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JIROの独断的日記
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2010年11月26日(金) 【演奏会評】東京音楽大学シンフォニーオーケストラ定期演奏会 (11月25日 東京芸術劇場大ホール)

◆音大の学生さん達のオーケストラです。

東京音大オケを最初に聴いたのは、ちょうど1年前、マリス・ヤンソンスがバイエルン放送響と来日公演中に

時間を割いて、ベルリオーズ「幻想交響曲」第五楽章の公開リハーサルを行うというので、同音大卒業生の

私の家内の所に招待状が来たのが、始まりだった。有名指揮者がどのように、指導するか非常に興味深いので、

会社から1日休暇を取って、聴きに行ったのだった。

「巨匠・ヤンソンス」氏は、ベルリン・フィルの指揮台に何度も呼ばれ、

ウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートまで振ったほどの人である。要求する水準が非常に高い。

「巨匠」は、この学生のオーケストラに色々と注文があったようだが、

私は、若者達の音楽への情熱と、迸る若い生命力の輝きを目の当たりにし、

非常な感銘を受けた。

それから1年後。今度は東京芸術劇場で、彼らの本番を聴いた。

これがプログラムである。(表紙)(曲目)

ご覧の通り、ちょっと変わった構成で、前半がヴェルディのオペラ「椿姫」抜萃のコンサート形式。

後半は純器楽で、ショスタコーヴィッチ:交響曲第10番である。


◆結論:「文句の付けようが無い。」

「椿姫」では、テノールが、出演を予定していた佐野成宏氏がキャンセルとなり、東京音大客員准教授・二期会会員の

井ノ上了吏(いのうえりょうじ)氏が代役を務めた。

余りにも有名な「乾杯の歌」からテノールの井ノ上氏とソプラノの小川里美氏の歌唱は、

東京芸術劇場大ホールの空気全体を隅々まで貫き、ベテランの余裕であった。

お二人は歴としたプロで、しかも日本最高水準と思われる歌唱技術と、演技力は

何も言うことが無い。「お見事」の一語に尽きる。


オペラにおいては、オーケストラは完全に黒子(くろこ)である。


本来、薄暗いオーケストラピットに入るのだが、今回はステージ上で演奏する。

井上道義氏の指導もあったのだろうが、あくまで伴奏に徹し、間違っても歌手の声を

消しては(聞こえなくなるほどの音量をだしては)ならない。

しかしながら、前奏曲や、歌手のパートが休止の場合は、伴奏と同じ弾き方ではおかしい。

一時的にオーケストラが「主役」になる。その辺りは、場数を踏まないと難しいと思ったが

優秀な(真面目に書いている)学生諸君は実に勘がよく、メインプロのショスタコーヴィッチとは

全く対照的で、抑制気味の音量で、上品な心地良い響きを醸し出した。

演奏会形式オペラは、色々工夫が可能だろうが、かなり大規模なバンダ(舞台裏で演奏する楽器群)

が、舞台上の歌手の伴奏をする場面があった。距離があるので、時差が生じかねないが、

全く問題ない。このようなオペラもまた、楽しいものである。


◆ショスタコーヴィッチにおける、圧倒的名演。

これは、指揮者の井上道義氏のリハを見たかったが、東京音大シンフォニーオーケストラの

演奏能力を見抜き、実力を100パーセント、あるいはそれ以上、演奏している学生諸君が自分達の演奏に驚くほどの

音楽を実現したと思われる。

私は、オーケストラを聴いて40年になるが、昨夜ほど「オーケストラを聴く喜び」を身体全体で感じる演奏は

あまり記憶にない。

生のコンサートに行きたくても行けない方が世の中には大勢おられるから、普段は書かないようにしているが、

昨夜ばかりは、「フル・オーケストラを生で聴く喜び」に優るものはない、と思った。


白状するならば、元来、私はショスタコーヴィッチには殆ど興味が無かった。5番は聴きやすいけれども、

他のシンフォニーを録音で聴いても、心の琴線に触れることがなかったのである。

それは、ショスタコーヴィッチといえば、まず誰もが推す、ムラヴィンスキー=旧レニングラード・フィルを聴いても

同様であった。私は自分とショスタコーヴィッチの作品とは相性が悪いと思い込んでいた。


そうではない。この作品の醍醐味は、生で聴かないと分からないのだ、という初歩的なことが

漸く分かった。オーケストラを40年聴いている、などと偉そうなことを書いたが、今頃、そのようなことを

悟るぐらいだから、私の「音楽を聴く才能」も大した事はない。


それはさておき。


この作品のスコアを眺めると、半端ではない。難しいソロが頻出する各管楽器、打楽器のみならず、

弦楽器パートも、一度引っかかったら、お仕舞い。非常な集中力を要することは想像に難くない。

冒頭のコントラバスにはじまり、順不同で書くと、

全ての弦楽器、ホルン、クラリネット、オーボエ、フルート。ピッコロ、ファゴット、コントラファゴット、

トランペット、トロンボーン、テューバ、ティンパニ、シンバル、スネア・ドラム、バス・ドラム、銅鑼、トライアングル、

シロフォン、タンバリンまで、少しでも出を間違えたら(間違えやすいのである)、全体に壊滅的打撃を与えそうな

曲である。

そして、この音楽は最弱音と最強音の音量差、ダイナミックレンジが極限的に広く、特に最強音は強ければ強いほどいい。

ショスタコーヴィチの10番は第二楽章が他の楽章に比べて極端に短いが、「疾風怒濤」と表現するしかない。

作曲者はこの楽章の終わりに「ffff」と書いているが、感覚としては、チャイコフスキーが「悲愴」の第一楽章で、

「pppppp」と書いたのと対極にあり、「ffffff」の印象である。

終楽章のクライマックスではもっと大きな音量になる。これほどの音量は、逆説的だが、力ずくでは、出ない。

無論、ピアニッシモよりは、フォルティッシモの方が、大きな筋力を必要とするが、全てのメンバーが、楽器を

完全に鳴らすことができなければならず、その為には、無駄な力が抜けていなければならない。

そうしないと、音量だけ大きい「五月蠅い」音になる。

東京音大オケの諸君は、日頃、各楽器の研鑽を積んでいる。それはいちいち見学するまでもなく明らかで、

すさまじい、地鳴りのような終楽章において、全ての楽器が最強音を発していても、全体として、音が濁ることはなく、

見事なバランスが保たれていた。これによって最強音の印象が一層強くなる。あまりの興奮に聴いていて快感に身がよじれた。

東京音楽大学シンフォニー・オーケストラの諸君は、全員がソリストとして通用するほどの技術を音楽性を身につけており、

しかし、ソロとオーケストラの一員としての弾き方の違いも十分に承知している。

どんな強奏も冷静にコントロールされている。が、やはり、「若さ」は素晴らしい。

何十年も前、私が学生諸君の年頃だったとき、NHKで毎週土曜日に放送されたクラシック番組があった。

故・芥川也寸志氏と黒柳徹子氏の司会による、一般向けの音楽入門からやや通までを狙った番組だった。

普段はプロが演奏するが、あるとき某一般大学の「管弦楽部」で上手いので有名な団体が出演したことがあった。

彼らの演奏を聴き、普段は冷静な芥川也寸志氏が、興奮気味に、

「若さ」っていうのは素晴らしいね。もう、人生でこれ以上のものは無いね。

と言った。その言葉が強烈な印象として、私の記憶に残った。

数十年後、芥川さんの気持がとても、よく分かる。

素晴らしい演奏でした。1ヶ月前に同じ東京音大のピアニスト金子三勇士氏のリサイタルを聴いた時と

同じように、今度も若い優秀な音楽家の演奏によって、私は日頃の世俗の煩わしさや嫌なことがどうでも良くなった。

聴き終えてから28時間後の今も、まだ、何処か興奮している。


なお、井上道義氏は面白い人なのは、昔からしっているが、昨日もやってくれた。

ショスタコーヴィチの10番の後、「こんなショスタコービッチもある。ショスタコービッチじゃないけど」と、

意味不明の演説を行い、何が始まるかと思ったら、ルロイ・アンダーソンがボストン・ポップスの為に書いた

弦楽器がピチカートだけで演奏する「Plink Plank Plunk」だった。大笑いである。

その間、役者である井上氏は色々と演出してくれたのだが、私の言語表現能力を超えるので、止めておく(笑)。

一番最後は、ショスタコービッチの「祝典序曲」でこれには、「椿姫」でバンダだった学生だろうか、金管がズラリと

オルガン前の高い位置に並び、演奏に加わり、絢爛豪華な、心地良い音がホール全体の空気を揺るがし、

我々聴衆は、殆ど陶酔して、コンサートを聞き終えた。

素晴らしい演奏をありがとう。

演奏後、井上氏が全ての楽器に立礼させた。全てに対して「ブラヴォー」を飛ばしていたのは私である。

断っておくが、私は「ブラヴォー屋」ではない。ブーイングは、皆を不愉快にするから、実行したことがないが、

気に入らない演奏には、全く拍手しなかったことが何度もある。あれほど、ノドが涸れるほど、「ブラヴォー」を

連発したのは、40年で、初めてだ。


◆【音楽】ご参考までに。ショスタコーヴィッチ:交響曲第10番より第二楽章。他。

ショスタコーヴィッチのCDは以前お薦めしたとおり、まずこの人である。

ムラヴィンスキー=レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団



ショスタコーヴィッチ:交響曲第10番より第二楽章




Shostakovich Symphony No.10 2nd Movement


昨日は、こんなもんじゃなかったね。圧倒的な音の波が押し寄せてくる、とでも言いますかね。


で次に、突然、ルロイ・アンダーソン"Plink Plank Plunk"(プリンク・プレンク・プランク)ときたね。自作自演があります。



Plink Plank Plunk



Plink Plank Plunk



最後にショスタコーヴィッチに戻って「祝典序曲」でしたね。

これはちょっと趣向を変えます。

ブラスの人達は知っているだろうけどさ。弦の人とか聴いたこと無いと思うのですよ。

ジャーマン・ブラスというドイツのオケの首席クラスばかりで編成した金管アンサンブルが演奏した

(編曲は、パラパラとやたらにトランペットを吹きまくる、マティアス・ヘフスという人です)ものです。


ショスタコーヴィッチ 「祝典序曲」金管アンサンブル版



Shostakovich Festival Overture by German Brass



最後にもう一度。

素晴らしい演奏をありがとうございました。

東京音楽大学の学生諸君の今までの努力を私は、尊敬しています。

これから諸君の前途が幸多かれ、と、あの「ブラヴォーオヤジ」は常に祈っています。


弊ブログを御愛読頂いているみなさん。彼らの演奏をお聴きになることを是非お薦めします。

私が今までお薦めした音楽や演奏家で、つまらなかったこと、ないでしょ?

地方公演もやるのですね。月曜は高松、火曜は京都だそうです。

詳細はこちらで。平成22年度 東京音楽大学 演奏会


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2005年11月26日(土) 「バイオリニストは肩が凝る」(鶴我裕子 NHK交響楽団第1バイオリン奏者 著)←面白すぎる。
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