池ポエム
ハンス



 たまに遊んでみたり(再録)

 グーグルのキャッシュに消してしまったSSが残ってたのを発見。
 懐かしい……この頃はまだ頂上戦始まってなかったもんな。紅愛とみのりも白い服着てたもんな。
 この頃から玲と紅愛のコンビ好きだったんだなあ。
 どことなく書き慣れてない感じをお楽しみください。まだ☆河さんに攻めのかほりが残ってたっぽいです。




 ドアを開ける。ノックもした方が本来はいいのかもしれないが、中に待ち受けている無駄に優雅な人物を思い起こすと腹が立っていつもそのままガツンと開けてしまう。
 しかし今日のガツンには、ぶつけ先がなかった。
 「誰もいねーのか」
 一番乗り。別にやる気はまったくないのに、一番乗り。相方はおろか、呼びつけた当人たちすら来ていない。一番最初に来たことをからかわれそうな気がして、いったん帰ることすら考えた。チッと舌打ちしてそのまましぶしぶ壁にもたれる。
 「めっずらしー」
 「げっ」
 次に扉から現れた人物に、玲は目を覆う。最悪だ。想定していた二番目に発見されたくなかった人物。ノブにかかったきれいな爪。不機嫌そうに腕を組む玲を見つけると、ニヤリと笑った。
 「どうしたの、玲」
 「うるせー」
 紅愛が二番目に現れるのも珍しい。今日は、いつもなら一番遅く来そうな二人が何の因果が集まってしまった。風が二人の間に吹き込む。
 風?
 「窓、開いてんのか」
 最初に来た玲が開けていないのなら、開けっぱなしなっていたのか。玲が近寄って手を掛けると、一際強く風が吹いて、カーテンがふわりと膨らんだ。その拍子に、カーテンがめくれて隠れていた机が露になる。
 そして机にもたれかかって眠る人物が。
 「あ」
 一番じゃなかったんだ、と玲は心の中で呟く。
 「なになに」
 窓を閉めかけたまま、横を凝視している玲の様子に気づいたのか紅愛も側に寄ってくる。そして、机の上でうつ伏せになり目を閉じる人物の顔を見て、目を丸くした。
 「めっずらしー」
 「つーか、いたんだな……」
 思えば、呼びつけておいて自分が遅れるなんて、会長はともかくこの人ならするはずもなく。この部屋で一人待つうちに、睡魔に襲われたのだろうか。居眠りする姿なんて見たことがないせいで、つい二人して黙って寝顔を見つめる数分が続いた。
 そのうち、紅愛が静久の顔を覗きこんでから、楽しげな声で言った。
 「玲、ゲームしない?」
 「なんの」
 まだ秋の始めの風は、肌を刺すほどに冷たくはない。涼しげに静久の素直そうな髪にさらさらと吹いて、流れていく。その髪に、いつものように締められたハチマキ。それを紅愛は指さした。
 「静久が起きないように、コレ外したほうが勝ち」
 紅愛が指を五本立てる。五秒、と言った。五秒ごとに交代で、最終的にハチマキをスルリと抜き取って手中に収めた方が勝者。
 「こいつならすぐ気づくだろーがよ」
 「あら、自信ないんだ」
 「……お前はあんのかよ」
 紅愛が彩りのよい指先を宙にかざす。
 「あるわよ。少なくとも玲よりは」
 不器用そうよねー、と紅愛が朗らかに笑って、玲の決意はすぐさま固まった。


 そうっと、後ろから静久の頭に手を伸ばす。結び目に触れて、玲はあからさまにげっという顔をした。
 (こいつ、なんでこんなに固く縛ってんだよ!)
 想像以上に結び目が固い。さっきまで、一撃でこんなもん奪い取ってやるぜ、と息巻いていた玲の指先が固まる。一撃で静久ごと粉砕しかねない勢いはどこへやら。紅愛に向けられた視線も、どことなく情けないムードが漂う。
 (やっぱり玲、バカ)
 挑発に乗った玲は、予想通り一番手に行くぞと自ら出陣していった。こんなもの、先に散々頑張って緩めてもらったところを二番手に行くのが有利に決まってる。
 せいぜい玲には頑張ってもらおうと、紅愛はゆっくりと一本ずつ指を立てていく。
 (あと3秒)
 玲の回した腕が小刻みに震えている。人を起こさないように、しかし結び目は解けるように。力の加減が難しく、起きないかどうか静久の真後ろで呼吸を読まなくてはならないため気力を使うらしい。最近見たことがないほど、玲の表情には焦りが浮かんでいる。
 「はい、交代ー」
 小声で紅愛が声を掛ける。ゆっくりと玲は顔を上げて、抜き足差し足でそうっと後ろから離れた。
 「つかれた……」
 傍らの机に手をついて、うなだれている。
 「あいつ、なんなんだ一体」
 静久のハチマキは常にそこにあるのが当然のごとく、頭にちょうどいい具合に巻かれていた。きつすぎず、緩すぎず。そういえば静久のハチマキがほどけかかっているところを見たことがないな、と二人は同時に思った。どんなに激しい運動をしていても、鐘を撞いている時も。ピタリと、頭と一体化したようにそこにある。
 その秘訣は結び目だったのだ。
 「って、んなことわかったって何の意味もねーよ」
 どうせならもっと役に立つ静久の弱点でも知りたいところだ。
 紅愛が定位置について、カウント開始。そっと、しかし玲ほど全身に力が入っていない状態でしゃがみこみ、結び目に指を滑り込ませる。
 (っても、固いわね)
 玲の奮闘の成果か、とれないほどではない。もう少し、もう少しと神経を集中させる。玲の指が4本立った。が、そこにガチャリという音が割り込んだ。
 「玲?今日は早いわね……って、なにしてるの」
 「ばかっ、紗枝静かに」
 振り返った玲と、奥にいた紅愛に同時に「しーっ」と言われて思わず紗枝は入り口で沈黙した。


 「ふぅん。で、どっちが勝ったの?」
 紗枝、紅愛、玲。眠る静久を遠巻きに見て、白装束が三人顔を寄せ合う。
 「あと1秒、残ってたでしょ。なら私の勝ちね」
 紗枝の乱入で一時中断となった紅愛のターンには、確かにあと玲の指一本分時間が残っていた。が、それを聞いて玲が噛み付く。
 「あと1秒でとれてるって保障はねーだろ。次のターンでとれたらあたしの勝ちだ!」
 「どうして次でとれるって言い切れるのよ」
 顔突き合わせてにらみ合う二人を見て、紗枝はふと呟いた。
 「今から続き、やってたみたら」
 薄く開けておいた窓から、風が入り込んで静久のハチマキが揺れている。かなり緩めた結果、もう一息といったところ。次で、いやもうほとんど走って行って掴んだ方が勝ちなくらい。紗枝がね、と言ったと同時に二人が走り出した。
 「んっだよ、お前の番はもう終わっただろ!」
 「あと1秒残ってたから玲の番はまだよ!」
 言い合いながら走っていく二人を見て、紗枝は内心笑いを堪えていた。ムキになりやすい玲はともかく、あの星河紅愛があそこまで感情的になるのは珍しい。それも、何の意味もないくだらないことで。どういう風の吹き回しか。
 それを言うなら、気配を察するのに長けた宮本静久がこれほど無防備に眠り続けていることのほうが奇跡に近い。
 右から玲、左から紅愛。回り込んで、同時に手が伸びる。バンッ、と玲が乱暴についた手の勢いで静久の頭が少しだけ上に移動した。次の瞬間、ハチマキが誰かの手にしっかりと握られた。
 玲の視線が、紅愛の視線が、正面にいる人物に向けられる。静久は目を擦りながら、自分の周りにいる三人の人物をぐるりと見回した。
 「あの、皆さんどうしたんですか」
 髪の後ろがキュッと引き締まった。いつもの感触。十数年続けている習慣のせいか、これがあると寝起きでも一気に気が引き締まる。振り返ると、予想通りのあの人。
 「ひつ……会長。すみません、眠ってしまったみたいで」
 「いいのよ。昨日は遅くまで付き合わせてしまったものね」
 静久はさっと立ち上がり、ひつぎの手できれいに再び締められたハチマキの位置を確認した。
 「で、あなた方はわたくしの静久に何をしているのかしら」
 「え、っと」
 静久を自分の背に回して、二人の前にどんと立ちはだかる会長。さりげなく“わたくしの”とか言ってることに気づいたのは、この場では紗枝だけだった。


 そして数日後。生徒会役員全員強制参加のハチマキ奪り合戦なるものが盛大に催されたことが、風の噂で伝わっている。

2006年09月23日(土)
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