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2024年04月01日(月)
『高橋徹也・山田稔明 友だち10年記念 “YOU'VE GOT A FRIEND” ─April Fool edition─』

『高橋徹也・山田稔明 友だち10年記念 “YOU'VE GOT A FRIEND” ─April Fool edition─』@Star Pine's Cafe


ふたりがハモる、ふたりでギター弾くってのがもうよいし、お互いのオリジナルを一緒に演奏するのもいいし、高橋さんの唄うフィッシュマンズとか山田さんの唄うヒートウェイヴが聴けるとか、なんだもういいしかないじゃないか。ここで小林(建樹)さんの話が出るのももう面白いし(笑)はーいい夜だった。

「週末だけじゃなく、週明けにこういう催しがあってもいいじゃない?」ということから決まったらしいこのライヴ、ご本人たちも「週末って告知しちゃった」「来週なのに今週っていっちゃった」。昨年の6月名古屋、10月大阪を経て、「友だち10年記念」シリーズがいよいよ東京にやって来ました。

おふたりが友だちになったという10年前(年をまたいだので11年前か。2013年)のライヴというのは、今回と同じ会場であるSPCで開催された『山田稔明、高橋徹也、小林建樹[monologue]』。運よく私も目撃しています。というのも小林さんが出ていたから。この夜に、高橋さんと山田さんのライヴを初めて観たのです。ということは、私の高橋さん、山田さんのリスナー歴も10年か。記念だ(笑)。

・monoblog:“monologue” @ 吉祥寺スターパインズカフェ(2013年6月27日)
当時の山田さんのブログ。てか山田さんのアーカイヴ力ホント有難い……ライヴ企画・制作〜広報〜記録(セットリスト、後期)といつもきちんとしてて頭が下がる。告知の惹句というかコピーライティングもいつも素敵だし、作品(グッズ含め)に対するブランディングとディレクションが行き届いていて感心する。

10年前に対バンして友だちになったんだよね、と話すふたりに「小林さんも出てたよ…なかったことにされてる……?」などと猜疑心の塊になっていると「その対バン、小林建樹さんも出てたんですが」「あのひと呼ぶとめんどくさいから」「僕らも変わってるけどあのひとはほんと変わり者だから」とイジりが始まる。めんどくさい、わかる(笑)。「GOMES THE HITMANとデビューが同期だったというのもあって、僕は小林さんと仲よかったんですけど」と山田さん。「いや僕だって小林さんと仲いいですよ」と高橋さん。ははは小林さん愛されてる。

上手側が高橋さん、下手側が山田さん。ギターはどちらもエレクトリック1本とアコースティック1本。山田さんはタブレット、高橋さんは紙の楽譜。声のハモり、ギターの絡み。ひとりでの弾き語りで馴染んでいる楽曲が新鮮な響きを持つ。ふたりの「怪物」が聴けるとは! ふたりの「友よまた会おう」が聴けるとは! 友だち記念ライヴで「友よまた会おう」なんてもうエモも極まる。山田さんも「エモいよねー」っていってたけど。

そこで思い出した。おふたりが友だちになったという10年前のライヴ、最後皆でカヴァーセッションやろうってなったんですね。で、山田さんが「こういうときはビートルズかねって話してたら、高橋さんが『僕はストーンズ派なんで』っていいだして。そういわれちゃあねえ」っていってて。結局山下達郎の「Ride On Time」に落ち着いたんですが、10年経った今、「Here, There, and Everywhere」のフレーズが入っている「友よまた会おう」をふたりで唄ったのって、ねえ……エモいよ!

この「怪物」「友よまた会おう」の2曲が顕著だったけど、山田さんのロッキンなギターリフが高橋さんの楽曲にピタリとハマる。個人的には高橋さんはボウイ(ブリティッシュロック)、山田さんはR.E.M.(アメリカンオルタナ/カレッジチャート)が基盤にあるというイメージ。特に90年代アメリカンオルタナにドップリだった自分には、「そこそこ!」「きくーッ」てなツボなリフが山田さんからゴロゴロ出てくるところがたまらなかったです。

それにしてもフィッシュマンズの「気分」カヴァーよかったなあ。佐藤くんの高音と高橋さんの声って、通じるものがあるかも。とても綺麗な声なのに、奇妙というか怖さも感じるんですよね。高音の響きは丸くふくよか、でも妙に耳にひっかかり、こびりつく。ストレンジな声。山田さんはやはりR.E.M.繋がり(とこっちが勝手に思っている)の「月あかりのナイトスイミング」が胸に迫りました。あと「pilgrim」な。こういうのに弱い。共作含めお互いの未音源化作品も披露。「お互いのファンがどう聴くか」を意識したところもあるようで、高橋さんは「最初の頃は山田くんのファンに『何こいつ』って思われてたところもあったと思うんですよね」なんてこともいっていました。

そして、演奏は勿論だがトークがよかった。そもそもふたりがざっくばらんに話す様子を「見せる」という図が面白い。今回の趣向として「ふたりともステージにいっぱなし。ひとりが唄っているとき、もうひとりはステージにしつらえてある椅子に座りそれを聴き眺める」という仕掛けがあり、演奏が終わるとすぐにその感想をいい合ったり、ツッコんだりする。これが側から見れば非常にスリリング。だってさ、チューニングしてる高橋さんに向かって山田さん、「ねえねえ、なんか喋って場を繋いどいた方がいい? それともこういうときって黙っててほしい?(ニヤニヤ)」とかいうんですよ。怖い!(笑)それに対して「……うるさいなあ」とかいう高橋さん。薄氷を踏み抜くようなトークだわ、これは気のおけない間柄じゃないと出来ないわ。思えばこうやってふたりがしゃべくる様子を目にすること自体が初めてだったので、うわあそういうこといっちゃうんだ! そんなことズバッと訊いちゃうんだ! と、新鮮な驚きがありました。

10年前の対バン迄は、お互いを知ってはいたけど「なんかヤだな」「いけすかないヤツだな」と身構えていたというふたり。デビュー前、映像制作会社に就職した山田さんがアシスタントとして最初に入った現場が高橋さんのMV撮影だった、というのは有名なエピソードですが、ポン出し(撮影に合わせて手動で音を出す)係だった山田さんが、そこで使ったCDシングル「真夜中のドライブイン」を持ち帰り今もだいじに持っているといういい話も聞けました。

そこで悪びれもせず「スターだからね」という高橋さん。その前にお互いの親が音楽を続けることをどう思っていたかという話をしていて、「反対ですという手紙をもらった。『星の数ほどいるからスターというのであって、あなたがそのスターになれるとは思いません』って書いてあって……俺ひとりっ子なのに。もうちょっと優しい言葉をかけてくれても……」と山田さんがいっていたんですね。ふたりの近年のテーマは「謙遜しない」だそうで、褒められたら素直に喜ぶ、素直に有難うということを心がけているそう。いいですね!

山田:高橋くんが死んだらこのシングルCDを……
高橋:まさか売る気?(この思考回路がすごく高橋徹也)
山田:違うよ! 高橋くんの葬式で、って高橋くんが先に死ぬって前提で話してるけど(笑)、このCDを掲げて「これが出会いでした」っていうんだよ!

このやりとりにはウケた。といえば、

高橋:お母さん、地元のレコード屋で俺のデビューCDを20枚とか注文して、「息子がデビューするんです」って

って話をしたあと、

山田:実家の整理してたら、俺が初めて出したCDの入ったダンボールが出て来て。母親が買ってて。ダンボールだよ、100枚とか入るサイズ。100枚て
高橋:そこで張り合おうとする?(この思考回路もすごく高橋徹也)
山田:違う違う、それが全然売れなかったみたいで大量に残ってたの。俺が売ってやる! と思ったんだけどインディーズ時代だから演奏が下手でね……売りたいけどどうしようってジレンマが

ここもウケた。というかどこのトークも面白くてな。笑えるし頷くし切ないし。

高橋:「光の葡萄」は代表曲なんじゃない?
山田:対バンとか、僕のことをよく知らないお客さんの前でやるときに抜く刀みたいな曲ではあるね
高橋:ソーダ水とか、言葉のチョイスもよくて…だいたい歌詞ってここいいなあって言葉は1曲に数個あるくらいだけど、これは歌詞の全部がよくて。10年前のライヴで初めて聴いたとき、本当いい曲だなあ、いい歌詞だなあと思った
山田:それをいったら、俺の方は10年前「大統領夫人と棺」を聴いて「このひとは何を唄ってるんだ?」って思ってたよ
高橋:(笑)
山田:なんなんだこれは!? って

年齢は2歳違い。「中1と中3とか、高1と高3って考えるととてもタメ口なんか聞けないよね」「カツアゲされちゃう」「大人になるとこれくらいの年齢差なんてどうでもよくなるね」。身体を壊したり、ご両親を亡くした時期が近かったり。歳が近いからこそ訊けることがある、泣き言もいえる。フリーランスとしての悩みや音楽家としての生みの苦しみを共有し、相談し合える。昨年の『高橋徹也 × 小林建樹』で高橋さんが仰っていた「シンガーソングライター互助会」ですね。音楽家の生活をちょっとだけ見学させてもらった気分です。

最後「写真でも撮っていってください」と撮影タイム。並んで手でも振るのかな? と思っていたら山田さんがふらりと「友よ〜」のフレーズを弾きだして、高橋さんも軽く唄い始める。おおおめちゃ格好いいな、このさりげないセッション!

とても楽しい月曜の夜になりました。ご本人たちも「2時間の予定だけど終わらないね」「トークが長いんだよ」といいつつ何度も楽しいと口にしていました。いやはやいい週明け。

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・monoblog:高橋徹也・山田稔明 友だち10年記念 “YOU’VE GOT A FRIEND”(2024年4月1日 @ 吉祥寺 スターパインズカフェ)【SETLIST】

1. 幸せの風が吹くさ(山田+高橋)
2. 三日月のフープ(山田)
3. pilgrim(山田)
4. 八月の流線形(高橋)
5. 美少年(高橋)
6. 音楽は魔法?(山田)
7. 夢に生きて(高橋)

8. 真夜中のドライブイン(高橋+山田)
9. 月あかりのナイトスイミング(山田)
10. オレンジ〜真実(山田)
11. 新しい世界(高橋)
12. 黄金の舞台(高橋)

13. オリオンへの道(山田:HEATWAVE カバー)
14. 気分(高橋:フィッシュマンズ カバー)
15. 怪物(高橋+山田)
16. 光の葡萄(山田+高橋)
17. 君と僕とカップとソーサー(共作曲)
18. my favorite things(山田+高橋)
19. 友よまた会おう(高橋+山田)

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・開演前、終演後にかかってた“YOU'VE GOT A FRIEND”は誰のカヴァーverだったのかな? キャロル・キングのオリジナルではなかったです

・近くの席の方が食べるカレーやクリスピーチキン&チップスのおいしそうなこと。いい匂いもして……終演時間が遅くなることを見越してか、いつもより食事をしているひとが多かったような。SPCはフードメニューも充実してるし、今度食べてみたい〜

・そうそう、chinacafeさんのツイートから知ったのですが、韓国のSSW/プロデューサーであるCLOUD KOHさんが高橋さんの「新しい世界」をカヴァーしています。高橋さんってギタリストのイメージが強いので、ピアノ弾き語りのアレンジがすごく新鮮。転調パート含めフルで聴きたいです…って、どういう経緯で今この曲を発見したんだろう? めちゃいい!



・この日「新しい世界」の前に高橋さんが「人気があるっていわれるとやらないとか、メジャー時代の曲はやらないって意地張ってた時期もあったけど、聴いて喜んでもらえるのはやっぱりうれしいし有難い。そう気づいてからは勿体ぶらなくなった」というようなことをいっていたのです。CLOUDさん3月下旬に日本にいたっぽいんですよね……レコード屋巡りしてる様子をinstaにあげてて。高橋さんのレコード買えたかなー、買えてるといいなーと思ってたけど、滞在延長してライヴ来ればよかったのに〜

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(20240404追記)

・monoblog:高橋徹也・山田稔明 友だち10年記念 “YOU’VE GOT A FRIEND”(2024年4月1日 @ 吉祥寺 スターパインズカフェ)【ライブ後記】
「カッコ悪いところを見せたくない」という発言もあったけど、リラックスしたなかにピリッとした緊張感があって、この日はふたりともずっと背筋が伸びていた気がする。

・尊敬とユーモア┃夕暮れ 坂道 島国 惑星地球
僕にとって山田くんの曲というのは、日常のシーンを精緻な言葉で描きながら、いつの間にかここではないどこかへと連れ出してくれる、そんなイメージ。反対に僕の曲は、いつか見た風景や断片的な記憶を呼び覚ますことで、それを日常へと感化させるイメージ、とでも言いましょうか。