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2018年11月23日(金)
Jun Miyake『Lost Memory Theatre』The Concert

Jun Miyake『Lost Memory Theatre』The Concert@KAAT 神奈川芸術劇場 ホール


(へんな位置に「:」が入ってますがご勘弁を)

初演のパンフをすぐにとりだせるところに置いているくらい好きな作品。今年頭だったか、それとももう昨年のことか、この公演のスケジュールが発表になってから首を長くして待っていた。その間、江波さんが亡くなった。『豊饒の海』から『テラ』の流れで、生まれかわりについて考える。そして今日は、故人とともに失われる記憶のことを思う。ひとが死ぬのは、そのひとについて誰も語らなくなったとき。そのひとの記憶を持つひとがいなくなるとき。そんな失われた記憶たちの棲む劇場が帰ってきた。待ってた。

入場すると視界いっぱいに現れたのは巨大な書庫。書棚も、そこに収められた書籍も真っ白だったので『Defiled ―ディファイルド』を思い出す。このステージアートは中越司によるものだろうか? なんて思う。プログラムには「空間構成:白井晃、美術協力:木津潤平」とある。三宅さんの話によると「この前に行われた公演のセットをとっておいてくれた」んだそう。ああ、『華氏451度』のものか! 行けなかったんだよ〜、残念。それはともかくこのセット、記憶の書庫としてのイメージも備えていてぴったりでした。壁いっぱいに拡がる白の背景は、プロジェクション・マッピング(映像協力:宮永亮)のスクリーンとしての機能も果たす。これが圧巻。照明は大石真一郎らKAATの腕利きたち。この劇場でしか観られないこの劇場! ややこしい! 「『Lost Memory Theatre』がこの劇場で上演されてから、我々はふたりの仲間を失いました。今日のコンサートは、宮本大路さんと江波杏子さんに捧げたい」。背景に江波さんの姿が映し出されたときには思わず落涙。

「皆さんの緊張が伝わってきて……」。最初のMC、三宅さんが苦笑とともにぽつり。確かに出演者より観客の方が硬くなっていたように感じました。なんだか拍手すら硬かったですもんね(笑)。『Lost Memory Theatre』という舞台作品を経てのコンサートですから、「静かに鑑賞しなければ」という気負いが聴く側にあったのかもしれません。そんな構えを解いたのがリサ。三人の歌い手を擁するこのオーケストラは、曲ごとにメインヴォーカルが入れ替わる。自分が唄う曲になり、センターマイクに立ったリサは「ハロー、」と挨拶。パラリと拍手が起こるとギョッとしたように肩をすくめる。まるで「あ、ひと、いたのね?」とでもいうような表情。大きなホールや洞窟で「あ!」と叫んでそのエコーを楽しむいたずらっ子のようなその挙動に、客席からは笑いが起こる。彼女は自分が唄う番になる度、そうして観客に手を差し伸べていた。演奏の熱にうかされるように、ホールもあたたまってくる。三宅さんも中盤には「大丈夫ですか、皆さん、ついてきてますか」というMCに。

<Set 1>は昨年秋にリリースされたシリーズ完結作『Lost Memory Theatre - act3 -』からのナンバーを中心に、<Set 2>では慣れ親しんだ楽曲を交えたベスト選曲。四年前と大きく違うのは、ブルガリア・コスミック・ヴォイセズの合流(二年前の公演には参加していた)。PA(フィリップ・アヴリル、zAk)の妙もあり、三人なのに十人分くらいの声の層。またこの方たち、とても楽しそうに唄うのです。カラフルな民族衣装もかわいらしく、聴き入るこっちもすっかり笑顔。コンダクターのヴァーニャも歌に加わった、エフェクトなしのトラディショナル曲も素晴らしかった。ライヴで聴けるなんて最高の贅沢。二年前のリオ五輪閉会式、フラッグハンドオーバーセレモニーで披露された「君が代」もおそらく彼女たちが唄っているのですが、いつかコンサートで聴けるかしら。難しいかしら。

終盤は一部のひとが積極的に歓声をあげたり指笛を飛ばしたりして、すっかりくだけた雰囲気に。このスモールオーケストラには猥雑な妖しさがよく似合う。四半世紀前に初めて観たときは、熱帯に突如現れたグランドキャバレーのハウスバンドを連想した。会場が青山のCAYだったこと、21時開演の公演だった影響も大きい。村上“ポンタ”秀一、小林靖宏(coba)、窪田晴男らが演奏するバンドで、福岡ユタカ、中島花代、原マスミらがヴォーカルをとった。宮本さんはこの頃からマルチプレイヤーで、パーカッションもこなしていた。彼らはCAYに棲んでいて、ここに足を運ばなければ逢うことが出来ない……そんなイメージも記憶として残っている。

宮本さんとともに三宅さんのキャリアには欠かせない存在である(前述のCAY、『常夏乃憂ヒ』メンバーでもあった)伊丹さん。宮本さんからマルチリードパートを引き継ぎ八面六臂の活躍を見せたアンディ。シャイな様子と深い歌声のギャップに驚かされるブルーノ。美しくも不穏なハーモニーを響かせる金子飛鳥率いるカルテット。遮音用アクリル板の向こうから、ボサノバ、カリプソ、アフロキューバンと、優雅にビートを刻み続けたルイス。そして日本語を交えた歌唱とポエトリー・リーディングで幻の郷愁を誘う勝沼さんの声。エキゾティックでエロティックなモンドミュージックは、スタイルをそのままに旅と出会いを経て、今や風格すら備える。本編を締めくくるナンバー、「Petal」には恒例の演出がある。曲が進むにつれ音数が減り、演奏を終えたプレイヤーがひとりひとりステージから去っていく。最後に残るのはベースとフェンダーローズ。三宅さんのバンドでバカボンのベースが聴けたのも嬉しかったです。

アンコール、記憶の住人が再び揃う。弦楽四重奏のピチカート。わあっと歓声があがる。『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』では「Lillies Of The Valley」として知られている「Alviverde」だ。失われた記憶を宿す劇場の住人たちは、各々違う時間を歩む。いつかまた、今夜の記憶を持つこの劇場が現れますよう、記憶のなかの住人と逢うことが出来ますよう。

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セットリスト

<Set 1>
01. Undulation
02. Alta Maré
03. Deciduous
04. Pontual
05. Outlier
06. Etume
07. Bre Petrunko 12
08. Easturn
09. Easy To Let Go
10. Tres LIVE
11. the here and after
12. merry widow KAAT edit
13. flutter
14. Coronation
15. Le voyageur solitaire LISA

<Set 2>
01. Assimétrica / Older Charms
02. the world i know
03. abshana
04. White Rose
05. red shadow
06. Olhos Escuros
07. Exibida
08. colors
09. zed fate
10. Sednato Djore
11. STILL LIFE
12. Frozen Tide LIVE_single
13. All names
14. A Lua pela grade
15. A distant road
16. est-ce que tu plus me voir?
17. Petal

encore
01. A Wish Away
02. Alviverde

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三宅純(flh, fender rhodes, p)

Lisa Papineau(vo)

Cosmic Voices:
Vanya Moneva(conductor)
Anna Natskova(vo)
Veselina Kurtiyan(vo)
Diana Teneva(vo)

Bruno Capinan(vo))
勝沼恭子(vo)
伊丹雅博(g, oud, mandolin)
バカボン鈴木(b)
Ze Luis Nascimento(per)
Andy Bevan(multi reeds:fl, afl, ss, as, bs, bcl)

金子飛鳥(vln)
吉田篤貴(vln)
志賀恵子(vla)
多井智紀(vc)

Philippe Avril(PA)
zAk(PA)

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・原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO┃BLUE NOTE TOKYO
BLUE NOTE公演のレポート。こちらも行きたかったなあ

(20181130追記)
・【三宅 純】大作の“完結”から1年「今はニュートラルな状態を楽しもうかなと思っています」│ARBAN
・「本来こうありたいという姿に」三宅純がKAATで特別な一夜│ぴあ
・【インタビュー】三宅純│ローチケ
インタヴューいろいろ。ボヘミアン? コスモポリタン?