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2015年09月20日(日)
『タンゴ・冬の終わりに』

『タンゴ・冬の終わりに』@PARCO劇場

2006年版だけ観ています。清水邦夫の戯曲を蜷川幸雄以外の演出で観るのは、『楽屋』以外では初めて。今回の演出は行定勲。

オープニングの『ニュー・シネマ・パラダイス』っぷりにはちょっと「ズルい!」と思ったが、映画の力を感じたし、行定さんの映画への愛情も感じた。思えばこの作品の舞台は映画館の客席なのだ。スクリーンの裏側から劇世界を覗く、と言うこのアイディアには図らずも涙。この映像を使う演出に、舞台役者だと信じて疑わなかった清村盛が映画俳優だったら? と想像する。

過去観たときにはあまり気に留めなかった「清村盛」と言う名前の由来や、盛の故郷であるこの土地についてもいろいろ思う。自分には今迄これといった縁のない土地だ。日本海側は、翌日観た舞台の作者、前川知大がよく持ち出す地方でもある。劇作家の出身地が作品にもたらす効果についても、いろいろと思うところあり。季節感、温度感、そして湿度感。そこに住まうひとたちの影響を及ぼす(かもしれない)土壌。

とは言うものの、やはりいちばん強烈だったのは物語と三上博史の一騎打ち。「どこ迄一緒に狂えるか?」。それは役者が観客につきつける命題だ。過去の幻影に生きる盛が観る光景を観客は観ることが出来るか。幻影であるこども時代の同級生、恩師、死んだ姉は具体的に舞台に現れ、それは生身の役者が演じている。盛が心眼で見ているものを肉眼で観るしかない観客。語り部でもあるぎんは、誰よりも(ひょっとすると盛よりも)役者だ。神野三鈴の声の良さ。前回観たときの、秋山菜津子の声も素晴らしかった。その声で、盛を過去のものとして葬る。それにすこし救われた気になる。救われる、と言えば、ユースケ・サンタマリアの距離感にもそれを感じた。ユースケが演じた役はいちばん救われない役なのにな。それが残酷。

そういえば行定さんは『ブエノスアイレス午前零時』からのタンゴ繋がりだったんですね。