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2018年05月12日(土) ■
さいたまゴールド・シアター『ワレワレのモロモロ ゴールド・シアター2018春』

さいたまゴールド・シアター『ワレワレのモロモロ ゴールド・シアター2018春』@彩の国さいたま芸術劇場 NINAGAWA STUDIO

出演者自身に起こった悲惨な体験を、当人が台本化し演じるシリーズ『ワレワレのモロモロ』をゴールドシアターで。ゴールドの面々が個人史を舞台に載せる作品というと、ピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団のメンバーである瀬山亜津咲とのタンツ・テアター『ザ・ファクトリー3』という傑作がありましたが、岩井秀人構成・演出の今作も素晴らしかった。『わが家の三代目』『友よ』『無言』『パミーとのはなし』『荒鷲』『その日、3才4ヶ月』の6セクション。

ハイバイ式、出演者による上演に際しての諸注意で開幕。ひとなつこいキャラクターの遠山陽一が担当。注意は3つ。携帯電話等音が出るものの電源を切ること(というか、呼び出し音が鳴ることとヴァイブ機能の違いが僕には分かりませんので、とにかく音が出ない状態にしてくれればいいですといっていた)。飲食OK、ただ、食べものの入っている袋は一気に開けること。地震の際はスタッフの指示に従うこと。ここ迄はハイバイと同じ。そして3つ目、上演時間は変動すること。台詞を忘れて思い出したり誰かに教えてもらったりしていると長くなる。台本の数ページをすっ飛ばして台詞をいうときもある。そういうときは短くなる。何かあっても、僕が責任とりますからと監督の岩井さんがいってくれました。とっても若いのに、たいしたものですねえ。ですって。ウケた。

そしてこの日はもうひとつ、おことわりがありました。出演者のひとりが喉を傷めてしまい声があまり出ない。他の役者が代わりを務めることも検討しましたが、彼女はだいじな仲間。マイクを持って芝居することをお許しください。

果たして登場した彼女の声はかすれ、聞きとれない箇所もあった。中盤以降、舞台上でちょっとした話し合いが行われ、彼女の台詞を他の役者が分担して話す場面もあった。この舞台上での変更に演出家は介入していない。ひとりの役者が咄嗟に「ここは僕たちが分担しよう!」と提案して決まったことだ。

プロンプはついていない。上演時間は予定より少し延びた。観る側の注意力と咀嚼力も求められる。例えば従来の芝居では強調されて発せられるであろう重要な言葉にメリハリがなかったり、台詞をここぞというタイミングで噛んでしまったり。ときには群衆的な役割のひとが早まって(あるいは遅れて)同時に喋ってしまったり、大声を被せてしまったり。上演時間が長い! とか台詞噛んだ! とか鬼の首をとったように騒ぐひとにはおすすめ出来ない公演だ。ただ、そういったこと以外のところで瞠目するものが多くある。だからゴールドの公演に通いつめてしまう。きっかけは蜷川幸雄だが、彼が演出していない作品のどれもが魅力的で、見逃せない、次も是非観たい、と毎回思わせられる。

いちばん若い出演者が1945年生まれ。劇団にはもっと若いひとも在籍している。ひとつの作品に構成するなかでたまたまこうなったのか、「悲惨な体験」を演劇にするというこのシリーズでは戦争という体験のおおきさがものをいったのか。広島で被爆した方、お国のために死んできなさいと母親に送り出され予科練で終戦を迎えた方。今回は出演していないが特攻隊の生き残りもいた筈だ。そうした体験が舞台上で繰り広げられる。ここで岩井構成の妙が光る。そのエピソードのなかに批評性を持つ人物を登場させる。戦後をアメリカ人とのビジネスで生き抜いた人物に、恥ずかしくないのか、自分だけいい思いをすればいいのかと言葉を投げる人物がいる。主人公は、それらの言葉を受けて立つ。捨てられていく古い冷蔵庫を演じるのは劇団最年長の男性だ。彼は戦中の思い出をぽろりぽろりと呟くが、故障して異音を発しているのだと片付けられる。新しくやってきた冷蔵庫は、アメリカ人を演じた女性だ。複数のエピソードが複数の役を演じる役者で繋がり、役と演者がレイヤーになる。作者が長年抱えていた記憶に、自分が思ってもいなかった意味が生じる瞬間が現れる。

家族(ペットも、だ)の死、友人の死。自身の死も身近になる。その孤独に他者の視線を注ぐ。視線は岩井さんのものでもあり、観客のものでもある。「悲惨な体験」の記憶はこうして拡散され、つらい思いをしまいこんでいた胸が少し軽くなる、かもしれない。

ハイバイドアはなかったけれど、巨大な額縁状の引き戸を模した装置(美術:山本貴愛)がいい仕事をしていた。額縁をスライドさせると、舞台はさいたまのアパートからパリのカフェ、真夏の広島へと変わる。1940年代から2010年代迄、時代の変化もシームレスに観ることが出来る。

一種イレギュラーでもあったこの日の公演で、興味深い出来事があった。冷蔵庫のエピソードの主人公は、前述の声が出なくなっている女性だった。彼の夫を演じる男性が積極的に彼女をサポートする。台詞を分担しようと提案したのも彼だった。夫としての台詞と、共演者としての言葉が入り混じり芝居は進む。カタログをいくつも読み、サイズや機能を検討しつくしたうえで店に出向いたのにまだ迷ってしまう妻に夫が軽口をきく。それを受け、女性が放った最後の台詞は、夫と妻の役柄だけではない意味を持ったように聞こえたのだ。ひとが長年続けていく生活というもの、他人とくらすということの途方のなさ。日々揺れる演劇、予測のつかない幕切れ。こんな舞台を見せてくれる集団、そうそうない。そしてこんな面白い集団がそれぞれ抱える個人史をこういう形で、新たな魅力を加えて見せてくれた岩井さんに感謝。

こうなると、シリーズ化してゴールドのメンバー全員のモロモロを観たくなる。観客は創作のたいへんさを知らないもんだから気軽にこんなこといっちゃうけど、現場はたまったもんじゃないだろうなあ。幕が開いても気が休まらないだろう。でも、次回を楽しみにしています。

それにしても『グッド・デス・バイブレーション考』の翌週これを観たのは刺激的だった。松井さん(サンプル)と岩井さん(ハイバイ)の作品を対で観るの楽しいな…すごいひいってなるけどな……。自分をつくった親というものがどちらもいなくなった今、いろいろ考えのリハビリをし乍ら観ているところもあるな。いいタイミングでした。

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たまたまだが蜷川さんの三回忌当日。アフタートークは故人を偲びつつ、笑いの絶えないものになりました。書けないことが多すぎるが印象に残ったことをちょっとだけおぼえがき。記憶で起こしているのでそのままではありません。前後していたものをまとめちゃったりもしています。出席者は岩井さんと、飛び入り参加の渡辺弘さん。さい芸の制作統括で、蜷川さんと二人三脚でゴールド、ネクストを育ててきた方です。進行は徳永京子さん。

・(劇団は成長していくものだが)ここは出来ないことも増えていくんですよね。その「事情」を了解したうえで、お客さんは観ていくことになる。その面白さ
・とはいってもやる方はたいへん(笑)。今回はまず、なんで台本書かなきゃいけないんだってところから。で、書いてきたら手書きで。あ、手書きなのね……と。そして達筆過ぎて読めない。演出助手が入力作業やってたんだけど「読めません」って
・結局書かないひともいたんだけど、他のひとの出来あがりをみたらやりたくなっちゃったみたいで「またやるよね、今度は書くから!」っていわれた
・(近年、ゴールドの公演はネクストシアターのメンバーが歩行補助やプロンプ等のヘルプで入るのが通例になっていたが)今回ヘルプはなしでやってみます、と始めたんですけど、途中からネクスト…きて……! と何度も思いました……
(当日パンフレットには演出助手に佐藤蛍さんの名前はありました)

・公演がない時期、頭や身体がなまらないようにと蜷川さんがその道のスペシャリストを講師として呼んできても「演じるために入団したのになんで座学がいるんだ」とか「ダンス練習恥ずかしい」とか。全部舞台に立つためのレッスンなんですけどねえ
・蜷川さんのところではまず作家読みというのがあるんですけど(劇作家本人が台本を一度通しで音読する)、終わったら「てにをはが違うんじゃないか」とか(笑)
・破格の集団ですよね

・蜷川さんはわかりにくい記憶をわかりやすく見せる天才だった
・結成時から三分の一の人数になっちゃった。亡くなったり健康上の理由以外で退団したひとはいない
・認知症が進みもう無理です、と自分の意志で退団した方が翌日稽古場に来てしまったこともありました
・でも、舞台に立ちたい一心で、歩けなくなっていたひとが歩けるようになった事例もあるんです(�盒鏡兇気鵑里海函�
・このあいだの公演は岩松さんがひきうけてくれて、今回は岩井さん。蜷川さんが亡くなったとき「これからどうする?」と訊いたんだけど、辞めますというひとはひとりもいなかった。どこ迄やれるか判らないけど続けていこうと思います
・まだやれてない、やり残していることもありますしね
・いろんな方に作品を書き下ろしてもらってますけど、劇団員の反応ってやっぱり気になるみたい。それこそ今回の芝居でも出てきましたけど台詞をひとことでももらえるとすごく嬉しいんですよね。あと(男1、女1とかじゃなくて)役名がちゃんとあったり。そういうのを聞くと、次に反映させたくなるようです

・蜷川さんは上に出ていきたいと自分に近づいてくるひとに対してオープンで、売れたいんだろ? 俺を利用しろよ、とよく言っていた。最大限に利用したのはゴールドシアターのメンバーではないか

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・悲喜こもごもを作品に昇華、ゴールド・シアター×岩井秀人「ワレワレのモロモロ」│ステージナタリー
ゲネプロの様子。毎日こうとは限りませんよ〜ある意味スリル満点

・彩の国さいたま芸術劇場の“ゴールド”な挑戦 ─ノゾエ征爾、岩井秀人、菅原直樹が語る「高齢者演劇」の将来│ステージナタリー
前述の渡辺さんも参加している座談会。もーこれたいへんさがビシバシ伝わってきてすごい面白い(ヒドい・笑)

・『我らに光を ─さいたまゴールド・シアター 蜷川幸雄と高齢者俳優41人の挑戦』徳永京子
今作のサブテキストにもなる、劇団員のインタヴュー集。ゴールドシアターのメンバーになる前、どんな生い立ちでどんな仕事をしていたか。バラエティに富みまくっている骨太の個人史。既に亡くなっている方もいる


よい顔されてらっしゃいました