人(五か月児と一か月半児)という顔ぶれで、マンションの一室にあるアロラ料理学院へ。そのリビングがイートイン会場になっていて、お店というより知り合いのおうちにお邪魔したようなアットホームな雰囲気。電話で赤ちゃん連れと伝えておいたところ、ベッド代わりのソファを用意してくれていた。部屋も貸切で、いざとなったらここで授乳できるわと思ったのだけど、たまはぐずらず、抱っこせずに最後まで転がしておけた。じっくり味わうのに十分な舌滞在時間を確保でき、フライングカレーの雪辱を果たすことができた。カレー2種類(エビとココナッツ、ほうれん草とマトン)に里芋のサブジ、揚げ物2週類、ナンとライスとデザート(いちごのマンゴーソースがけ)とチャイまでインドを満喫。これで1000円。

食事が終わる頃、学院創設者で料理研究家のレヌ・アロラさん(『美味しんぼ』24巻の『カレー勝負』の回に登場しているそう)が現れ、「主人に聞きました。大阪でインドの方の隣に住んでいたとか?」と話しかけてきた。先日のおじさんと今日も路上で会ったので、「これから食べに行きますよ」と伝えたのだが、おじさんは二週間前に会ったわたしのことをちゃんと覚えていたのだ。すごい記憶力なのか、よっぽど印象深かったのか。そのおじさんがアロラ先生のダンナさんなのだった。隣に住んでいたインド人一家の長女の結婚式に出席するためにデリーへ行ったんですよ、と話す。三日連続の披露宴に出てインド料理を食べ続けたこと、歌や踊りをお祝いに贈るインド式にならって「さくらさくら」に合わせて盆踊りといういかがわしい日本芸能を披露したことなどをアロラ先生は大喜びで聞いてくれた。「日本でインド料理を教えて三十年。このような出会いがうれしくて続けています」と言われ、カレー食べに来ただけなのに、と恐縮。「今度来るときは、今日と違うメニューにします。サモサもおいしいです」とのことなので、近いうちにサモサ目当てに再訪したいと思う。

2005年01月31日(月)  婦人公論『あなたに親友はいますか』
2003年01月31日(金)  トップのシャツ着て職場の洗濯
2002年01月31日(木)  2002年1月のおきらくレシピ

<<<前の日記  次の日記>>>