初日 最新 目次 MAIL HOME


I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
kai
MAIL
HOME

2016年10月22日(土)
『あいちトリエンナーレ 2016』(名古屋)、木ノ下歌舞伎『勧進帳』

『あいちトリエンナーレ 2016』

今年も行ってきました、2010年2013年ときて、三度目のあいちトリエンナーレ。こちらに未掲載分も含め、撮影した元画像はtumblrに置いています。まとめて大きな画面で見たい方はこちらをどうぞー。補正等しておりません。
・その1
・その2
・その3
とは言えあんまり撮ってないのよね……カメラ(iPad)出すの面倒くさいねん。自分の目で見るのが最優先なんじゃよ。

早朝名古屋に到着、朝ごはんを食べてからいちばんはやく開場する名古屋市美術館へ。

■名古屋市美術館
カンパニー・ディディエ・テロンのパフォーマンス『AIR』がリハから観られました。楽しい!



あとこの美術館、常設がまたよくて。河原温やフリーダ・カーロ、モディリアニがごそっとあるんです。堪能〜。

名古屋の各会場は殆ど歩いて移動できる距離。カンパニー・ディディエ・テロンは同日午後から長者町会場でも『LA GRANDE PHRASE』を上演、とスケジュールに出ていたので、ハシゴ出来るかな? まあここはなりゆきで。

■長者町会場
ゑびす祭りが同時開催中、カオス。祭りの会場とあいトリの会場の区別がつきません(笑)。ちょ、ちょっと休憩しようかな……と、会場からワンブロック離れたロシア雑貨店リャビーナへ。このあたり、区画が碁盤目のように整然としていてわかりやすい。
さてのこのリャビーナ、普段通販でお世話になっているところで、実店舗に来たのは二度目……ですが、前回は臨時休業で入れなかったんですねー、とほほ。というわけで三年越しでした、うれしい〜。ちょっとしたカフェスペースもあり、ざくろジュースをいただきました。ロシアのチョコつき。


あいちトリエンナーレは街に根差した会場づくりが特色で、長者町会場は特にその魅力が満喫出来る。普段は空きビルや倉庫であろう展示場所を、探検していくような楽しさもある。建物愛でつつ展示を眺め、お散歩気分。
---
・喫茶クラウン
今村文の赤い花で彩られた店内は実際に営業中。いやー、ここ、毎回会場になってるとこなんだけど「鑑賞のためだけに入っていいのか…な……」と迷って入れなかったんですよね。今回丁度出てきたひとがいたので、「展示だけ観るってのもいいんでしょうか?」と訊いたら「大丈夫ですよ」と笑われた。しかし入店したら純喫茶の素敵な雰囲気にあてられて、ここでお茶しないで出るのはもったいない、あの椅子に座りたい、くつろぎたいー! と思いまたもや休憩。アイスコーヒーをいただきました、おいしかった。長年つとめてらっしゃるような(オーナーかも)かわいらしいおばあちゃんの話をぼんやり聞きつつ、もともとのお店の調度品であろうまねきねこや絵画、オーナメントを眺めていると、お祭りやってる外とは別世界。ああ、たまらん。しかしさっきジュース飲んだばかりなのでお腹たぷたぷ。
・八木兵錦6号館
白川昌生の『らくだをつくった男 長者町物語』が面白かった、らくだ(のシャツ)創業者の歴史を展示してるんだけど、フィクションという。史実に基づきつつのこのでっちあげっぷり、ペテン師ー!
・学書ビル
うっかり通り過ぎそうになったビル内に静かに実ったりんごの木、これが『労働の成果』ってタイトルなんてナターシャ・サドゥル・ハギギャンのドイツな感じがまた素敵。
---
時間配分もあり、カンパニー・ディディエ・テロンは断念。それにしてもこの混雑、どこでやったの……と帰宅後検索してみたら、こんな感じ(12)だったようです。わー衣裳も違ったのね。客いじりもあったのね。

■栄エリア
・旧明治屋栄ビル
まず建物がよいのねー。ここ、当時はこう使われていたんだろうなあ、売り場だったんだろうなあと想像する楽しさも。端聡『液体は熱エネルギーにより気体となり、冷えて液体に戻る そうあるべきだ。』は湿度や温度、音と「観る」こと以外にも五感が刺激される。あと単純にスチームパンクぽくて格好いい〜。その階上の寺田就子作品の一群でも、布をゆらす風や光の反射といった場所の持つ空気に魅入られる。光は色になるんだなあ、とか。バレエスタジオだったというフロアそのものも魅力的。ハラサオリさんが撮影したものがとても綺麗だったのでリンク張っときます。この視点がまたハラさんだなあと……美しいものには美しいものが共鳴するのねと思ったり。
-ハラサオリ『あいちトリエンナーレをぐるり。』
・損保ジャパン日本興亜名古屋ビル
大巻伸嗣の『Liminal Air』。15分入替制で行列出来てたけど比較的すぐ入れた。真っ暗闇の部屋に通され、ベンチに座って待っていると音と風の気配。目をこらすうちにわずかな光が差し、風にゆれるおおきな紗幕が遠くに見える。もっと見ようとすると光が遠のきまた暗闇、見られないもどかしさ、近づけないもどかしさがたまらない。色彩感覚もなくなり、自分が海底にいるような気分になる。あの見えそうで見えない幕……暗闇に目が慣れてくればちょっとは残像が見えそうなものだけどそれもなかったな。どうやってる……と調べてみたら、普段は白い紗幕を使っているシリーズだけど、今回初めて黒い幕を使用したとのこと。そうだったのか。あの感触は不思議だったなー、こーれーはーよかった、こういうの大好き。ビル外には同じく大巻伸嗣がペインティングしたTOYOTAプリウス。一転こちらは色とりどりの花。
・中央広小路ビル
山田亘『大愛知なるへそ新聞』、編集部はここにありましたヨ。フィールドワークものは長い時間がかかるもの、継続して見ていきたい。

■愛知芸術文化センター
おお、またもや大巻伸嗣。目の覚めるような真っ白なフロア一面に花、花、花!『Echoes-Infinity』がメイキング映像も含め素晴らしかった!
パブリックなワードローブ、西尾美也+403architecture[dajiba]の『パブローブ』も面白かったな。寄付された思い出タグのついた服展示。ミシン等が設置されたリメイクコーナーがあり、おなおしして試着出来る。会期終了前から譲渡もはじまる。ロマの家族を追ったマチュー・ペルノの写真作品群も印象的。主を亡くしたトレイラーが燃やされる映像の前には随分長いこといました。
吹き抜け構造、展望回廊に回遊歩廊。となりのオアシス21の外観含め、場所としても好きなところ。ひたすらうろうろ。ショップもかわいいもの揃いでお土産なんぞ購入。パッケージが素敵なきしめんとかも買いたかった…今回移動が多くあまり荷物増やしたくなかったので諦めた……。

-----

納屋橋会場がなくなっていたのは残念。もともとはボウリング場で、施設跡を残したまま倉庫になっていたところ。もうビルそのものがなくなってしまったそうだ。遺構を再利用するアートフェス、他の会場も年を経るごとに変わっていくのだろう。

水分はとりまくってたがごはん食べてなかった、そういえば名古屋っぽいもの食べてないなと17時にようやくひるごはん。鉄板ミートソースをいただきましたよ。

さて豊橋に移動。

・「あいちトリエンナーレ2016」まとめてみた!名古屋編 | TABlog | Tokyo Art Beat

-----

PLAT小劇場シリーズ 木ノ下歌舞伎『勧進帳』@穂の国とよはし芸術劇場 アートスペース

うぉおおおい、勧進帳でここ迄富樫に泣かされるとはー! いやまじで比喩ではなく泣いてもうたよ……いや、まいった。

対面客席をステージで分断。富樫側の臣下と義経側の四天王を同じ役者が演じる。同じ役者から同じ台詞が語られることで浮かび上がるその立場の違い、共通する未知のものへの恐怖、そして死への恐怖。誤認逮捕さながら、ひとちがいで落とされあちこちに転がる首は11個。「頭使えよ」、富樫は言うがそれが臣下たちには響かない。富樫の孤独はますます深まる。一方義経一行も迫る追っ手と立ちはだかる関所を前にして恐慌へ陥る。それを沈めるのが弁慶。富樫に弁慶のような臣下がいれば……富樫の切れる頭脳と振る舞いを見るにつけ、せつなさがつのる。

それにしても弁慶、キャスト表見て「リー5世て誰……」と思っていたのですがむっくりくまさん風貌の白人でした。芸人さんだそうで台詞まわしも軽妙、「たのむで」「せやから」「はよし!」と機関銃のように繰り出される関西弁にわく客席。すごいウケてたなー。それがやがて、物語が進むにつれ静まりかえる。演出杉原邦生がいう「異物」の存在感。このリー弁慶と坂口涼太郎演じる富樫が丁々発止とわたりあう山伏問答のエキサイティングなこと! 普段歌舞伎で観るときは言葉の問題もあり聞き流してしまうことも多いんだけど、木ノ下版はその内容が、問答としてしっかり伝わる。白眉!

しかしこの舞台、白眉がたくさんあるのであった。関所を通したあと、一行の最後尾にいた強力が義経だということに富樫が気づく場面。大音量で響くTAICHI MASTERのエレクトロサウンド、モノトーンの照明、ゆっくりと一歩一歩進む義経、追う富樫。まるでサスペンスの一場面のような緊張感、その身体表現の素晴らしさ。義経も富樫も下半身が強靭、腰が据わっているのでスローモーションな動きもポーズもキマるキマる。その姿勢の維持力にも恐れ入る。坂口さんは初見だったのですがあまりにも鮮烈な印象、歌舞伎の完コピだけじゃなかろう、身体表現の基礎があるひとじゃないか……と思っていたらダンサーの方でした。無駄のない動きをブーストするかのような衣裳も素晴らしかったなー。

そして終幕、酒盛りの場面。「おまえたちはいつもこんなに楽しそうなのか?」。富樫の孤独が再び浮かび、彼のその後に影を落とす。

停止→移動で時の流れを示す。時間を空間づかいで魅せる杉原演出、やっぱり鳥の目を感じる。関所を境界線に見立て、義経と弁慶の愛情(ラブソングのラップミュージカル仕立て)、義経を演じる高山さんのジェンダー、富樫が勧進帳の虚実を見破る瞬間といったボーダーも観客の判断に委ねられ、敵味方の境界をも消していく。

主宰木ノ下裕一、杉原さんのアフタートークも興味深く拝聴。怪我の功名と言おうか、初演時キャストオーディションをした際、募集要項に義経役は男性と書いていたのにも関わらず女性が応募してきて困り果てたが、試しにとやってみたらそれがよかった、それが後の義経のジェンダーレスという見立てに繋がるという話に、その女優さん応募してくれて有難うという気持ちに。ボーダーレスは大きく言えば世界平和に繋がると話す杉原さん、言葉にしてしまうと照れてしまうようなまっとうさ。それを舞台で表現するとああなるのか……。スタイリッシュな舞台、その実は熱い。ステージの配置、形状といい衣裳といい、整然とした容器のなかでシステマティックとも言える演者たちの動き。そこで爆発する登場人物たちの感情。そのギャップも魅力。

-----

劇場ロビーにはあいトリ出展のオブジェが。そのフォルムと内部から差す光のコントラストにしばし見とれてクレジットを見ると、またまた大巻伸嗣作品『重力と恩寵』でした。いやー今回は大巻さんにやられっぱなし。

ここでサさん、ポンチさんと合流。夕飯食べていったん解散。豊橋のホテルの寝間着が男女兼用のワンピースで、わあ『クレシダ』でシャンクが着てたやつみたーい。ベッドに寝っ転がって「ようこそ女性たちよ〜」なんてクレシダごっこをやったアホでした。当然翌日のことはまだ知らない。