池ポエム
ハンス



 一年の終わりに

 終業式が終わった日。掃除だの何だのと雑用が立て込んだのも、これで終わり。一年の最後を学園で迎えない生徒たちは、早い者はその日のうちに寮を出る。
 順もまた、カバンに色々と詰め終わって後は旅立つばかりだった。
 さらば、2005年の二段ベッドよ。今度来る時は2006年になっている。下の段の主は帰る準備などこれっぽっちもする気配がない。
 「綾那、いつ帰るの?」
 あまりにも普段通り過ぎて、こっちから尋ねたくもなる。綾那の愛用ゲーム機はテレビにつながったままだし、電源すら入っていた。目の大きくてピンクの髪をした女の子がテレビから話しかけてくる。まったくもっていつも通り。
 「ん……まぁ2、3日前になったら適当に」
 極めてアバウトな年末の予定。この調子なら何日に帰るのか、実家に連絡も入れてなさそうだ。自分はというと、すでに冬休みに入る前に連絡を取っていた。今年はただののんびりした正月とは少し異なる。久我の家も、静馬の家にもそれとない緊張が走っている。
 そんな大人たちとは別に、順が早く帰るには訳があった。
 「あ、そうだ。順」
 会話が始まって初めて順の方をまともに見た。そんな無愛想も今日が年内見納め。
 「その塊」
 指した先には、くくった雑誌や本のブロックが二つ。大掃除の成果というやつだ。帰るのはいいけど捨ててってよ、と素っ気無く言われた。
 「来年に持ち越しってことで」
 「却下」
 「そういう綾那だってまだ全然掃除してないでしょ」
 各部屋の掃除は適宜、帰る前に済ませておくことという簡単な連絡があっただけ。それでも女子ばかりのこの寮に、壊滅的な汚部屋に住む者はめったにいない。剣待生として真っ当にやっていこうとすると、自己管理能力もそれなりに問われる。
 よって、真面目に掃除をする生徒の姿が、年の瀬になると寮内のあちこちで見られた。たとえ白装束着ててもゴミ出しに行く。前に、ゴミ袋50個一気持ち記録を達成したのは神門玲だった。
 「大体、年を越えたって昨日の続きじゃないか。何でわざわざ大掃除なんて……」
 「綾那」
 コントローラーを持ったままブツブツ言う綾那の肩を、軽く叩く。
 「掃除しないで家帰ったら、冬休み明け入れないよ。部屋に」
 さすがにバツが悪いのか、こちらを見ずに数秒固まり、しばらくして「面倒だな」と呟いた。
 「まぁ綾那のものぐさは今に始まったことじゃないけどねー」
 今年も色々あったけど、入学して三度目の冬休みも無事迎えられる。四六時中顔突き合わせているルームメイトともしばしのお別れ。黙っていると、半年ほどで起こった周囲の変化が思い浮かぶ。変わったこともあるし、変わらないこともある。そろそろ変わってしまえと思うことも、じっくりとしか進まなかったり。
 「じゃ、そろそろ行くわ」
 「ん」
 振り返らずに、手だけひらひらと振ってくれた。この人も、変わった。
 「綾那。今年はどんな年だった?」
 画面が真っ暗になって、ゲームオーバーと表示されている。何か失敗したらしい。
 「今年は……今年は、何か疲れた」
 「なにそれ」
 そういう割には、声にはどこか弾みがあった。
 今から一年前には考えられない。決して綾那にとって楽しいことばかりでなかった一年。それでも、また年が巡れば人は持ち直す。花が咲くのは一度きりではないように。
 「ま、疲れるぐらい青春しましょうってとこで」
 何だそれ、と綾那が振り返った。珍しく、素直な笑顔だった。

2005年12月31日(土)
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