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2021年12月26日(日)
『ただ悪より救いたまえ』

『ただ悪より救いたまえ』@シネマート新宿 スクリーン1


いやー待った待ちました。日本での撮影があったと知り、本国で公開されたときファン・ジョンミンに「熱い夏を救うアジェファタール(※アジョシ+オムファタール)、夏が愛した魔性の男」というキャッチコピーがついたと知り、いつ! 日本での公開は! はよ! と思い続けて一年以上。なんとクリスマスイヴの封切り、何の冗談か。原題『다만 악에서 구하소서(ただ悪より救いたまえ)』、英題『DELIVER US FROM EVIL』、2020年、ホン・ウォンチャン監督作品。

最後の仕事を無事終わらせ、南の島で余生を送ろうとしていた殺し屋インナム。その最後の殺しの相手というのが日本のヤクザだったんだけど、その弟・レイがヤベーやつで、復讐してやる〜とどこ迄も追いかけてくる。東京から仁川、そしてバンコク、ランヤオ。周囲の人間を巻き込んで、ふたりが通り過ぎたあとには死体の山が出来上がる……。

話としてはもうこんだけなんですが、インナムに実は娘がいて、その娘がタイに住んでて臓器売買目的で誘拐されたとか、タイってことで性別適合手術を受けようと韓国から来ていたトランスジェンダーのユイがインナムに協力することになるとか、レイはレイで在日朝鮮人としての複雑な家庭関係とか、いろいろあるんですが、そこら辺もうちょっと、もうちょっと練ってくれよ〜と思わないでもなくてですね……インナムの娘たまったもんじゃないな! とか、ユイと警察んとこのジョーク滑ってるなとか、インナムの元恋人(=娘の母親)役が『金子文子と朴烈』での名演が記憶に残るチェ・ヒソだったんですが、このストーリーで彼女に日本語の台詞ないとか勿体なさすぎる! とか。

しかし、ん? んん? と引っかかりつつも、皆さんの演技が素晴らしすぎる+レイちゃん(といいたくなる)の勢いが凄すぎてもはや笑いが出るという状態で、最後迄一気に観せられたという感じ。もうレイちゃん面白すぎたよ…トゥクトゥクの運転手さん無事だったかしら……タイのマフィアも警察も、追ってる案件とは全く関係ないひとが現れて大暴れ(なんてもんじゃない、災害だあれは)したら「ちょ誰、何」てなるよね……レイちゃん落ち着いて! インナムを追う理由も途中で忘れたとかいうところ、ホントはシリアスなシーンなんだろうけど「ちょレイちゃん、思い出して!」とかいいたくなった。もはや楽しい。

そうそう、画ヅラがめちゃめちゃよかったです(『パラサイト』『母なる証明』の撮影監督・ホン・ギョンピョ。来年公開予定の李相日監督作品『流浪の月』でも撮ってるそうです)。仁川の夕暮れは圧倒的な色彩だったし、インナムを演じるファン・ジョンミンの瞳の撮り方が、あーこの色を撮りたかったんだな、観客もこの虹彩が観たかったです! という光の当て方でした。アクションの撮り方も独特で、打撃部分は本当に当たって見える(顔が曲がるし、汗も飛ぶ)ので「え、本当に殴ってんの!?」と驚いた。実際に当てているアクションをスローで撮り、スピードを上げて編集しているそうです。

しかしホント演者がよかった……ジョンミンさんの、物語る無表情の表情の見応えあること。一方レイを演じたイ・ジョンジェのぶっ飛び方も面白すぎた。スタイリッシュヤクザここに極まれりのキメキメファッション、登場する度衣装替えして楽しませてくれました。そうした見た目だけでなく、あの金網越しにインナム見るときの表情もめちゃめちゃ衝撃的。あんな顔するか、と驚かされもした。獲物を見つけたって顔じゃなかったじゃん、逃げないでえ、とすがるような目をしてたじゃん。こういうところ、ジョンジェさんの面目躍如ですね。ふたりが同じ作品に出るのは今やソフトが入手困難の(今観たらBlu-rayはプレミアついてた分も品切れになってるな)『新しき世界』以来ということで、この作品で韓国映画(とファン・ジョンミン)にハマった者としては、再びふたりのガチンコ共演を観られて感無量でした。なんでもこの話が来たとき、ジョンジェさんジョンミンさんに「ヒョン、この話受ける?」って連絡したそうじゃないの……「うん、やるよ」「じゃあ、僕もやる」で決まったそうですよ〜最高か。エレベーターアクションや延辺からの…‥とか、ちょこちょこオマージュもあってニコニコしました。

あともうひとりのジョンミンさん、パク・ジョンミンがめちゃめちゃよかった。噂には聞いていたが演技の天才といわれるだけのことはある。性別適合手術を受ける前のトランスジェンダーの役ですが、適合手術前だからヒゲは伸びてしまうし、手術費用を稼ぐためにショウの仕事をしているので所謂おネエのキャラクターとして働いている。心身の不一致に違和感があっても、それを表に出すか内に秘めるかは個々の人間性。明るさと強さを持つユイという人物そのものにフォーカスした演技だと感じられました。個人的には、近年の映画におけるLGBTQの描写についてドラァグクィーンとオカマを自称する人物が置いていかれている感じがしていたのですが、パク・ジョンミンの演技はその色付けのグラデーションが見事だった。

惜しむらくは、レーティングの問題かゴアなシーンが少なかったことか。解体しまーすとかいうたらワクワクするじゃないか、『殺し屋1』好きとしては。あそこ迄セッティングしてるんなら見せてくれると思ったのに! 本編より6分長いファイナルカット版があるそうなんだけど、そちらに期待したい(何を)。

音楽(Mowg。今後気にしとこ)もヨハン・ヨハンソンマナーですごい好みでした。なんだかんだいいつつもリピートするだろうな、というか早くまた観たいんですけど! クセになる作品です。

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・『ただ悪より救いたまえ』┃輝国山人の韓国映画
いつもお世話になっております。どこよりも詳しいデータベース

・「いきなり自分の子どもの存在を知って、そこからどうしたらいいのか」『ただ悪より救いたまえ』ホン・ウォンチャン監督 インタヴュー┃A PEOPLE
「ファン・ジョンミンは一切、観客に目配せすることなく、抑えたトーンの中で様々な感情表現を見事に演じきってくれたと感謝しています。」
いやホント抑えた演技が素晴らしいよねジョンミンさん……


上田現はマレーシアだったがインナムはパナマに行きたかったようですヨ! 夢の南の島!


本国での予告編公開時話題になってたとこ。このあと豊原功補さん(役名がコレエダってとこにもニコニコ)や白竜さんの出演が判明したのでした。しかしこんなに日本で撮影してたとは……パンフレットにもロケ地メモ載ってたけど、中野とか高円寺とか、普通〜の街角にファン・ジョンミンが! この頃(2019年頃)はあちこち外国でロケも出来たんだなあとしみじみもしたなあ。遠い昔のことのようだ……