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2018年07月29日(日)
『消えていくなら朝』

『消えていくなら朝』@新国立劇場 小劇場

うへーまるっきりウチの話だわ。9割とはいかなくても8割は一致するわーと思い込みたくもなる、専門用語のいちいちが解る。蓬莱竜太の出身地ってどこだっけ、年齢は……うーむどこかで会ってるかもしれないわ。というわけで極めて個人的な感想になります。劇作家にはなっていない凡人からすると、いや〜蓬莱さん有難うとすら思った。あまりにも気になってプログラムも買ってしまったが、やはりどのコラム、対談も母親への言及は控えめ(に感じた)。扱うの、難しいですよね。でも自分が観たり読んだりしたどの作品よりも、今作はウチの問題に近かった。全否定しない、憎しみもない。第三者にそれはこういうことだと断定されることが何よりも腹立たしい。

私戯曲、ともいえる。どこ迄が実際に起こったやりとりなのかは判らない。劇中女優がいったように書く側は「調整出来る」が、そんなことはいわせないとばかりに劇作家は自分(を投影した役)を家族にコテンパンにさせる。登場人物ひとりひとりの問題を徹底的に掘り下げ、人物形成の経過を辿り、崩壊していく家族を書き留める。誰かひとりを責めて終わり、という単純な図式に陥らないよう細心の注意を払い、宗教の問題については少しの笑いに落としこむ、そのバランスのとり方。あったあった、ウチにもこういう笑い。どうやっても卵が先か鶏が先かというジレンマが生まれ、最終的にはこの作品を劇作家がどう書くかというところに観客の注目を集める。『消えていくなら朝』というタイトル。朝になったら全ての問題が消えていればいいという願いと、劇作家が家族の前からそっと姿を消してしまおうかという望みと。数十年の時間を経て積もり積もった思いを、こうして一日のやりとりとして見せる劇作の手腕に唸る。そしてこの作品の演出を自分ではなく、宮田慶子に任せる勇気。作家と演出家の信頼関係があってこそだろう。

考える。ウチがこの作品の家族のようにこじれなかった……というか家族間でぶっちゃけられなかったのは、母親が早くに亡くなった「おかげ」かもしれないな、と一生思っていくのもそれはそれで面倒なものだ。こういうとこすごいハイバイめいてる。『て』のように家族の視点をくるりとかえることは現実には不可能なので、結局は話したり聴いたりしないと全貌が見えない。いや、「全貌」はどうやったって見えない。結果「家族のせいでこうなった」のか、「自分の資質がこうだった」かは断定出来ない。

あの環境は決して居心地の悪いものではなかった。台詞にあるように「旅行に行ったり」出来て楽しかったしね。地域によるのかもしれないがウチのとこは比較的ユルかったのかなあ(とかいったら怒られそうだが)、母親の入院中すごく助けてもらったし、葬儀のときもウチの方でやりたいんですって父親がいったら、では出席は出来ませんがこちらでもおくらせていただきますみたいな話し合いが穏やかにおこなわれたし。とかいうと洗脳されてたのね可哀相にとかいうひとがいるがうるせえよ。基本的に他者に働きかけない限り皆さん善良なひとなんでしょう。あーでも善良なひとたちは他者を救わねばと働きかけたくもなるよね、そうするとやっぱウチの家族があそこ迄こじれなかったのは(ふりだしに戻る)だから信仰は自分の心のうちに持てと(以下常日頃いってることなんで略)。

売れているということは多くのひとに受け入れられているということ。お前は俺たちのことを見下してる、上から見るな。兄はそういう。ハハ、(なんども繰り返されるこのハハ、がホントムカつくのよ・笑)と弟は冷笑する。ここは外せないところ。この環境が特殊かどうか、特殊であったとしてそれは有利か不利か。有利だったとしてそれは何に? 父親も亡くなり、家族の謎はすっかり藪の中。想像することで折り合いをつけていく日々が続きます。ずっとそんなもん。

ひとんちの話は面白い。自分ちの話もきっと面白い。家族の問題をそう思わせてくれる作品を数多く生み出しているのがハイバイです。観ているあいだ、岩井秀人の感想ききたいなあ、観たかな? と思っていた。帰宅後過去ログ探してみたら、

とのことでした。あの「筆の勢いが止まらない」感覚、ピンとくるのだろうなあ。

というわけでなんだか心が澄みわたりましたわ。こんなに落ちつき、集中して観られたのは、緻密なホンと丁寧な演出、そして素晴らしい演者のおかげ。鈴木浩介と山中崇の兄弟観られてうれしかった。童顔の山中さんが弟だと思っていたよ、実際の年齢ってどうなんだっけ? 長女を演じた高野志穂は恐らく初見ですがもう大好きになってしまった。ドラえもん集めて何が悪い、いいじゃねえか!(役と混同)

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・今作の演出を手掛けた宮田さんは新国立劇場・演劇部門の芸術監督ですが、この八月で任期終了。それに伴い同部門のブランディング・宣伝美術を担当していたgood design companyも退任とのことで、ロビーには2010/2011〜2017/2017シーズン八年分の上演作品ポスターが展示されていました(プログラムにも掲載)。さびしいなあ、数々の素敵な宣美を有難うございました!




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