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2020年08月29日(土)
『ようこそ映画音響の世界へ』

『ようこそ映画音響の世界へ』@シネマカリテ スクリーン1



細かくいうと『Voice』『Sound Effects』『Music」の3セクションに7パートが入る。マイクを使っての台詞録音から、宇宙空間での戦闘音等、現実には存在しない音のクリエイト迄。『地獄の黙示録』の現場では、整合性を保つためにひとりの担当がひとつの音だけをつくると決められていたとのこと。

エジソンが録音機を発明してからサイレント映画がトーキー映画に移行していく流れ、録音の現場でのトライアンドエラー。100年以上にもなる映画の歴史はアップデートに次ぐアップデート、当然エピソードも膨大。どこをピックアップするかによってテーマも変わりそうだが、音響デザイナー/編集者でもあるミッジ・コスティン監督は、注意深く、信念を持ち歴史を編む。映画は男性たちだけでつくられているのではない。

音づくりに膨大な時間を費やしたことで会社とぶつかった音響デザイナーのエピソードが面白かった。彼女はそれが原因で解雇されたが、その作品でアカデミー音響編集賞を受賞する。すると、「音はだいじだった」というカードとともに花が届いた。送り主は私をクビにした社長よ、とニッコリ微笑む彼女。それ見たことか、という茶目っ気と、自分の仕事に満足している笑顔だった。音を録る環境と聴かせる環境、どちらにも拘ったバーブラ・ストライサンドの耳のよさと決断力も印象的。歌手、作曲家としても華々しいキャリアを持つ彼女が音に関して妥協しなかったことは当然でもあるが、1980年代にそれを突き通すには苦労も多かったことだろう。心身を壊さず健康で仕事をすることの大切さや、女性たちの仕事ぶりがしっかりとりあげられているところがよかった(と、わざわざ書くこともなく、それが当たり前になることが理想なのだろうな)。

音を録る、創るだけでなく、「消す」のも音響屋のだいじな仕事。ロバート・レッドフォードが初監督作品『普通の人々』を撮ったとき、街の喧騒が入りまくる場所でロケをしたときの苦労話も。バツが悪そうに「初めてだったから知らなかったんだ」と話すレッドフォードが微笑ましい。『インセプション』の効果音づくりのシーンには頰が緩みっぱなし。あの現実離れした音が、日用品による音だったなんて! 先日再上映を観たばかりだったので、そのギャップにクラクラする。実在するものを使って、実在しないものをつくり出す。思えばクリストファー・ノーランは、CGよりも特撮を使った実写の迫力を重視する監督。その精神は音づくりにも貫かれている、ということかな。その一方で『アルゴ』のシュプレヒコールは、実際にデモに参加していたひとたちにより録音された。当時のことを思い出し、感極まるひともいたという。

さほど期待されていなかった『スター・ウォーズ』が大ヒットしたのには、「音」も一役買っている。熱狂したひとびとが映画館につめかけ、評判が評判を呼ぶ。映画館で映画を観る(聴く)という体験は、やはり特別なことなのだ。リアリティがリアルに化ける瞬間。音響はそんな魔法を観客にかけてくれる。

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・日本版トレイラー


・1990年代にフジテレビで『音効さん』という深夜番組あったなーと思い出しました。あれ面白かったよなー

・『ブラックパンサー』の音についても紹介されていた。映画を観終わって乗った電車内ニュースで、チャドウィック・ボーズマンの訃報を知る。思わず声が出てしまった