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2021年12月25日(土)
さいたまゴールド・シアター最終公演『水の駅』

さいたまゴールド・シアター最終公演『水の駅』@彩の国さいたま芸術劇場 大ホール


最後にこんなの見せられちゃ、次を、新作を期待せずにはいられないよ。悔しいけれど、これでおしまい。やはり杉原邦生はすごい、と思わされた公演でもありました。しょっちゅういってるがあの鳥の目……舞台、演劇において視点を選ぶのは観客と承知した上で、その選ばれる視点全てに応える目。

旗揚げから15年。創設時66.7歳だった集団の平均年齢は、今81.7歳だ。最後の公演に選ばれた作品は、太田省吾の沈黙劇。客演にはゴールドのメンバーと同世代の小田豊と、若い世代から井上向日葵。

照明・美術バトンが降ろされた状態の裸舞台には、装置用のトランクや台車が点在している。前方中央に水道の蛇口。細く水が流れ続けている。舞台下手側にちいさな花道。観客が劇場に足を踏み入れた時点から、作品は始まっている。蜷川さんの手法でもあり、杉原さんの手法でもある。水の滴る音を聴き乍ら開演を待つ。真っ白なワンピースを着たひとりの女性が舞台に駆け込んでくる。バスケットからプラスティックの赤いコップを取り出す。それに水を受け、ゆっくりと飲む。徐々に客電が落ちていく。いつの間にかそこは、水の駅だ。

壊れた蛇口から流れ続ける水に、行き交う人々が触れていく。男性同士、女性同士、男女のふたりづれ。ひとりで、ふたりで、集団で。飲む、浸かる。足を洗う。水辺でひとを愛し、ひとを憎み、ひとを葬り、そして去る。生命の源でもある水を得て、彼らは花道から去っていく。鴻上尚史の『ピルグリム』を思い出す。水辺はひとが行き交い情報を交換するオアシスだ。目的地ではない。いつかはそこを去らねばならない。それは人生と同じこと。

開幕してすぐに気付く。老人だから動作がゆっくりなのではない。実際、幕開けに登場した「少女」役の石川さんはとても軽やかに機敏に動く。「2mを2分で歩く」稽古を経て、彼らはゆっくり動くことが“出来る”のだ。そうでなければあのポーズはとれない。筋力がなければスローモーション、ストップモーションはもたない。動作と動作の間、演者たちの肉体は引力に、時間にしっかり向き合っている。彼らは一言も発することなく、人生を見せてくれる。表情、伸びる腕、高く上げる脚。

とはいうものの、「水、冷たくないかな?」「一気に飲んでむせてしまったら、誤嚥性肺炎の危険が……」「お湯かな? いや、湯気が出てしまうし」なんてハラハラした。終演後の帰り道で同じようなことを話している声を複数聴いたので、そう感じたひとは多かったかも。長年の信頼関係とケアがあるのだろうとも思う。15年一緒に作品をつくり、海外ツアーも経験している。演者とスタッフ、どちらもプロとして作品に向き合っている。

絶妙なタイミングと音量で、さまざまなアレンジが施されたエリック・サティ「ジムノペディ」が流れる。Taichi Kaneko(TAICHI MASTER)によるトラック――激しいビートとノイズ、煌びやかな音色、静謐なピアノ。長い人生で直面するさまざまな出来事と呼応するよう。バトンから降ろされた「GOLD」モニュメントの、圧倒的なインパクトと美に高揚する。ゴミの山に命が消費するモノについて思いを馳せる。戦争か自然災害か、光と音により破壊される日常。動かなくなる若者。彼女は老人たちに包まれて見送られる。生きてきた長い時間のなかで、消えていく命を見つめる。

最後の登場人物は舞台の奥からひょっこりと現れ、ゆっくりと近付いてくる。さい芸の舞台の奥行きを活かした演出は、蜷川さんが得意とした手法でもある。ホームレスのような姿だが、その背中にはいくつもの風船がフワフワと浮いている。ブラックとグレーの間のような、モノトーンの風船だ。この絵ヂカラは凄まじいものがあった。終わりが近づいている。彼はかつての登場人物たちが散らかしていったゴミを、綺麗に拾い集めて去っていく。残るのは更地、そして蛇口。鮮やかとしかいいようがない。演じる遠山さんの愛らしさが、現実とリンクする。

ああ、遠山さんは杖をつくようになったんだ。佐藤さんは車椅子に。ゴミの山の頂点にいる盒兇気鵑稜惴紊砲浪燭あったときのためだろう、黒衣が控えているのが見える。彼らの姿は、作品のなかで違和感どころか必然として映る。

欲をいえば最後の公演、役者の声を聴きたかったな……と思っていたらあのカーテンコール。最後の「ジムノペディ」は蜷川さんが使用していたヴァージョン。出演者たちはまっすぐに立ち、明晰な声で自分の名前と年齢を語る。ゴールドシアターのオーディションで、最初の公演で語られた“台詞”だ。なんて粋な。降りてきた蜷川さんの遺影を背に挨拶する役者たちに、万感の思いを込めて拍手を送り続けた。

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千秋楽のカーテンコールでは今回出演されていない方々の写真が登場したそうで、遺影かと衝撃を受けた方も多かったようです。この方のツイートによると「体調やご都合で出演されなかった方のお写真もあった」とのこと。ホッとしましたが、いつかは、誰にでもそのときは来る。当日パンフレットには全員の今の年齢が記載されていました。

亡くなった方がいても敢えて公表はしない方針なのだろうなとも思っていました。当初の発表では出演予定だった葛西さん、最年長の重本さんのお姿も拝見したかったですが、どこかで楽しくしてらしたらいいな。ゴールドは最後迄このメンバーで行く、と蜷川さんも仰っていた。これからもずっと、彼らはゴールドのメンバーだ。

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・【連載】さいたまゴールド・シアターとわたし┃ステージナタリー
当日パンフレットにも掲載されていた、歴代作家、演出家たちの寄稿。どれも頷き膝を打ち、それぞれの公演を振り返る。岩井さんのテキストが説得力あるおかしさ


歴代作家や演出家が相当手を焼いたと思われる(蜷川さん曰く「老人は天使なんかじゃねえ!」)ゴールドのメンバーの心をぽっかり開かせた(ように感じた)杉原さん空恐ろしいわ。遠山さんは『ワレワレのモロモロ ゴールド・シアター2018春』『よみちにひはくれない 』と数々の名演を見せてくれました


観ているときこれ思い出してた。ナミブ砂漠のオアシスはまさに水の駅。ライヴ配信されています。いろんな動物が来るよ。クリスマスはサンタが来たそうです(笑)


いつか観ることが出来ないだろうか。と今でも思っているし、これからもそう