 |
 |
■■■
■■
■ Future
終生懸けて貴方に忠誠を誓う
「何だそれ」 「うわっ!」 懐かしい紙切れを見つけた。 あの時に使ったっきり、どこかへ失せていたものだ。提出した片割れは、今頃戸籍管理帳のどこかに綴じられているだろう。虚偽でも、出すところに出せばそちらが真実となる。 おかしな話だけど、システムを逆手に取れば、そうなる。 「西側の、婚姻届さ」 西の連中は、人間の管理方法まで昔を再現したいようで、この紙切れが人の生死を左右することさえある。東の人間は、それが最も馬鹿げたことだ、と大げさにため息を吐く。 「戸籍屋、結婚してんだ?」 丸い大きな瞳、太陽を映しこむ。東と西を分かつこの地に暮らす者は、須らく彼女に敬意を表していた。それが生命の摂理というやつだ。西側の主張する、秩序ある社会のちょうど正反対に位置する。 いわば、彼女は東側の旗印だ。 「まさか。西に提出する書類が、人間の一生を決めやしないよ」 少なくとも、こんなもの一枚の絆を重要視する者はいなかった。あくまでこれは西のルール。 「ふーん」 彼女はそれ以上興味ないようで、あっさりテーブルの上のリンゴを失敬して外へ出て行く。 「・・・普通、こっから気にならないのかな」 相変わらず、読めない。 紙切れはちぎれて、茶色く日に焼けて、もう紙くずと言っても差し支えない。これを手に入れるために随分無茶をしたのに。自分の過去まで、まるで遠い日に見た映画みたいに現実味がない。 今どこで何をしているのかなんて、ましてや。 「戸籍屋の前は名無しで、名無しの前はジェームスか。名前変えんの好きだねー」 「わっ!」 傍らでリンゴを咀嚼されて、少し鳥肌が立った。 「アンリ、字読めたんだ・・・」 「まぁね。西の落っことした部品もあるしさ」 野生児に解読された己の過去を、丸めて握り潰した。 「あれ?いいの」 「いいんだ」 嘘の名前に、嘘の名前を重ねてでも、あの時は助けたかった。自由をあげたかった。その情熱は嘘ではないが、今となっては自信がない。 「戸籍屋、やっぱ名無しがいいよ」 ほとんど芯だけになったリンゴをしゃぶりながら、彼女は提案する。 「あんたは、名無しって感じがするな」 無責任に、笑う。 西と東の境目にある偽造戸籍屋に、正確な過去はない。だから、未来もない。
2009年02月14日(土)
|
|
 |