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2016年10月23日(日)
『あいちトリエンナーレ 2016』(豊橋)、維新派『アマハラ』

『あいちトリエンナーレ 2016』

前日は名古屋から夕方はやめに移動して、豊橋地区の展示を観てから『勧進帳』の予定だった。が、そううまくはいかず。時間を気にすると流れ作業的な鑑賞になってしまい、見たという事実以外何も残らない感じになりそうなのでね……。ほんとは二泊三日くらいでじっくりまわりたいけれど、なかなかねえ。しかも今日は午後から奈良へ行くのだ。恐らく一箇所しか観られまい、吟味を重ねて開発ビルに絞る。ああ、水上ビルも行きたかったよ……。

最終日ということもあり11時のオープン前から会場入口で待っているひとが結構いる。開場と同時に入場。

■豊橋地区
・開発ビル
エレベーターで最上階迄あがり、展示を観つつ階段で降りていく。
このビルがまた味のあるところ。かなり古い建物で、その空室を利用して展示が行われているのだが、フロアによっては稼働中の企業が入っているのだ。CD店も入ってた、勿論営業中。フロア隅にむか〜しのCDやレコード用の広告やPOPが放置されていて、それを眺めるのがまた楽しい。
小林耕平の『東海道中膝栗毛』シリーズがアホさ滲み出る楽しい展示。髷が描かれたキャップを被り、弥次喜多さながらフィールドワークな旅。真剣にとろろ椀を流す筒とか作ってんのね……。
それにしてもフロッタージュものが多かった。地面を写しとり、土を採集する。成分を解析していたり。震災と関係あるかな、前回(2013年)は展示するには素材が揃わなかっただろうし、それだけの時間が経ったということだろうか。思い込みかもしれないが、土や樹木に何が…というかまあぶっちゃけ放射性物質がどのくらい含まれるかの興味って、原発事故がなければここ迄表面化しなかったように思う。
15分くらいかな〜とふんでいたハーバード大学感覚民族誌学ラボ『リヴァイアサン』の上映時間がなんと90分だった……うわあこれマストのつもりだったのに。アメリカ遠洋漁業の労働現場を収めたドキュメンタリー映像。海底をさらった網からヒトデや殻を除いて身のある貝や魚をひたすら分別する作業場面が続き(いやこのシークエンスも興味深く観たけど)、いちばん観たかった海鳥の場面は観られなかった……。あ〜いつか全編観たいよ!

タイムアップ。ちょいとtwitterから拝借、レトロなパン&菓子店ボン千賀(定休日で残念!)、地元のランドマーク? ほの国百貨店(北海道物産展やってた。入りたかった〜)が並ぶ町並みを眺めつつ移動です。路面電車が走ってる。いい天気。さて、こっから分刻みです。

・「あいちトリエンナーレ2016」まとめてみた!岡崎・豊橋編 | TABlog | Tokyo Art Beat
前日PLATで観てほおお……となった大巻伸嗣『重力と恩寵』画像も載ってます

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こちらに未掲載分の含め、元画像はtumblrに置いています。まとめて大きな画面で見たい方はこちらをどうぞー。補正等しておりません。
・その1
・その2

豊橋〜名古屋〜京都〜大和西大寺。屋台村オープンの16時着目標です。帰りの新幹線の時間を考えると、終演後は30〜40分くらいしかいられなさそうなので開演前に堪能するのだ。時間に追われての移動なのでおひるごはんは名古屋駅新幹線ホーム、住よしのきしめんでした。噂には聞いていたが確かに旨い。今迄食べたきしめんのなかでもいちばん旨かった! 寒さ対策のため京都駅で一旦下車、ヒートテックを着込む。最初から着てたら暑そうだったのでね……。コインロッカーに荷物を預け、奈良行きには特急券を買いました。急行と10分くらいしか違わないみたいだったけどその十分が貴重なのだ。次を待ってたら開演時間ギリギリになってしまう。はやく屋台村に! 行きたい! ちょっとでも長く! 屋台村で! 飲み喰いしたい!

大和西大寺駅につきましたよ、『アマハラ』会場はこちらですと矢印を持ったスタッフさんや警備員さんをたよりにてくてく歩く。平城宮跡に入ってからが長い、どこに会場が……延々歩く。放置…ではないな、管理・保存されているのだが、遺された野原のまあ広いこと。空き地にも程が……と半ば呆然としつつ歩く。野球やサッカー、バドミントンをやってるこどもたち、レジャーシートひろげてピクニックなひとたち(ここで前日の『勧進帳』を思い出して涙ぐむ)。復原(元)途中の場所もまだまだ多いようだが、公園として地元のひとたちには親しまれているのかな。てか近所にこんな野っ原あったら楽しいよねえ。そして夜は怖いよねえ。そこがいいよねえ。

20分程歩いたかな、会場が見えてきた。巨大なイントレ。例年より規模がデカく見えたのは気のせいか……。今回の公演は『東アジア文化都市2016奈良市』参加のプログラムでもあり、前月同じ場所でSPAC『マハーバーラタ』も上演されていたので客席まわりは共有したのかな。屋台村の賑わいも聞こえてきた、数週間しか存在しない街が見えてきた!



手づくりイメージが強いけどそこはプロの集団、ガッチリ組んでます。てかプロが手づくりしてるんだって話ですな。なんで毎年寒くなるこの時期に公演するんだろうって話してたんだけど、夏だと天候が不安定だからかなと思った。よく考えられた時期なのかもしれない。



維新派とともに幻のように現れる屋台村もこれが最後。モンゴルパンが鬼の行列でした。確かにここ以外で売ってるとこ知らないわ……実店舗あったとしても関西だろうなあ。一昨年『透視図』のときとは被らないようにと考えつつ(笑)でもやっぱりまずはからあげいっときましょ、ハーブ塩味。トイレを考えて水分は終演後にしようと続いてタピオカサンドバジル&チーズ。これ旨かった、はじめての食感! タピオカ粉をのばしてこねてフライパンで焼いたもの、もっちもちでした。ちょ、これも屋台村以外ではどこで食べられるの……。ピザもいっときましょかとオーダーしようとすると「開演時間から逆算するともう間に合わないのでオーダーストップです、でも今予約しておけば終演後に食べられますよ」と言われる。ぬぬ、時間が読めないので断念、残念。ステージでは白崎映美さんがライヴのリハやってる、最後の維新派へようこそ〜♪ とか即興で唄ってはやくもウケてる。雑貨店、洋品店、理容店。いろいろあるでよ〜。山口商店というところでは「維新派の椅子」を売っている。よく出てくるあれね。むむ、ほしいかも。でも持って帰るのは難しい……。

そのうちスタッフさんがやってきて「混雑が予想されますのでそろそろ客席の方へ移動してください」と言ってまわる。そして「上演中も屋台村は営業していますが、お静かに願います」。そうそう、おともだちとか屋台村に魅入られているひとは、チケットなくても毎日通いつめて呑んだくれてるみたいだからね。「上演中はお静かに」の貼り紙もあちこちにあってウケた。当日券の入場者もエラい数、補助的なスペースがみっしり出来てる。イントレの隙間から観るようになっているところも。そしてなぜか、私たち最前ド真ん中だったんですよね…ビックリ……。一列前に当日券のベンチが入ったので実質二列目。迷ってるうちに先行が売り切れて一般でなんとかとれたんだけど、というか私はとれなくてポンチさんがゲットしたんだけどWeb分がなくなってから電話かけて確保出来たやつだったんですよ。それが何故最前! ド真ん中! うひー有難うございますー!!!

息を呑むとはこのこと。しばらく無言で眺める。開演前に記念撮影。



あれだけ混雑していたのにちゃんと定刻で始まったとこがなにげにすごい。開演時間は17:15、松本さんが設定したという日没の時間。遅らせるわけにはいかないよね。

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維新派『アマハラ』@奈良・平城宮跡

2010年、犬島で上演された『台湾の、灰色の牛が背のびをしたとき』を再構成。移民の話、漂流の話。

フィリピン、ベンゲットの道路工事、台湾のダム建設、サイパンの東京。山口百次郎と松本金十郎、主にふたりの漂流が物語られる。異国に渡り、一旗揚げ、街を作り、戦争に巻き込まれ全てを破壊される。爆撃によりたった七時間で消えた街は、彼らが数十年かけてつくりあげた街だった。明治から太平洋戦争終結、その後の引き揚げ。夢のような数十年だが、その夢は苦難の夢でもある。「天草出身の松本さん」は先祖だろうか? 実在の人物だということだが、松本さんの父、そして兄のことを思い出す。それではこのひとは。そしてまだ生まれていない、物語の数年後生まれる松本雄吉という人物の旅路は。息遣いから始まり、おかえりで終わる。図らずも松本さんへの別れを意識する。『台湾の〜』では中盤に置かれていた曲が最後になったとのこと。松本さんへのメッセージのようにも、異国で働き、家族をもった移民とその子孫へのメッセージのようにもうつる。「そこはどこですか?」「おーーーい」「おーーーーーい」。

土地の空気や美術の壮大さに圧倒されることは常だが、改めて観ると、演者の身体表現と鍛錬の素晴らしさが印象に残る。これだけ群唱が揃うところ、他で観たことがない。それは言葉が謡になっているからかもしれない。リズムだけでなく、ピッチも合わせる。見事、思わず身震い。道路工事のシーンで、巨大な装置をするすると登り、滑るように降りてくる。宙吊りの場面はユーモラスに、しかし台詞は明瞭。公演によってはワイアレスマイクのコントロールが難しく、声量にも制限があったそうだが、今回そのトラブルは全く感じられず。一箇所だけ、演者のひとりが台詞を忘れたのかしばらく間が空くことがあり緊張が走るが、そのリカバリもリズミカルで素晴らしかった。

夕暮れに鳥が飛ぶ、暗闇の向こうに飛行機が飛ぶ。遠くから電車の走る音、しかしステージの奥に拡がる草原は海で、観客席は船上だ。維新派は街をつくる。訪れる観客は旅人だ。街は跡形もなく消え、再び旅人が訪れたときには記憶だけがたより。その記憶を消したくなくて、なんどでも思い出す。

さよなら松本さん、有難う。

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終演、退場時客席上方へあがって見えた景色。草原が金色に光っている、こうなってたのか! 最前列からは見えなかったわ…でもいいんだ、最後に目に出来たから。正面は生駒山だそうです。見えませんね。綺麗に撮れてるのはプロの方が撮影したもので〜(さがしてください)。

再び屋台村。時間に追われつつ最後の堪能。あまりの寒さに控えていた飲みものを所望。ホットコーヒーに砂糖入れる程ですよこの私が……。そして餃子。「ちょうど焼きたてですよ!」と明るい声のおねえさん有難う、皮パリパリのサクサク、餡はジューシーでめっちゃ旨かったです〜。終演後見ると山口商店の意味がわかる。あれは百次郎の店だったんだな……偶然だろうか? その謎が明かされることももうない。「天草出身の松本さん」ともども、虚構と現実の境目が見えなくなっていく。




タイムアップ〜、さようならー! 大和西大寺〜京都間には伏見があるので平尾さあんと思ったりもしていた。今年は本当に訃報が多い。新幹線改札を抜けると出発迄10分切ってる、いやー慌ただしい旅でした。頭痛が酷く車酔いしし(こだま、ひかりだと酔わないけどのぞみだと酔う三半規管)死んだように眠り、品川辺りで目覚めると平さんのニュース。頭痛は治まらず悪夢を見ているような感覚。まさか旅の帰り道で訃報を聞くことになるとは。あれが最後の舞台になるなんて出来すぎですよ……半ば呆然としたまま解散、帰路。おつかれさまでした。

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・主宰しのび「維新派」が最終公演 奈良・平城宮跡、14日から - 共同通信 47NEWS


・維新派 アマハラ|演劇◎定点カメラ
毎回お世話になっておりますまねきねこさんのページ。今回はデータだけでなく画像もたくさん、テキストにもジーン

・維新派「アマハラ」@平城宮跡|'A'
“舞台は「今ここ」でしか見られないものなのに、彼らの舞台は「今ここ」にはない。”
“かつてあった時間、かつてあった場所、まだない時間、まだない場所に向けて彼らは呼びかける。”
素晴らしいテキスト

・乗越たかおさんのツイート
“一人が夢想する舞台に、あれほどの人が集まり、あれほど巨大に実体化し、あれほど見事に消え去ることは、もうないのだろう。まあ、ないのが普通だ。あの日々が、奇跡だったのだ。”
強く頷いた。これからもいろんな才能がたくさん現れるだろうけど、ああいうひとは二度と現れないだろう。劇団の歴史からすると最後の数十年だけだが、その時代に居合わせることが出来て幸せでした

・今日の劇場 10月23日(日)| 維新派オフィシャルウェブサイト
・今日の劇場 10月24日(月)| 維新派オフィシャルウェブサイト

・10/23・十日目|Togetterまとめ
・10/24・千秋楽|Togetterまとめ
・10/25〜・公演後|Togetterまとめ
・劇場の「外」編|Togetterまとめ
いやもう延々読んじゃう…まとめてくださった方有難うございます!

・維新派ラスト公演はじまる | Lmaga.jp
長年維新派を取材してきた吉永美和子さんの記事とゲネプロの画像。吉永さん編集の本公演パンフレットがまた素晴らしく、公演決定から平城宮入り迄のドキュメントレポート、劇中に出てくる人物、出来事をまとめた記事と読み応えあります。所属役者の顔と名前が照会出来る頁(初めてらしい。そして半数以上が客演だったことに驚く)も有難い。これから何度も読み返すと思う

・サヨナラ、維新派 破格の野外劇集団が有終の美|NIKKEI STYLE
内田洋一さんによる記事。扇田さん亡きあとたよりにしている書き手の方。エモいとこも好き

・東アジア文化都市2016奈良市 | 維新派『アマハラ』平城宮跡公演 アーカイブページ
フォトライブラリー、内橋和久(音楽)、白藤垂人(美術)、平野舞(キャスト)、吉本有輝子(照明)、宮城聰(SPAC)のインタヴュー。貴重な話が満載

(20161110追記)
・維新派最終公演『アマハラ』千秋楽レポート | SPICE
吉永美和子さんによる千秋楽レポート。リハ、舞台裏、屋台村の様子も。「山口商店」を出していたのは役者の金子仁司さんだったとのこと