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2016年07月23日(土)
『レディエント・バーミン』

『レディエント・バーミン』@シアタートラム

おおおフィリップ・リドリーのコメディって初めて観ました。しかしコメディでもしっかりダークであった。ブラックというよりダークだなー。善良な人間が誰かのために、大切なもののためにどこ迄邪悪になれるか。そして登場人物から「おともだち」と呼ばれる観客は、それをどこ迄非難出来るか。まさしく「あなたたちの中で罪を犯したことのない者が、まず、この女に石を投げなさい」。夫婦のやりとりには『マクベス』のようなところもあった。

登場人物と同じ土俵に観客を引きずり出す手法は白井晃の演出にも踏襲されている。戯曲は読んだことがないのだが、観客に呼びかける台詞も多々あり、ホンに指定があろうがなかろうがこうした演出になるのが自然といえば自然だ。しかし、それをやりとおすにはかなりの勇気がいる。客電はほぼ落ちない。客席が明るい。役者は観客に呼びかける。指をさして同意を促す。客席にずかずかあがりこむ、観客の身体に触る、観客の持参していたペットボトルの飲料を飲む(! えーとつい村松利史×田口トモロヲ『人生の意味』の水虫ジュースを思い出しましたよね……)。舞台を観ているだけ、ではない緊張感が終始張りつめる。登場人物が直面した幸福と不幸に、自分たちでも無縁ではいられないことに気付く。

実際どうだろう? 生活が保証され、自分たちのふるまいが住人の鑑として、街を、ひいては国をクリーンにする代表になる。そんなふうに提案されたら。しかしクリーンってなんだ? それは正しいことなのか? 『ゴーゴーボーイズ ゴーゴーヘブン』でも震撼した「親切をなすりつける」行為は、ともすれば救済になり感謝もされる。時と場合と法と。正しさを宣言することの恐ろしさ。

膨大な台詞、やりとりのスピード、テンポ、リズム。ちょっとしたミスが芝居の流れをとめてしまう、つなわたりのような芝居運び。いやー、白井さん、鬼(笑)。高橋一生、吉高由里子、キムラ緑子の三人、素晴らしい。こなさなければならない事項の多さに必死さが感じられてしまうのは仕方がないのか。しかしリカバリ術も素晴らしく、つんのめってしまった場面を逆手にとったアドリブは見事。それが出来る心臓を持った役者を揃えた座組でもあり、そうしなければ場が壊れるという恐怖が成せる業なのかと思うと、演劇というものも本当に恐ろしい。そこから感じられることもある訳で、「治療」としての演劇の奥深さをも思う。

この感想を書いているのは相模原の大量殺傷事件があった日だ。今作とリンクするところがある。気付こうと思えばいくらでも気付けるということでもある。具体的なことではなく、ひとの心の持ちようの話だ。口には出さずとも本心ではそう思っているひとがいるかもしれない、いや、確実にいる。そしてそれを正しさに置き換える。性悪説を否定しようがない。しかし、それを否定することが出来るのも人間だ。理想かもしれない、しかし理想を失う訳にはいかない。