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2022年02月11日(金)
『パイプライン』

『パイプライン』@シネマート新宿 スクリーン1


エレベーター開閉ドアを公開中の作品アドボードにしちゃうの(エレベーターラッピングというのか)、シネマートではすっかりお馴染みになりましたね。いい撮影スポットにもなっています。

エンタテイメントの幸せが詰まったような作品でした。楽しい! 原題『파이프라인(パイプライン)』、英題『Pipeline』、2021年、ユ・ハ監督作品。

地下を走る送油管に穴を空け、石油を盗む「盗油師」たち。そんなアナログな…バレない筈ないし、そもそもそんな危ないことやるかね……と思うんですが、実際にあった犯罪が元になっているというのだから恐ろしい。なんとなくセコいコソ泥ってな趣ですが、一歩間違えば大事故どころか大災害です。道路が陥没し、多数の死者が出た例もあるとか。

そんな向こう見ずというか命知らずというか、まあ大バカ者ばっかりの盗油師チームが、桁外れの盗油計画を企てる。これがまー魅力的というか、憎めないキャラクターの皆さんなのです。こうしたチームものの犯罪エンタメって、『エクストリーム・ジョブ』『シークレット・ジョブ』(え、これも? と思うがまあ犯罪ですよねアレ)の流れだと思うのですが、その道のエキスパートが集い、それだけあって個性派揃い、だもんだからチーム内のイザコザも絶えない。面白くない訳がない。自分がそのチームに加われといわれたら絶対にイヤですが(笑)。

エキスパートとはいえど犯罪のプロではない。情が移ってすぐ本名を明かしちゃうし、金が必要な理由もすぐ話しちゃう。「私、失敗しないので」とは程遠く、常に危険はつきまとう。邪魔も入る。それでもここぞというときにはキメる彼らに、すっかり魅了されてしまうのでした。観てる間ずーっと「絶対失敗するよなー。成功する訳がない。したとしても程なく捕まる」と思っていると同時に「ひょっとしたらイケるかも、奇跡が起こるかも、行かなかったとしてもなんとか逃げられるかも」なんてついつい応援しちゃうのです。

外部にバレないよう、作業は夜中。騒音を抑えるため手作業で掘る。地味な画ヅラだな〜と思っていると、カラオケで大騒ぎして笑わせたり、生き埋めになりそうになったり(これはイヤだな)。金が必要な事情がちょっと弱いかなと思っていると、すかさずスケールのデカい石油転売ビジネスのカードが切られる。飽きさせず見せる演出もテンポよく、メンバーそれぞれの見せ場もバランスよく。

2インチのドリルで1ミリ単位の穿孔を成功させる“ピンドリ”、ホンモノへと成長していくトラブルメーカー“チョプセ”、最高の置き土産をくれた“ナ課長”、ナイロン100°Cに在籍していそうな(実際舞台で活躍されている役者さんだそう)愛嬌の“ビッグショベル”、最後にスカッとさせてくれる“カウンター”。彼らをバックアップする“トン(クソ)将軍”の重機操縦にもシビれました。豪快と繊細極まれり、針に糸を通す正確さ。

これだけの腕を持ってんなら真っ当な仕事して生きなよ! と思うものの、その“腕”が評価されない社会というものへの目配せもあり。彼らのスポンサーとなる人物が、財閥ではなく成り上がりというところ(まあ先代が築いた会社を喰いつぶすボンボンではあるが)にもアップデートを感じました。こういうところ、流石しっかりしています。一度失敗した者たちの再起が描かれ、それを応援する社会も存在するのだというところも最後に見せてくれる。夢物語のようでもありますが、そのことに胸をなでおろし、ちいさな勇気を得る観客がいる。これもエンタメの美点だと思います。

テーマ曲はまさかのド直球、The Ventures「Pipeline」。こちらのパイプラインはサーフィン用語のそれですが、実際鳴ってみればもうこれ以外考えられない。しみじみいい作品でした!

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・パイプライン┃輝国山人の韓国映画
いつもお世話になっております。そうそう、あの警察官誰だっけ知ってる! 観たことある! って悶えていた。ペ・ユラムだよ! 『チャンシルさんには福が多いね』のフランス語の先生だよ! すっとぼけたキャラクターでよかったなあ

・実はソ・イングクのことはよく知らずに観に行きました。パク・ソンウンが出ているというので観ていた『空から降る一億の星』で、主役を演じていたのです。オリジナルでは木村拓哉が演じた役なのだから、本国では人気のある方なのだろうなあ、いい役者さんだなあという印象。映画館で予告を観て、『空から〜』のあのひとが映画に出るんだ、面白そう! と思った訳です

・初日が近づくにつれ、普段観ている韓国映画のそれと様子が違うことに気付く。SNSの宣伝アカウントにつくRTやFAVの数がものすごく多い。パンフどころかグッズが沢山ある。観客層がなんだか華やかで、ロビーの雰囲気もキラキラしている。本編前にメッセージ映像が流れる。これは……相当どころじゃない人気者だな!? 寡聞にして存じ上げず失礼しました! 格好よかったです、また映画にも出てくださいね〜!

・韓国ドラマ「空から降る一億の星」公式サイト┃ポニーキャニオン
今でも公式サイトが残っている。イングクさんだけでなく相手役(オリジナルでは深津絵里)のチョン・ソミン、そしてお兄さん(オリジナルでは明石家さんま)のソンウンさん。ソンウンさんの同僚のチャン・ヨンナム、部下のクォン・スヒョンと、印象的なひとが多かったんですよね。
韓国ではドラマ収録のスケジュールがとてもタイトで、ドラマによく出る役者さんは映画になかなか出ないと昔何かで読んだけど今もそうなのかな。また観たい役者さんが沢山いました。
交通事故や新興宗教にまつわる悲劇など、日本版との違いも興味深かったです