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2021年09月25日(土)
『エリア50代』

KAAT DANCE SERIES 2021 × Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021『エリア50代』@KAAT 神奈川芸術劇場 大スタジオ


いやーこういう企画、全公演観たくなりますよね。通いたかった……。

先週に続き『Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021』(DDD2021)のプログラム、“50代の技と身体と思い”を届ける『エリア50代』です。出演者は全員50代(十市さん談:スタッフも50代で揃えてます!)小林十市さんと近藤良平さんが日替わりゲストを迎えます。この日のゲストは伊藤キムさん。

ステージ上手には“エリア50代”と書かれた寄席文字のめくり台(後述十市さんのエッセイに画像あり。初日のみ撮影OKだったそうです)。該当作品の出演者と年齢が書かれた名ビラがめくられていくという粋な趣向です。柳家花緑 × 東京シティ・バレエ団『おさよ(落語版ジゼル)』もあったし、こういうところディレクターのカラーが出ていていいですね。ちなみにめくり担当の方は和服姿の女性で、どこからともなく現れて、どこへともなく去っていくという不思議な存在でした。本当にどこから? という感じだった。その都度現れる場所も違った。当日パンフレットにクレジットもないし、どなただったのでしょう。

開演15分程前から、演者がステージに出てきて各々アップを始める。ストレッチをするひと、振りのおさらいをするひと、うろうろダラダラしている(ように見える)ひと。コソコソおしゃべりしたりして、本番へピークを持っていく迄のルーティンにも個性が出ます。皆さんシャイなのか踊る前の緊張からか、声がちいさい(微笑)。でも全員ピンマイクを装着していたので大丈夫。作品中台詞があった近藤さん以外もピンマイクをつけていたのは、アップを含むプレトークでハンドマイクを持つと支障があるからでしょう。アフタートークでは全員ハンドマイクを使っていました。

出順はくじ引き。直前迄順番がわからないので、どのくらいアップやストレッチをしておけばよいか、どうやってテンションを持っていけばいいか等、皆さん探り探りの様子。観客は呑気に面白がります。全員いちばん最初に踊りたいとのこと。ここ迄一度もトップバッターをひいたことがない十市さん、「今日はくじを引く順をアミダで決めましょうよ」といいだす。急遽スタッフがアミダを紙に描いて持ってくる。そのアミダが複雑で、「あれ、こっち?」「出口一緒になんない?」とひと騒動。すっかり和やかな雰囲気に。丸められた紙が入ったクリアボックスが三つ運ばれてきて、アミダで決まった順に箱を選びます。紙を開くと……伊藤→近藤→小林の順に決まり、イエーイと喜ぶ伊藤さん、めちゃくちゃ悔しがる十市さん、ニコニコしてる近藤さん。個性出るわー。

後日知ったところによると、結局全公演ゲストの方がトップバッターを引いたそうです。うまいこと出来てる。十市さんはずっと「最初に踊ったことない」「いちばんに踊りたかった」といっていました。先に踊って他のふたりの踊りをリラックスして観たいということもあったのでしょうが、他に理由があったことはアフタートークで判明します。いつもゲストがトップバッターになるので「まさか、くじに……」と疑いだす十市さん(笑)。見かねた(?)伊藤さんが「いっぺんにやるってのはどう?」といいだす(笑)。一瞬それいい! と思ったかはさておき、「照明さんがたいへん」「装置(小道具)がないの、キムさんだけなんですよ」と現実的な理由で却下となりました。それでは本番!

■伊藤キム(56)『このままフェードイン』
振付・演出:BOXER & Hagri

ジャケットとパンツ、ノースリーブのシャツ、スリッポン。登場時と同じ服で(何なら家からこの格好で来たんじゃないのとも思わせる)、ピンマイクだけ外してもらうとするりと始められました。まさにフェードイン。音楽に合わせふわりと身体を揺らす。軽く跳ねる。滑るようなステップ。穏やかなままの表情。深夜、クラブ、ハウスミュージック……あっという間にイメージが眼前に現れる。感覚的にはいちばん自分の嗜好と近い音楽とダンス。音楽が誰のものかわからなかった。格好よかった、知りたい!
ご本人は自然体のまま(そう見える)時間と空間を引き寄せていく。いや、時間と空間の方が彼の方に吸いついてきたかのよう。クラブで「うわっ、このひと、いいな。雰囲気もダンスも」と一歩下がって眺めている錯覚に陥りました。そういう意味でも、欲求を喚起させる作品だった。音楽にも、ダンスにもどっぷり溺れたい。つまりそれは、快楽。

■近藤良平(53)『近藤良平』
振付・演出:MIKIKO

ブラウン管のテレビ、ちいさな卓袱台、ちいさな椅子、ノートパソコン(Mac)、アコーディオン、トイピアノなどが運び込まれる。タイトルがタイトルなので、近藤さんがこれ迄の人生で触れてきたものたちなのだなと思う。テレビで流れていたのは『トムとジェリー』。英語ではなかったので、近藤さんが幼少時住んでいた南米版かな?(後に判明)
スーツに着替えて登場した近藤さん、椅子に座ったり、Macを操作したり、楽器を演奏したり。そうした動作にMIKIKOさん特有の手の動き、足のスライドが加わる。あーまさにMIKIKOさん! と同時に、圧倒的に近藤さんのダンスになっている。細やかな振り、なのに全体像はダイナミック。これはすごい。
終盤に流れてきたのはThe Bangles「Walk Like an Egyptian」。「エジプト人のように歩きなさい」……帰宅後検索して、コーランに「道を歩くなら、正々堂々と歩きなさい」という教えがあることを知る。近藤さんの、MIKIKOさんの、あらゆるひとの人生を思う。感動的な幕切れでした。

■小林十市(52)『One to One』
振付:アブー・ラグラ
音楽:モーリス・ラヴェル『亡き王女のためのパヴァーヌ』、ガブリエル・フォーレ『パヴァーヌ』
衣裳:キャロル・ボワソネ=ラフォン

テーブルを使ってのダンス。腰に負担がかからないようにという配慮もあるのかもしれないが、両手で激しく叩くと演説を行っているようにも見えるし、身体を委ねると机そのものがパートナーのようにも見える。とてもドラマティック。テーブルに衣裳がひっかかるハプニングあり。一瞬のことだったのでこれも振付? などと思う。長い裾がドレスのようで素敵だけど、踊りづらそうな衣裳ではある。
しかしその衣裳をして伸びる腕、脚、身体の線の美しさ。逆の意味でダンサーの力を思い知る。
故人を偲ぶようにも、自身の身体、年齢と向き合っているようにも感じられる選曲と表情。王女のための曲ではあるが、やはりここはベジャールさんを思い出す。ひいてはダンサー本人にも。ひとは誰でも生まれた瞬間から死へと向かっている。何を思っている? 想像力が掻き立てられる。そう、今回のお三方は、観る側の想像力を自由に解き放ってくれるダンサーだった。

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プレ/アフタートークで面白かったこと、印象に残ったことなどおぼえがき。便宜上内容が前後していたり、編集しているところもあります。間違い等ありましたらお知らせ頂ければ助かります。

伊藤:聴いてきた音楽はツェッペリンとか。バンドもやった、ギター担当
小林:こどもの頃はジュリー、西城秀樹、洋楽だとデュランデュランとか

世代は同じだけど微妙に路線が違ってて、普段どんな曲で踊ってるんですか? と訊かれた伊藤さんが「Underworldとか…」といったら、ふたりからも観客席からも反応が薄くてボソッと「あ、知らないか……」と寂しそうにいってたのにちょっとウケた。し、知ってます! 大好きです! と手をあげたくなった(いらぬアピール)。

伊藤:靴は現場のゲンさんの作業靴。靴底の溝を、自分でフェルトで埋めて履いてるの。いろいろ試してみたけどこれが丁度いい
近藤:僕はアサヒのクーガー。滑り具合、フロアとの引っかかり具合。これがいちばん。この三本線がいいんですよね(本番では違う靴を履いていた)
小林:今回僕、靴下なんです。靴下で踊るの初めて(靴談義に参加したそうだったョ)

近藤:(踊り終わってアフタートークに出てきた十市さんを見て)着替えるの早かったねー!
小林:衣裳はアブー・ラグラのところにあったISSEY MIYAKEのもので、四枚重ね着している。着るのがたいへんなので最初から着てる、だから最初に踊りたい(笑)脱ぐのはバーっと脱げる。本番で引っかかっちゃった、二回
近藤:あっ! と助けに行きそうになった。伊藤さんの衣裳(ジャケットで、裏地がコバルトブルーのサテン生地)素敵ですね
伊藤:以前『禁色』という作品を上演したんですけど、そのときの相棒の白井剛のジャケット。サイズも丁度よかったから

白井剛さん! 横町慶子さんとの『Liebesträume(リーベストロイメ)〜愛のオブジェ〜』キム・ソンヨンさんとの『原色衝動 ダンサーズ イン ザ パラダイス』が印象深い。伊藤キム+輝く未来のメンバーでもあった方ですが、伊藤さんが白井さんの衣裳を着ていることにも、「相棒」といっていたことにもなんかグッときたなー。
『禁色』というキーワードに反応する観客が結構いた。逃して悔やんでいる、再演してほしい作品のひとつです。

伊藤:本番前のルーティンは、特にないんですよね……普段の生活の延長で入っていくという感じ。今回の作品のタイトルも『このままフェードイン』
近藤:楽屋で楽器を演奏する。今はカンカラ(三線)を弾いてる
小林:あれいいですよね、今回同じ楽屋なので毎日聴いてる。今日近藤さん、振りのおさらいしてたね。珍しい
近藤:ひとに振り付けてもらうことってあまりないから、確かめようと思って
小林:(今回の公演は、自分でも振付するダンサーが他人に振付してもらうというのがポイントだが)僕、肩書きに振付家と書いてるけど、ベジャールさんの振付をダンサーに伝えたり、レッスン用にアレンジしたりするのが主なんですよね。フラワーアレンジメントならぬ振付アレンジメント(笑)

近藤:(MIKIKOさんとの作品づくり)今年に入ってから電話で依頼した。「………やります」、とちょっと間があった。会って(インタヴューを受ける感じで)ちいさい頃のこととか、何をして遊んだかとか話をして、その後プライヴェートレッスンを……というとなんかいかがわしいことみたいだな(笑)マンツーマンでレッスンを受けた。作品中テレビで流れている『トムとジェリー』はチリ版。なのでタイトルも『Tom y Jerry』。住んでいたのはペルー、チリ、アルゼンチン。MIKIKOさんの振付は手の振りが特徴的。指先迄神経が行き届いている

小林:金森穣くんの振付も結構手や腕を大きく動かすものが多い。そこ迄腕がまわらなかったりして「これが50肩!?」ってなってる(笑)。Noismの自主練しようと思ったら結構忘れてて、覚える、身体に定着させるのがたいへんなのも50代だからかな
伊藤:足がつったり。肉離れが心配
小林:アップにプリエ、タンジュ、ルルベを入れるといいですよ。効果あると思います

・伊藤さんのお子さんが見学に来ていて、お父さんの踊りを見たらあっという間に寝た(微笑)

・いきなり!ステーキには全員行ったことがないそうです(笑)どういう流れでこの話になったんだっけ、アップなしでいきなり踊れるかって話から?

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2015年の『近藤良平のモダンタイムス』以来、6年ぶり。再びステージで踊る十市さんを観ることが出来てうれしかった。あのときはこれが最後かも、と思っていたのだ。実際それ以来、十市さんはひとの作品を踊っていなかったとのこと。今回は次(『A JOURNEY〜記憶の中の記憶へ』)があるからまだ寂しくないよ。いや、あと一公演しかないと思うと寂しいな、やっぱり。

「エリア60代もやりたいんで、僕らが60代になる迄待っててくださいよ」と今回最年長のSAMさん(59)にいったら「ええ、7〜8年後!?」とひるまれた話ウケた(笑)。でも、実現したらうれしいな。ひっそり待ってます、それ迄自分も丈夫でいようと思います。

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・小林十市 連載エッセイ「南仏の街で、僕はバレエのことを考えた。」【第25回】「舞踊の情熱」「エリア50代」、無事終了!┃バレエチャンネル

・エリア50代、ありがとうございました。┃Instagram
BOXERさんのinsta

・50代のダンサーが奏でる「エリア50代」スタート、小林十市「記憶と現実 違いすぎ」┃ステージナタリー
十市さんのコメント、「息上がる 記憶と現実 違いすぎ エリア50代」で一句になってるので見出しに全文使ってあげて!

・“エリア50代”が魅せるダンスの現在、SAM&近藤良平「十市さんはいい機会を与えてくれた」┃ステージナタリー
SAM「コロナ禍でバーチャルなものが増えていく中で、ダンスはやっぱり生き物だと思うんです。目の前で人が動いていれば波動も伝わるし、感動も伝わる。(略)どんな状況でもダンスは廃れることがないと思っています。」
SAMさんの振付が能楽師の佐野登さんというのにも興味をそそられました。ストリートダンス × 能楽! 観たかったな〜

・「エリア50代」稽古場レポート、小林十市・金森穣・柳家花緑が語る“私とダンス”┃ステージナタリー
小林「20代、30代と培ってきたものはあるけれど、だんだん瞬発力がなくなってきて回復も遅くなってきて、そういう中で日々生活しつつ、でもまだ踊りと向き合っている。そんな今、50代として舞台に立って何ができるのかを見つめ直したい」