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2017年02月11日(土)
LITE『PAST 7DAYS』

LITE『PAST 7DAYS』(DVD配信もあるでよ|iTunes

10年つかずはなれずのリスナーでいたバンドに今ハマるとは……自分の日記で過去観たライヴを確認してる始末ですが、もともと掘ってるシーンが近いのでエピソードには事欠かないという。マイク・ワットとハグしてるメンバーを「時計から出て来た七匹のこやぎとおかあさん」とか書いててうまいこというな! とか自分の書いたものに笑う有様です。このタイミングでtwitterのTLにこれが流れてきたわけですけど、これか? こういうことなのか? 間近で演奏見るとやられてしまうな……後ろでばっか見てると気付かない(脳内補完出来ない)こといっぱいあったわ! 同時に己の耳の節穴っぷりにも愕然としたわ!

そんなわけで? あわててこれを観たのでした。2015年9月リリース。同年3月、SXSW出演後にアメリカ東部七都市をまわったツアードキュメンタリーです。結成10年を経て海外でのライヴも相当数こなし、アメリカに至っては5回目のツアー。何故この時期にドキュメンタリーを撮ったのだろう? という素朴な疑問もありました。監督は松沢征典。

成程、アメリカでの初のヘッドラインツアーだったんですね。「マイク・ワット肝入りの」が通じない不安が序盤に吐露されています。そしてやはりアメリカは手強い。単純にいうと土地が広い。移動距離が半端ない。ヨーロッパで手応えを感じたバンドが次なる一歩と進出し、そしてだいたい潰れるのがアメリカです。長距離移動セッティングリハ本番バラし移動の繰り返し。過酷な環境のなか、大概ダウンするひとが出る。専任ドライバーがいないときさえある。交通事故を起こすバンドも多いし、亡くなったひとも少ないとはいえない数いる。それで思い出したけど、eastern youthがアメリカツアーしたときタモさんが運転してて車が横転する事故あったじゃないですか……未だに吉野さん根に持ってるよね、「あのとき田森『あ、ダメだ』つったんだよ」「言ってねえよ!」ってさ。もはやネタみたいですが、ネタで済んでよかったよ!

現地のスタッフとのコミュニケーションがうまくいかないことは日常茶飯事。「DIY精神」に甘えた呼び屋がいるのも事実。その昔、日本の呼び屋のヒドさにジョー・ラリーがツアー途中で帰っちゃったことがありましたね……そのとき駆り出されたのが54-71とmouse on the keysでさ(苦笑)。

・ジョー・ラリー来日ツアー中止の真相 - 大正おかん座

まあスティーヴ・アルビニとかは寝袋持参すっから宿はおまえんちな! とかいう豪傑だったりしますが(そしてLITEも過去のツアーでそういうこともあったと話してますが)、やっぱり呼ぶ側としてはそれがあたりまえだと思ってはいけないし、熱意だけがあればいいというわけでもない。敬意と信頼あってこその招聘ですよ!

閑話休題。そんなこんなで5回目となっても慣れないことは多く、現地PAスタッフと一触即発な空気になったり、環境が揃わずVJを中止せざるを得なくなったり、客が入ってる状態でリハする羽目になったりとハプニング続きです。バンドのギャラ最低値を更新する日もあり、こりゃキツいわ……という場面も。ただ呑みに来てるひととバンドを目当てに来ているひととの区別がつかない。前回来てくれたひとがまた来てくれているとは限らない、動員が読めない。アメリカは難しい。弱音を吐きそうになる(いや、ちょっと吐いてる)姿もカメラはとらえる。とりつくろってる暇はない、隠してる場合でもない。こういうのがつもりつもって崩壊するバンドが多いのでしょうが、このドキュメンタリーを観た限り、LITEのメンバーはネガティヴな要素をポジティヴに転換するためのコミュニケーションをお互いしっかりとっているようにも感じました。長続きの秘訣かな。

そして、難しいけどアメリカは面白い。「5時間かけて来たよ!」「この街に来てくれるなんて!」と興奮気味のファン、ライヴ後「iTunesに曲はあるかい?」と訊いてくるひと。マイクのことを知ってかしらずか「ミニットメンみたいだね」という感想を話すひとがいれば、「今朝新聞で見て知ったんだ、僕は寿司職人だよ」といった日本文化への興味からやってくるひともいる。音響がドリームシアターを手掛けたPAスタッフだったと帰りのバンのなかで聞かされ「ええっ?!」「マジで?」「タムがすっごい鳴ってて(マイク・)ポートノイっぽい(笑)」なんてメンバーが盛り上がる楽しい夜も。「散々な演奏だった」日でも観客の反応がよく「内容はよかったね」。ライヴはプレイヤーだけがつくりあげるものではないのだとつくづく思う。

2017年の今観て感じ入ったところは「移民の国だからアジア人がいたからってそんなに珍しくない。特別かまわれないのでこちらも自然でいられる」というような言葉。これからのアメリカもそうだろうか、そうであってほしい、と思う。

ライブの様子、移動風景(一瞬映る原子力発電所が印象的)、オーディエンスのコメントで構成。ライヴ映像は楽器にとりつけた小型カメラからのショットもあり、観ていて飽きない。演奏に熱が入ってネックで「自分の頭なぐっちって」ひっくりかえる井澤さんの映像とか、臨場感あるー(笑)。ライヴ後のオーディエンスはテンションが高く、こちらが戸惑うくらいの賞賛が並ぶ。これもアメリカならではかもね。ストレートな賛辞はこそばゆいほどですが嬉しいものです。

motkの『irreversible』もそうだが、こういう過酷な海外ツアーものにどうしても惹かれてしまう。どんなにキツくても、現地で待ちに待ってたオーディエンスの反応、ライヴ後の交流、ああいうのがあるとね。とりつかれてしまう気持ちもわかる気がする。というか、その「とりつかれる気持ち」に少しでも近づきたくて、こういう作品を観るのかもしれない。ボソッと書くと、終盤ふいにブンブンのことを思い出してしまった。彼らもしんどいアメリカツアーをしてた。ストレスからの胃痛と歯痛に悩まされ、市販薬はアメリカ人仕様でキツくてますますへろへろ、とかそういうの。もうあのバンドはツアー出来ない。中野くんはライヴが大好きだから、また演奏してまわる機会があればいいとは思うけど、次それがあってもブンブンではない。正直まだ実感がわかない、そろそろツアーがはじまるのではないかなんて思ってしまう。そういえばLITEの近年のサウンドエンジニア、三浦カオルさんなんですわ。なんだかんだで繋がってるな。

それにしてもLITEの面々、結成から名が出る迄が早かったからなのか、シーンの立ち位置から受ける印象よりずっと若くてびっくりした。motkもだけどそれこそ54-71とかtoeとかと同世代だと思ってたよ……。たのもしいわ〜(としよりの発言)。

はー昔話も沢山しちゃったな(としよりの仕様)。motkとの北米ツアーももうすぐ再開。気をつけて、無事に帰ってきてください。そしてケアを頼むぜTopshelf Records

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・LITE US TOUR 2015 Documentary "Past 7days" Trailer


そして今月のものですが、丁度海外ツアーについての興味深い記事ふたつ。「アメリカだけ違う」って話もしてますね。助成金をうまく使う知恵も紹介されています。

・【インタビュー】LITE「海外からどう見られるかは行かないとわからない」DIYスタイルが導き出す世界の現在地|BARKS
「motkは初めてのアメリカでも関わらず、みんなネットで知ってて最初からお客さんがいる。一方で俺らは何回も行ってて、それこそさっきの白髪のお客さんとか、行かないと得られなかったお客さんももちろんいて、それも面白い」

・インタビュー:LITE 国産インストバンドの雄に、世界中がアイラブユー|TimeOut TOKYO
「フィジカルの負担が半端ない」(DVDの特典映像でも言ってたけど過去には「ヘルツアー」もあったそう)けど、「若いときに思い切って海外に出ておいて、良かったなと」